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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
建設都市アルカディア
67/165

アルカディアの12

お久しぶりです。

投稿再開です。どのくらい行けるかな……

 それにしても良く喋る子だった。話す内容はもっぱら父親の話だ。

 彼女のお父さんは、騎士団のなかでも上の立場にいる人間らしい。

 しきりに父親を自慢する少女に、微笑ましさを覚えながら、歩いていると、案外詰め所までは、あっという間に感じた。



 「あ!ここだよ、ここにハンナのお父さんがいるの!」

 「道はあってたみたいですね、良かった」

 「それはいいけど、なんだか騒がしくない?」



 言われてヴィートは気づいた。入口まで近付くにつれ、扉の内側から数人の言い合っている声が耳に入った。

 扉に手をかけられる距離まで来ると、その声もはっきりと聞こえる。



 「探しに行かせてください!今頃どこかで泣いているかもしれないんです!」

 「落ち着け、職務中だぞ、手の空いている者に探させてやるから」

 「これが落ち着いていられますか!うちの娘が行方不明なんですよ、あぁハンナ、無事でいてくれ」

 「まったく……手に負えんな」

 「だいたいボクの仕事っつったって、牢屋の見張りなんて置いても中に誰もいないじゃないですか!やっぱり駄目だ、今すぐ探しに行くぞ!」

 「ええいこの分からずやめ!お前ら、ディルクを押さえろ!」

 「離せぇ!ハンナぁ!パパが今すぐ行くぞぅ!」



 思ったよりぎりぎりのタイミングだった。知っている名前が聞こえたとかのんびり考えている場合ではない。

 ヴィートは慌てて扉を開けた。



 「ちょっと待ってください!」

 「なんだ、今見ての通り取り込み中で――」

 「パパ!」



 騎士のひとりがヴィート達の相手をしようと寄ってきたが、それよりもハンナが駆けだすのが先だった。

 彼女が懸命に駆けていく先にいたのは、緑の髪を振り乱し、騎士に二人がかりで抑えつけられているディルクだった。



 「……ハンナ?」

 「パパ、ごめんなさい、お弁当届けに行こうと思ったら迷っちゃったの」



 ディルクが落ち着いたのを確認して、抑えつけていた騎士たちが退ける。

 ディルクはふらふらとした足取りでハンナまで近付くと、力いっぱい抱きすくめた。



 「パパ、痛いよぉ」

 「心配したんだぞ、すっごくな」

 「……ごめんなさい」

 「いいんだ、お前が無事でさえいてくれれば、パパは何でもいいんだよ」



 固い抱擁、娘の無事を心から喜ぶ父親の姿がそこにはあった。

 しばらくそうしていただろうか、静かに待つヴィートとラフィの姿に、ディルクはようやく気づいた。



 「お二人とも、どうしたんですか」

 「このお兄ちゃんたちに連れてきてもらったんだよ!」

 「そうでしたか……ほんとに、なんて言ってお礼を言ったらいいか」

 「そんな、お礼なんて全然!ハンナちゃん、お父さんに会えて良かったね」

 「うん!二人ともありがとう、あと――」



 言い辛そうにもじもじしているハンナに、ヴィートは首をかしげた。

 ハンナは、あちこちに視線を泳がせていたが、やがて観念したように、項垂れて口を開けた。



 「さっきのこわいかおのおじちゃんに、ごめんなさいって言っておいてほしいの」

 「……うん、伝えておくよ」



 時間がたって、冷静になると、自分のしたことが相手を傷つけるに足りていたのだと思い至ったのだろう。

