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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
建設都市アルカディア
66/165

アルカディアの11

 この町の一番の違和感は何かと聞かれたならば、リュージがいの一番に上げるのは地面のことだろう。

 建物が近代的な割に、地面はほかの都市と同じく石制だ。

 アスファルトは生まれてないのか、町中を舗装するほどのコンクリートは作り出せないのか、はたまた景観のためか、真実を知りたいとも思わないが、募る違和感は確実に山となっている。



 目の前に立つビルも、足元は石造りだ。

 建築に明るくないから分からないが、大丈夫なのだろうか、バランスとか――。



 「はー、すごい高さですね、十階建てって、そんな高さ作って何に使うんでしょうか」



 背後で感嘆の声が上がった。昨日中央ビルを直接見なかったヴィートのものだ。

 生まれて初めて見る高層建造物に、開いた口が塞がらない様子だった。

 それを眺めるラフィは、やれやれと緩やかに首をふる。



 「そのリアクションはもう昨日済んだのよ、ありきたりなことばっかり言ってると時代に取り残されるわよ」

 「初めて見たのに斬新なリアクションとか求められても困りますよ!」



 背後で繰り広げられるやり取りに、ため息一つ。

 どこに言って変わらないやり取りだ、もはや気にならなくなってきている自分も悲しい。

 隣を無言で歩いていたスヴェンが、ボソッと呟いた。



 「楽しいお仲間ですね」

 「うるさかったら言ってくれ、止めるから」

 「いえ、とても楽しそうでいいと思います」



 リュージは隣を歩くスヴェンの顔を一瞥した。

 そういうことはもう少し楽しそうな顔で言ってほしいと、思ってしまうのも仕方ない。それほどまでに表情が変わらない男だ。

 自身も愛想があるとは言い難い人間だが、それにしてもこの青年はやりづらい相手だと感じてしまうほどだった。



 「あー、そういや急に来たけど、良かったのか、ブルーノって人の都合とか」

 「それなら心配ありません、あの人はよっぽどのことがない限りずっと製図室に籠ってます、会社が終わる前に出てきたことがありません」

 「ずっと?そりゃまた熱心な」

 「というより、性分なんでしょうね、物づくりにしか興味がない人なんです、利益なんてそっちのけ、そのせいで誤解されやすいんですが……」

 「仕事人間ってやつか」



 その言葉が口から出た直後、リュージは思い出した。ブルーノの名をどこで聞いたのか。

 あれはそう、昨晩、激高しているオットナーに向かってナディヤが叫んでいたあの一幕でのことだ。



 『そんな、私があなたを裏切るなんて、あるわけ無いじゃないですか!私だけじゃない、ブルーノさんだって――』



 そういえばリュージはオットナーにも同じ言葉を向けた。仕事人間、と――。

 二人は、本当にただの仕事上のライバルなのだろうか。



 「一つだけ、社内に入る前にお願いがあります」



 その声に、リュージははっと顔を上げた。気づけばもう入り口の前、スヴェンが扉に手をかけて、首をこちらに向けていた。

 面持ちは神妙で、これから語るお願いが、重要だというのはそれだけで見て取れた。



 「絶対に社長の前で、親方の話はしないでください」

 「オットナーの?」

 「はい、それだけは守ってください、他のことは何を聞いても構いませんから」

 「……わかった、約束する」



 ちょうど会えたら聞こうとしていたことにくぎを刺される形になってしまった。

 あっさり返事をしたリュージとは対象に難しそうに眉間にしわを寄せたのはヴィートだ。



 「え、でも今からするのって聞き込みですよね、親方さんの名前出さずにできる――あ、そうか、ブルーノさんも事情に詳しいとか」

 「社内で詳しい事情を知ってるのは私だけです」

 「……何をどうやって聞けっていうんですか」

 「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

 「そんな無茶な――」

 「駄々こねてもしょうがねえぞ、折角会わせてくれるってんだから、注文くらい聞かねえとな」

 「それにさっきの話聞いた時点で、そのくらいの予想はつくでしょうが」

 「ま、まさか二人ともここまで予想してたんですか!すごい!じゃあ聞き込みのことも考えてるんですね」

 「……ああ、大丈夫だ」

 「任せときなさいって!」

 「それでは、中に入って、そのまま製図室まで案内します」



 ヴィートから尊敬の眼差しを受けながら、リュージはスヴェンの背中についてビルの内部へと足を踏み入れた。

 ちなみに、当然だが、リュージにそんな深い考えはない。むしろヴィートに言われて初めて気づいたくらいだった。

 ちらと顔を見た限りラフィも何も考えていなかったに違いないのだが、なぜこいつは自信満々なのか。



 「お帰りなさい、スヴェンさん!」

 「只今帰りました」

 「あ、スヴェンさん!あとで相談したいことが!」

 「分かりました今日中に伺います」

 「スヴェンさん!どうですか今晩一杯!」

 「ありがとうございます、ですが今日は先約がありますので」



 受付の男から、部屋から出てきた女から、廊下ですれ違った男から、スヴェンはその度に声をかけられていた。

 彼から声をかけることは一切ない上に、返事もいちいち素気ないのだが、話しかけてくる人々はそんなことは気にしていないようだ。



 「ずいぶん愛されてるな」

 「声をかけられている理由ならば、私が彼らと関わる機会が多いというだけのことです。社長は図面に線を引くので忙しいですから、経理も人事も私に一任されています、結果的に良く顔を見ることになるので」

