もう一人の主とおもちゃ箱
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オーヴェラント家別館。通称:おもちゃ箱 または 子供部屋。
「貴族が遊んで暮らせる時代など直ぐに終わる」という先代当主の考えの下、本邸からかなり離れた山間に造られた次期当主候補であるエスバーダ=フォン=オーヴェラントの為に造られた離れである。
屋敷の主であるエスバーダはまだ10歳ではあるが、祖父の命により自活させられる事とあいなった。
だがこの別館で働くメイドの殆どが自分の主を見た事が無く、僅か10歳の子供である事すら知らない。
何故そのような事態になったかというと、原因は世話係であるメイド長のソアラにあった。
ソアラは代々オーヴェラント家に仕える家の出自であり、自他ともに厳しく、また仕事に対しても全身全霊を持って取り組む人柄であった。
エスバーダが生まれた際に、最も歳が近く優秀なソアラがレディーズメイド(世話係)兼ガヴァネス(教育係)兼ナースメイド(子守女中)としての任を祖父より与えられたのだが、自分の持ち得る“全て”、つまりメイドとしての教育も施してしまったのだ。
なのでエスバーダ自身、一時までは自分は女性だと思い込んでいたし、今でも女性用の衣裳を纏う事に抵抗は少ない。
こうして貴族の嫡男でありながら妙にハイスペックさを誇る事となる。
そのエスバーダが6歳のおり、千尋の谷に我が子を落とす獅子の如く、別館にて自活させられる事になり、祖父が「貴様は何を以て生を得る?」との問い掛けに数瞬考えを巡らせた後、「………メイドさん」と答えたのだった。
尤も6歳の子供をメイドとして雇えば世間が邪推するに違いないし、明らかに倒錯趣味の疑いがある。なので考え方の方向性を変え、派遣メイドの教育と斡旋を行う事にした。
先ずは各職種毎の教育係と候補生を集めねばならない。教育係は貴族間のコネクションを通じて紹介戴いた。候補生も屋敷の事情で手放さねばならない者や自らのスキルアップの為に願い出た者が集まった。
必要最低限の人数が集まったのでエスバーダに子供部屋として宛てがわれたこの別館で事業を始め、現在に至る。
主な収入源としてはこれまで輩出出来た十数人の紹介料と派遣料、自分の家のメイドを再教育して欲しいとの依頼には教育料を戴いていた。
ちなみにこの別館の存在場所は依頼者側にもメイド側にも極秘事項ととして秘匿を義務付けている。何故なら女所帯な為、彼女達の身の安全性を最優先に考えたのと、娼館などと勘違いされては堪ったものでな無いからだ。
基本的に信頼のおける相手からの紹介でのみ承っているが、例外的に先日の成金娘の様に借金の形や口減らしの為にオーヴェラント家に売られてくるのを受け入れている場合もある。
それはそういう不幸な境遇に遭った娘達の身柄を保護する意味もある。放っておけば彼女達に訪れるは更なる不幸な未来でしかないのだ。
そんな幼い主の想いを知ってか知らずか、似た境遇の少女二人が諍いを起こしていた。
メイド候補生の問題児ルーチェと先日やって来た成金娘バリーナである。
「だから、何故ワタシがそんな下女の様な事をしなきゃならないの!」
「ったく、何で解らないかな?もうアンタは客人でもお嬢様でも無いんだよ」
どうやら仕事の仕方を教えている時に揉めた様だ。
「ワタシはここの主の面倒を見てやってくれと父に頼まれたからワザワザ遠路遥々こんな何も無い辺境の山奥まで来て差し上げたのに何故没落しかけの貴族女などの言う事を聞かねばならないんですの!」
「ああ、確かに我がシュタイン家は恥ずかしながらこのオーヴェラント家の援助が無ければ危険な状態だ。だがそれはアナタとて同じだろう、欲を掻きすぎて大失敗した成金の娘さんよ」
「なんですってぇーーッ!?失礼な!!」
