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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
開拓都市アルビオン
12/165

アルビオンの11

2017/11/15

 加筆修正バージョンを投稿します。

「う、あ……」




 窓から差し込む西日で目が覚めた。

 意識の覚醒と共に体のあちこちが少し痛んだ。

 しかし同時にあれだけの攻撃を受けたにしてはダメージが少ないようにも思う。

 龍二はゆっくりと体を起こした。

 ――見たこともない部屋だが、おそらく城の中だ。

 いくつかの小さな棚と、その上に置かれている包帯や、液体の入った瓶がいくつか……おそらく医務室ではないかと龍二は考えた。




「目が覚めたかね」



 

 その言葉に顔を向ければ、ベッドの横に見知らぬ男がいた。

 しかし聞き覚えのある声ではある。金色の髪、緑色の瞳、分かりやすいくらい特徴が似ている。

 おそらく、というよりも間違いなく――




「何で私がいるのか聞きたそうな顔だな」




 ルイスはメガネの位置を直しながら淡々とした調子で続ける。




「説明をする前に、どこまで覚えている?」

「……正直、何も」

「そうかね、ならば結論から言おう、君の勝利だ」




 龍二は釈然をしない表情を浮かべる。

 攻撃を受けて気を失いかけたところまでで記憶が途切れている、はっきり言ってあそこから逆転する方法など考え着かないのだが――自分はいったいどのようにして勝ったのか。

 困惑する龍二を無視して、ルイスは説明をつづける。




「双方酷い怪我だったので教会に運んだが、ケビンが一刻を争う状態だったのでね、治癒魔法を使えるシスターや神父が全員そちらに回ってしまったのだ……必要最低限のことしかできていないから、寝ていたまえ」

「……怪我して教会? ――ああいや、それよりもケビンはそんなにひどい怪我なのか?」

「ああ、命に別状はないが、もし治癒魔法が使える人間があと三人少なかったら当分立てなくなっていただろうね」




 いったい自分は何をしてしまったのか、本格的に不安になってきた。

 それが顔に出ていたのだろう、ルイスは不安そうな顔をする龍二に、呆れたようにため息をついた。




「気にすることはない、もしそうだったらの話だと言っただろう? 三日もすれば立てるようになるそうだ」

「そう、ですか……」




 一刻を争うような怪我なのに三日で治るという事実に龍二は驚いた。

 それでも無事に治ってくれるのなら越したことはないと、龍二は素直に胸をなでおろす。

 双方合意で戦ったとはいえ、一生残るような傷を残してしまっては後味が悪すぎるからだ。




「結局君は城に仕えている者たちに治療させた。治癒魔法は向き不向きが分かりやすい魔法だ、最善とは言えないが、後遺症が残らない程度には手を尽くしたとのことだ」




 龍二は体を見下ろす、もうすでに動ける程度の痛みしか残っていない、これで専門じゃないというのだから、異世界の医療事情はとんでもない。

 こんなことが全員出来るのならば医者などすぐに廃業になってしまうだろう。




「私がここにいるのは君への事情説明のためだ、君は勝った。気が済むまでここにいるといい、ではな」

「待ってくれ」




 仕事は終わった、帰ろうとするルイスを龍二は引き留める。

 ここまできて逃がす気は毛頭ない。どうしても確認しなければならないことがある。

 龍二は立ち止まって振り返ったルイスをまっすぐに見据えて口を開いた。




「聞きたいことが二つある」

「……いいだろう、怪我をさせてしまった謝罪に変わるならば、ある程度のことは答えよう」

「じゃあまず一つ、単刀直入に聞く、お前ら何を知ってる」




 それまで一応使っていた敬語をかなぐり捨てて、龍二は詰問する。

 ここにきて、何もかもわからずに振り回されるように過ごしたが、ようやく何かが分かるかもしれないのだ――もしかすると、元の世界に帰る方法だって……。

 口調が強くなるのは仕方がない。

 しかしルイスは瞼を落として、一言だけ言った。

 




「何のことかね」 

「とぼけるな、女神のお告げってのは何の事だ」




 その単語を聞いた途端ルイスが押し黙る。

 やはり重要な単語だったのだ。バンゴが執務室で激怒するさなか口走っていたことを龍二は覚えていた。

 そして――




「お前もアロマも、その言葉に不思議そうな顔はしてなかった。その知ってる何かは、お前ら全員が知ってるってことだろ? 教えてくれ、俺の身に何が起きてるのか、知ってるのか?」