 「それ社長っていうか人の上に立つ者としていいの?」

 「いいんです、皆変わらない社長の姿に憧れてこの会社に来た人ばかりですから、その手伝いができるなら本望です」



 声音からは、おべっかや気遣いなどではなく、本心からそう言っているように、リュージには聞こえた。

 確かな信頼と、憧憬が、ブルーノの話をするスヴェンの背中から立ち上っていた。

 それはそう、大げさな言い方をすれば、少年が英雄に向ける感情のような、清水のように純粋な――。



 「昔から、ねぇ」

 「……何でしょうか」

 「知っての通り私たちは、社長のことも、オットナーのことも知らないわ、でもあの二人はなにか関わりがあるんでしょう?」

 「その話はしないと言ったはずです」

 「それは社長の前で、でしょう?いくらなんでも何も知らない状態じゃ、聞き込みなんてできないわ」

 「え?ラフィさんさっき考えてるって」

 「出来っこないわ!」



 追及されると都合が悪いのか、純粋な疑問を口にするヴィートを遮って、ラフィは声を張り上げた。



 「あなたになら聞いてもいいでしょ?」

 「それは……」

 「何もかも話せってわけじゃないわ、話せるとこだけでいい、せめて二人の関係だけでもいいから」



 前方を歩いていたスヴェンの足が止まる。広い社内の、四階から五階に上がる踊り場だった。

 そのまま数秒が過ぎ、耳に入ったのは小さな溜息、それは諦めか、それとも納得か、スヴェンは口を開いた。



 「製図室は七階です、そこに着くまでなら、本当に少しだけですけど」

 「……本当に話せることだけでいいからな?」

 「そのつもりです、あの二人の関係性は、一言では言えません、元同僚であり、ライバルであり、兄弟よりも固い絆で結ばれていたと、聞いています」

 「今まで聞いた話の限りだと、想像できねえな」

 「あの二人の仲を決定づけたのは、一つの仕事でした。それが何なのかは……勘弁してください、ただ社長は、『もう二度とオットナーと仕事をすることはない』とだけ」

 「で、でも一緒に仕事することだってあるんじゃないですか?」

 「親方が関わった仕事では、あの人は本当になにもしません、本当に、何もしないんです」



 スヴェンは足を速める。それは言外にこれ以上は聞かないでくれという要求だった。だからそれ以上は誰も聞かなかった。

 だが思った以上に両社の溝は深いようだ。詳しいことは分からないが、よっぽどのことだ。

 兄弟同然の人間と、決別すると言うことは――。



 スヴェンが立ち止まって振り返る。

 目の前には、製図室のプレートを掲げた部屋、目的地だ。



 「ここです、くれぐれも約束は守ってください」



 スヴェンが扉を開けた。

 開けた扉の向こう側から、爽やかな柑橘系の香りが漂ってくる。

 紙の束が無造作に置いてあって、紙の匂いしかしない部屋をイメージしていたリュージは、意外に思いながら室内に足を踏み入れた。

 想像は半分当たり、目に入るのは部屋を迷路のごとくしている棚と、そこにしこたま置かれた紙の束だ。

 だが中に入ると、香りはさらに強くなり、人より鼻の利く人間であれば辛いのではないかというほどだった。



 「なんか、もっと臭いのかと思ってたわ」

 「失礼ですよラフィさん」

 「製図室の匂いにまで気を使う会社だなんて思ってなかったもの、建設系ってもっと匂いとか気にしないんだろうなって――」

 「酷い偏見だなぁ」

 「正直あなた達だって思ったでしょ?」

 「……まぁちょっとは、意外だったな」

 「リュージさんまで……」

 「いやちょっとだぞ、ちょっと」



 咳払いが一つ、社員の前でする話ではなかった。

 やたらと広い製図室を、スヴェンについていく、本棚の迷路も手伝って、一人では先に進めないかもしれない。

