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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
番外編 裁縫都市パッチワーク
100/165

パッチワークの8

「リュージさん!前から来てます!」

「くそっ!右に曲がるぞ!」

「ダメよ!そこ曲がったらさっきの道に戻っちゃうから!」

「だったら、左だ!」

「そっちは十分前に走ってた道に行っちゃうってば!道くらい覚えなさいよ!!」

「お前叫ぶ元気があるなら降ろすぞ!」

「そんなことしてみなさい五秒数えてる間に捕まってやるから!」

「威張ってんじゃねえ馬鹿!普段から運動しろ!」



 背負われているくせに言いたい放題のラフィに、リュージは猛烈に舌打ちをしたい気持ちに駆られる。

 全方向から迫ってくる群衆に、そんなことをする余裕さえ奪われる。闘争開始から数十分、目的地に近づくどころか追手が増える一方だ。

 突破口を探して視線を動かすと、斥候を引き受けていたイナセが猛スピードで戻ってくるのが見える。壁を走って――。



「旦那!こりゃ無理だぜ!どの道も塞がれてる!」

「忍者かお前は」

「え?」

「ああいやすまん何でもない、とりあえず歩いていくのは無理ってことだな」

「そう思った方がよさそうだぜ」

「そ、そんな!?じゃあどうやって行くんですか!」

「話は最後まで聞け、アタシがどうやって帰ってきたと思ってんだ」

「なるほど、平面が無理なら立体的に動けってことね」



 リュージはその言葉に頷くと、無言でヴィートを脇に抱えた。



「イナセ、自分の足で行けるか?」

「誰に言ってんだ、むしろ着いてこれるか心配しろよな」

「上等だ――ラフィ」

「ばっちりしがみついてるから大丈夫!」

「あ、あのう、僕なんで抱えられてるのでしょうか……?」



 何が起きているのか理解が追い付かないながら、なんとなく嫌な予感を覚えたヴィートが恐る恐るリュージに尋ねる。

 リュージは、それには答えず短く忠告した。



「舌噛むなよ」



 ヴィートからの返事を待たず、リュージはその身に銀色の輝きを纏うと、空高く飛び上がった。



「ほわあああああああああああああああああああああああ!!」



 哀れな飛行者たちは、そのままきれいな流線型を描き、離れたところにあった民家の屋根に向かう。

 この勢いでは確実に屋根を破って落ちてしまうだろう。

 恐慌状態に陥りながらも、ヴィートは何とか腰の剣を引き抜き、存在しない切っ先を着地点に向けた。



温柔敦煌(しろいろ)おぁあああ!!」



 間一髪、ヴィートの魔法によって生み出されたクッションが三人を受け止めた。

 リュージはもそもそと起き上がりながら、ぽつりと呟く。



「……ちょっと加減間違えたな」

「絶対ちょっとじゃなーい!!」

「まぁ生きてたんだから文句言わないのよ」



 屋根の上で騒ぐ三人のもとへ、屋根から屋根へと飛び移りながらイナセが向かってきた。



「おい、生きてんのかよ」

「何とかね……」

「旦那、もう少し加減できねぇの?ヴィートが酷い顔してるぜ?」

「咄嗟だったからな、次はちゃんと走る」

「期待しないで背負われることにするわ」

「いやならいつでも降ろしてやるからな?」



 ついと顔を逸らすラフィに軽く嘆息しながら、リュージは路上を見下ろす。

 眼下に群がる住民たちは、なんとかして屋根の上にあがろうとしているが、幸いにも辿りつくまでには時間がかかりそうだった。

 つまりこのまま一か所に留まらず走り続ければ、問題なく進めるということでもある。そう判断したリュージは三人に語りかける。



「このまま屋根伝いでにフランソワのとこまで行こう」

「それが一番いいみたいですね……ゆっくり走ってくださいね、ホントにゆっくりですよ!?」

「……努力はする」

「うわあ絶対ダメなやつだこれー!」



 信じるには弱すぎるリュージの言葉にヴィートは頭を抱えた。

 しかし屋根伝いに進むにつけ、当然ながら人間の脚力では無理がある距離を飛ばねばならないことはあるだろう。その都度いちいちリュージに抱えてもらうくらいなら最初から抱えられていて方が手間も少ない。

