訓練!
放課後………
「えー…、では、まずはどれくらいできるか見てみるよ」
俺は朝賀の訓練を開始した。
体育では今、バスケをしている。今後もサッカーやバレー等々、チームプレーの競技が出てくる可能性が高い。
そこで俺は朝賀がバスケを平均的にできるようにする訓練から始めることにした。
体育で見ていると朝賀はボールを怖がっていると大方判断できた。まずはボールに慣れることが大事だ。
「ドリブル…してみようか」
俺は朝賀にドリブルをさせてみた。
動かずその場でドリブルをすることはできたが、動きながらドリブルをすると足にボールが当たって失敗してしまう。だがこれは根気よく練習すればできるようになる。心配するほどのことではない。
「じゃ、パスしてみよう」
次はパスをしてみた。
やはり朝賀はボールを怖がり全然取ることができない。
そして朝賀からのパスは弱々しく、俺のところまで届かなかった。
パスはできるに越したことはない。パスは基本だし、決して主力じゃない朝賀にも必要とされる技だ。
これは上達したほうがいいが、これも根気が要りそうだ。
「…よし、訓練の最初の方針が決まった」
「どんな方針?」
「基本技を習得してもらおう」
ボールを怖がっている朝賀は、まだまだ基本技が充分にできていない。応用技よりかはまず基礎を固める必要がある。
「内容は三項目だ。」
「三つか。どんな技を?」
「一つ目の技は…パスだ」
俺は朝賀にパスの訓練法をして見せた。
始めにボールを頭上に思いっきり投げる。次に落ちてくるボールをキャッチする。これでパスを受ける練習になる。そしてキャッチしたら目標物にボールを投げる。目標物は壁が好ましい。これはパスの練習になる。最後は壁に当たって返ってくるボールを全速力で取りにいき、再び頭上にボールを投げる。これを繰り返す。
これが俺式訓練だ。
「なるほど。これがパスの訓練。」
「そうだ」
朝賀は早速俺のパス訓練法を始めた。
ただ、頭上に上げたボールが取れなかったり、頭に当たったり、転んだりとまだまだだったが、朝賀は一生懸命にやっている。
朝賀は素直でいいやつだな。こんな俺の訓練法を不審がらず素直に受け入れてくれるんだからな………。
「……よし、…次は邪魔をする訓練」
「邪、邪魔?」
「えーっと…邪魔とはだな…マークすることと、ボールを奪うことだ…」
「邪魔……」
どうやら朝賀は性格上、邪魔することが苦手らしかった。人に遠慮してしまい、ボールを取れないらしい。
「朝賀、…ゲームは……正々堂々なんだ」
俺はそう朝賀に言った。ゲームで遠慮してしまっては正々堂々勝負していることにはならない。これは相手にも、チームメイトにも失礼になってしまう。
決して朝賀はそういうつもりじゃなかったというのは知っている。ボールが怖い、何か気が引ける、自分がボールを拾っても…という感情から生じたことだ。
「…大丈夫だ、できるようになる。そしてこの邪魔は正々堂々な技だ…」
俺がそう言うと、朝賀は納得した。
ということでマークの訓練法を見せた。
まず、相手の動きを想像する。
そしてパスが通らないようにするため、想像している相手についていく。
動きとしてはこれだけだが、相手の動きを想像し訓練しなければならないという難しい訓練だ。
「忍者みたい。」
朝賀が言った。まあ、確かに手を広げてマークしながらの素早い移動をするから、忍者にも見えなくはないだろう。
「…実戦的ではない」
ナ……。鋭い一言だ。
確かに試合での人の動きは一様ではない。その一様ではない相手の動きを想像だけでカバーできるか、と言えばカバーしきれない…。それに想像だと自分の都合のいい動きだけを想像してしまう畏れが………
「!?」
今の鋭い一言…。
急所を突くようなというか、的を得たようなというか、そんな言い方をするのはアイツしかいない……。
声がしたほうを振り返ると、やはり清永がいた。
「俺もできることがあれば協力する…」
清永は朝賀の訓練に協力しに来てくれたようだ。
朝賀が俺の訓練を受けると承諾して以来、清永と朝賀は学校でも遠慮しすぎることもなく仲良くいるようになった。現状が少しずつ打破されている。いいことだ。
「しかし…今の訓練はマークの訓練というよりも、…妄想力の訓練だ…」
グッ………。妄想ではない、想像だ!!
