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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
建設都市アルカディア
61/165

アルカディアの6

 遅くなってごめんなさい。どうにか今の生活に慣れつつあるので、もう少しペース上げれると思います。

 途方に暮れるとはこのことだ。ヴィート・マッシは涙を抑え切れなかった。落とした財布を必死の思いで、地を這ってまで捜し続けた。うろ覚えの景色を必死に辿り、来た道を戻り、目を皿にして何一つ見落とさないようにしてきたつもりだ、にも関わらず、結局見つけるには至らなかった。



 しかしヴィートも日々ラフィにからかわれて精神を鍛えられている身、それだけならば泣くほどのことではない。止めとなったのは、探すことに集中しすぎて、どこを走っているのかを忘れていたことだ。

 有り体に言って、今の彼は迷子だった。

 財布を落とした上に迷子というかなり悲惨な状況だった。



 「ここ、どこだろ……」



 とぼとぼと、足元に目をやったまま歩むことしか出来ない。

 入り口まで戻れたところで慌てずに探せばよかったのに、何故か通ってもいない道を探しにいった過去の自分を止めたかった。我ながらよほど焦っていたらしい。



 今はとりあえずリュージたちのいる建物へと向かっている。これ以上探しても見つかりそうに無かった。それならば素直に頭を下げたほうが話が早い。



 そもそも本来ならば宿泊にも料金はかからないのだ。リュージがもらった権利を遠慮なく使えば、この旅には一切の費用がかからない。しかしその上で必要最低限は自分たちで出そうというリュージの決定には、ヴィートも共感していたし、立派だと思っていた。



 ――それなのに、僕のこんなミスで……。



 気は途轍もなく重く、連動して足取りも重かった。きっとリュージは笑って許してくれるだろう、ラフィだって色々からかわれるだろうが最後には忘れてくれるだろう、それが予想できるからこそ、今は会いたくなかった。

 許してもらうのが辛い時もある。だからといって逃げていても仕方ない。



 「……なんて言って謝ろうかなぁ――あれ?」



 下ばかり向いていたせいで見落としていたが、目の前はいつの間にか行き止まりだった。

中央の建物は都市のどこからでも見えるので、まっすぐ進めば良いと勘違いしていたが、よく考えればその通りに道が続いている保障はどこにも無い。ヴィートは仕方なく、一つ前の曲がり角まで戻って、別の道を進んだ。



 「あれぇ!?こっちも行き止まり!?」



 戻って進んだ先もまた壁だった。

 ヴィートは知る由も無いが、彼が知らずに踏み込んだこの一角は、都市民でもたまに迷うほど入り組んだ路地だった。

ヴィートは仕方なく戻る、別の道を行く、戻る、別の道を行く、戻るを繰り返す。やがて――。



 「……で、出口はどこなんだろう」



 完全に出口を失っていた。ビルが見えているおかげで方向感覚だけは失わずにすんでいるものの、そっちに進んでもたどり着けない、恥を忍んで住民に道を尋ねようにも、人っ子一人見当たらない。

 だんだんヴィートの心が弱ってきた。そうなると人間何の根拠も無い妄想が頭を占めてくるもので、例外なくヴィートも『二度とここから出られないのではないか』なんて妄想に脅えていた。



 と、そのときである。ヴィートの耳に、誰かの話し声らしきものが聞こえた。

 渡りに船、地獄に仏、ヴィートは無我夢中でその声が聞こえる方へと向かう、もはやこれが最後のチャンスといっても過言ではない。



実際は過言極まりなかったが、追い詰められた少年にとってはそれが真実だった。その執念が実を結んだか、一つ先の曲がり角の先から、件の声が聞こえていた。二、三人で何かを言い争っているようにも聞こえたが、今のヴィートにはどうでも良かった。勢いのままにその角を曲がる。



 「おい!早く詰めろ!」

 「黙ってろ!袋の口が意外と小さいんだ!」

 「おいお前ら黙ってろ!誰かに見られでもしたら――」



 見えたものは三つ、一つは屈強な三人の男たちが言い争っている場面、

そのうちの一人はヴィートとばっちり目が合った。

二つ目は男の一人――細目の男だ――が持っている大きな袋、日常生活では決して使うことは無いであろう大きなものだ。作りは荒く、表面は継ぎ接ぎだらけで思い切り引っ張ったら破れそうだ。