 だが、そこは流石秘書といったところ、スヴェンは慣れた足取りでリュージ達をゴールまで導いた。

 少し開けた空間に、長めの机が一つ、上に散らばる定規、分度器、ペンの山、そして、広げた紙の前で微動だにしない男。



 白髪混じりの黒髪に、眼鏡をかけた男だ。

 年の程は、オットナーと同じくらい、元同僚だと言うからにはそうなのだろう。

 入ってきたリュージ達にも気付かないほどに、集中して線を引いていた。



 「社長、お客様です」

 「……見ての通りだ、今忙しい、お引き取り願え」

 「しかし――」

 「それに事前にアポイントメントがない相手と話すなと言ったのはお前だろう、どういう風の吹きまわしだ?」

 「それだけ大事な用ってことよ、すぐ終わるから付き合ってくれないかしら」

 「何度も言わせるな、今忙しい、またにしてくれ」



 取りつく島もないとはこのことだ。まったくこちらの話を聞く気がない。

 ラフィも少し表情を硬くしたが、突然来たということに対しては反論できないからか、悔しそうにしていた。

 続いてリュージが一歩前に出た。



 「忙しいのは分かってる、だが俺たちも無駄話するために来たんじゃない、聞きたいことがあるんだ」

 「俺にはない」



 あまりに手強い、そもそもさっきからこちらを見ようともしない。

 まるで視線を固定されたかのように、図面から目を離さない。スヴェンは自分のことを愛想がないと評していたが、これに比べればかわいいものだ。

 最後に、勇気を振り絞ったヴィートが、ブルーノに話しかけた。



 「あ、あの、ブルーノさん、僕たち今少し困ってるんです」

 「……」

 「それで、できれば協力してほしいなって思ってここに来たんですけど」

 「……」



 もはや話す気もないらしい。

 リュージはラフィの顔を見た。無表情に近くなっていた。

 これはまずい、至急何とかしなければラフィの堪忍袋の緒がたやすく切れてしまう。かくなる上は引き上げるべきか――。

 リュージが撤退を視野に入れていると、ヴィートが何を思ったか、再び口を開いた。



 「そ、そういえばブルーノさん、街で聞いたんですけどお見合いするんですね」



 恐らく普通に呼びかけても無駄だと悟って、世間話から入ろうとしたのだろう。

 だが、その結果は誰にも予想できないものだった。

 ブルーノはメガネを外して机に置くと、明らかに苛立った様子で、ヴィートを睨みつけた。



 「下らない噂話をするために来たのか」

 「え?」

 「そんな下らない話を聞くためにここに来たのかと言っている!」

 「あ、えっと、その、ごめん、なさぃ」



 声量は小さいものの、明確な怒りを込めた声に、ヴィートはすっかり委縮していた。

 状況はよく分からないが、何か、ブルーノの琴線に触れてしまったらしい。リュージはヴィートを庇うように割って入った。



 「待ってくれ、何か気に障ったんなら謝る、悪気はなかったんだ」

 「下がっていろ、今そいつと話をしているんだ」

 「話になってないでしょ、うちの子いじめないでくれる?最近やっとおどおどせずに人と話せるようになったんだから」



 怒り鎮まるところを知らないブルーノの前に立ちふさがるラフィ、両者の間で激しく火花が散った。

 場の空気を打ち破ったのは、急速に進む事態に取り残されていたスヴェンだった。



 「社長、止めてください、もう彼らは連れて帰りますから」

 「……なんだ、話したいと言ったのはそいつらだぞ、気のすむまで話をしていけばいいじゃないか、いくらでも付き合って――」

 「おじさん!」

 「――っ!」



 スヴェンの表情がここにきて初めて崩れた。苦しみにゆがむその顔は、痛々しさすら感じさせるもので、猛っていたブルーノでさえ、突然変わった呼び方に反応できず、息をのむばかりだった。

