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平穏主義  作者: 平成辛未
9/15

清永と朝賀

朝賀が傷つかないように、って何だ?俺と何か関係があるのか?

俺は清永に聞いてみた。


「…みつるは突き放されたり、見捨てられるのが怖いのだ…」


清永はそう答えた。









清永と朝賀は小学生高学年からクラスが同じになり親友となった。朝賀と清永は互いに互いを理解する良好な関係を築いた。

中学生になってからも清永と朝賀は親友同士で変わることはなかった。


ただ朝賀のドジは今よりもひどいものだったようである。そのためか朝賀には清永以外に親しい友人はいなかったという。だが、朝賀は清永がいればそれでよかったようである。あくまでも清永の見解ではあるが。そして中学生になってから朝賀のドジあるいは運動音痴を執拗にからかうやつが出てきた……………


のだという。







「…そんなときにお前のような志をもつ者たちが現れた」


志、そんな大それたものではないが、俺のように朝賀のドジや運動音痴を治してあげようと言う協力的なやつらが現れたらしい。それらの者は、朝賀が執拗にからかわれたり嫌みを言われているのを見兼ねて協力を申し出たようだ。






だが、朝賀はこの協力者たちにも突き放された…………







朝賀の運動音痴やドジは簡単に矯正できるようなものではなかった。

もちろん朝賀はまじめに取り組んだし、弱音ははかなかったらしい。協力者が自分のために時間をさいてくれているのだから、頑張ってついていかなくてはと思ったのだろう。

しかし朝賀は度重なる練習にも関わらずなかなかうまくならなかった。


朝賀に協力した同級生、先輩、後輩、それに教師もことごとく朝賀を見放した。それは協力者が自発的に見放すのもあったし、協力者の友人たちが"やっぱどうにもならないよ"と協力者に見放すようにけしかけたものもあった。

中には見放す際に"マジドジ!!もうやってらんねぇ"とか"馬鹿か!?"などの嫌な言葉を浴びせられたこともあったようだ。



今まで何度も協力者が現れたが、その協力者たちはこのようにことごとく諦めて朝賀から離れていった。朝賀は見放されるたびに傷つき、そして自分の運動能力のなさとどうしようもないドジさに絶望した……。


それから協力してくれる者さえもいなくなり、清永以外には仲良しもいなくなった。






つまり朝賀は、いわゆる協力者の俺に見放され、見捨てられ、暴言を吐かれるのを一番恐れていたのだ。朝賀は傷つくのが怖くて、俺の協力を拒んだのだ。



二度と傷つきたくない……その気持ちは俺にも痛いほどわかる。

特に味方側についてくれた人に離れられたり、裏切られたりすることは非常にダメージが大きい………。

許せないことだ。許されることではない。だが俺はそんな酷いやつらに立ち向かう勇気がない…。非常に情けない……。


「で、でも、清永は親友だろ?見捨てたやつとか、からかったやつに何か言わなかったのか?いつもの辛口発言とかでさ……」


「…俺はお前が思っているほど…強くないのだ……」


「……え?!」


清永は俺が思っているより強くない、とはどうしてだ?

清永は大人しいタイプに俺の中では分類されるが、俺や朝賀とは違い辛口発言ができ、且つ"やや不良"にもきつめな発言ができる。動じる様子も一切見せないし。明らかに平穏を追い求め、人付き合いを避け、他人の視線や発言が気になる俺よりかは遥かに強いはずなのだが。




「…俺は…………みつるを守れなかった…。」


「…朝賀を守れなかった?」


「…うむ…」


清永は静かに話を続けた。







清永は以前は喧嘩の仲裁や争い事などに介入していたのだという。もちろん友人を守るためである。

しかし、清永の辛口発言が災いを招いた。辛口発言で余計に喧嘩がこじれたり、友人を守るはずが知らぬ間に清永の発言が友人を傷つけていたり、相手に恨まれたりとうまくいかないことが多かったのだ。


中学生になったある日、ふと気づくと友人は朝賀以外にはいなかった。これには動じない性格の清永もこたえたらしかった。自身の発言が元凶となって、友人が離れていったことに深く落ち込んだ。


そんな時、朝賀に対する執拗なからかいが勃発した。清永はもし自分自身の発言が朝賀を知らず知らずに傷つけてしまったらと思うと何もできなかった。

気づかずに朝賀の反対側に立ってしまうことを恐れたのだ。

清永はどうしていいのかわからず、ただ見ているだけしかできない自分を恨んだ……。




一方朝賀は自分のことで清永を苦しませてしまっていることを察知し、学校では清永を苦しませてしまわないようにした。つまり朝賀は、学校では清永と距離を置き、清永に心配させないように努めたのだ。


高校に進学してからは朝賀がからかわれることはなくなったが、清永と朝賀は未だに過去を引きずっていた。



清永は親友に気を遣わせたこと、遠慮させてしまったこと、そして守れなかったことを悔いていた………


「…このままではいけない……。だから、日高とみつるに介入した…」


清永もまた、清永なりに現状を打破しようとしていた。


そして今回、清永は朝賀が再び見放されるということが起きないように、俺に手を引くよう要請してきた。清永は、朝賀がこれ以上傷ついていくのだけは回避したいのだろう。


しかし、これで見放される危険はなくなるが、体育で朝賀が嫌みを言われるのは今までと何も変わらない…。やはり根本から変えなくては!……









「き、き、清永!!朝賀を守るには、やはり根本から治さなくてはダメだ!!」


俺は思いきって清永に意見した。俺は吃りながらもわりと大きな声を出した。


「何故、陰気なのにそこまで関わる………?」








俺は暗黒なる歴史を語り始めた…。

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