 最後は、その袋に押し込まれかけている小柄な少女、気絶させられた

上に四肢と口を縛られている。奇しくもそれは見覚えのある少女だった。

つい数十分前、自分を助けてくれた、少女、イナセだった。



 自体の全てを理解したわけではないが、ヴィートの騎士としての直感

が考えるよりも先に体を動かした。

腰に挿している鞘から剣を引き抜く、刃の無いそれは一見間抜けな音を立てて姿を現した。ヴィートは目を丸くしている男たちの方へ剣を突き付けて叫ぶ。



 「頑固一徹(くろいろ)!」



どこからともなく現れたのは、手のひらサイズの真っ黒な長方形、それは素早く男たちの前まで飛んでいくと急激に広がった。正体不明の物体に男たちがひるんでいる隙に、広がったそれは、今まさに袋に詰められそうだった少女を包み込んだ。

 ヴィートは球体になった黒色を手元まで引き寄せると、解除する。

中にくるまれていた少女は、落ちてきたところをヴィートが横抱きに受け止めた。



 「イナセちゃん!しっかりして!」



 揺すぶってみてもイナセは起きなかった。外傷は見当たらないところを見ると、眠り薬でも嗅がされたか、心配だが、悠長に原因を探っている時間は勿論無い。 

 突然の妨害に、男たちは殺気立っていた。そのうちの一人、バンダナを着けた男がじりじりとヴィートににじり寄る。



 「おい兄ちゃん、今なら冗談で済ましてやっても良い、さっさとそのガキを渡せ」

 「い、嫌です!この子に何するつもりですか!」

 「それはお前が知らなくても良いことだ、下手に首突っ込むと、痛い目見るぞ」



 バンダナの男が体から発する雰囲気は、明らかに暴力に慣れている者のそれだった。今にも牙をむいてかかってくる勢いだが、ヴィートは男が過剰に自分を警戒していることに気づいた。いや、正確には自分の着ている服に、だ。

 それはそうだ、一対三とはいえ、騎士服を着ている相手に無闇に飛び掛ることがどれほど無謀なことなのかは誰だってわかる。仕掛けるなら相手が臆病な今だ。ヴィートは無い刃先を男たちに向けた。



 「頑固一徹(くろいろ)!」



 狭い路地を完全に塞ぐ形で黒色が男たちの姿を消す、奥からは怒号が絶え間なく聞こえてくるが、ヴィートはその場に立ち止まって息を潜めた。ヴィート『オリジナル』の一つ『頑固一徹(くろいろ)』は、頑丈さと多彩さが売りの魔法だ。ヴィートの意思一つで形を変える様はまさに鋼鉄で出来た粘土といったところか。



 ただヴィートの『オリジナル』には共通の弱点がある。強固なイメージを必要とするが故に、目を離すと消えるという致命的なものが――。

 瞬き程度ならば平気だが、数秒目を離せばすぐさま消失してしまう。



 男たちはしばらく壁を壊そうと試みていたが、破壊が不可能であると判断すると、回り込むべく路地の奥へと走っていった。

 足音が遠ざかるのを確認してから、ヴィートは背を向けて走り出す。同時に黒色が消えた。急がねば地の利は向こうにある。追いつかれるのも時間の問題だ。

 極力足音を立てないように、走っていると、抱いたままだったイナセが声を漏らした。



 「……うぅ?」

 「イ、イナセちゃん!?目が覚めたの?」

 「……うー!うぅー!」

 「うわぁ!駄目だよ、今騒いだら駄目!見つかっちゃうから!」

 「うー!うー!ううう!」

 「暴れないで、暴れないでったら!」



 イナセは状況がいまいち理解できていないようだった。ヴィートの腕の中から何とか逃げようともがいて、走れたものではなかった。

 ヴィートは上着のポケットから小さなナイフを取り出した。ちょっとしたものを切るときに使っているものだ。

 イナセが明らかに脅えた表情を見せる、ヴィートはそれを無視して、ナイフを器用に使い、イナセの口元を塞いでいる布を切った。



 「っぷは!何なんだよ!なんでお前が!?」

 「しっ!あんまり大声出さないで、手と足の縄も切るから!」



 ぐずぐずしている時間は無い、手早く足をくくっていたロープを切ると、彼女を地面に降ろした。イナセが混乱している間に、後ろに回りこんで手首のロープも切り取る。



 「手足大丈夫?」

 「あ、ああ――ってそうじゃねえ!お前さっきの騎士だな!アタシを攫ってどうするつもりだ」

 「えぇ!?ち、違うよ、僕はただ君が連れてかれそうなのを見つけて――」

 「お優しい騎士様だな!こそ泥をわざわざ助けに戻ってきたってか!信じられるかよ、どうせアタシのやったことに気づいて仕返しに――」

 「仕返しって、なんで僕が君に仕返しなんて」

 「あぁ?」



 ヴィートは困惑した。パニックになっているのは納得できたし、このタイミングで目の前にいる自分が怪しまれるのも仕方ないが、仕返しとは何のことを言っているのだろう、返す恩はあっても、報復することなど何も無いというのに――。

