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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
防衛都市ブロックス
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ブロックスの9

 12月2日 改稿版投稿しました!

 やはり少し図々し過ぎただろうか、リュージ達を誘導しながら、しきりに溜息をついているヴィートに、今更ながら反省していた。

 リュージは、上機嫌な笑みを浮かべて、隣を歩いているラフィに小声で語りかけた。



「なあ、やっぱり突然過ぎたんじゃねえのか」

「何が?」

「あいつの家に泊まるのだよ」

「このタイミングでそれ言うの、あの子だって渋々とはいえ納得してるんだから、ここまで来てやっぱ止めますって言う方が迷惑でしょ」

「……今からでも十分喜ぶと思うぞ、見ろあの背中」

「嫌がってはいないと思うけどね」

「そうか?どう見ても哀愁漂ってるぜ、十六の背中とは思えねえ」

「あーもう、じゃあどっか泊まるとして、お金は?いっとくけど私は持ってないわよ」

「それはよく知ってる」




 ラフィが片手に持っているアイスが何よりもそれを雄弁に語っていた。歩いている最中に見つけた店で買ったものだが、誰が買ったものかは言うまでもない。

 つい最近できたばかりのアイスクリームは全世界で爆発的なヒットを誇っているようで、ブロックスにもその波が届いていた。

 それにしても、この世界は本当にちぐはぐな発展をしているとリュージは再確認する。何故かと言われれば、それはもちろん科学が発達していない分を魔法で補っている形だからだろう。




 明かりを自分の手で生み出せるから電気は無いし、工事現場だって人数さえ集めれば操作魔法で大抵のものを動かせるから、重機も無い――もっと言えば人件費を限界までケチるなんて発想が薄く、誰も少人数でどうにかしようという考えすらないらしい――。

 機械が求められないということは、当然だが動力云々と言う発想も出てこない。精々各地に点在している村の人間たちが、農業、牧畜のために風車を作っている程度だが、あれが発電に使われる日は生涯来ないのではないかと思わされる。




 アイスクリームが今までなかった理由は他とは違い物を冷やす魔法が難しいかららしい、魔法と聞けば便利に聞こえるが、漠然としたイメージでは結果は引き起こせない。最近になってそのことが正しく理解できてきた。




 結局魔法はイメージで成り立っている。見たこともない物質や、結果を引き起こすためには、それこそあり得ないほど正確な想像が必要になる。新たなものを作り出す苦しみは科学も魔法も同じというわけだ。




 前にも言った通り、魔法の使い方なんて考えは存在しない。

 使えるのが当然だからだ。

 ――だが強いて言うなら、今まで存在しなかったものを、そこにあるのが当然のように振舞う。それが魔法を使う方法なのだ。




 「……どしたの?」

 「気にするな、悪い癖だ」




 どうやらまた取り留めもないことを考えこんでいたらしい、ラフィが胡乱なものを見るような眼を向けてきていた。

 頭を振って気を取り直すと、前を歩いていたヴィートが振り返って、情けない笑みを浮かべながら頭を掻く。



「あ、あの、うちに来ることは全然良いんです、正直さっき嫌がったのも突然だったからってだけで、お客さんが来るのはなにも嫌じゃないんです」

「そうなのか?」




 小声のつもりだったがばっちり聞こえてしまっていたみたいだ。

 そして意外な答えに驚く、隣で「ほらね」とラフィが胸を張っていたが気にしないことにした。



「それにしては随分気が重そうに見えるが」

「いやね、リュージさん一人なら良かったんですけど」

「ほほう、とっても面白いこと言うのね、お姉さん気合入ってきちゃった」

「ち、違いますよ!そういう意味じゃなくて、てか気合いって何のためにですか!?」

「さてね、それで、どういう意味で言ったのかしら?」

「ひいいい!待って、もう何もしないで!」

「お前ら道のど真ん中で騒ぐな」


 


 リュージはため息交じりに頭を抱えた。

 ヴィートはこめかみに青筋を浮かべるラフィに、手と首を千切れるほど振り回して後ずさっている。少し怒っただけでこれだ。この二人のパワーバランスはもう決して覆ることがないだろう。

