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おもちゃ箱のご主人様  作者: 式神 影人
5/6

追われ者とおもちゃ箱①

うん、人生色々



「ウ〜ム……」


 最近オーヴェラント家別館では少々困った事が起きていた。メイド候補生達の育成具合が思わしく無い。原因は新参メイド達にあった。

 自分が幼少のみぎりよりお世話・教育してきたシーマ(エスパーダ)が優秀なのは嬉しい限りだが、そこにガードナー兼ガーディアンとして加わった東洋からの候補生“町”があまりにもハイスペック過ぎたのだ。

 園丁と警備が役目の町だが、有能過ぎて他の候補生達の仕事が無くなっていってるのだ。例えば先日、ソアラが書類整理に追われていた際、窓から庭園で箒掛けしている町が目に入ったので集中力も途切れた事だし「…一休みするか」と背伸びをした瞬間、「お茶がはいりましたえ」とティーカップが差し出された。


「ああ、すまない。気が利……!?」


 慌て窓から乗り出すと庭園で町が手を振っていたのだ。

 きっと他の誰かと間違えたか、シーマが声真似をしたのだろうと思っていた。が、最近館内が明らかに汚れていないのだ。

 窓の桟や照明器具のエルボーなど汚れ易かったり、作業し辛かったりする場所に埃すら無いのだ。

 特にご不浄(トイレ)など女所帯では汚れ易い場所がピカピカに磨き上げられていたり、廊下やエントランスの生花が新しくなっているのだ。

 ソアラがそれとなく注意しても「ご不浄の神さんも慶んでくれますやろ?」とか「花壇に丁度見頃のが仰山咲いてくれはって」と軽く流されてしまう。

 だが、ソアラの耳には「使用してそのまま出てこさせるな」とか「枯れるまで放っておくのが仕事なのか」な意味合いに聴こえてしまうのは何故だろうか。

 仕方が無いので率直にメイド達の育成に支障があり、果ては主の信用にも関わると話す。


「まぁ、それはイケまへん。ウチは何と浅慮な事を……差し出がましい真似、赦しておくれやす」


と、頭を下げられ、ソアラも「いや、皆の良い手本となろう」と言ったのだが………。

 3日程過ぎた辺りから見る見る館内が煤け始めたのだ。当然、未熟な者達が担当しているので仕方が無い面もあるのだが、改めて“町”の力量に驚愕するのだった。


 ただその頃から城下街では妙な噂が立ち始めていた。商人や警ら隊員が異国の衣装を纏った者に襲われる事があるとの事だ。


「いえ、何分いきなりで…。ただ見たことの無い服装だったとしか……」

「あ?ああ、突然物陰から現れて切り付けられたんでさぁ。幸い命まで取られやしませんでしたが、細い片刃の剣でしたね」

「ええ、覆面をしていて真っ黒い髪がこう……。不覚です、申し訳ありません」


 総じると見た事の無い異国の物と思われる服に長い黒髪。片刃の細身の剣を携えている。顔を隠していたし、男か女かは一言も口をきかなかったので判らない。

 ただこの噂を耳にした近衛隊隊長が普段見せないやる気を出し、積極的に情報を集めるよう促したらしい。




ブウォン……チッチッチッチッ……

ブウォン……チッチッチッチッ……


 そろそろ落ち葉が舞い散り始める頃、別館の裏庭で異音がしていた。

 何事かとソアラとバリーナ、そしてシーマが覗きに行くと町が何やら棒状の物を振り回していた。


「おい、マーチ。何をし……」


ブウォン!


