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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
開拓都市アルビオン
14/165

アルビオンの13

2017/11/15

 加筆修正バージョンを投稿します。

 十本の剣が、その先を突き合わせ円を作っているマーク。それがかつてこの世界を統べていた国の旗だ。

 この世界にはかつて『帝国』と呼ばれる強大な一国によって世界中が支配下に置かれた時代があった。

 徹底した成果主義による身分社会、富むものはさらに富み、貧しいものはチャンスを掴むことすら容易でない、そんな時代。




 しかし民は諦めなかった。

 数百年に及ぶ長い圧政の下、民は少しずつ少しずつ力を蓄え、その何倍もの不満を溜めこんでいった。

 それが爆発したのは、『帝国』による女神教の弾圧運動が始まったからだ。

 人間の平等を教えの主軸とする女神教は、『帝国』にとってあまりにも都合が悪かったせいであると考えられている。




 しかしそれはあまりにも浅慮だった。

 世界最大の信者数を誇る女神教への弾圧は命がけの反抗という形で持ってして『帝国』に襲いかかり――百年近く続く大戦争の幕が上がった。

 海ができる程血が流れた。

 山ができる程悲しみが積もった。

 長い百年が過ぎ、死屍累々を築き上げた戦いの末、ついに帝国は討ち滅ぼされる。




 生き残った人々は、一強の形がもたらす結果に深く反省をし、全体の王を決めることなく、各地に建てられた都市国家という形で力を分散させ、極力関わりを減らし、その上で互いを監視することにした。

 すべての都市は上下なく平等、なればそこに生きる人々も平等に権利を持っている。それが新時代の軸となる思想だった。

 自由都市連盟結成の時、これより時代は連盟歴に入る。




 ……という内容を二週間のうちの半分をつぎ込んで覚えさせられた。

 歴史は相当力を入れて教えられた。アロマが歴史好きということもあったが、何よりもの理由は――。




「はい、五百円です」

「わーい! 今日はイチゴ味ね!」




 通貨は円、物価は大まかには同じくらい、一日二十四時間、一年は十二か月、季節は四つ、人を傷つければ騎士団に捕まり、リンゴを離せば地面に落ちる。

 ――つまり何が言いたいかというと、あまりにも龍二の知っている常識とこの世界の常識は似通っていた。過ぎるくらいといってもいい。

 唯一にして大きな違いは魔法の発展のせいで機械技術が大幅に遅れているくらいだ。

 それでも生活に苦労しないくらいのことは魔法で代わりが利く。




「あ、ちょっと待ってね!いち、に、さん、し、ハイ銅貨五枚」

「はいちょうどね、ありがとう」




 ただ硬貨しかないので、そこを覚えるのにしばらく苦労をした。今だに百円の単位で銅色が財布から出てくることに違和感を覚えてしまう龍二だった。




「はいリュージのぶん」

「おう、ありがとう」




 アルビオンに伝わってきたアイスは今爆発的な人気を誇る商品となって一大ブームを起こしている。物を冷やす魔法が得意な人間が次々と起業している。

 ――と、アリスのスカートを後ろから引っ張られる、アリスが振り返ると腰までしかないような男の子と女の子が居た。




「リビー、ハリー、遊びたいの?」




 二人が大きく頷く。

 アリスがちらりと見上げてきたので、行って来いとばかりに、龍二は小さく頷いた。

 アリスは妹のリビーを抱きかかえると、公園の芝の上へと向かった。

 小型の屋台から、恰幅のいい女性が出てくる。アリスが気に入っているアイス屋の店主だ。




「アリスちゃんのおかげで少し休憩できるわ」

「どうだ調子は?」

「すこぶるいい調子よ!少し太っちゃうくらいね」

「そりゃ良かった」




 ローナはこの都市の中でも古株で、女手一つで子供を育てているパワフルな女性だ。それこそアルビオンがまだ都市の体をなしていない時からの住人で、この都市の発展を見てきた生き字引と言っても過言ではない――と言っているのは本人だが。