 スヴェンはやっとの思いで絞り出すように言葉を紡いだ。



 「止めてくれ、頼むから」



 スヴェンは、手で着いてくるように示すとその場から離れた。

 リュージ達はそれに着いていくしかない。

 その場から離れる直前、ブルーノが椅子に座りこんで頭を抱えているのを、リュージは見ていた。

 入ってきた扉から外に出た直後、スヴェンはヴィートに向かって深々と頭を下げた。



 「社長がとんだ失礼を、頭を下げたところでどうということではないでしょうけど」

 「そ、そんな!やめてください、大丈夫ですから、ちょっとびっくりしちゃっただけですから」

 「……社長は、今回の縁談にひどく後ろ向きなんです、ここだけの話ですが」

 「あぁ、それで――」



 表情を暗くするヴィートに、リュージは同情するしかなかった。

 驚くほど的確に、ブルーノのアンタッチャブルな所に触れてしまったらしい。

 だが、本当にそれだけだろうか、傍から見ていただけだが、ヴィートに向けられていた視線、圧倒的な怒りを込めたあの目は、まともではなかった。



 「伝え忘れていた私の落ち度です」

 「ホントに気にしないでください、急にあんな話始めた僕も悪かったし」

 「そう言っていただけると助かります。いつもならあんな言い方はしないはずなんですが、なんで今日に限って――」

 「……機嫌が悪かっただけですよ、今日は僕たちがついてなかっただけです」



 深々と頭を下げるスヴェンに見送られ、三人はその場を後にした。



※    ※    ※    ※    ※    ※ 



 早速答えに近づいたかと思ってみれば結果は散々だった。成果は何も得られなかったうえに、ヴィートは凹み、ラフィは口を一文字に結んでいる。

 まだ夕方にもなっていないが、ここは一度引き上げるべきかもしれない。

 残念ながら、前途多難は確定のようだ。リュージは首に手を当てて大きく回した。



 腹に小さな衝撃を受けたのはその時だった。



 「なんだ?」



 リュージは立ち止まって自らの腹を見下ろす、幼い少女と目が合った。

 走っていてリュージにぶつかったのかもしれない。

 少女はくりくりとした可愛らしい瞳を、リュージに向けていたが、次第にその顔が歪みはじめ、瞳に涙がたまり始めた。



 ――ああ、久しぶりのやつだ。



 これまでの人生経験から、次に起こる事態を予測し、早々に諦めた。きっと後ろの二人が何とかしてくれるだろうと。

 考え終わるが早いか、少女は口を大きく開けて泣き喚いた。それはもう、盛大に――。

 慌てたのは、前を歩いていたリュージが急に立ち止まったと思ったら、急に女の子の泣き声が聞こえてきた後ろの二人だ。



 「どうしたんですかリュージさん……あれ、その子は?」

 「ちょっと!何小さい女の子泣かせてるのよ!」

 「誤解だ、俺は何もしてない」

 「そんな凶悪な顔子供に向けたらどうなるかなんて分かり切ってるでしょ!」



 怒鳴り返してやりたいが、多分それが真実なので言葉もない。

 リュージと初めて会った子供は、十中八九泣いてしまうのだ。残りの一と二は全速力で逃げ出すか、気丈にも睨み付けてくるかだ。

 結果として子どもと関わることができないリュージは、子どもの相手が何よりも苦手だ。

 現に今も、ヴィートとラフィが何とか泣き止ませようと努力するのを、見ていることしかできず、周囲からの好機と非難の視線に耐えるばかりだった。



