相互認識
俺は暗黒なる歴史を清永に語った。
ホントは暗黒な歴史など語りたくはない。決して他人に聞かせられるような歴史ではないからだ。
だが、清永が俺に過去を話してくれた以上、俺も話さなくてはならない。それが道理だろう……
中学時代、人間の嫌な部分を目の当たりにし、朝賀のような似た経験をした俺。元から人付き合いが苦手というのも手伝って、俺は人付き合いを避けた。
傷つくことを恐れていた俺は平穏主義に至った。目立たず集団に溶け込み、変に注目を得ないように心掛けた。
だが友人が一人もいないというのは変に目立つ。平穏が破られるのは時間の問題かもしれなかった。
人付き合いが苦手な俺は、影が薄くなる道に進もうとした。
そんな時、朝賀が置かれている状況を目の当たりにした。それは過去の俺の経験に近いものがあった。
運動音痴且つ何も言い返しきれない朝賀は米倉に言われるがままだった。
だが俺には勇気がない。米倉には俺は立ち向かえない。
でも朝賀をこのままにしていていいのかと考えるとそうではない。
俺は暴力的で非情的な稚拙な"弱い人間"の目から免れてきた。俺はこの教訓を活かし、朝賀の現状を打破しようとした。
だが、今まで波風立てるのが怖くて"弱い人間"の言動を傍観していた俺も"弱い人間"と同等だった。俺は弱い人間から脱却しようとしていたのかもしれない……
俺のためだったのか朝賀のためだったのか、冷静に考えてみるとよくわからない………
それでも、朝賀を助けたかったのは事実だと思う。
俺は清永にそう語った。
「…………捻くれているようだ…」
ウッ…………
清永は俺の歴史と朝賀に対する俺の経緯と考察を聞いてそう言った………
捻くれている、俺自身捻くれているとは思ってはなかったのだが………………………ショックだ……
「だが日高は思慮深く、芯が強い…………そう感じた…」
「俺は清永のこと、やっぱ強いと思う…」
そう、俺に比べ清永はやはり強い。
清永は友人のためにいつも悩んでいたのだから。
俺なんかいつも自分のことだけだった。
「…みつるが傷つかないようにするにはどうしたらよいか?」
「…えぇっと………平穏化に着手する」
「平穏化…」
俺は朝賀の平穏化を提案した。
まずは朝賀が悪い意味で目立たないようにすること、これを最優先事項とした。つまりドジや運動音痴を治すことだ。これさえクリアできれば、ある程度平穏を取り戻すことができるだろう。
また、平穏化に関してはあくまで朝賀の自主性を尊重し、強要することは避けると清永に伝えた。
「…日高は俺よりわかってるのかもしれぬな…」
「?!……何を?」
「弱い立場の者のことだ……俺はそちら側に立ったことがないからな……」
清永はそう言った。
清永はそういう経験はして来なかっただろうし、比べれば俺のほうが弱い立場の痛みと苦しみがわかる。
だが、清永にもできることはあるはずだ。清永は俺にはできないことができる。そしてなにより、朝賀のことを最も理解してあげているのは清永だ。
「……日高」
「な、何だ……」
「みつるに教えてやってくれ……」
「い、いいのか?……陰気な俺を信じて……」
「お前は裏切らない………そう感じたし、そう信じたい……」
清永は俺を最終的に信じることにし、朝賀のことを託してきた。清永の言葉に俺は責任を感じた。俺は覚悟を持って臨まなければならない。当然のことだ。
「…だが…もし見放すようなことをしたら……そのときは…」
「…大丈夫だ…覚悟を持って臨ませてもらう………」
清永は何も言わず頷いた。
清永は俺を信じてくれた。その信頼に俺は応えなければならない。
信頼・信用というものはとてつもなく大きいものだ。俺はそう思っている。
「陰気な日高………少しわかった気がする…」
「お、…俺も清永のこと……少しは…」
「……お前から……見習わなければならぬ…」
清永は俺がそこまで意識してこなかった芯の強さや変わる努力を評価した。
ただ変わる努力と言うのは平穏主義のために生じたものに過ぎない。
そもそも俺は根本の問題から目をそらしている傷つくのが怖い人間だ。
「俺は清永に見習うことがある」
俺にとれば友人のために悩み、行動してきた清永は評価するに値した。
何事にも動じない清永は俺には到底真似できない憧れだ。
「…互いに努力しよう」
清永はそう言うと手を差し出してきた。
俺は長年やって来なかった握手を交わした。
俺と清永は、ひととなりや過去、悩みを互いに認識することができた。そして共通の方向性で一致した。
握手を交わし終えると清永は自販機コーナーをあとにした。
現状打破……
不利な現状の打破はつまり平穏を取り戻すことだ。
それは容易なことではない。時間と労力を要し、時には壁が立ち塞がる。
だが強い信念さえあれば必ず成し遂げられるだろう。平穏は一日にして成らず、ということだな。
…………………………………それにしても久々に長々と話したなぁ……喉が痛い…
あ!!
そういえば今、何分なのだろうか?
俺は時計を見た。
もう昼休み終了三分前だ。俺は驚いた。時間があっという間に過ぎていたからだ。
濃密な昼休み後半だった…………ということか。
高校入学以来初の濃密で有意義な昼休みだった。
でも少しめんどくさかったような気もするけどな……
俺は急いで教室に戻っていった。