 頭では理解している故に、ヴィートはその提案を受け入れるしかなかった。

 あとは日ごろ馬車の中でも能力の制御訓練を怠ってないリュージの努力を信じるばかりである。



「とはいえ怖いものは怖いよ……」

「もういじけてないで覚悟決めなさいよ、だらしない」

「むしろあなたは何でそんなに平気そうなんですか」

「自分の日ごろの行いには自信があるもの、絶対大丈夫よ」

「……不安だなぁ」

「あら生意気、置いて行っちゃおうかしら」

「おい遊んでる時間はねえぞ、下見ろ、どんどん増えてる。さっさと行かねえと――」



「その必要は、無いわよぉ」



 突然聞こえた声に、四人が動き出すよりも早く『ソレ』は降ってきた。

 『ソレ』の正体を探っている時間はない、相当スピードで飛来するそれを躱すべく、リュージは迷わず屋根から飛び降りた。

 一瞬遅れて破砕音が響き、屋根だったものの破片が降り注ぐ。



「ラフィ!ちょっと揺れるぞ!」

「今さらよ!」



 リュージは背中に背負っていたラフィを無理矢理前に持ってくると、横抱きに抱きなおした。

 がら空きになった背中を細かく鋭い破片が襲う――。



素手喧嘩魂(ステゴロソウル)!」



 直前にリュージは能力を発動する。

 銀色に輝くその身は鋼以上の硬度でもって降り注ぐ破片をはね退けた。

 地面に着地したリュージは抱えているラフィに呼びかける。



「おい!どこも怪我してねえか!」

「…………」

「おい?返事くらいしろよ」

「リュージさんったら、急にお姫様抱っこなんてなかなかやるわね、うっかりときめくところだったわ」

「ヴィート!イナセ!どこに……おいやめろ髪引っ張んな」

「無視とはいい度胸ね」



 ラフィの戯言を無視して地面におろすと、砂煙の中姿の見えない二人に呼びかける。



「リュージさん!」

「二人とも無事だぜ!」



 声は思ったよりも近くから聞こえた。

 数メートル後ろから聞こえる二人の返答に、リュージは安堵して胸をなでおろす。

 リュージはそっちに向かって歩き出そうとして――。



「っ!?イナセちゃん危ない!!」

「え?うわっ!」

「うわああああああああああ!?」



 聞こえてきたのはヴィートの悲鳴、そして同時に砂煙の中から突然姿を現したイナセ。

 リュージはイナセを受け止めながら叫んだ。



「おいヴィートどうした!?」



 返事はない、急激に不安が嵩を増していく。

 急いで駆けだそうとするリュージをラフィが手で制する。



「おい!邪魔すんな、早く行かねえと――」

「落ち着いてよ、おかしいと思わない?」

「おかしいって、何の話だ」

「砂煙にしては濃すぎる。多分何か撒かれてるわ、もうだいぶ吸ったのに平気ってことは、ただの目くらましね。だったら――」



 ラフィが右手を天に掲げる。

 ただそれだけで、空気がざわつき始めた。

 ただのざわめきだったそれは、徐々に激しさを増し、気付いた時にはあたり一面に吹き荒ぶ風となっていく。

 思わず顔を覆ってしまうほどの風があたりの煙を晴らしていく。

 数秒も待たず、通りは元の姿を取り戻した。

 否、元の姿というには、広がっている光景は異様だった。

 通りにびっしりといた追手たちは、一列になって道の端に整列している。



 道の両端を彩られたその道の先にいるのは、人形、そう人形だった。

 リュージの乏しい知識でもわかるほどの、典型的なフランス人形。違うのは一つ、人間と同じサイズだということだ。

 造形は素人目に見ても完璧で、美しさを追求した職人が生涯最期に作ったもの、とでも言われれば納得できるかもしれない。

 しかし、それ故に不気味だった。整いすぎた美しさはもはや美貌ではなく異貌と表現できるレベルで、明らかにこの世に存在してはいけないものであると、一目で判断できる



 だが、だがリュージたちの目を奪ったのはそれだけではない。むしろそれはおまけと言っても良かった。