 とはいえかなり古くからの住人なのは確かで、さっぱりとした性格をしているのでアリスとも仲がいい。

 龍二は遊んでいる子供たちを眺めて、小声で話しかける。




「ところで、相談があるんだが」

「なんだい改まって」

「あと二週間でアリスの誕生日なんだ」

「あらそうなのかい!」

「ああ、アリスは賑やかにやりたいらしいんだが、あいにく城の人間は少ない」

「そうねえ」

「それでな、考えたんだ、都市のみんな呼べばいいんじゃないかってな」




 龍二の考えた方法はこれだった。町の人間も参加できる立食パーティ、できれば参加者が一品ずつ持ってくる持ち寄り形式でできたら面白いのではないかと思っている。



 こんな方法は他の都市ならば難しいだろう。

 だが他の都市に比べて――とはいっても龍二は直接見たわけではないが――小さく、住人も少ないアルビオンならばできるのではないかというのが、龍二の見立てだった。



 もちろん事前に参加者の募集や名簿作りは必要だろうし、それを考えると二週間は少し短いかもしれない。

 そこまでで店主がにやりと笑った。




「リューさん、あんた面白いこと考えるねぇ!」

「だろ、それであんたから都市のみんなに広めといてほしいんだ」

「わかった!任せときな」

「頼んだ、城のほうでの交渉は俺とアロマが何とかする」



 とりあえず最初の段階はうまくいった。

 城に行くことに遠慮してしまう人間もいるかもしれないので、そこを勢いで押し切れそうな押しの強い人間に仕切り役をやってほしかったのだ。 



「ところでリューさん、その、ルイス様は来るのかねぇ」




 珍しく歯切れ悪くしゃべるローナを見て、龍二は彼女が心配していることに気づいた。




「市長とアリスの仲ってのは、有名なのか?」

「有名ってほどじゃないけど、あまり一緒にいるところを見たことがないってくらいはね」




 芝生の上で子供たちにのしかかられて、アリスは笑い転げている。いつの間に集まってきたのか子供の数は増えていた。

 子どもはなんの遠慮もせずにアリスに飛びかかって行く、それを受けるアリスは生き生きとしているように思える。




「ルイス様にはいろいろ感謝してるけど、あんなにいい子なんだからね、誕生日くらい祝ってやればいいのさ」

「……ああ、そうだな」




 アリスはやっぱり愛されてる。それはルイスの娘だからではなく。

 おそらく直接本人に言うことはないだろうが、いつか自分で気づいてくれる日が来ればいいと切に願う。




※   ※   ※   ※





 騎士団の訓練場、今日も若い騎士たちが都市を守るために誇りを持って心身を鍛えている。

 響くのは練習用の剣が打ちあわせられる音、しかしその中の一部にはその音がない。理由は単純片方が武器を持っていないからだ。




「随分突拍子もないことを考えるのだね」




 呆れ半分感心半分、武器を持っている方の男――ケビン――は躊躇なく相手の首を狙う。




「そうか、良い案だと思うんだがな、無理なら他の方法を探る」




 それを難なくかわす武器を持っていない方――龍二――はお返しとばかりに爪先で顎を蹴り上げるも、紙一重でかわされる。

 アリスを部屋に帰したあと、訓練場にいるケビンに計画の実現性を問おうと思っただけなのだが、いつの間にか摸擬戦が始まっていたのだ。

 といってもこれが初めてではない、どうやらアルビオンの騎士団にケビンが手合わせできる人材がいないらしく、ようやく見つけた練習相手と言うこともあり、怪我が治ったときから頻繁に誘われるようになった。