「失礼なのはアナタだろう!?」
もう何と言うか『まぜるな危険!』レベル、近くに居るだけで口喧嘩を始めてしまうのだ。
「大体、ご主人様の世話ったって、全てソアラがやってしまってるんだから意味無いじゃないか!」
「貴様達、何をしている!さっさと口以外を動かんさんか!!」
噂をすれば影……とは言うが、その本人が現れた。横に小さな赤毛のそばかすメイドを連れて…。
二人ともその手に大量のシーツや下着などの洗濯物を抱えている。
「ちょ…、メイド長が洗濯なんて…」
「構わん、体調が思わしく無い者が何名か出てしまったのは私の管理ミスだ」
「だからって、エス……ヒィッ!?」
この屋敷の秘密を僅かに知るバリーナが口を滑らせかけた瞬間、目深に垂れ下がったシーマの前髪の奥から鋭い視線で睨め付けられる。
「どうしたの?バリーナ…」
「な…何でもありませんわ……オホホホ」
バリーナの様子にルーチェは首を傾げた。
「私はソアラ様直々にオールワークス(雑役女中)としての指導をして頂けるだで、寧ろ願ったり叶ったりでスだ」
※メイド・オブ・オールワークスとはその名の通り屋敷全般の仕事を受け持つ為、様々なスキルが必要とされている。多数の人員を雇えない貴族などからも需要が最も高いのでこの屋敷で教えを受けるメイド候補生の多くが目指している。
「し…失礼します」と会釈をした後、慌ててそれぞれの役目に戻っていった。
「……バリーナの事、かなり気にしているようだね」
「ええ、自分とかなり似た境遇ですので。ただし、ルーチェとは違い……」
ソアラが残念そうに瞼を閉じる。同じくオーヴェラント家からの援助を受け、借金の形にこの屋敷に来た二人だが、貴族の一人娘であるルーチェは持ち直せば血筋と家を残す為に婿をとってシュタイン家に帰る事が出来るが、バリーナには家督を継ぐ予定の弟がおり、持ち直しても帰る場所は無い。本当の意味で“売られて”しまっているのだ。
だからこそ、主であるエスバーダの存在を知らされている。万が一に気に入られ、娶られる事になれば僥倖だが、現状はメイド候補生の一人であり、自身の立場を認識させる為に初見で厳しい態度をとったのだった。
しかし、これでバリーナは地雷気味な要注意人物として監視せねばなるまいとソアラは考えを巡らせ始めていた。
先ずは各セクションのリーダーに話しを聞く事にした。
「そうだねぇ…まぁ、毎度の事だが自分を切り替える事が出来ない娘は厳しいね。中には自分の家で仕えていた者がああしていた、こうしていたと参考にする娘もいるが、自分の実力とのギャップに悩んでるかもね」
「新人ですか?やはり自分の立場を理解している娘は早いですね。逆な場合は……、まぁ余計な事を考えて無ければ良いですが」
「どうかしらぁ…まぁ誰しも通る道だしぃ。やっぱり基礎の差はあるかもよぉ」
キッチン、保全、接客…何れも明言は避けているが問題児を示唆しているのは確かだ。そしてある条件の者を指していた。
「お呼びでしょうか?」
少々憮然とした態度でソアラの執務室へとやって来た一人のメイド候補生。……バリーナである。
「忙しい中、すまないな。実は本日よりお前に坊ちゃまの世話をして貰おうと思う」
「シー……いえ、エスバーダ様の?」
「…ああ」
バリーナの立場はかなり特殊だ。彼女はメイドとなる為に来邸した訳では無い。あくまで親から多額の融資の形に売り渡した物品の一つでしか無い。
「だが、勘違いするな。残念な事に貴様にはメイドとしても、また家への融資を返済しようとする努力も見受けられない。よって非常に遺憾だが本来の立場として扱わせて貰う」
特に役目は無い、責任も無い。ただ主が思う時に思うまま扱われる存在“玩具”であり、当然人権も無い。
「そ…そんな非人道的な行いが…」
「赦されるさ、現にこうして我が親に売られた子供がいる」
