三者同盟
あの体育の授業以来、朝賀は体育で嫌みを今のところ言われていない。
朝賀の平穏をだいぶ取り戻せたようだ。
だが油断は禁物だ。これからも米倉たちを注視して、平穏を確実なものとするため訓練しなければならない。
「…よし、今日はこの辺で切り上げよう…」
日がだいぶ西に傾いた頃、俺達は訓練を切り上げることにした。
俺は荷物を纏め帰る準備をし、いつものように一人で帰ろうとしていた。
「訓練ありがとう、日高くん」
朝賀が不意に言ってきた。
朝賀は相変わらずのドジさも露呈させているが、一生懸命訓練している。
バスケの基本技も大方できるようにもなった。
「朝賀の平穏のためだ…。気にするな」
俺はそう朝賀に言った。
俺の経験が朝賀に活かされ、朝賀が変われたということは非常に喜ばしい。
それに俺も朝賀に協力するということで、以前の俺から少し脱却できたのだ。
「日高。俺も感謝しているぞ」
清永が言った。
清永は、俺が朝賀に成長を促したこと、訓練に協力してくれていることを感謝した。
「気にするな…。俺達三人は同盟的関係だからな…」
「同盟?」
朝賀が首をかしげた。
朝賀はピンと来ていないようだ。
同盟とは同じ目的を持ち、協力し、行動することをいう。俺達三人は、現状打破という同じ目的を持って協力し助け合っている。
俺は、俺と朝賀と清永の関係を同盟として表した。
「つまり、友人的関係だと言いたいのだな…」
清永は同盟という言葉を、友人という言葉に置き換えた。
俺は現状打破のため、清永と朝賀に協力しているが、これだけで友人だと言えるのだろうか…?よくわからない…。
俺は人付き合いを避けてきたため、友人の作り方を忘れてしまった。どういう手順を踏めば友人になれるかわからない。
俺と清永と朝賀は友人だと言えるのだろうか……。
そして、そもそも二人は陰気に見られている俺を友人だと思っているのだろうか?
「なんだ、そういうことかぁ。もちろん、僕達三人は友達だよ。」
朝賀があっさりと言った。朝賀は俺を既に友人と認識していた。
こんなにも簡単に友人になれるものだっただろうか…?友人になるというのは、もっと難しかったような気がするのだが…。
「俺も既に日高を友として分類しているがな…。」
清永も俺を友人として捉えているらしい。
どうやら俺だけが友人というものに神経質になっていたようだ…。二人とも俺を既に友人だと認識していた。
「日高もそうなのだろ?」
清永が聞いてきた。
「…お、俺は……」
俺は朝賀と清永を友人として迎えても構わない。だが、俺なんかでいいのか?
その気の迷いから、友人だと言うことができない。
「違うの……?」
考えこむ俺に、朝賀が言った。
見ると朝賀が哀しげな表情で俺を見つめている…。
…違うわけない…。違うわけがない。…ということは…
「お…俺達は、友人だとして…さ…差し支えない」
俺は思い切って俺の立場を明確にし、曖昧ながらもついに友人だと明言した。
「そう、僕達は友達だよ!」
「こうでもしなければ、日高は友になりきれないからな」
朝賀の哀しげな表情は、明るい表情に変わった。
朝賀や清永は、協力し助け合う時点で俺達が友人だと認識していた。だが俺はそれだけでは友人だと認識していなかった。それを清永は見抜いていた。
友人の作り方がわからず、なかなか友人になりきれない俺に友人だと明言させたわけだ。
「だが…俺が友人でいいのか…?陰気に見られる俺で…」
俺には気掛かりなことがある。クラスメイトに陰気なやつだと思われていることだ。
俺が清永と朝賀の友人になれば、二人にも何らかの被害が及ぶのではないだろうか。
本当に俺が友人で清永と朝賀はいいのか気掛かりだった。
「そんなの全然気にしてないよ。」
「俺達は互いに助け合う仲ではないか。日高は陰気だが、大事な友だ」
清永も朝賀も俺の陰気なことを気にせず、友人だと認めてくれた。内心嬉しかった。
こんな俺を認めてくれた清永や朝賀は、俺にとっても大事な存在だ。大切にしなければならない。
「そ、そうか…。では同盟的友人関係だとしよう…」
「…日高もこだわるな…」
「じゃあ、同盟組もうよ。そしたら友達の絆も強まるよ」
朝賀が俺と清永に提案した。
現状打破への協力の強化と関係の明確化というのは悪い話ではない。
いや、むしろ友人の作り方を忘れた俺のほうが、三人の関係の明確化を望んでいたのかもしれない。
俺と清永は朝賀の提案を受け入れた。
同盟の目的は、現状打破及びそれに伴う相互扶助。
俺にとっての現状打破は、脅かされている平穏を脅威から守ることだ。
清永の現状打破は、介入や仲裁の封印を解き清永の正義を貫くこと。
朝賀の現状打破は、運動音痴の克服で平穏を取り戻すこと。
これを互いに助け協力し、それぞれの短所をカバーすることで現状打破に繋げるのだ。
そして、より良い高校生活を目指すことを確認した。
こうして俺達は同盟を結び、俺には数年ぶりに友人ができた。
いや、共に協力し助け合う盟友ができた。
これからも俺の周りの環境は変わるかもしれない。平穏が脅かされることもあるかもしれない。
だが、俺には盟友がいる。恐れることは…、多分ないだろう。
協力すれば、どんなことも乗り越えていけるはずだ。
「じゃあ、帰ろうか。日高くんも一緒に」
一人で帰ろうとしていた俺に朝賀が言った。
「…もう気兼ねすることはないだろう…」
「…そうだな。…じゃあ帰るか…」
夕焼け色に染まる道を、俺達三人は共に歩き始めた。