 目の前のイナセも同じくらい困惑しているようだった。



 「……おまえ、もしかして本当に偶然アタシを助けたのか?」

 「う、うん、道に迷って偶然」

 「そっか、じゃあありがとよ、アタシはもう大丈夫だから、あんたも無事に逃げ切れ――」



 カン、と音を立てて、何かが二人の間を通って近くの壁に当たると、跳ね返って地面に落ちた。

 落ちたのは短い棒、先は尖っていて、上のほうには羽がついている。

 どう見ても矢だった。

 二人がゆるゆると顔を上げると、まだ距離があるが、小型のクロスボウを持った男が一人、あとの二人も一緒にいた。



 「やっと見つけたぞ」

 「なめやがって、騎士がなんぼのもんだ!こうなりゃまとめてやってやる!」

 「ほわあああああああああああ!!」



 一人が次弾を装填している。残りの二人は今度こそ逃がさないと、猛然と駆けてきた。

 ヴィートはイナセの腕を掴んで全力で走り出した。わき目も振らずにとにかく足を動かした。



 「お、おい!放せって!」

 「駄目だよ諦めたら!捕まったら何されるか分からないよ!?」

 「そうじゃねえ!こっちはダメだ!」

 「いいから走って!大丈夫、いざって時は君だけはなんとかーー」

 「人の話聞けよ!こっちはダメなんだって!」



 イナセの静止も耳に入らないほど、ヴィートは遮二無二進んだ。イナセはその間、腕をはがそうとしたり、何とか進路を変えようとしたり、抵抗を続けたが、体格さもあれば相手は騎士、結局は引かれるがままについて行くしかなかった。

 その結果は――。



 「あれぇ!?行き止まり!?」

 「だからこっちはダメって何度も言ったじゃねえかよ!」



 イナセが地団太を踏んで怒っていた。

 我に返ったところで、目の前は袋小路、しかも後ろからは足音、完全に詰んでいる。ヴィートは涙目できぃきぃ怒鳴っているイナセを見た。とにかく、彼女だけでも逃がさなければ、ヴィートは震えそうになる腕を力いっぱい抓って、渇を入れた。



 「イナセちゃん」

 「……何だよ、あとアタシをちゃん付けするな」



 イナセは怒鳴りつかれたのか、半ば諦めてしまったのか、不貞腐れて座り込んでいた。



 「僕が一瞬だけ隙を作るから、その隙に逃げるんだ」

 「え?」

 「いいかい、僕が剣を抜いたら耳を塞いで、そのあとすぐに走り出すんだよ」

 「い、いや、意味がわからねえんだけど」

 「説明してる時間が無いんだ、信じてほしい、騎士の誇りに誓って嘘はつかない」



 イナセが何かを言う前に、タイムリミットが来た。追跡者たちはもうヴィートたちが逃げられないことを知って、余裕たっぷりに歩いて近づいてきた。彼我の差は三メートルも無い。

 当然一人が構えているクロスボウのせいで二人は動くことも出来なかった、ヴィートはイナセを庇うように前に立つ。



 「やっと追い詰めたぜ、それにしても騎士のくせによくにげる野郎だな」

 「戦うのは嫌いなんだ」

 「そうかよ、まあもうどうでも良いさ、俺たちに重要なのは、そいつを連れてくことだからな」

 「悪いけど、僕がいる限りこの子に手出しはさせない」



 先頭に立つ男――他の二人に比べて小柄な男――は、もう興味をなくしたように、片手をすっと上げた。クロスボウがヴィートを狙う、ヴィートの胸中を恐怖が支配する、だが逃げるわけにも失敗するわけにもいかない、後ろに守るべき一般人がいるのだ。