 心から反省している様子に、くすりと笑いが漏れる。ラフィの言うとおり、気にしすぎていたようだ。



 「それじゃぁハンナ、帰ろうか、お母さんが待ってる」

 「うん!」

 「気をつけてかえって下さいね」

 「もうお弁当忘れたりしちゃダメよ」

 「ええ、普段ならこんなことはないんですがね、今朝は焦ってたもんで」

 「焦ってた?なにかあったの?」

 「いえね、たいしたことじゃないんですが、『人攫いを撃退したから、回収だけ頼みたい』って張り紙がここの入口に張ってまして」



 二人はとっさに声をあげそうになった。

 昨日帰り際に、イナセが言い残したのだ。



 『騎士団にはさ、アタシから言っとくから、三人はやることやってくれよ、仕事なんだろ?』



 それならばと素直に好意を受け取ったのだが、まさか直接伝えていないどころか、張り紙で済ませているとは……。

 豪快というか大雑把というか、ヴィートは一人苦笑いを堪える。



 「それで、二、三人現場に向かったんですがね、通り道だったって理由でボクも連れてかれまして、急なことだったんもんで準備が遅れたんですよ」

 「そ、それは大変でしたね、は、はは」

 「おかげさまで、ハンナとは朝のハグもできなかったもんなぁ」

 「……ぱぱ、わたしはずかしくなってきたから、そろそろこれやめたい」

 「な、なんでだ!お前が髭がじょりじょりして痛いって言うから、お父さん毎朝剃ってるんだぞ!」



 いやいやと、首を横に振る愛娘に、父はこの世の終わりが来たかのように騒ぐ、周囲の騎士たちが生暖かい目を向けていた。

 このリアクションからするに、ディルクの子煩悩は周知の沙汰といったところなのだろう。



 「そんなことより!その人攫いとやらは無事に捕まったの?一応しばらく滞在する身としては知っておきたいんだけど」

 「しばらく……そういえばそうでしたね、なんでも貴方たちは、親方の依頼で外から来た探偵だとか」



 そういうことにされているらしい、騎士とシスター、それに正体不明の男、この三人組で探偵を名乗るのも無理がある気がしないでもないが、一応騎士たちは納得しているようだ。

 正確に言えば、納得していることになっているようだ。ならば否定する理由もない。



 「ええ、隠しててごめんなさい、あんまり人に言っちゃいけない立場だって思ってもらえると嬉しいわ」

 「とっくの昔に上から同じこと言われましたよ、ま、お互い頑張りましょう」

 「そうね、早く犯人を見つけたいところだわ、それで、質問の返事は?」

 「ああそれなんですけどね、なんといたずらだったんですよ」

 「い、いたずら?どういうことですか?」

 「それがひどい話で、現場に行ってみたら見事に誰もいなかったんですよ、朝っぱらから悪ふざけに付き合わされる方の身にも……どうしたんです?そんな深刻な顔して」



 ヴィートはラフィと顔を見合わせる。

 いなくなっていた、イナセを狙っていたあの三人組が、ヴィートの心に重く、暗くのしかかるのは、今晩も会うことになっている少女の姿。狙われている本人である。



 「ラ、ラフィさん、急いで帰りましょう!」

 「その方がいいみたいね」

 「……どうかしたんですか」

 「ご、ごめんなさい、事情はまた今度詳しく、失礼します!」



 別れの挨拶もそこそこに、二人は扉を跳ね開け走り出した。

 一心に向かうのは、夕方頃に来るように言っていた自分たちの宿、幸いにもリュージが先に帰っている。イナセがあそこまでたどり着いていれば、そんな危ないことにはなりようもない。



 だが、だがもしも日中狙われていたら?

