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平穏主義  作者: 平成辛未
15/15

平穏?

長年人付き合いを避けてきた俺。

そんな俺に盟友ができた。

このことは俺の生活に、何らかの変化をもたらすだろう。




昼休み。

あの長くて憂鬱な昼休み。

友人が一人もいないで、妙に目立っていた俺。人の目を気にして生きた心地がしなかった。


だが、それは過去の話。

俺の現状は変わった。

もう他人の目を気にしなくてもいいだろう。


俺は清永と朝賀の三人で、昼休みを過ごすようになったのだ。



「…………」



「…………」



「…………」



……それにしても会話がない………。

清永も、朝賀も、そして俺も、弁当を黙々と食べるだけで会話がない…。


友人って、こんなもんなのだろうか……。

まあ清永や朝賀も大人しいタイプではあるが、俺よりは話をすると思う…。

俺に気を遣っているのか…?確かに、話さないほうが俺には楽なのだが……。



俺は周りを見回した。

何人かの生徒が急いで目線をそらした。


……注目されている!!?


教室に無言の集団が現れたことに、生徒どもが注目していた…。

以前は陰気な俺だけだったが、今は清永と朝賀の三人だ。清永と朝賀にも、生徒どもは何らかの思いを巡らしているのだろう。


人の目を気にしなくていい平穏が訪れたのではなかったのか……。


異様に目立っている俺達。周りから不思議がられている……。

だが清永と朝賀は気にしていないようだ。弁当をうまそうに喰い続ける。



「おいしかったねぇ」



「…美味だったな」



朝賀と清永は、弁当を喰い終わるとそう言った。

弁当を喰うときは、それだけに集中したいのだろう。食事中会話がなかったわけは多分それだ。

俺もそのこだわりがわからなくはない。話していたら、おいしく弁当を味わえないからな。


だがこれでは無言集団として変に目立つ……。

だからといって、無理に会話しても反って目立ってしまう…。

この件に関しては、周りに慣れてもらうしかないか。



「あれ!?トムムはまだ弁当残ってるね」



ブフォォォーーーーーーーォッッ………

俺は思わず吹き出してしまった…。


「きたね〜」



「キモっ」


周りの生徒どもが、俺が吹き出したことでいろいろと言っている。

だが今、俺にはそれより気になることがある。



「トムムって?!」



「つとむくんのニックネーム。」



…トムム……。つとむの"とむ"をいじりやがったのか!!?

朝賀は清永のことを"たかちゃん"と呼んでいる。

朝賀も俺の名前を呼ぶようになったが、トムムなんてニックネームは初めて聞いた…。

流石にトムムはないだろう。



「ト…トムムは…却下で」



「え?!ダメか…。いいと思ったのに」


いいはずがない!!

俺はアイドルなんかじゃない。そんなニックネームは可愛いやつに授けられるものだ。俺は残念だが可愛くない。

いや、可愛いやつにもそんなニックネームつけないかもしれない…。

それに"トムム"と誰かに聞かれたらどうなる?

"うわ日高のやつ、朝賀にトムムなんて言わせてるのか?マジキメー、マジキショイ"って言われ思われるのがオチだ。


「つとむは何と呼ばれたいのだ?」


「別に今のままでいい…。"つとむ"と"つとむくん"で充分だ。」


「つとむくんだと、ちょっと長いんだよ」


どうやら朝賀には"つとむくん"と言うのが長いらしく、俺の新たなニックネームを探しているようだ。


「じゃあ…つとむでいいぞ」


「"つーさん"などどうだ?」


清永は俺の言葉を聞いていないのか?"つとむ"でいいって言ったのだがな。

しかも"つーさん"って何だ?親父くさいニックネームだな…。


「つーさんか。いいかもね」


朝賀が清永にグッドした。俺的にはグッドではない。まあ…トムムよりマシではあるが。


「つーさん、弁当の魚。どこで釣ったのだ?」


清永が俺の弁当を見て言った。

コイツ、あの釣りの日誌の登場人物を参考にしやがったな!!?

何が"釣ったのだ?"なんだよ。今日の俺の弁当に、魚なんか入ってないぞ。

清永は狙ったようだ。

清永とはそういうやつなのか?俺は時々清永がわからなくなる…。


「"つーさん"は諸事情により却下」


「厳しいな。つとむくんは考えすぎなんじゃない?」


確かに考えすぎかもしれない。清永の参考元は"つー"ではなく、"すー"だ。

だが清永があの発言をしてしまった時点でアウトだ。

そもそも"つーさん"自体なんか親父くさいだろ。仮に"つーさん"と誰かに聞かれたらどうなる?