 その人形の隣にヴィートが立っていた。

 虚ろな瞳で立っていた。

 明らかに正気を失っている様子で立っていた。

 その他大勢と同じように、フリルたっぷりのドレスを着て立っていた。



「…………ぷっ」



 ポカンと口を開けていたリュージの横で、小さく吹き出す音が聞こえた。



「あっはははははははははは!!ヴィート、ちょっと、それ!体張りすぎでしょ……あはははははははははははは!い、息!息できないってばぁ!!あははははははははは!!」



 タガが外れたように笑うラフィは、笑い過ぎて力が抜けてしまったのか、地面に転がって腹を抱えていた。



「お前なぁ、すこしは緊張感ってもんを――」



 空気を読ますに爆笑するラフィに、ほんの少しつられてリュージの気が緩む。が、それはこの瞬間においては決定的な隙だった。

 虹色の光がリュージの視界に入り込む、一直線に伸びる光線はリュージの真横を通り過ぎると笑い転げているラフィに直撃した。



「きゃあああああああああ!?」

「ラフィ!?」

「何やってんだよ旦那!」



 イナセがリュージ達のうかつさを叱責するがもう遅い。

 虹色の光線を浴びたラフィに徐々に変化が訪れた。

 ポンっ!というどうやって出しているのか分からないほどメルヘンな音がリュージとイナセの耳に入る。

 瞬く間にラフィの着ている服がその他大勢の服と同じようなロリィタファッションへと早変わりした。



「……は?」



 リュージの口から気の抜けた声が漏れる。イナセもまたぽかんと口をあけることしかできなかった。

 原理不明の早着替えを終えたラフィはのそりと立ち上がると、覚束ない足取りで人形の方へと歩きだした。

 そこに至ってようやく正気に戻ったイナセが慌ててその腕を引っ張る。



「あ、姐さん!どこ行くんだよ!」



 返答は、腕を振り払うという行動で行われた。

 一切の配慮なく払いのけられたイナセは、バランスを崩して地面に転がった。

 慌てて駆け寄ったリュージがイナセを起こす。



「おい、平気か」

「いてて、くそ何すんだよ!姐さん……おいヴィート!お前まで何やってんだよ!返事くらいしろ!」



 ヴィートはただただ虚ろな瞳のままリュージ達に顔を向けている。

 だが向けているだけだ、その瞳には明らかにリュージ達が映っていなかった。

 普段の穏やかなヴィートからは想像もつかない無表情に、思わずイナセも怯んだ。

 代わりに前に出たリュージは、ヴィートの横に立つ人形を睨みながら言う。



「おい、この都市の異変は全部お前がやったってことでいいのか」

『……ええそうよぉ』

「なんでこんなことした、フランソワ」

『あら、なんでばれたのかしらん』



 いきなり正体を言い当てられても、フランソワは慌てた素ぶりもなかった。

 できれば当たって欲しくなかった推測が当たったことに、リュージは気落ちするのを抑えられなかった。



「……ジャンクスピリットについては、他の都市から連絡が来てるはずだろうが、なんで使った!」

『ああ、やっぱりあれがそうだったのねぇん』



 その返答は事実上の肯定だ。リュージは顔を険しくして拳を握り直す。

 それは戦闘の準備でもあったし、自らのなかに生まれた感情を抑えつけるためでもあった。

 そんなリュージの様子に気づかないままフランソワは会話を続ける。



『なんで使ったのか……正直最初は分からなかったわぁ、でも今なら分かる。あれはワテクシの信じる美しさを世界に広めろって言うメッセージだったのよ!!』



 感極まったように、フランソワは、人形悪魔は隣に立つヴィートに後ろから絡みついた。



『見て!見てちょうだい!皆がワテクシの作った服を着てる!だれ一人ワテクシの服を馬鹿にしない!やっと真の美しさに気づいたのよ!!ワテクシは皆を正しい道に導けたのだわ!』

