騎士はここでも騎士をのぞむ《旧題 現代に転生したら以下略》
初めての投稿になります。拙いところ多々あるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
観覧試合は突然の雷雨に見舞われた。
私はその場に立ち尽くし、動くことはかなわなかった。政敵の騎士が泥水に崩れ落ちる。必ず勝つとの誓いは何とか守れたが、自身もそう長くもたないようだ。
身体に感じる濡れた感覚が雨のせいなのか、自らの血なのかわからない。
沈む意識の中、主君の役に立てた事の満足を噛みしめ、22年の人生を閉じた。
我が騎士人生に一片の悔いなし!
輪廻転生など信じてはいなかった。
だから赤子に生まれ変わったと気付いた時は驚愕したものだ。
しかし、あまりに違う環境に第二の人生を満喫する事を決め、幼い私は今生でも立派な騎士となる事を心に誓った。騎士は私の天職なのだ。
私が将来の夢を聞かれ、『騎士』と答えるたびに両親は微笑ましげに見てくれていた。
周りには○○レンジャーや、改造人間、魔法少女を目指す子供で溢れていたので、あまり浮いてはいなかったから。しかし小学校入学となり、さすがに両親も焦り出した。騎士という職業がこの国に存在しないと知らされ私はかなり落ち込んだものだ。
ここで救世主が現れる。母と昼間の再放送を見ていた時に出会ったのだ。
SP!!要人警護。この世界における騎士ではないか!
この時より私の将来の目標はSP(警察官)となった。
私は目標に向け、努力を惜しみはしない。
母はピアノ教室に私を通わせようとしていた様だが、前世騎士としてはやはり、習い事は剣道だろう。ここは譲れない。
譲歩として、母の提する服装・髪型に文句を言わない事を約束させられた。服装や趣味において、私と母は合わないのだ。父とばかり話が弾むのが面白くなかったのかもしれない。
通い始めた剣道場で、私はメキメキと実力を付けていった。
小学校、中学校と学生チャンピオンの名を欲しいままにし、同学年に敵無しと呼ばれた。
父は大層喜んでくれたが、母は私の防具をファブリーズしながらいつも涙目だった。防具の臭いは騎士の鎧を思い出して、安心する臭いなのだが母には刺激が強過ぎたようだ。
・・・・・・・・・・・・
高校に入学してすぐ、私は衝撃の再会を果たす。
最後の観覧試合で討ち倒した騎士、タクトもまた転生していたのだ。
廊下で目が合った瞬間に分かった。あちらも気づいたようだ。たとえ姿が違っても不思議と面影は残るということだろうか。
私にとって前世は悔いのない人生だったが、討ち負かされた彼にとってはそうではないだろう。
私は対決も致し方ないかと覚悟を決めた。
「なあなあ柏原。うちの先輩がお前に話があるんだってさ」
クラスメイトの田中が話しかけて来た。ひょろりと背の高い眼鏡だ。
「ふむ、先輩とは誰の事かな」
「俺の部活の先輩だよ。男バス副部長。有名だろ、長谷川先輩」
「……ああ、有名だな」
「じゃあ、伝えたから。放課後屋上な」
よろしく!と片手をあげ、田中は友人の輪に合流していく。
「長谷川センパイって、あの長谷川センパイ?」
一緒に弁当を食べていた愛宕が聞いてくる。
「男子バスケ部副部長といえば、その人しかいないよな」
「へ~……。がんばれ~」
生温かい目で見守られた。
出来れば行きたくはない。しかし彼こそ騎士タクトの生まれ変わりなのだ。
何も準備は整っていないが、決闘に臨まない訳にもいくまい。
間に合わせのエモノを手に、私は屋上へと向かった。
夕日の眩しい屋上で待つこと暫し。ギィ…と重い音を立てて扉が開く。
「よう、久しぶりだな。転生なんて何の冗談かと思ったが、まさかお前も生まれ変わっているとはな」
「ああ、久しいなタクト。ここでは長谷川先輩?私がお前を打ち負かして以来だ」
「は?ちっげーよ!!あれは相打ちだろ。そもそも二人とも死因は感電死だし」
「え?……本当かっ!」
「は~、知らなかったのか自分の死因。能天気で良いな、お前は」
あの観覧試合の時、私が意識を手放した後二人に雷が落ちたらしい。
然もありなん。遮るものの無い試合場に二人動かずにいたのだ。
「それはこちらのセリフだ。何だ、今の貴様の体たらくは。渾名がハーレム先輩(笑)って!」
そう、タクトの預かり知らぬ今の渾名は『ハーレム先輩(笑)』。まあ、今私がばらしたが。いつも周りに数人の女性を侍らせ、優柔不断に彼女達の間で揺れるその様は、騎士の風上にも置けない。
「貴様はそれでも騎士の端くれか!」
「今の俺、騎士じゃねーし。てゆーか、転生って言ったら、ハーレムだろ?」
「知るか。騎士は乙女を守るもの、今の貴様は女の敵だ。私の名に懸けて成敗してくれる!」
「いや、成敗って。エリー、お前だってもう騎士じゃねーし、ただの女子高生じゃね?」
そう、今の私は女子高生。母の趣味により腰まで伸ばしたストレートの黒髪は、大人しい娘だとよく誤解をされる。
「確かに今の私は職業=女子高生。しかし私の心は気高き騎士なのだ。たとえ身長が153センチしかなくとも、どれだけ鍛えても腹筋が割れずとも、私の心と将来は騎士(SP)なのだ!!」
「うわ、相変わらず騎士道精神はそのまんまなのね、お前。
てか、あんな形で主君に裏切られたのによく騎士とか目指してるよな。お前どんだけ打たれ強いんだ…」
裏切られた…?