 日中でなくとも移動中、そこまで限定せずとも一人でいるときに――。

 二人は時折すれ違う人々をかわしながら、帰路を急いだ。

 昨日知りあったばかりの少女の無事を祈って――。



 ※    ※    ※    ※    ※    ※     ※    ※    



 なんの加減もせず、走った結果、先に目的地にたどり着いたのはヴィートだった。

 彼も日ごろ鍛錬に勤しむ騎士である、体型が崩れないのが不思議でならない生活をしているシスターに身体能力で負ける要素はどこにもなかった。

 ヴィートは駆けてきた勢いそのままに扉を開いた。



 「イナセちゃん!いる!?」

 「うおっ!なんだよ急に大声で」



 いた。一階の食堂に、昨日座ったのと同じ席に、イナセは座っていた。

 ヴィートは安心のあまりへなへなとその場に座り込んだ。驚いたのはイナセのほうで慌ててヴィートの傍へ向かう。



 「なんだよ、人の顔見て座り込むなんて、なんかあったのか」

 「ううん、むしろイナセちゃんは?今日大丈夫だった」

 「アタシ?アタシはなにもねぇよ、ごくありふれた一日だったぜ?」

 「そっか、そっかぁ、良かったぁ」



 急に気が緩んだせいで、涙腺まで緩んでしまった、ヴィートの眼から涙が数滴流れた。

 唐突に泣きだしたヴィートに、イナセはぎょっとした。



 「お、お前なんで急に泣いて……」

 「ごめん、気にしないで、座ってから話すよ、走ったから疲れちゃ――ぶぇっ!!」



 立ち上がろうとしたヴィートは、猛烈な勢いで開いた扉から体当たりをくらい、顔面から床に落ちた。

 言わずもがな、遅れてきたラフィだった。肩で息をしながら、イナセの姿を発見すると、安心して胸を撫で下ろした。



 「良かった、無事だったようね」

 「むしろ今姐さんが突き飛ばしたやつが無事じゃないっていうか」

 「え?あらヴィートダメじゃない、そんな所で寝転んで」

 「……ゴメンナサイ」



 もう面倒になったヴィートは反論を諦めて、心にもない謝罪を述べる。

 鼻血が出ていないかを確認しつつこんどこそ立ち上がったヴィートは、周囲を見渡して、ここにいるはずの人物がいないことに気づいた。

 先に帰ったはずなのだが、ヴィートは先にいたイナセに訊いた。



 「イナセちゃん、リュージさんは?」

 「さっき言い忘れたけどちゃんづけするな、あと旦那は知らねえぞ、いっしょじゃねぇのか?」

 「いや、先に帰ったはずなんだけど……」



 三度、扉が開いた。今度は静かに、静かに――。

 できる限り時間をかけて開けるように、目一杯ゆっくりと開いた扉、その向こう側から現れたのは、先に帰っていたはずのスーツの男だ。



 「リュージさん!今までどこに――っ!?」



 様子がおかしかった。いつもの、力強く大地を踏んで進む男の姿は、前を向いて、精一杯胸を張って歩こうとする男の姿は、そこには無かった。

 平衡感覚を失ったような足取りで、顔は入ってきた時から上げようともしない。

 無言で下を向いたまま、壁伝いに階段の方へ向かうリュージに、その場の全員が咄嗟に声をかけられなかった。

 金縛りが解けたように、ヴィートがリュージに駆け寄った。



 「ど、どうしたんですかリュージさん!?」

 「……なんでもねえ、今日はもう休む」

 「なんでもないって、体調でも悪いんですか?部屋まで行くなら僕も――」



 迷いなく肩を貸そうと腕を持つヴィート、しかし次の瞬間、その腕が力いっぱい振り払われた。



 「触んな!」



 明確な、これ以上ないほどの拒絶、予想もしていなかった出来事にヴィートは呆然とその場に立ち尽くした。

 代わりに動いたのはラフィ、立ちつくすヴィートの腕を引いて下がらせると、リュージの正面に立つ。



 「……どうしたの、なにかあった?」



 その口から出た声は、常の賑やかで、なんなら喧しいものとは全く毛色が違う。

 穏やかで、静かで、透き通るように流麗な音色だった。

 その音色は固くなっているリュージの心に、ほんの少しだけ理性を取り戻させた。



 「……すまん、どうかしてるみたいだ、今夜だけでいい、そっとしといてくれ」

 「そっか……分かった」

 「悪かった、ヴィートも」

 「ぼ、僕は、大丈夫ですから」



 リュージは、そのまま二階へ姿を消した。

 自分たちがいない間に、いったい何が彼の身に降りかかったのか、なにが起こればあのリュージが、あんなことになるのか……。

 ヴィートには想像することもできなかった。



 「あ、あのさ、アタシ今日は帰った方がいい?」

 「なーに言ってんの!こんな泣き虫坊やと二人きりで食事させる気?いてもらわないと困るわよ!」

 「……ひどいなぁ」



 すぐさまいつもの調子に戻るラフィに、心の底から尊敬の念を抱きつつ、ヴィートは食堂の椅子に腰かけた。

 できる限り笑うように心がけたつもりだが、うまくできたかはわからなかった。

久しぶりなので一応キャラ紹介


ディルク……リュージたちがアルカディアに入る際に一緒についてきた騎士。ひどい子煩悩だった。

      ちなみに彼の役職は騎士団内では閑職であり、娘には少し見栄を張ってしまっている。

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