 もちろん魔法抜きの接近戦に限定されたものだが。




「いや無理とは言ってない、少し時間が厳しいがなんとかはなるだろうが――」

「どうしたんだ、なにかあるのか?」

「……団長は考え方が古いところがある、城に市民を入れるのを許可しないかもしれない」

「バンゴか」




 二週間前から、もはや顔を合わせてもこちらに何の反応も返さなくなった男の顔を思い浮かべる。

 無視ならばいいのだが会うたびに舌打ちするのは止めてほしい。




「ああ、君に負けてから私とも口を利かなくなってしまわれてね、説得に骨が折れるかもしれない」

「……なんか悪いな」

「謝ることじゃない、全て私の未熟さゆえだ」




 そうは言ってもその結果仕事に支障が出たりすれば、さすがに責任を感じてしまう。

 それにそのせいで今回の誕生日会が失敗すれば悔やんでも悔やみきれない。




「まぁ心配することはないよ、他でもない君の頼みだ、何とかしよう」

「そうか、頼む」

「それに子どもの幸せくらい守らねば、騎士とは言えないからね」

「そうだ、なっ!」




 二人は同時に後ろに飛び距離を取った。

 ちなみにここまでずっと二人は体を動かしながら会話している。

 当人たちは軽く流しているだけのつもりだが――。

 だれ一人として敵わない副団長と素手で互角に渡り合う龍二の株は、本人の預かり知らぬところで上がっていた。騎士団のなかではすでに有名人だ。




「しかし俺が相手でいいのか、魔法使えねえだろ」

「いいんだ、魔法に頼りきりになっていざというときに腕が鈍っていては笑えない」

「そんなもんか」

「それに君の動きは無駄が多いようで隙がない、実戦にむいてる動きだ、練習相手にもってこいさ、どうだい、たまにはほかの団員とも」

「遠慮しとく、そろそろ帰る」




 訓練場のあちこちで胸をなでおろす団員達、普段の組み手を見ている彼らの中に、龍二を侮っているものなどだれ一人いなかった。

 去っていく龍二の背に、ケビンが思い出したように、




「そういえばリュージ、あの赤いもやについては何か分かったのかい」

「……またその話か、何度も言うが俺はそんなものは使えないぞ」

「いや、しかしあの時確かに――」

「言われたって分からないものは分からない――じゃあな」




 赤いもや、ケビンが言うには気を失ったはずの龍二は体にそれを纏っていたそうだ。

 だが当然龍二には何の心当たりもない、体から流れる血を見てケビンが勘違いしたのだと思っている。

 無意識に動いたのも、ありえない力が出せたのもはきっと火事場の馬鹿力ってやつだ。そう決めつけていた。

 何故なら自分はただの人間だからだ。いくら腕っぷしが強かろうと実際はそれだけ、魔法だって使えないのだ、そんな特殊な力があるとは思えない。

 とりあえず今は城に帰ってアロマと打ち合わせを進めねばならない。残り少ない時間を有効に使わねばならないのだ。






※   ※   ※   ※







 城の一室、窓から見える都市の明かりはまばらで、それでも一つ一つの明かりを見ているとそこに生きる人々の命が見える。都市そのものが生きるために必死になっているようでさえある。

 最も、この部屋の住人はそんな感傷とはひたすらに無縁だった。目に映る全てを見下していることを隠そうともしない、くらい瞳。

 突然、扉がノックされる。無言のままいると、失礼しますとの言葉の後に扉が開く。

 誰かは見なくともわかる




「団長、ケビンです。お話があってきました」

「要件はアリス様の誕生パーティのことでいいな」




 背後でケビンが息をのむのがわかった。バンゴは振り向くことなく背中で続きを促した。

 ケビンもそれが分かっているのか、いちいち確認はとらずに続きを口にする。




「はい、もうお聞きになっていたのですね、それで許可は頂けますでしょうか」

「……そうだな、一年に一度の大切なお祝いだ。アリス様が幸せに過ごすためならば多少のことは仕方あるまい、お前に任せるから好きにするといい」

「…………」

「どうした?」

「いえ、なんでもありません、それでは失礼します」



 この都市に来た時から嘘が下手なのは一向に治らない奴だ。

 ケビンがバンゴの言動に違和感を覚えているのは一目瞭然だった。

 確かにいつものこの男ならば絶対に口から出ないはずの言葉のオンパレードだ。

 扉が閉まる音がする。再び部屋は静寂に包まれた。

 バンゴは意識してというよりも、自然と漏れてしまったように呟いた。



「……十五年、か」



 バンゴは街並みから目を切ると、自分の机の、一番上の引き出しを開けた。その中身を見る彼の眼は、さっきまでとは打って変わって穏やかだ。

 懐かしさ、愛おしさ、それは人間らしい温かみに溢れた視線。

 この視線の百分の一でも普段から見せていれば、周りの評価も変わるだろう。

 

 ――でも、その目にはどこか隠し切れない寂しさがあった。

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