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おもちゃ箱のご主人様  作者: 式神 影人
6/6

追われ者とおもちゃ箱②

あれ?普通のメイド話だった筈が…


6/26 本文2ヶ所誤字修正


「そんな……そんな阿呆な事が…」


 町は森を、山を、全力で駆けていた。

 長きに渡り悩ませ続けられた問題が決着をみようとしていた。想い人は再会を約束して去って行った。だがその後、雇用主でもあるシーマ(エスパーダ)が恐るべき事を口にしたのだ。


『とこロで、良かっタノか?追ワないデ…』

『モンさんは“待ってろ”と言わはったんどす。何故、追い掛ける理由がありますの?』

『くくく…恋ハ盲目と言ガ、本当ニ気付か無っタノか?アのおっさんノ死相に……』


 正直、浮かれていたのかもしれない。エスパーダに『何故、おっさんハこの館に来れた?』と問われるまで気にしてもいなかった。

“異国の衣装を着た辻斬り”


 まるで町に濡れ衣を着せんとばかりに振る舞う者の噂を知ったからではないのか?いや、そもそもその犯人と直接会った事があったとしたら?

 ソアラ達から問われたすぐ後の訪問。その時にエスパーダは気付いたに違いない。


 “リークした者がいる”と…。


 秘匿とされる別館の人間は自ら外出する事は無い。よって住人を知るには特別な任を負って訪問した者で、モンディミーロと接触する可能性のある立場で、尚且つ町に“悪意”を抱く人間。


 恐らく最初はモンディミーロに町を捕えさせるつもりだったのだろう。だがモンディミーロの固執の方向性が違うと知るや、町を最高の状態から絶望の底へと叩き墜とす事に変えたのだろう。