 「ほぉら、もう大丈夫よ、何も怖いことないからね、あのお兄ちゃんはお姉ちゃんの言いなりだから安心しなさい」

 「言いなりではねえよ」

 「余計なこと言わない!」



 少女が幾分か落ち着いてきたところで、しゃがんで目線を合わせたヴィートが、優しく話しかけた。



 「初めまして、僕はヴィートって言います、自分のお名前言える?」

 「……ハンナ」

 「ハンナちゃんかぁ、教えてくれてありがとね、それで、お父さんとお母さんは?」

 「……お兄ちゃんはお父さんを知らないの?」

 「えっと、僕が君のお父さんを?」

 「だって同じような服着てるよ」



 その一言で、三人は理解した。

 少女――ハンナ――の父親は騎士なのだと。



 「お父さんに会いに行こうとしてたの?」

 「うん、お父さんがお弁当忘れて行ったから、届けてあげようと思ったの、でも、道が分からなくなっちゃって」

 「うーん、団の本部に行ったらいるかも……あ、でも聞き込み」



 道は通行人にでも聞けばいいが、当初の目的である聞き込みから離れてしまう、どうするべきかと迷うヴィートに、リュージは事もなげに言った。



 「それは明日でもいい、連れてってやろう、大体ほったらかしてどっか行くなんてできねえだろ」

 「は、はい!」

 「それに正直、ブルーノのせいで聞き込みって気分じゃなくなったしね」

 「それは正直すぎです」



 満場一致、というには一人不純な動機がいたが、そんなことは気にすることでもない。

 ここから騎士団の詰め所は少し離れている。歩いていけば戻ってくる頃には夕方になっているだろう。

 父親が心配しているかもしれないし、早めに向かおう――としたのだが、ここで問題が発生した。



 「は、ハンナちゃん?どうしたの行こうよ」

 「……そのおじちゃんこわいからやだ」



 ハンナがその細く小さい指でリュージを指さした。

 リュージは雷に打たれたように硬直すると、二、三歩後ずさった。

 子どもに怖がられるのは仕方ないと割り切っていたが、着いてこないで欲しいほどとは思わなかった。

 あまりのショックに、がっくりと項垂れる。



 「だ、だめだよハンナちゃん!あの人はね、とってもいい人だから――」

 「だ、だってぇ」

 「ほらほら泣かないのよ、仕方ないわリュージ、先に帰ってて、私たちだけで送ってくるから」

 「……あぁ、わかった」



 ふらふらと幽鬼のような足取りで雑踏へと消えていくリュージの姿を、ヴィートは心配そうに眺めていた。

 ラフィは淡々としたもので、ハンナの手をとって歩きだす。



 「行きましょう、遅くなるといけないから」

 「……そうですね」

 「なーに暗くなってんの、子供の言うことよ、あんまり真に受けないの、リュージだって帰る頃には元気になってるわよ」

 「な、なんか申し訳ない気持ちだなぁ」



 ヴィートは、ハンナのもう片方の手を握って一緒に歩きだした。

 当の本人は、自分の言葉で大人が大ダメージを受けるなんて想像もしていないのだろう。穏やかな面持ちだ。

 落ち込むリュージの後ろ姿は、言葉では尽くせない哀愁が漂っていたとか――。


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