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平穏主義  作者: 平成辛未
13/15

現状変化

放課後の校舎裏。


朝賀の基本技習得のため、俺達三人は実戦的な訓練を続けた。

訓練を続け、朝賀は以前よりボールを怖がらなくなった。マーク等も比較的上手くなってきた。

だが、まだまだな部分は多い。平均的にできるようになるまではこれからも訓練を続ける必要がある。






そして、訓練開始後初となるバスケの授業が訪れた。


「まずは落ち着いて……、訓練でやった技を実行するんだ」


朝賀に体育が始まる前にそう伝えた。朝賀は頷いたが、どこか不安げだった。まだ訓練を始めて一週間程度だ。不安になってしまうのも無理はない。


「…みつるは訓練してきたのだ。自信を持て」


清永も朝賀を励ました。

一週間と言えども、一日も欠かさず訓練してきたのだ。以前の朝賀とは違う。訓練してきたということに自信を持っていいのだ。

自分を信じてプレーに臨んでほしい。そうすれば、プレーは自ずと積極的になる。


だが一週間だけでは基本技も充分に習得できていないのも事実だ……。

訓練では様々なシチュエーションを考慮してきたが、訓練してきた内容通りいかずに動けなくなる可能性もなくはない。

俺は訓練の内容を踏まえつつ、とにかくボールにかじりつくように朝賀に伝えた。


「大丈夫だ」


最後に俺は大丈夫だと朝賀に言った。清永も朝賀を見て"うん"と頷いた。


そして俺達は体育館へと赴いた。







いよいよ体育が始まった。他チームがバスケをする中、観戦中の朝賀は固まっている……。

どうも緊張してしまっているようだ。この緊張がいい意味での緊張ならばいいのだが…。

とにかく落ち着いてプレーすること、積極的にボールを追うことが大事だ。

俺達は今はただ朝賀を見守ることしかできない。



ピピーーッ



笛が鳴り他チームの試合が終わった。

次は朝賀の出番だ。

朝賀、そして米倉たちがコートに入る。

相手はあの時同様、バスケ部員一名をエースとするチームだ。

朝賀は大きく深呼吸した。




ピッ




ついにゲームが始まった。ジャンプボールでボールを得たのは朝賀・米倉チームだ。

エース格が米倉と一気にシュートを狙いに行く。

だが相手チームにブロックされ、パスするも遮られボールを取られてしまった。今度は相手チームが攻め返してきた。

朝賀は相手方の主力格をマークしている。

主力格も攻め返すため、全力で走りだした。朝賀はそれに一生懸命ついていく。


相手はパスを上手く利用し、朝賀のチームの守りを抜いていく。

次第に相手チームの主力が朝賀のチーム側に上がってきた。

ここで米倉が相手のパスを奪った。

米倉は再び攻め返そうとするが、相手方にドリブルを邪魔されボールを奪われてしまう。


米倉・朝賀チームは米倉とエース格二人が中心となりプレーをしている状態だ。朝賀含め、他のチームメイトとの信頼関係が残念ながら構築されていないのだ。

今までの朝賀に対する嫌みがチームに悪影響を及ぼしていた。

米倉たちはできない朝賀を全くあてにしておらず、強いやつだけで攻め上げるというスタンスを取っている。

それがほぼ米倉とエース格二人だけでプレーするという偏りを生じていた。


一方相手チームはエースをバスケ部員一名としながらも、チームメイトとうまく連携ができている。

それぞれが自分の主な役割を果たし、エースは時折指示を出しチームを動かす。


チームワークは遥かに朝賀・米倉チームのほうが劣っている。米倉は何度か相手のボールを奪うが、その度に奪い返される。強いやつだけで動いても限界があるのだ。


相手はついにシュート射程圏内にやってきた。

朝賀は必死に相手の主力格をマークし続けている。

ボールを奪おうとチームメイトが相手方選手を取り囲む。また、パスを渡らせまいとマークしているチームメイトもいる。


相手方選手は全員マークされている状態だ。

ボールを奪われまいと、取り囲まれていた相手方選手がパスをしてきた。

それはパスを妨害するチームメイトをすり抜け、朝賀のマークする主力格に向かってやってきた。


朝賀は取る構えをした。しかしボールを取ろうとして掴んだのはよかったのだが、手が滑ってしまった…………。


ボールはマークしていた相手方主力格に渡ってしまった。


