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河童の話

作者: 海霧 凪

河童が我が社に面接に来た。

川や沼にいるあの河童である。

嘘ではない。

現にその河童は私の目の前に緑色の肌をして頭に水の入った皿らしき物を乗せて椅子に座っている。


「はあ…河童さん、ねぇ…でもうちにはちょっとねぇ」


「仕事が!仕事をしなければならないんです!あいつ…妻が子供と出て行ってしまって…いますぐ仕事を見つけないと本気で愛想を尽かされます!」


そんな事を言われても私にはどうしたらいいのかわからない。

人事に回されて長いが、こんなケースは初めてだ。


「では河童さん。貴方は何が出来ますか?」


「泳げます!あと相撲も出来ます!」


「…当社はあまりそういった能力を必要としてませんので」


我が社は運送業をメインとしており、空を飛ぶ仕事もあるが水に潜る仕事は無い。


「あ、あと!人間の尻児玉を抜けます!」


「駄目ですよ。そんな事をしたら死んでしまいます」


尻児玉=内蔵を取られ悶え苦しむ様子が頭に浮かんだ。

どう考えても駄目だ。

大体なぜうちを選んだのだろうか。


「はい!えー御社は長い歴史と伝統、さらに昔から変わらぬ営業精神をもち、さらに福利厚生もしっかりしていると知り、御社を志望しました!」


まあ、一般的なよく聞きなれた回答ではある。


「ではうちの営業精神を答えて下さい」


「は?えー…」


……本当に大丈夫だろうか?


「すみません、勉強不足で…」


「はぁ」


私の呆れた雰囲気を感じとったのだろうか。

彼はいきなり立ち上がり、床に頭をつけて拝むようにして私に訴えかけて来た。


「な?!」


「お願いします!この通りです!御社だけが頼りなんです!」


「ちょ、顔を…顔を上げて下さい!」


床に皿の水がこぼれ落ちる。

ん?ちょっと待て、たしか河童って皿の水が無くなると、死ぬんじゃ……?


「いやいやいやいや!顔を上げて下さい!水が、水がこぼれてます!」


「御社に雇っていただけるまでこの命尽きようとも動きませんっ!」


「いやいや!死んだら働けません!ここで死体にならないで下さい!私の責任問題になりますから!」


「じゃあ雇っていただけるんですか?」


「あーそれは……」


「お願いしますっ!」


「だから頭を上げて!」


もう警備員を呼ぼう。

そう決意したその時だ。


「あなた!」

「おとうさん!」


河童がまた二匹飛び込んできた。


「かよこ!?かずお!?お前達、帰ったんじゃ…」


どうやら奥さんとお子さんらしい。


「ばかね、あなた。私があなたを見捨てるわけないじゃない」

「でもテーブルに手紙が…」

「あれは、嘘よ。もう少し頑張ってくれたらって思って…でも、あなたがここまでわたしたちを思ってくれてるなんて…」

「かよこ…」

「おとうさん、しんじゃうの…?やだよ!いっしょにいてよ!」

「かずお…」


目の前で繰り広げられるホームドラマの様な光景になんと口を出して良いのかわからない。


「あのー」

「あ!申し訳ありませんでした。いろいろとお騒がせして」

「いえ……それは問題ありませんが」

「では失礼します!」

「は、はい。お疲れさまでした」


そうして賑やかに河童の家族は帰っていった。


「ふぅ……」


疲れた…

壁の時計をみるともうすぐで今日の終業時間になろうとしていた。

こうしてはいられない。

私も早く帰らなければ。

家にはかわいい妻と子がいて、私の帰りを待っているのだ。

社員に別れを告げ、もうすっかり暗くなった空へひそかに自慢に思っている黒い翼を広げ舞い上がる。


今日もよく働いたな。

さて、今日のご飯はなんだろうか。

我が社の従業員を象徴するような天狗のマークの看板を一瞥し私は帰路についた。


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― 新着の感想 ―
[一言]  大変面白かったです。落ちにやられました。妖怪が好きな私としては涎ものでした。ありがとうございます。
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