ギリッ…と奥歯を噛み締めるも紛れも無い現実である。
「早速だが今夜、ご主人様のお身体を洗い清め、共に床に就いて貰おう」
精通も無い僅か10歳の子供の相手、身の危険など有りはしない。だが、異性の裸を見て触れる事、床を共にする事は年頃のバリーナには耐えられなかった。
翌朝、出入りの業者に手間賃を渡して頼んでしまった。
「この手紙を両親に渡して欲しい」……と。
―6日後、事件は起こった。
ガーデンメイドの役割として庭の手入れと立ち木の剪定を行っていたシーマ、当然お世話係のバリーナも共に箒を手に切り落とした枝や枯れ葉を集めていた。場所は別館の門の傍。
照り付ける太陽と日々の心身的負荷も重なり、お嬢様育ちのバリーナにはかなりの重労働となっていた。
暑さで視界がぼやけ始めた頃、開け放たれた門扉の前に一台の馬車が停まり、中から三人の男達が乱入し、内二人が背を向けていたシーマを拘束した。
「あ…貴方達、何を……」
言い終える前に最後の男の手刀がバリーナの首筋に落とされる。
「責任者に渡してくれや、お嬢さん」
投げ捨てられる一枚の封書。軽々と馬車に担ぎ込まれるシーマの姿が暗く閉ざされていった。
「………さて…と、一体何処だべなココは…?」
薄暗く、ガランとした広めの部屋。奥の方には木箱が積まれているし、窓らしき物は天井近くの明かり取りのみ。特徴的な造りからさっするに何かの倉庫のようだ。
手足が拘束されているし、何かされた形跡も“まだ”無い。金が目的ならメイドを誘拐する筈は無いし、肉体目当てだとしても他の娘達の方が有用だろう。もっとも、相手が児童性愛者で無ければの話しだが…。しかも赤毛でそばかすという典型的な醜女のシーマは無いだろう。
「…ぺっこ、面倒臭ぐせぇ事さなりそうだで」
どうやら状況から判断されたのだろうと判断したシーマは屋敷からどれくらい離れているか?抜け出す為に役立ちそうな物は無いか?などを見定め始めた。
明かり取りから射す陽光が作り出す影は短く、さほど時間は経っていないので馬車で運ばれたとしてもそうそう離れていない。
薄暗くてよくは見えないが、残念な事に武器になりそうな物も無い。ここは大人しくチャンスを窺い、少しでも情報を得た方が良さそうだった。
「何ッ!?シーマが?」
一方、屋敷では騒ぎを聞き付けたメイドに助けられ、気を失っていたバリーナからシーマが誘拐された事を聞いたソアラがその表情に焦りを浮かばせていた。
「それでどの方角に…?」
「そこまでは…ただコレを渡せ…と」
折り畳まれた紙には取引場所と時間、そして御定まりの脅し文句が書かれていた。
バリーナを部屋に運んで寝かせて世話をルーチェに、他のメイド達の事はハウスキーパーに任せて執務室から銃を持ち出し、屋敷を飛び出した。
ソアラにはある確信があった。バリーナでは無く、敢えてシーマを狙った以上、犯人は少なくともシーマの正体を知っており、複数人の犯行であろうと考えた。
「……最悪の状況を考えねばな」
手懸かりは馬車の蹄鉄と車輪の跡だけだ。この先にあるのは今は使われていない山小屋と山に篭る猟師が使っていた倉庫だけ。長期滞在する気が無ければ快適さは必要無く、監禁するなら閉鎖性の高い倉庫が適切であると瞬時にあたりを付けた。
「どうか無事であってくれ…」
ギリッと奥歯を噛み締めると倉庫への最短ルートを駆け登って行った。
「お目覚めですかい?坊ちゃん…」
閂を外し、開いた扉に浮かんだ影は3つ。逆光の為に人相は判らないが全員男のようだ。声を掛けた真ん中の長身痩躯な男がリーダーのようだ。
「わ…私など攫っても……ってのは無駄みたいだね」
“坊ちゃん”と言った以上、シーマの正体を知っており、尚且つ最近までの事情に通じている…という事だ。つまりただの金銭目的な無法者では無く、後ろに手引きした黒幕がいる筈だ。
「エッ?エエッ?コイツ、男なんですかいアニキ!?」