『ま……全てハ憶測だガな』





 確実に起きる……主の言葉からそんな焦燥感が掻き立てられる。町は全感覚を最大限に研ぎ澄ませ、想い人の行方を追った。



「………血の匂い?」


 風の中の僅かに雑じる鉄錆のような匂いを追って駆け抜けると山道から外れた森の中で今まさに凶刃を振り下ろされんとするモンディミーロの姿があった。

 不意を突かれたのであろう。肩口には矢が刺さっており、脇腹からは血が滲んでいた。


「クソ…どいつもコイツも我輩を虚仮にしおってーーーッ!」


 不自然な長く黒髪、和装っぽい異国の衣装、頭には布を巻き付けており、後ろ姿なのでハッキリとは言えないが特徴のある口調なのでアノ男にほぼ間違いは無いだろう。


「ウチのダーリンに何さらしとんじゃ、ボケーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」


 怒号一閃。相手が振り返る間もなく背後から跳んできた町が四肢の骨を打ち砕いた。

 獣のような言葉にならない悲鳴を上げ翻筋斗打つ悪漢の後頭部をガシッと踏み付け強く言い放つ。


「オンドレ、ナメた真似さらしとるとケツの穴から腕突っ込んで奥歯ガタガタいわすぞ、ゴラァッ!!!!!!……………あっ!?」


 何かに気付いたのだろう、油が切れたロボットのようにギギギ…と振り返るとボケ〜ッと見詰めるモンディミーロがいた。


「………ま…ま…ち?」


 再びギギギ…と前を向いて……。


「アンタはん、お巫山戯が過ぎると御居処(おいど)から手を入れて奥の歯ぁを揺さ振りますえ、オホホホ……」


 若干頬を引き攣らせながら言い直した…。惚れた男の前では良い女でいたいのだろうが、今更感満載な上に、言ってる内容自体変わっていない。

 しかも、毒と失血で意識が朦朧としているモンディミーロではまともに感知すらしていないのだが……。


 本来なら捕縛して審問会にでも突き出すところだが、今はモンディミーロの方が最優先だ。出血箇所を止血し、汎用性の高い毒消しを口移しで飲ませる。

 幸いにして男が乗りつけてきた馬が近くに繋がれていた為、胴体にモンディミーロを括り付け、オーヴェラント別館へと急いだ。


 正直、開門を呼び掛けて待つ時間も惜しい。もう直ぐ別館を囲む鉄柵と門が見えてくる筈、町は手綱をグッと握り、スピードを上げるよう強く鞭打った。


 20m……10m…5m…


『跳べーーーーーーーッ!!!!!!』


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



……ズ……ズズ………


 何かが地を這い擦る。町により手足の骨を砕かれたアノ男だ。


「い…痛ぇ…畜生ぉ…痛えよぉ……」


 町が止めを刺すのは容易だった。ただ白刃を振り下ろす一瞬で済む。愛する者を殺そうとした仇敵だとしても敢えて生かして更正の道を残した。

 だが浅ましく不様に藻掻くその歪んだ顔に改心は無かった。


「グゾォ〜、絶対殺じでやる。殺じでやる……」


 怨嗟の呻きを上げる男の視界にスゥッと影が射した。ユックリと見上げると紺色のワンピースを着た金髪の少女が立っている。


「おお、そごの下賎な小娘、我輩を助げろ。野盗に襲われだ際、骨を折っで……」


 男の言葉を遮るように金髪の少女が呟く。


「……甘いよね。そう思いません?」

「……ハァ?貴様何を言っで……そんな事より早ぐ助げ……を……」


 クルリと振り向いた拍子にフワリと舞い上がった裾の奥が一部僅かに膨らんでいる。


「な……ぎ…貴様……男が?」

「フフフ……、そんなに慌て無いでください。今直ぐ楽にシテヤルカラヨ」


 美しい金色の髪がゾワゾワと漆黒に染まっていきながら少女は親指と中指で輪を作ると軽く口笛を鳴らした。

 「グルルル…」と低い唸りをあげながら四方の木陰から黒い影が現れる。どれも二ツの赤い眼が炎のように揺らめき、裂けた口元から白く鋭い牙を剥き出しにして近寄ってくる。


「ま…まざが……や…止めろ……止めでぐれーーーーッ!!!!」


 男の断末魔はその肉片と共に黒狗に呑み込まれていった。


「マッタク、めいどノくせニ後始末モ出来ナイなんザ、お仕置キものですだで……」


 赤毛のウィッグを被り、ヘッドドレスを着け直すとシーマは鼻歌を鳴らしながら我が館へと帰っていった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



ドザザザザーーーッ!


 着地の衝撃に耐え切れず前脚を骨折した馬は甲高く鳴き声を上げながら地面を抉りながら滑っていく。


「どなたかッ!どなたか居てまへんかーーーッ!?早う来ておくれやすーーーーーッ!!!!!!」


 ただならぬ様子に何人ものメイド達が飛び出してきた。


「モンさんが……モンさんが……」


 一目見ただけで危険な状態だと判断したソアラは近くに居たランドリーメイドに命じ、物干し竿2本とシーツを使って即席の担架を作り、モンディミーロをゲストルームへと運ばせた。




「……何があった?」



 町から詳細を聞いたソアラはユックリと、そして厳しい口調でこう告げる。


「町…、お前が飛び越えて着たのは“嘆きの壁”、そして此処は世界から弾かれた者達が集う闇の庵。……ようこそ“地獄”へ。……さあ、択ぶが良い。自らの意志で、自らが堕ちる先を……」


「………」




 ソアラは頷くと一人のメイドを喚んだ。純白のエプロンドレスを纏った透けるように青白い肌とプラチナグレーの髪。アルビノ(色素染色体異常)なのだろうか、生命の躍動感を感じない儚げな存在。ただその瞳と唇だけが淡く紅い。




「御苦労だった……ゆっくり休んでくれ」


 アルビノの女性が手を翳すとモンディミーロの出血が止まり、緩やかに血の気が戻っていった。

 軽く頭を下げると足音もさせずに去っていった。不思議な能力といい、果たして彼女は“人”だったのだろうか……。


「後はモンディミーロ氏の運次第…。望みは叶えられた、次は貴女が約束を果たして貰おう」


 町の肩に手を置き、擦れ違い様に微笑みながらこう告げる。



「殺して貰うぞ。我らが主、エスパーダ=フォン=オーヴェラント様を……」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「ただ今戻りまスただぁ」

「ちょっと、遅いわよシーマ…。って言うか何処行ってたのよ」


 町が瀕死のモンディミーロを担ぎ込んできた影響は少なからずあったようで、慌ただしく動き回るものの、半分は浮足立っていた。

 この別館には姿を見せる事の無い主人以外は男性はおらず、実質的に女の園と化している。そこに40前後とはいえ、逞しい男が現れたのだから仕方があるまい。

 しかも何やらメイドの一人との甘い香りを漂わせているのだ。不謹慎ではあるが年頃の娘達が興味を掻き立てられない筈が無い。

 まぁ当然メイド長であるソアラに叱責される事にはなるのだが……。




 ゲストルームのベッドに横たわるモンディミーロの手を握りながら町は困惑していた。むしろ困惑した事で逆に冷静になれてもいた。


『殺して貰うぞ。我らが主、エスパーダ=フォン=オーヴェラント様を……』


 すべてはソアラのこの言葉が原因だった。

 そもそも町は極東の島国の呉服問屋の出自であり、武も良家の嗜み程度のものとして申し出ていた。だが、呉服問屋の娘だったのは最終の事で本来は影働きを生業とするいわば忍びの一族、その“抜け忍”なのだった。

 町の一族は永きに渡り“禁呪”と呼ばれる“外道の法”に因り不死に近い無敵の忍を作り出そうとしていた。その過程で生まれたのが町である。

 出奔後、様々な場所に身を隠してきたが、遂に追っ手の知れるところとなり、遥々海と大陸を渡り、モンディミーロと色々あってこの館へと辿り着いたのだった。


 最後に潜り込んでいたお店に書いて貰った紹介状は海の向こうの事なのであまり効果は無かったがそれでもまぁ役には立った。

 現にこのオーヴェラント家は受け入れられた。受け入れたのだ。

 僅かに武道を手習っただけの呉服問屋の娘を巡回警備担当として。




…………ゾクッ



 見抜かれている?……町はそう直感した。それは町が初めて感じる恐怖だった。


 自分が命を狙うターゲットに忠誠を誓う者。そうと知りながら雇い入れ、己が側におく主。すべてでは無いにしろ自分とは比べものに為らぬ程の異能を隠している従者達。そしてその主自身が途轍もない闇をその身に宿している…。


 町は自分が逃げ出した環境が如何にぬるく、また自分が足を踏み入れてはいけない領域に来てしまったのだと気付いたのだった。

町のメインのお話しはこれで一区切りです


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