「うわわっ!?」

「キャアアアッ!?」

「……ッ!!」


 近付いた瞬間、突然の烈風に三人のスカートが捲くれ上がってしまったのだが、一人だけ反応が違う上に、何故バリーナはシーマを恨めしげに睨め付けているのだろう。


「も…申し訳ありまへん。ウチ、何という粗相を……」


 何度も頭を下げる町に訳も分からず…。


「いや、別に女同士見られたからと……、まさか今の風はマーチの仕業なのか?」

「へぇ、最近少々身体が鈍ってきましたよって、鍛錬をと……」


 町の弁によると故郷に伝わる剣術の一つらしい。剣圧で風を起こして落ち葉を巻き上げ、舞い落ちてきたのを突いているのだそうだが、実際に演じて貰っても何が起きているか理解出来ないし、貸して貰った木刀で真似をしても風どころか木の葉一枚動かなかった。


「茶道・華道・舞踊その他地元の楽器の演奏も出来るとは聴いていたが武術もとは恐れ入った」

「いややわぁ、そんなに見んといて貰えますやろか。恥ずかしおすえ」


 本人は“乙女の嗜み”と笑っていたが、どう見ても“嗜み”で済むレベルでは無く、この国の剣聖(ソードマスター)と呼ばれる者ですらその域に達しているか怪しいものだった。


「ところで先程皆さんの穿いてはった可愛らしいのは何どす?」

「あ?ああ…ドロワーズという下着なのだが……」

「………下着?」


 まさかの“町ノーパン発覚”の瞬間だった。




「ところで、ソアラはん。旦さんに許可戴きたい事があるんどすが……」


 集めた落ち葉を処分するのに裏庭で焚火をしたいらしいのだ。


「延焼にさえ気をつければ恐らく大丈夫だろうが……何故焚火を?」


 そう訊ねると顔を真っ赤にしながら…。


「へぇ、実は先日農園の方から甘薯を戴きましたよって。最近、その……あまり“お通じ”が…」


 館の食事は肉や魚が中心の献立が多く、野菜が不足していたらし。そこに腸の活動を良くするサツマイモが入手出来たので焼き芋を作ろうと思ったらしい。

 焼き栗は城下街でも売っているオヤツなので知っているが、焼き芋はあまり聞かなかったので少々躊躇ったが、


「美味しおすえ」


町のこの一言で陥落し、分けてくれるならとの条件で許可が出た。


「ほな、早速!」


 既に準備万端だったようだ。いそいそと山盛りにした枯れ葉に火を付け、その中に赤紫色の芋を捩込んでいった。

 「ちょっと待て、水は?」と問う間でも無く、傍らに水を張ったバケツが3杯用意されていた。

 どうやらコッソリするつもりだったらしい。



 ユックリとじっくり焼くのがコツらしく鼻歌を唄いながら焚火に枯れ葉を足していた。

 暫くすると煙の中に甘く何とも言えない良い香りが混じってきた。


「……まだか?」

「もうちょっと待っておくれやす」



「まだ…ですの?」

「もう少しどす」



「……まだ?」

「ボチボチどすやろか…」



 仮にも良家のお嬢様方(一部除く)な筈なのだが、やはりこの香りには抗えないらしい。

 大分下火になった枯れ葉の山から1個を掻き出し、串を刺してみるとスッと入った。頃合いのようだ。

 燃え残った枯れ葉を平らに掻き分けると焼き上がった芋が現れる。厚手の革手袋を嵌めて芋を全て取り出してから、枯れ葉を元に戻す。


「出来ましたえ」

『おおーー……お?』


 快哉をあげた3人だが出てきたのはどう見ても焦げた黒い塊だった。




「……本当に美味いのか?」


 だがそんな反応は想定内だったのかニヤリッと笑うと、煤を払って二ツに割る。途端、湯気と共に拡がる甘い香りと美しく煌めく黄金色の中身。焦げた皮を剥いて予め手渡していた布の上に置く。


「あらあら〜」

「うわぁ〜〜い」

「熱おすから気をつけておあがりやす」


『いただきまーーす!』

「・・・・」


 フゥフゥ…ハフハフ…


『甘〜い!美味し〜〜い!』


 ドヤ顔の町は「そうどすやろ」と笑いながら自分の分を剥いている。

 3人はもう我を忘れてかぶり付いている。西洋菓子に使われている自己主張の強い砂糖とは違い、素朴で優しい甘さとホクホク・ネットリとした食感。最早シーマとバリーナは焼き芋の虜になっていた。