 ラフィの首根っこを掴んで引き離すと、安心したヴィートはそれでも言いにくそうに視線を逸らした。




「あの、か、母さんが、家にいる、んです」

「……へえ」




 気まずそうに眼を逸らすヴィートの口からは、待てど暮らせどそれ以上の言葉が出でてこない。

 しびれを切らしたリュージは、申し訳なさそうに聞き返す。





「悪い、もう少し詳しく言ってくれないと分からないかもしれない」

「ごごごごごごめんなさい!! そ、そうですよね! 今のじゃわかるわけないですよね!? ああもう、ほんと、僕ってやつは、すみません……」

「お、おい、怒ってるわけじゃない、落ち着け、な?」




 がっくりと肩を落として俯くヴィートに、リュージは慌てて笑いかける。

 元来こういったフォローのようなことは、最も苦手なことなのだが……。

 涙目になっていたヴィートは、呼吸を整えると意を決したように、喋りだした。




「えっと、あの、その――」




 言いにくそうに視線――と言っても前髪にさえぎられて視線は見えないが――を彷徨わせたヴィートは、やがて観念したように滔々と話し始めた。



「うちの、母さんは、なんて言うか、豪快な人で」

「ああ」

「きっと、急なお客さんでも、一生懸命、お持てなしすると思うんですけど」

「……聞いてる限り良いお袋さんだな」

「ただ、その――」




 もごもごと口の中で何かを言いながら、視線をあちこちに彷徨わせているヴィートに、我慢していたラフィがいい加減に声を上げた。




「ああもう!めんどくさいわね、はっきりさっさと言いなさい!」

「は、ハイ! 母さん凄い酒豪なんです! きっと二人も立てなくなるくらい飲まされるから可哀そうだなって思いました!」




 ビシッとした、気をつけの形ではきはきと喋ったヴィートに、周囲の視線が集まる。ヴィートはそれに気づくと、途端にあたりを気にするように体を小さくしてしまった。

 リュージは、やっと聞けたヴィートの心配に、そんなことかと苦笑した。

 ここまで心配するからにはきっと大した大酒のみなのだろうが心配ない、自慢ではないがリュージは酒に酔ったことが一度もない。

 無いと言うと語弊があるかもしれない、ただどれだけ飲んでもほろ酔い程度にしかならないのだ。サラリーマン時代は面白がられて上司にのまされたものだ。




 来ることのない未来に申し訳なさを感じている目の前の青年を安心させようと、リュージは声をかけ――ることはできなかった。

 隣で小刻みに震えている奴がいたからだ。不審に思ったリュージがその顔を覗き込むと、満面の笑みがあった。




「ラフィ?」

「……面白いじゃない、つまりこの私を潰せるほどってわけね」

「おい、何言ってんだお前」

「そこまで言われちゃ逃げるわけにはいかないわ!」

「逃げるも何も普通に泊まるつもり――」

「ヴィート!」




 話を聞く気がまるでない。その瞳には轟々と炎が燃え盛っていた。




「な、何でしょう?」

「この近くに店が集まってるところは?」

「えぇ?」

「酒屋はないかって言ってるのよ!」

「言ってなかっただろ」

「はきはき答える!」

「あ、あります! 五分くらいの所に店が集まってる広場があります!」

「案内しなさい!」




 下り坂を全力疾走してるが如く進んでいく話に、泡を食ったのはリュージだ。何が何やら分からないうちに進路が変更されてしまった。慌ててラフィを呼びとめる。




「おい待て何するつもりだ!」

「決まってるでしょ? お酒買いに行くのよ!」

「ええ!? そんなことしなくても家に山のように――」

「勝負はもう始まっているのよ! 相手の牙城に何も準備をせずに突っ込むなんて愚の骨頂! こっちも酒ぶきを揃える必要があるわ」




 せっかく拳を振り上げ力説しているところだが何一つ共感できなかった。

 リュージは急に痛くなってきた頭を押さえる。ヴィートも唖然と口をあけていた。ラフィは焦れったくなったのか二人の腕を掴むと走り始めた。




「おい危ないだろ放せ!」

「良いから良いから!」

「ラフィさん道こっちじゃないです!」

「だから案内しなさいって!」




 きっとこの女は動き出したら止まれない病気にでもかかっているのだ、リュージは小さくため息をつき、正直予想はついているがそれでも聞いておくべきだろうことを一つだけ訊ねた。




「お前……酒代は?」

「頼んだわ相棒!」

「いい加減怒るぞ」




 やっぱりそういうことらしかった。

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