「……何の事を言っているのか分からないな」




 龍二は深いため息をつく、何か知っているのは確実だがおそらく何も言わないだろうことは分かっていた。

 この話はおいおい詰めて言ったほうがいいかもしれない――ノーヒントだった今までとは違う。探る場所がはっきりしているのならば、まだ楽なほうだ。

 それよりも、そんなことよりも言いたいことがあるのだから――。




 「じゃあ二つ目だ――何でアリスを庇ってやらなかった?」




 これは予想外の質問だったのか、ルイスは露骨に眉をひそめた。

 龍二は、なんなら先ほどよりも鋭い目つきでルイスを睨んだ。




「俺って存在が扱い辛いのはわかる、だがそれとこれとは別だろうが、自分の娘が怒鳴り散らされて泣いてんだぞ、一声くらいかけてやれよ」




 あの執務室の一幕、龍二が一番文句を言いたいのはそこにある。

 あの空間で最もアリスを助けてやらなければならないはずのルイスが始終黙りっぱなしだった。その一点だ。

 黙って聞いていたルイスが、この部屋にきて初めて表情を変える。あからさまな苛立ちを浮かべたのだ。




「私個人は君に対して何の感情もなかった。今の今までな――だがはっきり言わせてもらおう、余計な世話で不愉快だ」




 失礼する、龍二に背を向けたルイスは足早に部屋から出ていった。その背中に龍二は内心意外に感じていた。

 あそこまで感情をあらわにするタイプには見えなかったからだ。自分の娘にはさすがに思うところがあるのかもしれない。

 その感情などちらに向いている物かは分からないが、できればアリスが傷つかない方だといいと、龍二は思うばかりだ。

 寝転がって、頭の後ろで手を組む。

 そうして天井を見上げていると、ドアの開く音が聞こえて、小さな影が部屋の中へ入り込んできた。




「――リュージ」

「ん? アリスか、どうした?」

「……」

「アリス?」




 悲しげな顔をしてベッドの端に座るアリス、龍二は何かしてしまただろうかと心配になった。

 アリスは棚の上に置いてあった包帯を手に取ると、それを手慰みに転がしながら、ゆっくりと口を開いた。




「あのね、リュージは、パパのことが嫌い? ひどい人だって思う」



 その一言で、龍二は何かもを察した。

 龍二は気まずそうに目を逸らす。




「……聞いてたのか」

「ごめんなさい……」

「いや、いいんだ。俺こそ、嫌な思いさせらなら悪かったな」

「……リュージ、この都市はね、パパとママと、あとアロマとバンゴとで一緒に始めたの」



 

 アリスは龍二に謝罪には応えずに、考えながら、少しずつ話を進める。

 ということはあの時執務室にいたメンバーが現在生きている都市の創設者と言うことだろうか、それにしてはあまり仲が良くなかったようにだが。




「あの三人仲良くなさそうに見えるでしょ」

「……なにか口に出してたか?」

「顔に出てるわ、リュージってとっても顔に出やすいから気をつけたほうがいいと思うわ」

「……初めて言われたぞ?」

「周りの人が気を使ってたんじゃない?」



 ぐうの音も出ない龍二が黙り込んでいると、アリスは言いすぎたと思ったらしい、苦笑しながら話を元に戻す。




「確かに昔ほど仲良くないらしいけど、でも根っこではお互いを大事に思ってるのよ、バンゴだって――」




 何かを言いかけて口をふさいでいる。

 目を泳がせているところを見るとよっぽど言えないことなのだろう。

 リュージは話を進めてやることにした。




「それで、どうしたんだ」

「――だから、パパはバンゴとアロマには強く言えないの、お互いに若いころから知ってるから、どうしても甘くなっちゃうの」

「……」

「だから、パパが私を庇ってないってわけじゃ――」

「分かったアリス、俺が悪かった。お前のパパを誤解してた」




 上手く伝えられずに困っているアリスを見て、龍二は反省した。どんな理由があろうと親が悪く言われるのは受けれ入れられないものだ。

 言ったことが間違っているとは思わないが、注意を払うべきだった。

 用はそれだけかと思いきや、アリスはまだ浮かない顔でベッドの横から動かない。



「アリス?まだ何か――」




 龍二は気づいた。

 掛け布団の裾をつかむアリスの手が震えている。

 その胸中を占めるのは、不安か、恐怖か。




「私、魔法が使えない人間なんて初めて見た」

「……ああ、そうか」

「なのにケビンに勝っちゃうなんて、ねえリュージ、リュージはどこから来たの」




 こっちが本題だったのだろう。

 不安、仲良くなったばかりの相手が、あまりにも自分の常識からかけ離れていることに対するだ。

 龍二もできることならその不安を解消してあげたい。

 しかし――




「リュージは、なんなの?」




 この質問になんと答えるべきなのか、その答えが見えてこない。

 誤魔化すべきか、腹を割るべきなのか。その判断をつけかねている。

 据え置きの柱時計が、ボーンと鳴って夜中の十二時を報せる。窓から見える月明りがアリスの不安に染まった瞳を輝かせた。

 いっそ寝たらすべて夢になればいいのに、龍二は今更ながらそんなことを思いながら、天を仰いだ。

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