 ――ギリギリまで粘るんだ、まだ、まだ……



 集中力によって風景がスローモーションに見えた。男の指が少しずつ引き金を絞っていく、この距離では相手も外さない、確実に照準は頭、まだ、まだ、まだ、まだ――。

 カチリ、と引き金が引かれた音を聞いたが早いか、ヴィートは剣を持った右手を振り上げた。イナセが耳を塞いでいるか確認は出来ないが、信じるしかない。ヴィートは叫んだ。



 「豪華絢爛(きんいろ)!」



 現れたのはヴィートの頭を隠せる程度の大きさの、金色の物体、その形は桶のようであるが、トランペットの先端だけを切り取ったようでもあった。突然現れた物体に、クロスボウを持った男も驚いたが、もはや矢は放たれた。

 放たれた矢は、一直線にヴィートが作り出した金色に向かっていき、突き刺さった。



 瞬間、爆音が路地を揺らした。それは鐘を思い切り鳴らしたのに似た音だったが、度を越した音量のせいで鐘の音だとは誰も気づけない。

 人生で聞いたことが無いレベルの音量に、男たちは硬直し、動けなくなっていた。額を見れば脂汗さえ浮かんで、一人に至っては腰を抜かしていた。



 「イナセちゃん!走って」

 「え、でも、お前は?」

 「いいから早く!」



 ヴィートはイナセの背中を押して無理やり走らせた。イナセは何かを言いたそうな顔で、何度もヴィートを見たが、最後には男たちの横を通り抜けて行った。



 「ま、待ちやがれ!」



 いち早く復活した一人が、イナセを追おうと足に力をこめる、ヴィートはそれを見過ごさなかった。



 「頑固一徹(くろいろ)



 黒色の壁が、この袋小路の出口を完璧に奪った。もう誰も出ることは出来ない、それを作り出した本人でさえ、出られない。

 徐々に衝撃から立ち直った男たちがヴィートを囲んだ。小柄な男がクロスボウを放り捨てた。この狭さでは同士討ちの危険があるからだ。

 しかし各々が懐から取り出した短めの鉄パイプやら、砂をつめた袋やらは、ヴィートの危機がまだ終わらないことを告げる。



 「やってくれたな、大人のお仕事の邪魔をするんじゃねえよ、クソガキ」

 「……こ、これでも騎士ですから」

 「そうかよ、上等だ、死ぬ覚悟は出来てんだろうなぁ!」

 「死にません、いや、死ねません!」



 今から世界を救う勇者の旅についていこうというのだ、こんなところで死んでやるわけには、いかない。死ぬ覚悟なんてするわけが無い、しなければならないのは、生きる覚悟だ。ヴィートは刃の無い剣を構えた。その瞳は力強い光を灯していた。



 ※    ※    ※    ※    ※    ※      



 久々に大金が手に入ったおかげで気が緩んでいたのだろう、物陰から現れた相手に腕をつかまれ、振りほどこうと焦るうちに布で鼻を塞がれ、気がつけば気絶していた。今もまだ指先がしびれていていつもどおりに動けない。

 思えばあの騎士はそれが分かっていたから、一人で残ったのかもしれない、時間稼ぎのために――。



 特に彼を狙った理由は無かった。金を持っていて、女に慣れてなさそうだった、それだけだ。その上あの様子じゃ財布を盗ったのが誰かも気づいていないだろう。その上見かけただけという理由でこんな見ず知らずの女まで助けてしまった。お人よしもあそこまでいけば病気だ。



 後は今日この日の幸運に感謝して、家に帰ってしまえば良い。全て忘れて明日からは、しばらくの間ちょっとだけ裕福な生活をすればいいだけだ。それが一番賢い生き方だ。

 なのに――。



 「なんでこんなに気分が悪いんだよ……」



 結構な距離を走り抜けた。今いるのは中央ビル通り、文字通り中央ビルの正面玄関につながる通りで、この都市のメインストリート、この時間でもまだ人が少なくない。ここなら見つかっても派手なまねは出来ないだろう、そこにたどり着いた瞬間から、身の危険が去った時から、イナセの中に激しい葛藤が生まれていた。



 「ああクソ、気にしなきゃ言いだけだってのに、なんでアタシがこんなめんどくさいこと考えなきゃいけないんだよっ……」



 どうにかしたい、でもどうすれば良いのか分からない、少女にはこの都市で頼れる存在などほとんどいなかった。

 特に、今回のような、荒事に関しては――。



 「おい、どうかしたのか」



 頭を抑えて蹲っていたイナセは、降ってきた声に頭を上げた。

 よほど弱っていたのだろうか、気づけばイナセはその見慣れない服を着た人相の悪い男と、隣にいる真っ白なシスターに、全てを打ち明けていた。



すみません、見直し前の原稿送ってました。

もう直しましたので、まだ誤字脱字ありましたら、報告くださると助かります。

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