「どう見てもチンチクリンで不細工なメイドにしか……」
懐から取り出した瓶の液体を布に染ませてシーマの顔を乱暴に拭い、ウィッグを剥ぎ取った。
『……おお〜』
現れたのは流れるようにサラサラな金髪と幼さの残る端正な顔立ちの少年。だがその美しさ故にやはり少女と見紛う程だ。
「このような荒ら家へようこそ、エスバーダ=フォン=オーヴェラント様。随分と崇高なご趣味のようで…」
「まったくだ…しかも頼もしい世話係付きだ。ウチで学び直しに来るかい?家令君」
何故“家令”と呼んだか?それは染み込ませた油そのものも高級な物だったが、ハンカチ自体も上質な糸が使われており、しかも香が焚き込まれていた。ただの野党にそんな物が使える訳が無い。
おそらく30台後半であろう男と僅か10歳の子供が互いに薄笑いを浮かべながら丁寧な口調で罵倒しあう様はかなり異様だった。
「俺はてっきりみっともなく泣き喚いているかと思ってましたが、いやはや流石は次期ご当主様。可愛いげ無いくらいに肝が据わってらっしゃる。お陰で俺の手が痛まずに済みましたよ」
「いやいや、ついさっきあまりの異臭に目覚めたばかりでね。お陰で不様を晒さずに済んだだけさ」
倉庫の閂は外からしか架ける事は出来ない。つまり今、扉の外には少なくとももう一人誰かが居るという事だ。運よくこの3人を倒せたとしても外には出られはしない。抵抗は無駄だ、大人しく救援を待つしかあるまい。
「と…ところでこのアマ…、いや糞ガキが本当にオーヴェラント家の“子息”なんですかい?」
「ああ…、これが証拠さ」
リーダーらしき男がメイド服の襟首を掴むと一気に引き裂いた。
平らな胸の僅かに色が違う部分、そな少し上に刺々しい薔薇の花の様に見える痣があった。
「き…貴様ッ!?」
反射的に縛られた両足で蹴り上げようとするも不自然な体制な為、容易く躱されてしまう。それどころか裾が捲くれ上がり、生白い脚が露出してしまった。
ゴクリ…
「流石ですな坊ちゃん。下着まで女物とは…」
「女という生き物は周りが同性ばかりで尚且つ優秀だが自分より身分や容姿が劣る者には容易にその本性を曝すからな」
「特に親が金で買った“力”を我が物と勘違いする愚か者にはな」と付け加えた瞬間、リーダーに微かな変化が見てとれた。
まさかと思い、カマを掛けてみたがどうやら“当たり”らしかった。
「あ…アニキ、お…俺、もう我慢が……」
モゾモゾとズボンの腰紐を緩め始めた。
「オイオイ、こんなナリだが、仮にも嫡男様であらせられるぞ」
「ア…アッシも、もう男だろうが女だろうが構いやしねぇ。コイツ見てると何かこう…」
「まぁ、殺すなと言われてるだけだしな…」
「へへ…有り難ぇ」
有り得ない倒錯的なシチュエーションと視覚からの情報と事実の矛盾による脳の混乱。そして脅える事すら無く、射竦めるように睨めつける瞳を屈服させ、澄ました端正な顔を苦痛と喘ぎで歪ませたいという欲望に火を点けた。
下卑た笑みと涎を垂らしながらジリ…ジリ…とにじり寄る男達に哀れみと蔑みの眼で見詰めながら「そんなに追い詰められる程、女に相手にされないのかい?」と嘲るエスバーダの頬が張り倒される。
「煩ェよ、糞ガキが!今からそんな生意気な口をきけないようにしてやる」
突き飛ばされたエスバーダの肩を一人が押さえ込み、下半身を晒したもう一人がワンピースの裾に手を掛けてきた。
(どうやらソアラは間に合いそうも無いな…仕方が無い………諦メルカ…)
エスバーダはユックリと眼を閉じた。
我が主を攫った者共に気取られぬよう、気配を殺し最速で駆け抜ける。声を上げて安否を確認出来ぬもどかしさに焦りはつのった。
やがて見えてきた倉庫の屋根、ソアラは潅木の陰に身を潜めて様子を窺う。扉の横に時折後ろを振り返りながらニヤニヤと笑う男が一人。
(……間に合わなかったか?)
