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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
開拓都市アルビオン
19/165

アルビオンの18

「ふざけるな!認められるわけがないだろう」




 城に帰ってみると、執務室に数人の男がいた。バンゴ以外は見たことはあるが関わったことはない人たちだ。

 帰ってくるなり汗だくのまま話を聞く、話が『ある点』まで進んだときに、隣のルイスが思いきり怒鳴る。




「リュージは客人だぞ!なんで最前線で戦わなくてはいけない!」

「だから何度も説明しているではないか」




 バンゴは淡々とした態度で何度もした説明を繰り返す。




「偶然にも故郷に帰っている騎士が多いのだ、聞いている盗賊の数に対して圧倒的にこちらの数が足りない」

「だからと言って――」

「その男の戦闘力がずば抜けているのをよく理解しているのはお前だろう、それとも娘と己を助けだした男の実力が信用できんか」

「そのような問題ではない!これは客人への礼の問題であって――」

「だから貴様は甘いというのだ、礼を求めて都市を潰す気か! 今は使えるものは何でも使わんと手が足りんのだ!」




 この争いに口を挟まない時点で、この部屋にいる男たちの意見はバンゴのもので統一されているのだろう。

 どうしようもないことを悟ってルイスが歯を食い縛った。

 そして、後から事の成行きを見ていた龍二は一歩前に出る。




「俺が行かなくちゃいけないのは分かった」

「おいリュージ!」

「いいんだ……それより――」



 食い下がるルイスを片手で制し、龍二は話を聞いた時から気になっていたことをバンゴに尋ねる。




「本当に、偶然なのか」

「ん、何が言いたい」

「偶然騎士が少ない時に、偶然攻め込まれたってことだろ? どう考えたってタイミングが良すぎる……狙われたってことはないのか?」




 バンゴは龍二の言わんとしていることにたどり着いたようで、不機嫌そうな顔をしながら、呻くように口を開いた。




「貴様、内通者を疑うということか」

「……そこまではっきりとは分からない、だが命懸けで前に出て、帰ってきたら都市が燃えてましたじゃ笑えない」





 てっきり喚き散らすだろうと思っていたバンゴは顎に手を当てると思案顔になった。

 そのリアクションだけでも龍二からすれば意外だったが、なんとバンゴは深く頷いて龍二を見た。




「……なるほど、一理あるかもしれん、ならば不測の事態に備えて騎士団の三分の一を都市に残そう」

「おい、それでは最前線に行く者の負担が増えただけではないか!?」

「しかしこの男の言うことを真に受けるとそういうことになる」




 龍二は小さくため息をついた。正直さっきのルイスとの話のせいで今他のことが頭に入らない。

 何度も思うが、龍二は勇者なんて柄ではない。

 龍二のイメージでは勇者とは強いだけでなく、精錬で、誠実で、なにより自分ではなく誰かの幸せの、笑顔のために戦える人間だ。

 世界の平和のために命をかけるなんて自分の柄じゃない――龍二には無理だ。




 ――それでも、一月近く世話になった都市のために命をかけるのなら――まだ納得できる。

 命を懸けてもいいと、思える。

 だから、龍二はバンゴを見て短く言い切った。




「分かった、俺も行く」






※   ※   ※   ※






「おい、これ動き辛いぞ」

「我慢したまえ、それでも十分軽装だ」




 確かに他の騎士たちは鎧を身に纏い、両手には鋼鉄の篭手を着けている。それに比べると十分軽装と言えるだろうが、それでも龍二には十分動きを制限される。

 いま彼は鉄の胸当てがついている革の鎧を着て、騎士団に交じって城の入り口で待機していた。




「確かに君は回避する方が得意そうだが、集団戦はそういうわけにもいかない、いつどこから攻撃が来るか分からないんだ、生存率を少しでも高めるために、できる準備はするべきだ」

