そこだけがちがう
男は猫柄のティーカップに顔を近づけ、「えぇ香りや」と満足そうに女を見た。朱に揺らぐアップルティーの甘さが煙る。猫好きにとって至福のひととき。
ここは女の部屋。猫柄のテーブルクロスに、猫のスプーン、猫の置物。壁には猫のカレンダー。猫猫猫猫。猫こそいないが猫だらけで、猫嫌いが見たら全身の毛を逆立てて毛嫌いし、猫好きが見たら猫かわいがりしたくなるような部屋。女は猫柄の皿に盛ったケーキを置きながら「あぁ、えかったわぁ。気に入ってもろて」とひげを立てるような笑み。猫好き犬嫌いの彼にめろめろにほれた犬好き女の苦労がにじむ。
続けて、「ちょい待ってな」。猫柄のエプロンを外してから席につこうと、後ろ手で蝶々結びをほどきながら背を向けるが、天にも昇る気分が災いしてか足を絡めて猫クッションにすってん。男にカワイイトコロを見せようと気張ったミニスカートが派手にめくれる。
男は一転、蒼白。
「ちゃう。今の猫や」
女はスカートを押さえ真っ赤になってごまかす。
おしまい
ふらっと、瀬川です。
他サイトのタイトル競作に出展した旧作品です。
惚れた女の小さな悲劇をお楽しみください。