ギリっと奥歯を軋ませながら見張りの男の死角からユックリと近付き、硬く握り締めた銃のグリップをその後頭部目掛けて振り下ろした。
「グッ…」と低い呻き声を漏らして倒れ込む男を一度受け止めて音を発てぬよう地面に寝かせる。
壁に耳を当てて中の様子を探ると、数名の気配と押し殺すかのような低い呻きと何かが蠢く音。
勢いよく閂を抜き去り、扉を蹴り開けた。
「動くなーーーッ!!!!!!」
傾き始めたばかりの太陽は入口付近までしか照らさず、薄暗い内部は判別し難い。
両手で固定した銃を構え、警戒しながら歩みを進める。
「……ゥ…ゥグ……」
最奥の壁際に積まれた木箱の上に気怠げに横たわる男が一人、その手前には床に手を付いて座り込んだ男と下半身を露出し、前倒れでビクッ…ビクッ…と痙攣する男がいた。
「……遅かったか」
だが、おかしな事に誰も突入してきたソアラに振り向きもしない。ただ、ヌチャ…ヌチャ…という水音だけが聞こえて来る。
「……糞が!」
銃口を降ろす事無く近付いていくと緩慢に上半身を起こす影があった。それはエプロンドレスを引き裂かれ顔の半分が赤く染まったエスバーダだった。
「……遅いぞソアラ。お陰で“俺”はこんな奴らの相手ヲせねバならなかっタじゃないカ」
「………申し訳ありません」
だが銃口はそのまま降ろされず、飴を舐めるように口を動かすエスバーダに向けられていた。
声変わりもしていない少女のような声にノイズが雑じる。
「……ソアラ、お前ハ俺の何ダ?」
「私はオーヴェラント家次期ご当主エスバーダ様のメイドであり、そして…………貴様を狩る者だッ!!」
引き金を引こうとした瞬間、エスバーダが勢いよく噴き飛ばした口で弄んでいた物が眼前を掠め、射線が逸れてしまった。
薄暗い閉鎖空間に木霊する射撃音が鼓膜を突く。
「ククク……ソウダ、ソウデ無クテハナラナイ。ソノ為ニ貴様ラせいんくろすハ代々我ト共ニ在ル!」
立ち尽くすソアラの傍らを悠然と通り過ぎるエスバーダは振り返り天使の微笑みを浮かべる。その髪は漆黒の闇色から元の美しい黄金色へと変わっていった。
“悪魔憑き”。何代かに一度覚醒するオーヴェラント家に潜む闇であり、それこそが真の別館の存在、そしてソアラ達セインクロス家が付き従う理由だった。
「……さぁ、帰ろうか。お腹空いちゃったよ」
何事も無かったかのように微笑む10歳の少年を背にソアラは力無く下げた腕を見詰めるように項垂れこう呟いた。
「……Yes,my lord」
四肢が有り得ぬ方向に曲がり、辛うじて生きてはいる片目をくり抜かれた3人と縛り上げた見張り役を馬車に放り込み、御者台で手綱を操るソアラ。その膝には愛らしくも恐ろしい主が小さな寝息をたてていた。
お目汚し申し訳ない