「今のお前が言っても説得力無いぞ」




 ケビンは戦闘にいるにもかかわらず、ただひとりいつもの騎士団の制服のみであった。

 それで許されるのは彼の実力が確かな証拠だった。風を操作する魔法を主体に戦う彼にとって装備など動きを束縛するものでしかないのだ。

 縦横無尽に動き回るためには、ただひたすらに、軽い方がいい。

 そのことについては理解しているはずなのだが、それでも龍二は羨ましそうにひとりごちた。




「いいよな魔法が使える奴は」

「しっ、準備ができたようだ」




 バンゴとルイスが整列した団員たちの前に出てきた。その表情は険しく、この先に待っている厳しい展開を予想させるものだった。

 一歩前に出たバンゴが、響き渡る大声で叫ぶ。




「これから市長より挨拶がある!」




 ルイスは、用意されていた台に上ると、兵士の一人一人の顔を眺めるように首を動かして、語り始めた。




「諸君、普段の諸君の鍛錬の成果を存分に発揮するときが来た。どんな障害があろうと都市を守るために命を懸けてくれ」




 誰も何も言わない、ここにいる騎士全員から感じる共通の思いは、そんなことは当然だと、ただそれだけだ。




「――だが、諸君らの命は盗賊風情にくれてやるにはもったいない、必ず全員生きて帰ってきてくれ、以上だ!」




 あるものは淡々と、あるものは感慨深そうに、あるものはこぶしを握り、市長の言葉を胸に刻んだ。




 そんな中、ルイスの顔がこちらを向いていることに龍二は気づいた。ルイスの申し訳なさを滲ませた顔に、気にすることはないと微笑んで、龍二は出発の時を待つ。

 ふとずらした視界に、窓からこちらを見下ろすアリスの姿があった。今にも泣きだしそうな少女を見て、死ぬわけにはいかないと決意を新たにする。

気付けば準備はすべてが終わったようだ。バンゴが地に響き渡る大音声で号令をかけた。




「それでは、出動!」




 馬の飛び乗った騎士たちが一斉にその腹を踵で叩いた。

 蹄が石畳をたたく音が、町中に響き渡る。住民はすべて家屋の中に避難しており、いつもは活気あふれるアルビオンは静寂の都市と化していた。代わりに町にあふれているのは不安と恐怖だ。これを一刻も早くもとの状態に戻そうと、騎士たちは決意を固める。

 そんな中、一頭だけ二つの人影を乗せた馬がある。




「リュージ、あまり服を引っ張らないでくれないか、伸びると困る」

「……すまん」




 城戸龍二、二十五歳、乗馬経験はなかった。





※   ※   ※   ※








 アルビオンの城にも一応玉座の間のようなものはある、しかし市長であるルイスが仕事人間であること、そもそも王という身分のものはこの都市にいないことも含めて、ほかの都市からの使者などが来たときにしか用いられない。




 その部屋のバルコニーから、ルイスは地平線に消える騎士団を眺めていた。騎士団だって大事な都市民だ。無事を祈らないわけがない。

 それに今回は友人までそこにいる。まだ彼に恩を返しきれていない。生きて帰ってもらわねば困る、ルイスは騎士団が消えた地平線を眺め続けていた。

 そのこともあって彼は後ろに立つ気配に気づかなかった。




「随分熱心だな」

「――バンゴか、何のようだ」

「そう邪険にするな、なに奴なら大丈夫さ、何て言ったって勇者様だからな」

「その言い方は止せ、彼は一人の人間だ。それ以上でも以下でもない」

「……随分な変わりようだ、まるでキャロルが生きていたころのお前のようだな」

「的外れな後悔をしてるうちにまた新しい何かを失ったら、もっと愚かだって気づけたのさ」

「……正直な、俺は貴様が羨ましいよ」

「バンゴ?」

「なあルイス、あのころは楽しかったな、人生で一番楽しかった」




 ルイスは驚いた。

 長い付き合いだがバンゴという人物は、感傷に浸ることが何よりも嫌いな男だ。そんなことは無駄だとしか考えない、さすがに気になったルイスはバンゴの顔を見ようと振り返――ることはできなかった。

 首筋にぴったりと添えられた白刃が、ルイスからすべての動きを奪ったからだ。




「……これは、何の冗談だ」

「冗談でこんなことするほど、狂ってはいないつもりだ……腐ってはいるかもしれんがな」




 激情的なバンゴが出しているとは思えないほどの冷たく冷静な声、まるで今まで接してきた彼とは全くの別人のような雰囲気を漂わせ、首筋に添えた刀身は静かに輝いていた。




「もう、賽は投げられたのだ」




 その声だけは、どうしたって悲しそうだった。


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