「……なぁ、マーチ」

「何どす?」

「何故私には渡らないのだ?」

「おや?ソアラはんは嫌そうな顔してはったさかいお渡しせんかったんどすが……」

「要らぬ訳が無かろう!というか、前々から思っていたが、貴様は結構性格悪いよな!?」


 町は嫌々、渋々といったていでソアラに焼き芋を渡した。……一番小さいのを。しかも二つに割った物より小さい…。


「……………グス。お前、私が嫌いなんだな?」

「もう、冗談の通じんお人どすなぁ。泣かんでも宜しおすやろ……。ホラ、コッチをどうぞ」

「………泣いてなどおらん」

「ハイハイ…」


 残っていた中で一番大きいのを手渡すとソアラは慌て皮を剥きはじめた。


ハム……ホフホフ……


 ゴクリと飲み下すとソアラの顔がホニャ〜と蕩ける。普段仕事出来ます感満載なクールビューティの鉄面皮なソアラがこの様な顔をするとは思って無かったシーマとバリーナは信じられないと眼を剥いている。


「お気に召しはったようで。全く…食べ物の恨みは恐いですよってなぁ」

「私はそれ程狭量では無い。あと、泣いてなどいない!」

「へぇへぇ…泣いてまへん、泣いてまへん」


 何故だろう…年上のソアラを町が子供扱いしているような気がする。



「ところで、ソアラさんは町さんに何か御用があったのでは?」


 一心地ついたバリーナが問い掛けると、「……あっ!」という風な顔をした。どうやら焼き芋に夢中になり忘れていたらしい。


「そうだった。マーチ、お前の他に母国からやって来た者はいるのか?」

「さぁ…?どうでっしゃろう。こちらはんと日ノ本とはあまり国交が無いて聞いてますよって。どうかしはりましたん?」


 ここ最近、城下街で起きている事件の噂について説明する。


「まさかとは思うが、お前ではあるまいな?」

「幾ら何でもお馬で5日もかかるような都までおいそれと往復出来る訳あらしまへんえ」

「だろうな……。スマン、忘れてくれ」


 毎日顔を会わせているのだから到底無理な事は解っているが、犯人とおぼしき者との共通点が多い為、参考程度に聞いてみたのだが、手に持っていた焼き芋を取り上げられそうになり、慌てて謝罪している。町がボソリと「2日は貰いまへんと」と呟いたのは気のせいだろう。ウン、人間が馬の5倍の速さで走れる筈も無いし……。