…惜しかった。非常に惜しかった……。この失敗で朝賀が動揺してしまわないことを願うばかりだ……






と思っていたその時、

朝賀が主力格の持っているボールをはたき落とした。


はたき落としたボールを朝賀は掴みとり、マークから外れている米倉にパスした。


米倉は再び攻め上がった。相手方チームはほとんど攻めに出ており、守りが手薄になっていた。

米倉は後続のエース格と連携しながら、シュートを決めた。


朝賀・米倉チームが得点を先取したのだ。

ボールを朝賀に奪われた相手チームは唖然としてしまっていた。

おそらく相手チームは朝賀を見くびり、朝賀がマークする主力格にボールをパスしたのだろう。

主力格はボールを手にしてから、朝賀がいるにも関わらずそこまで警戒していなかった。

まさに不意をつかれた感じだ。


しかし米倉たちは朝賀の変化に気づいているのだろうか?

米倉たちは相変わらず主力三強だけで先取点を喜んでいる。まるで自分たちだけの手柄のように喜んでいる。



ゲーム再開。

朝賀は再び主力格をマークしている。

米倉は相手チームのボールを奪い返した。

すると朝賀にマークがついた。米倉から朝賀にパスが回らないように牽制しているのだ。

今までのゲームではこのようなことはなかった。だが今このゲームから朝賀にマークがつくようになったのだ。

相手チームが朝賀を警戒しているということだ。変化が起きたのだ。


朝賀は主力格をマークしながらも、奪いとれそうなボールを奪おうとしたり、ドリブルを邪魔したりと全力をつくした。

相変わらずのドジさも露呈したが、朝賀は積極的にボールにかじりついた。それは明らかに以前の朝賀とは違った。


しかし警戒しだした相手チームの力量に結局敵うことはできず、朝賀・米倉チームは敗北を喫した。






「あ〜あ」


朝賀のチームのエース格のやつが大きな溜め息をつく。その目線は明らかに朝賀を見ていた。まるで負けたのは朝賀のせいだと言ってるかのようだ。


「俺らのチーム、クソ」


もう一人のエース格が呟いた。

チームワークがとれていないチームが勝つわけがないのだが、どうやらこのエース格はそれに気づいていない。チームワークを今の一言でまた一つ崩したことにも気づかない可哀相なやつだ。




「おい!朝賀ーっ!」




米倉が朝賀を呼んだ。

俺と清永、そして朝賀に緊張が走った。

今回の授業では、まだ朝賀に直接嫌みや嫌がらせは行われていない。

だが今から勃発する可能性もある。


清永は目を見張り、様子を見守っている。清永は米倉たちの出方を伺っているのだろう。

最悪の結果、清永は米倉たちに口を出すという行動に出るだろう。清永はやはり強い……。

清永は朝賀と米倉の様子を凝視している。

俺はただ固唾を飲んで見守るしかできない……。




「おい!朝賀!お前、いつもと違ったな」



「放課後、バスケの練習してるから……」



「ふ〜ん、そうか。でもまだまだだな〜。もっと練習しろよな」



米倉の態度は俺の想像と違っていた。

俺は米倉も他のエース格同様、嫌みなことを言うと思っていたからだ。しかしその予想は幸運にもはずれた。


米倉は朝賀の変化に気づいていたということだ。

また励ましともとれる発言をしたことからも、米倉の態度はやや軟化したようだ。

しかし米倉の今回の言葉は、決して明るい感じで話しかけたものではなかった。多少突き放すような言い方に聞こえなくもなく、完全に態度を変えたということではない。これからも注視していかなければならない。

だが米倉の態度が少しでも変わったこと、相手チームが朝賀を警戒するようになったことは大きな変化だ。


そして何より朝賀が一瞬だけでも活躍できたことは、非常に大きな変化だった。






同じチームのチームメイトと小さくならずに話している朝賀を見て、俺は胸を撫で下ろした。


清永も安心したのか、心なしか少し微笑んでいるようにも見えた。



俺の経験と教訓を活かし、朝賀は少しだけだが平穏を取り戻せた。

この調子で朝賀の平穏を取り戻していき、俺の平穏を守っていくつもりだ。




もしかしたら、俺の平穏主義も以前のものとは少し違うものになったのかもしれない。

と、思ったのだが気のせいだろうか…

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