「正しい道だと」

『ええそうよぉ、この都市の人間ったら美しさってものを知らない、どころか知ろうともしない!生まれてきたのに美しくなる努力もしないなんてぇ、許されない許されない許されないわぁー!!』



 気分が高揚したのかガタガタと震えだす人形悪魔。しかしその表情は決して動くことがない。

 完成された造形を崩すことがないように、表情そのものをなくしてしまったかのように。



『だから、だぁから、ワテクシが導いてあげなきゃいけないのよん、ワテクシが、彼らを美しさに続く道へと導いて、生きることの喜びを教えてあげなきゃ――』

「くだらねえ」



 興奮する人形悪魔を前に、リュージは堂々と吐き捨てた。

 饒舌だった悪魔の口が止まる。

 完全なる無言、にも拘らず喋っていた時よりもはっきりとした感情を感じる。

 確固たる怒りを――。



『なにが、下らないですってぇ?』

「全部だよ、お前の言ってること、全部まとめてくだらねえ」

『……貴方も、ワテクシの美を馬鹿にするのかしらん?』

「確かに、俺はお前の作ってる服の良さはわからねえ、この都市の奴らもそうだったみたいだな」



 昨日宿屋の主人が放っていた、純然たる敵意をリュージは思い出す。

 そしてそれが、パッチワークの多数が抱いている感情だということを。

 だが、だがそれでも――



「それでも俺はお前のことを尊敬した」

『……』

「誰に何言われようと、自分の道を進み続けるお前は凄い奴なんだと心から思った――でも今のお前はそうじゃねえ、理解されねえからって諦めて、力づくで言うこと聞かせりゃ満足か?」



 リュージは鋭い眼光を人形悪魔に向ける。その奥にいる人間に、届くように――。



「今のお前は美しさを広めてるんでも、皆を導いてるんでもねえ、今のお前がやってんのは、今までお前の服を好きになった奴と、これからお前の服を好きになる奴、両方を馬鹿にしてるだけだ!」

「旦那……」



 昨日イナセはあの服を気に入ったと言った。

 恥ずかしがりのこの少女が、やっとの思いで素直な感情を口にしたのだ。それを踏みにじられて、黙っていられるはずがない。黙っていていいはずがない。

 イナセもまた、人形悪魔をキッと睨みつける。自分の気持ちを、自分だけの気持ちを守るために。

 リュージはまた一歩前に出ると、握った拳を突き出した。



「それでもお前が、全部踏みにじっていくって言うなら――先に俺を倒してからにしろ!」



 人形悪魔は黙りこくったままだった。

 そうして黙っていると本物の人形と見紛うほどだ。しかし、それが感情を持った存在であることは、徐々に震える肩が雄弁に語っている。

 震源となっている感情は、怒り。



『ふ、ふふふふ、言ってくれるじゃない、いいわぁ貴方は念入りにおしゃれさせてあげる、二度とそんなことが言えないくらいにねぇ!!』

「やれるもんならやってみろ、お前みたいな根性無しに素直にやられてやるほど、俺は柔じゃねえぞ」

「アタシもな!」



 右腕を上げて光線の照準をリュージに合わせる人形悪魔。

 リュージは両手を上げて構える。イナセもまた脇差を逆手に身を低くしていた。

いつでもかわせるように意識を集中させる。

 あれだけの人数をどうやって着換えさせたのか思議だったが、種が割れればどうということはない。

 あの光線には当たった人間の服を作りかえる能力があるのだ。あれを片端から当てて回ったのだろう。単純すぎる答えだ。

 冷静に考えれば意味が分からないが、あの悪魔たちに今更理屈や原理を求めても仕方がない。重要なのはあの光線に当たるとまずいということ、そしてあの光線は避けられないスピードではないということだけだ。