「さて、お腹も膨れた事ですし、お仕事に戻りましょうか」

「ちょ……ちょっと待て、まだ私は………フグッ!?」


 半分以上残っている焼き芋を慌てて口の中に詰め込んだ為、どうやら喉に詰まらせてしまったらしく、慌てて町が水筒代わりに使っている竹筒に手を伸ばす。


「ああっ…!それは」


ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…


「………」


 一気に飲み干したソアラだが、何やらジィッと町を睨め付けている。


「マーチ……、これは酒だよな?」

「………般若湯どす」

「酒だよな?」

「お酒やありまへん、般若湯っていうお薬どす」

「だったら余所見をせず、コチラを見て答えろ!」


「…………散ッ!」


 眼が笑っていないソアラに肩を掴まれそうになった瞬間、脱兎の如く物凄い速さで逃げ出した。


「待てッ、貴様!」

「赦しておくれやす〜」

「赦すものか!待てと言うに」

「待てと言われて待つ阿呆なんておりまへん〜〜」


 ジグザグに逃げる町を必死に追い掛けるソアラ。互いにかなりの速さだがどうにも町の方に余裕を感じる。


「ま…待て……というに〜〜…」

 鬼の形相で追い掛けていたソアラがフラフラとしだして……倒れた。酒を飲んで走り回ったのだから当然といえば当然なのだが、一方の町は汗どころか息ひとつきれて無かった。


「ま…待〜へ……マ〜ヒ……」


 完全目玉グルグル状態のソアラを木陰に移動させ、子供をあやすように頭をポンポンと叩くとその樹の裏側から一降りの細身の剣を取り出した。


「さて…煩いお方も片付いた事ですし、ウチも野暮用を片付けさせて貰いまひょか……」


 片手に身の丈に合わぬ刀を携え、いつに無く真剣な面持ちでシーマ達に近付いていく。そのただならぬ気配にバリーナはシーマを庇うように前に出る。しかしその足はガクガクと震えていた。

 やはり城下街の噂は町が犯人だったのだろうか?

 ゆっくりと近付いて来る町。あと数歩で間合いに入るだろう…、いや既に間合いかもしれない。


「わ…私が盾になります。その間にエスパーダ様は……」


 最早立っているのが精一杯の気力を振り絞り退避を促した。その当のエスパーダの瞳と髪の色が変わり始めているのに気付いていない。


 (斬られる!)とグッと瞼を閉じた。が、何事も無く町は二人の横を通り過ぎる。


「あらまぁ、旦さんも存外面白いのを飼ってはったんどすねぇ…。せやけどまた今度遊びましょ。先約があるよって」


 ヘナヘナ〜とバリーナが崩れるように気絶すると外壁の門辺りから大気を揺るがすような大声が響く。


『頼もうォォォォォーーーッ!!』


 門からかなり離れている館の窓ガラスがビリビリと震えるのに驚いたメイド達が何事かと顔を覗かせる。


『俺の名はモンディミーロ=ハウゼン。コチラに異国の女性が居ると聞き及び罷り越した。お取り次ぎ願いたい!』


 馬の傍らに立つ男は恐らく初老くらい。ガッシリと筋肉質で近衛隊隊長の制服を纏っている。腰にはブロードソードを携え、背中には身幅の広い大剣を背負っている。髪はシルバーグレーで無精髭を生やしている。何より特徴的なのは顔の左側にある縦一文字の刀痕で、一層恐面に拍車をかけている。





 そう、あのバーで警ら隊の使者だった者に声を掛けた男だ。


「ハァ…、無駄にデカイ気を撒き散らしてると思うたらやっぱりアンタはんどしたか…」

「カカカッ、久しいな夜叉姫ぇ。此度こそ15年前の大戦の借りを返させて貰うぞ!」

「で、今度は何どす?まさかカードゲームでもしはるんどすか?」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ―15年前の大戦。それは歴史上、無かった事になっている戦である。

 自国軍千名余り、敵国軍千二百名弱、併せて二千数百名が国境を境に陣を張り、今や遅しと意気を挙げている。

 互いに盾や楽器を鳴らし、脚を踏み鳴らして士気を高めている。

 そして各軍団長がそれぞれの正義と忠誠を掲げ、今まさに進軍の気勢を発しようとした瞬間…。


『ヤレヤレ…、まったく不粋な男はん達どすなぁ…。折角のお昼寝が台無しやわ…』


 両軍との中心、まさに国境の目安として使われていた大きな岩の陰から一人の少女が背伸びをしながら起き上がった。

 歳の頃なら14〜5歳といった処だろうか?見馴れぬ異国の衣装に風に靡く美しい絹糸のような黒髪。旅をしているにはあまりにも軽装で、かといって近隣の村は一番近い所でも馬で2日はかかる。