"うわ、日高のやつ、清永につーさんって呼ばせてんのかよ?!!マジ何様なんだよ!!腹立つわー"って言われ思われるのがオチだ。


"つーさん"も"トムム"もダメだ。誰かに聞かれた暁には俺の平穏は崩壊する。それだけは未然に阻止しなければならない。


「"とっつぁん"とかどう?」


「と…とっつぁん!?」



「みつルパン。それは良い愛称だ。」


清永が朝賀にグッドした。全然グッドじゃないし、みつルパンって何だよ?!

"とっつぁん"って、あの怪盗を追いかける警部のニックネーム。清永はそれに掛けたようだ。

明らかに狙っている…。

一方"みつルパン"と言われた朝賀は、別に気にすることもなく普通な様子だ。

朝賀が気にしないということは、清永はこういう一面もあるのか?よくわからない。


「"とっつぁん"も諸事情により却下」


「つとむは堅いな…。」


「たか と みつる のネーミングは、ちょっとな……」


「では"つと"はどうだ?」


同盟締結後、次第に俺は清永のことを"たか"、朝賀のことを"みつる"と呼ぶようになった。

俺が清永を"たかふみ"の"たか"で呼ぶから、"つとむ"の"つと"でいいのではないかと思っているようだ。


「いや、何か…おかしいだろ?…ニックネーム的じゃない…」


「まあ、"たか"ってニックネームは聞くけど、"つと"は聞かないね」


「では、つとむが付けるならこれだ…と思う自分の愛称は何だ?」


清永が聞いてきた。

自分に愛称を付けるとしたら何がいいか、と聞かれてもなかなか簡単に出てこない。

清永と朝賀は、まじまじと俺を見つめてくる。却下しまくった俺の答えを待っているようだ。

俺は考えに考えを巡らし、何とかニックネームを思いついた。



「"トム"……とか…」



「………」



「………」



…黙られた……。やはり黙られた。

付けるとしたら、という仮定で付けたニックネームだ。俺はこれで呼ばれたいわけではない。

それを勘違いしないでほしい。



「僕はいいと思うよ」



「西洋かぶれの洒落た愛称で良いな」


朝賀と清永は俺にグッドした。

"トム"と呼ばれたいわけではない。…ないのだが、……グッドされると嬉しいものだな。

清永の"西洋かぶれの"っていう語句は刺々しくて余計だが、グッドの評価は素直に嬉しい。



「…トム、窮鼠猫を噛むという諺がある。しかと心得るように…」



なぜか清永は急に諺を言ってきた。

窮鼠猫を噛む……、俺と何の関係があるんだ…?





鼠と猫!!

海外の猫と鼠のアニメだ!!"トム"とはこの猫の名前だ。

しまった……!!やらかした…。俺は清永の目の前に餌をばらまいてしまった…。

いつも鼠に返り討ちにされる猫だから、窮鼠猫を噛むという諺を清永は俺に使ったのか……。

またも清永を調子づかせてしまった。

清永は冷静で無表情ながら、結構内心はユーモアのあるやつなのか?

全然面白くはないが……。



だが、とにかく……



「…"トム"は名付けるとしたらの話だ。使用は不可だ」


「あ〜残念」


「良かったのにな…」


清永はさぞ満足だっただろう。朝賀は残念そうだ。そこまで言い易さにこだわらなくてもと思うのだが…。

しかし、ニックネームは親しみとか身近さも関係している。朝賀はそういうものも重視しているのかもしれない。



「"つっちゃん"はどう?」



朝賀が再度ニックネーム候補を上げてきた。

"つっちゃん"……、俺にはあまり似合わないニックネームだが、今までの候補の中ではベストだ。

それにこれ以上変なニックネームが出たら困る。この辺で妥協したほうがいいだろう。


あとは清永の餌となる言葉かどうかだ……。



「…良い愛称だな。」



清永は清永ユーモアを発動することはなかった。

"つっちゃん"は餌言葉ではなかったようだ。

それならば安心して妥協できる。


「"つっちゃん"…で…いいぞ……」


俺は朝賀にグッドした。

妥協ではあるが、朝賀の俺に対するニックネームは"つっちゃん"に決定した。


何とか話は落ち着いた。一件落着だ。


俺は残っている弁当を食べだした。

ニックネーム議論に集中してしまって、箸がすっかり止まっていた……。ひやひやさせられて箸が進まなかったのかもしれないが。


だが俺はふと気づいた。

議論中、他人の目を気にしていなかったことに。

清永と朝賀に振り回されたのだが、それが他人の目を気にせずにいらせてくれた。


これは平穏だと言えるのか?


結果として、他人の目を気にせずいられたというのは事実だ。

ということは、平穏と言ってもいいのかもしれない。



「つっちゃん?考え込んでどうしたの?」



相変わらず俺は平穏について考えを巡らせ、気づかないうちにまた箸が止まっていた。



「つとむ、…実はトムムが良かったのか…?」



「…それはない。」

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