だが清永の言う通りでもある。想像に思考力が大幅に費やされ、マークのことまで考えきれないこともある。想像力の訓練とも言えてしまう。
俺も始めはそうだった。これは自分に厳しくならないとできない訓練なのだ。
「だ、大丈夫。……積み重ねればできるようになる」
「そうだよね」
朝賀はそう言ったが、清永は腕組みをして何か考え込んでいるようだ。
「……とりあえず、次はボールを奪う訓練のやり方…」
次にボールを奪う訓練法を見せた。
これもまず相手の動きを想像する。
そして想像中の相手の持っているボールを奪う。掴んでいるボール、ドリブル中のボール、パス中のボールなど様々な状況を想定する必要がある。
また、ボールを奪うときはかなり力が必要となる。それも想像し、ボールを一気に引き取るか、力強くはたき落とさなければならない。
「日高はついに発狂した…」
ボールがあると仮定し、それを掴み取ろうとする仕草やはたきおとそうとする俺の仕草を見て、清永は言った。
………確かに、端から見ると変なやつだろう。仮定だから何もないわけで、前置きがなかったら、見えない何かを掴み取ろうとしたりはたき落とそうとする気持ち悪い不審者と見られるのも無理はない…。
「異常な妄想力だ」
ガハァッッ………。い、異常な妄想力……。相も変わらず辛口発言の連発……。
「たかちゃん、そんなこと言ったらダメだ!」
朝賀……。俺を守ってくれるのか??…ありがたい…。清永のことを理解している朝賀ならうまく諭せるだろう。
「日高くんは異常じゃないよ!ただ妄想力豊かなだけなんだ!」
ん?な、なんか……微妙だな。朝賀は真剣に訴えてくれてるのだが、どこか少しズレているようだ…。
「…そう、これらの訓練は妄想力豊かでなければ難し過ぎ、上達が大幅に遅れる…」
清永が言った。
…確かにそうだ。
様々な状況を想像しきれた俺は、何とか上達することができた。しかしそれでも何とかで、やはり始めは想像に思考力を費やしてしまう……。
様々な状況を想像するというのは難しく、想像することが苦手な人はどうしても上達が見込めなくなってくるだろう。
「日高…、訓練内容を考えぬか、より実戦的なものに…」
「え?!…でも……どうすればいいか……」
俺には考えつかなかった。俺式訓練法をより実戦的なものに改革する案が出てこない…。いったいどうすれば実戦的な訓練法になるだろう…。
「俺達はもう一人ではないのだ…」
清永がそう言った。
「三人で訓練すれば実戦的になるんじゃないかな?」
朝賀が提案するように言った。
俺達はもう一人じゃない…。気がつかなかった…。今、ここには三人いる。三人で訓練すれば、訓練の流れの中で様々な状況が生まれる。想像ではないから視認でき、またボールの奪い方や敵のマークの仕方など実戦に近い形で訓練できる。
おそらく簡単な答えだったのだろうが、俺にはその答えが思いつかなかった。長い間人付き合いを避け、鎖国をしてきたからだろう。今まで人の力を借りずに一人でやってきた。だが、今ここにいるのは俺だけじゃない。清永と朝賀がいる。もう一人だけじゃないんだ。
「日高……、俺を使え。」
清永はそう言ってくれた。
俺はより実戦的な訓練を目指すため、清永と朝賀と意見を出し合い、試行錯誤を重ね、三人での訓練を始めることにした。