『貴様、何者だ?何故かような場所に居る?』

『そこを退け、小娘!さもなくば怪我どころで……は………』


 水筒か何かの栓を抜き、煽るように飲み始める。飲み下す度に口許から溢れた液体が首筋を通り、胸元に滴る様は見た目以上にとても官能的で煽情的だった。


『フゥ…美味し…』


 そして最後に口許をペロリと舌で舐めたのをきっかけに男達の恐怖のリミッターが振り切れ、生きなければ…という本能が暴走した。


『こ…殺せェーッ!その女は悪魔か化け物に違いない!殺されたく無ければ殺せーーーーッ!!!!!!』


 その叫び声を合図に総勢二千数百人がたった一人の少女に襲い掛かったのにのだ。


 剣で斬ろうとする者

 短剣で裂こうとする者

 斧で叩き割ろうとする者

 槍で貫こうとする者

 棍棒で砕こうとする者

 鎚で潰そうとする者


 少女の姿を埋め尽くした瞬間、それら全てが花火の如く弾き飛ばされた。

 そしてその中心に紅い房が付いた扇を手にした少女が立っていた。


 まるで舞い踊っているようだった。開いた扇で煽いで噴き飛ばし、薙いで防具を切り裂き、閉じて振えば武器を砕いた。それら全てが淀み無く、流れるように演じられている。

 今、目の前のこの光景を何と言い表せば良いだろう。

 花のように美しく、

 鳥のように自由で、

 風のように鋭く、

 月のように静かだ。

 まさに“花鳥風月”とはこの事を意味するのではないだろうか?


 だが若者には苦悶の叫声も奮起の怒声も聴こえない、ただ無音の世界。理解の範疇を超えた得体の知れない未知なる脅威に視覚以外の全てが認識を拒絶した。


『ぅ…ウオアアアァァァァーーーーーーッ!!!!!!』


 少女の視線が自分から外れた瞬間、咄嗟に飛び出して行った。背を向ければ死ぬ、殺される。そんなのは御免だ、だから力の限り振り下ろした。


キンッ!


 折れた…。入団の証として賜った剣が……誇りが。破片は回転しながら若者の顔を傷付け飛び去った。


『…ア…アア……アアアア……ッ!』


 剣を投げ捨て、殴り掛かっていた。闇雲に、駄々をこねる幼な子の様に、ただひたすらに拳を振り回していた。


『…もう泣かんでええよ。恐ない、恐ない』


 柔らかな温もりに包まれ、若者は眠りに就いた。母に抱かれる子供の様に……。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「戦死者0、重軽傷者は出たものの、突然の天災に遭遇し、続行不能と判断した両軍は撤退を決定………そして現在に至る。これが公式見解だとよ。有り難くて涙が出るぜ」


 15年前の回顧を終えたモンディミーロは吐き捨てるように言った。


「……で、今回の御用向きは何どす?」

「知れた事!とっくに成人の儀を終えていた俺が小娘の貧相な胸であやされちまった屈辱、晴らすまで死ねるかッ!」

「……懲りんお人どすなぁ。もう何回目どすかぁ?そろそろ違う台詞お聞かせ願いたいんどすけど……」


 どうやらこの二人は15年の間に何度もリターンマッチを繰り返し、その度男の方が返り討ちにあっているようだった。


「ここでは家人の迷惑になろう。来る途中に良さ気な場所を見付けた、断るならこの場で死合うのみ」

「仕方おへんな……」




 小一時間も歩いただろうか?遮蔽物の無いだだっ広い荒れ地。そこが今回のフィールドのようだ。


「まぁ、あんさんらしいといえばらしいどすが、もうちょっと違う方面に気ぃ使ても罰当たりまへんえ」

「何の気兼ねも無くやりあえる、それ以上に僥倖な事はあるまい?」


 背中の異常に身幅が広い大剣と腰のブロードソードを抜いて構える。左手に持つブロードソードでさえ普通なら両手持ちの剣だ。その何倍も重そうな大剣を右手で軽々と振り回している。