 相手はどう見たって近接格闘な姿には見えない、武器の代わりになるようなものを持っている様子もない。近付きさえすれば終わらせられる。



『近づけば勝てる、そう思ってるんじゃなぁい?』

「……」

『確かに、ワタクシのビューティフルビームにスピードはないわぁ』

「おい嘘だろ、それ技名か?考え直した方がいいと思うぜ?」

『お黙り小娘!……そしてワタクシには殴る蹴るなんて野蛮なことはできないのよぉ、近づかれたらおしまいだわぁ』

「ずいぶん親切じゃねえか……何を考えてる」

『うふふ、分かっていないようねぇ、わざわざ伝えるってことは、その上で勝つ準備があるってことなのよぉ?』

「お前何を――っ!?」



 人形悪魔に意識を集中させていたリュージは、一瞬反応が遅れた。

 人形悪魔の背後から飛んできた人の頭くらいはありそうな氷塊に――。

 氷塊は容赦なくリュージの顔面に直撃した。



「旦那ぁ!」



 反応が完全に遅れたイナセは、グラリと体勢を崩すリュージに驚く。

 そのまま倒れるかと思ったリュージだったが、その左足が力強く地面を踏みつけ転倒を防ぐ。

 その頭部に負傷はなかった。リュージは首に手を当ててゴキゴキと鳴らしながら、半目で人形悪魔へと――その後ろに立っている人物へと声をかける。



「おいラフィ、遊びのつもりだったら今のうちに言えよ?まだ怪我してねえから許してやる」

「なんで怪我してねぇんだよ」



 イナセの呆れ混じりの呟きは無視して、虚ろな目をしたラフィを見やる。

 返事は全くなかった。

 うすうす感づいてはいたが、これは恐らく――。



『無駄よぉ、あの子たちはもはやワタクシの美しさの虜、ワタクシのかわいいかわいい駒なのよぉ』

「洗脳ってことかよ!ふざけやがって……!」

『洗脳だなんて下品な言い方は止めてちょうだい、行動を操ったりなんてしてないわ、彼らは自分の意志で動いているの、自分の意志で戦っているの。美しさに背く貴方たちとね』