「もぅ…、確かに腕を上げて来はったようやし、ウチもこの姿では失礼どすな…」


 右手で和装メイド服の左肩に手を掛け、一気に引き抜くと全身黒色の所謂“くの一”の忍び装束に変わった。しかも驚くべき事に自称している17歳相応に成長していた。


「カカカ、流石は夜叉姫。そうで無くては」


 やる気を見せたのが余程嬉しいのか、モンディミーロは口角を上げた。


 二人の距離は20m程だろうか、モンディミーロは愉しそうに、町は少し不機嫌な面持ちで対峙している。


「…では」

「…存分に」


『参るッ!!!!』


 バンッ!という音と共に二人の距離が一足飛びにほぼゼロになる。甲高い金属同士をぶつけ合う音が響き、互いの力任せの圧し合いは互角に終わる。


「腕を上げはりましたな」

「貴様こそ変わらず、安心したわ!」


 鍔ぜり合いの反動を利用し、一旦距離を置いた後、空かさず第2撃に移る。


「ウオリャアリャリャリャリャァァァーーーッ!!!!!!」

「ハアァァァァーーーーッ!!!!!!」


 今度は手数の応酬、縦横無尽に剣戟が疾り、速さでは一歩遅れをとるモンディミーロはその差を2本使う事で補っている。


「わざわざそんな鈍重な剣を使わねば剣速は上がりますやろに」

「軽い剣など、俺が振るえば簡単に折れてしまうわい」


 

 

 一撃一撃が重いモンディミーロの攻撃を町は上手く刀をしならせる事でダメージを受け流す。

 弾かれるように再び距離を置くと今度は町から打って出た。

 一度大きく後ろに引いた刀を薙ぎ払うように振り抜く。町の得意技の一つだ。


「秘剣!烈風呀ッ!!」


 凄まじい竜巻がモンディミーロを巻き込むと、宙へと跳ね上げる。ここから無数の鋭い刺突を繰り出すのだが……。


「甘いわッ!!」


 恐るべき事に踏ん張りの利かない空中で強引に大剣を縦一文字に振り下ろし、竜巻を切り裂いた。


「一度喰らった技は俺には効かん!今度はウヌが喰らえッ!」


 着地すると同時に後ろ手に引いた大剣を振り抜いた。町が放ったよりも巨大な竜巻が襲い来る。


「ヒャアアッ!?」


 一瞬巻き飛ばされたように見えたが逆に風圧の低い中心部に自ら踏み込み、高く飛び上がっていた。


「フン、やはり猿真似は通じんか…」

「もう、いやらしいお人どすなぁ。スカート捲くりなんて今時の童でもしまへんえ」


 竜巻が大き過ぎた為、大外の速度が僅かに遅かったのと中心部の空間が広く、小柄な町を拘束しきれなかったという事。何より自分の技の欠点は本人が一番知っているという事だろう。

 もう一度使っても今度は竜巻そのものをぶつけ返してくるだろう。相殺されるのは目に見えている、いや逆に取り込まれる可能性すらある。

 モンディミーロは町を打ち負かす為に研鑽を重ねてきたが、町はそうでは無い。今在る技の精度を落とさない為に日々修練を重ねてきたのだ。


 町の技は知り尽くされており、我流のモンディミーロは決め技を持っていない。ならば己が全てをぶつけるまで。

 呼吸を整え、笑い合う。そして最後の一撃……。


キーーーンッ!!!!


「………ぁあっ!?」


 町の指は度重なる重撃により柄を握る力が弱っていて、モンディミーロの交差同時撃を受け流しきれず弾き飛ばされてしまった。


「俺の勝ちだ!夜叉ひ……」


 その一瞬だった。同じく握りが甘くなっていたモンディミーロの右手の大剣を左足で踏み抜き、白刃取りで抑え込んだブロードソードを握る左手首を右足で蹴り上げた。そして町の右手はブロードソードの刃の無い部分を握り……。


ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!……


 モンディミーロの巨躯が宙に舞う。町が繰り出したゼロ距離からの連続刺突で柄頭が分厚い筋肉の鎧に食い込んだのだ。



ドシャアッ!!!!


「……グァ…ガッ……」


 モンディミーロはそのまま大地に伏した。


・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・


(……真っ暗だ。何故俺はここに居る?)


 全身は酷く怠いのに頭だけがフワフワと暖かい。


《……サン》

《………サン》


(煩いな…俺は眠いんだ……眠ら……?……ああ、雨か…)


 真っ暗なのに雨粒だけが光って見える。


(…おかしいな…何で二ヶ所だけ……?)


 虚ろな意識の中、雨粒の出所を確認しようと瞼を開けると逆さまの少女が居た。


「…………町?」

「気が付きはりましたか、モンさん」


 どうやら意識を失い、膝枕をされていたのに気付いたようだ。


「……また……負けたのか…?」

「紙一重どした……いえ、正確にはウチの負けかもしれまへん」


 刀を弾き飛ばしたまでは明確に覚えている。その後、腕が動か無くて全身に激痛が……。あやふやな記憶が形を成していく。


「…成る程な、まだそんな手を隠してたのか」

「せやけどアレは素手で武器持ちと闘う術で、剣士の戦い方やあらしまへん。ウチは刀を失った時点で終わってたんどす!」

「情けは無用。寧ろ嘲るがいい、それが勝者の特権……」


『要りまへんッ!………そんなん欲しあらしません…』


 普段、飄々として本音を見せない町が突然上げた感情丸出しの叫び声にモンディミーロは驚愕した。

 堰が切れてしまったのだろう。町の涙が、思いが溢れ出て止まらない。


「……察して欲しかった……言って欲しかった…。せやけど叶わんから逃げた。……でも、追い掛けて来はるから諦められんかった…」

「……ま…待て、いきなり何を言って…」

「ウチが欲しいんは、たったお一人からのたった一言どす。………モンさんどす…モンさんだけどす!モンさんとの稚児が欲しいんどす!」


 モンディミーロの頬に両手を添え、覆い被さるようにその視界と唇を塞いだ。


・・・

・・・・・

・・・・・・・


 どれ程の時間が経ったのだろう?町を突き飛ばすように立ち上がると剣を拾い上げた。


「……11日後だ。…待ってろ」

 背を向け、無愛想にそう呟く。どんな顔をしているかは分からないが、耳がこれ以上無い程に真っ赤だった。それをどう受け取ったかは判らないが、ただ何度も頷いている。


「……ヘェ…ヘェヘェ」


 無骨な男は挨拶もせず、馬に跨がり振り向きもしないまま帰っていった。





「……おマセどすな、旦さん。いぇ…中のお人かいな?」


 少し離れた樹の枝に身体を預け金色と黒色半々の髪をした少年が寝転がっていた。


「くく……。あリゃ、オメェに勝っテカら言うつモリダったみテェダな。子供みたイな意地ヲ張るオッサンと見た目ガキなBBA、存外お似合イカモナ」

「失礼どすな。ウチは正真正銘、十と七歳どす。そこは譲れまへんな」


 4年に一度、それが町の成長速度だった。町もまた祖先からの因果により呪いを受けた身だった。 オーヴェラント家は代々こうした“曰く”を持つ者に居場所を与えてきた。同じく“闇”を受け継ぐ者として……。



「こレはただノ興味本位だカラ答え無くテモ良いガ、何故ずっとガキの姿デ居たンダ?」


 雇用主としてでも次期頭首としての責務を担う者としてでも無く、年齢相応の他愛ない質問に町は至極当然の事とばかりにこの上ない笑顔でこう答えた。


「ヘェ、モンさん以外の男はんから言い寄られとうありまへんよって…」


 “モテて当然”とでも言うような尊大なる態度に「ヤっぱりイイ性格ダな」とチェシャ猫のように笑うのだった。

愉しい家族計画なお話しでした

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