 その言葉と歯裏腹に意志を感じさせない足取りで歩いてくるのはラフィ、そしてヴィート。

 既にヴィートの手には引き抜かれた剣が握られている。武器を持たないラフィはそのままだが、厄介なのは間違いなくこっちだ。



「ったく、ヴィートはともかくラフィは完全に自業自得じゃねえか」

「どうする旦那」

「動けなくするしかねえだろ、お前はヴィートを頼む、俺はラフィをなんとかする」

「普通逆じゃねぇの?」

「お互いその方が下手に加減しなくていいだろ」

「なるほど、そりゃそうだ」

「でもヴィートには加減してやれよ」

「努力はするぜ」

『ちょ、ちょぉっと待ちなさい!』



 淡々と相談を進めるリュージとイナセに、人形悪魔が狼狽した様子を見せる。



『何を普通に戦う相談をしてるのよ!普通ここは手を出せなくて一方的にいたぶられるシーンじゃなくって!?』

「……だって、なぁ?」

「うん、だよな」



 声を張り上げる相手に対し、リュージとイナセは視線を合わせて何かに同意するように頷いた。

 そしてほぼ同時に口を開く。



「俺はそいつ(ラフィ)にいいようにされるのだけは我慢できねえ」

「アタシヴィートに痛めつけられるのなんかごめんだぜ」

『な、なんて仲間甲斐のない奴ら……い、いやどうせ言ってるだけだわ!二人ともやっておしまい!!』



 その号令に従い、向かってくる仲間たち、おあつらえ向きにリュージの前にはラフィが、イナセの前にはヴィートが向かってくる。

 先に動いたのはイナセだった。イナセは脇差の切っ先をヴィートに向けながら、瞳に剣呑な光を宿す。



 「安心しろよヴィート、断面がきれいならすぐに繋げられるって姐さん言ってたから」



 瞳に輝いていた危険な輝きが、手にしている刃に宿る。

 弾指の間に、イナセの姿がかき消えた。

 音など何一つなく、次の瞬間にはその姿はヴィートの背後にあった。

 閃く銀色が寸分たがわずヴィートの左足を狙う。鋭い一閃がヴィートの足に吸い込まれ――。



頑固一徹(くろいろ)



 直前に何もなかった空間に生まれた黒色の物体に阻まれた。

 イナセは軽く目を見開いた後、後ろに跳んで距離をとった。



「何だよ使えんのかよ」

『なにやってるのよぉー!!』

「んだようるせえな」

『あなた今足、足!』

「大丈夫後で治せるから」

『そういうもんだいじゃなーい!!』

「おいイナセ!」



 イナセがその声に顔を向ければ、無数の氷塊を殴り壊しているリュージがいた。



「なんだよ!」

「ヴィートはタフだから加減はしなくていいけど、出血が激しいのは止めとけ!ラフィがすぐに治せねえから!」

「あぁそっか、分かった!」

『な、なんなのよこの会話はー!!』



 頭を抱える人形悪魔を無視して、イナセは再びヴィートに飛びかかる。

 茫洋とそれを見上げるヴィートの眼前で、イナセは素早く脇差を鞘に戻すと、浅く抜いては戻すを四度繰り返す。

 カンカンカンカン!という音と共にイナセが吠える。



「モトマル変幻!シバキマル!」



 鞘より姿を現すは鈍色に輝く――。



「……ハリセン?」



 リュージがぽつりと漏らした呟きは、激しい戦闘のなかでは誰にも届いてなかった。

 イナセは両手に握りなおしたシバキマルをヴィートの頭めがけて思い切り振り降ろす。



「おりゃあああ!!」

自業自得(きいろ)



 渾身の一撃はヴィートの頭上に生み出された黄色の楕円系に阻まれる。だけでなく、振り下ろした勢いをそのまま跳ね返されたイナセは本人の意思とは無関係に後ろに跳ね飛ばされる。



「こんのっ!調子乗りやがって――」

温柔敦煌(しろいろ)



 空中で回転して体制を立て直そうとするイナセに、ヴィートは隙を与えない。

 回転するイナセの踵に、ギリギリかする程度に生み出されるふかふかの立方体。



「おうわっ!?」



 空中での強引な回転と言う、ただでさえ器用さを要求される行動を的確に邪魔されたイナセは、見事に体制を崩して頭から地面に落ちた。



「いっつつ、こ、このヤロウ、じっとしてろよな!助けてやろうとしてんだから!」

「……」



 ぼうっとしたまま直立しているヴィートを睨みつける。

 イナセはヴィート・マッシと言う少年を侮っているつもりはなかった。直接戦闘しているところを見たことはなかったが、相手のおおよその強さくらいは見て分かるつもりだった。

 だがこうして相対してみて、使える手段をフルに使ったヴィートと戦ってみると分かる。

 決して弱くはない、いや強い。間違いなく強い。



「だからって素直に負けてやるほど、優しくねぇぞこらぁ!」



 右手を地面についた体勢から強引に走りだすイナセ。

 持っている剣をイナセに向けるヴィート。

 鋭い線とそれを防ぐ金属音が連続して響いた。

シバキマル答え合わせです。

分かった方どれくらいいますかね。

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