「な、何を言ってるんだ。冗談では済まされんぞ」
タクトがガシガシと頭を掻き、憐れんだ目でこちらを見てくる。
「あ~。お前死因も知らないくらいだからな。
俺の主とお前の主、手を組むことにしたわけよ。でも手を組んでるって表でばれるのは、マズい。だから自分たちの騎士に本気の試合をさせて、パフォーマンスにしたわけ」
俺達の命なんてパフォーマンスの余興だったんだぜ?だから俺は今世では好きに生きるんだ…などと続けるタクトの言葉が素通りしていく。
試合前、主君は言っていた。悪辣な政敵を許すわけにはいかないと。その為に、お前の手を汚させてしまう、それが悲しい。領民の為を思えば、あの男と手を組む訳にはいかないのだと。
…普通に手を組むって言えばよかったのに。いや、その場合私はどうしただろう。
「まあ、せっかくの新しい人生だ、楽しくいこうぜ。何なら俺のハーレムに加えてやろうか?今のお前、見た目だけなら悪くないんだよなー。中身すっげえ残念だけど。今の感じは結構好みだし」
なあんてウソウソ…と続けたタクトのダダすべりの冗談を、オーバーヒート気味の私は、過剰な突込みで返してしまった。
「チェストー!!」
父直伝の掛け声により上段より振り下ろされたリコーダー(カバー入り)。
180オーバーの男には鼻を打つのが精一杯であったが、タクトは鼻血を噴きながら膝をつく。
「でめっ!!ひどがなぐざめようどじでるのに!!(人が慰めようとしてるのに)」
くぐもった叫び声を聞きながら、私は何故か涙を流していた。
・・・・・・・・・・・・
翌日、私達は生徒会室に呼び出しを受けた。
間が悪いことに、タクトが鼻血を出し、私が涙を流す屋上に丁度見回りの警備員さんが駆けつけてしまったのだ。
お互い、何もトラブルはない、事故だと必死に説明したため教師達からはすぐに解放されたが、噂というのは恐ろしい。
翌日には生徒達の間に噂が広まり、午後にはハーレム先輩(笑)が一年女子に鼻血を出しながら迫り、女子が泣いていた、という話で校内は持ちきりとなった。
そして今、放課後の生徒会室である。
「2年2組の長谷川拓斗君と、1年5組の柏原瑛莉さん。今回の呼び出しの理由は分かるよね。流石に、放っておくには尾ひれが付きまくっててね」
目の前には微笑みながら机の上で手を組む生徒会長。…こわい。
他の生徒会の方々は忙しいのか、それぞれの机で書類仕事を片付けている。
「さて、二人の説明によると。屋上に行ったら、柏原さんが泣いていたので長谷川君が慰めようとしたけど、冗談が通じず彼女に一方的に暴力を振るわれたとの事だけど。他に何か付け足しはあるかな」
「ありません。エモノも持たない相手に、一方的に暴力を振るった事は事実です。いくらつまらない冗談を言われたからと、恥ずべき行為です」
前世のあれこれを他人に説明するわけにもいかず、同じ言い訳で昨日も教師陣から解放されたのだ。
「うん、一方的な暴力は確かにいけないね。その行動に至った長谷川君の言動を聞いても良いかな、柏原さん」
生徒会長がにこりと微笑む。
「いやいや、会長。ちょっとした冗談だったんです。柏原さんには冗談が通じなかっただけで……」
「うん、長谷川君少し黙って」
生徒会長は追及の手を緩めるつもりはないようだ。
仕方が無い、私はタクトの科白を口にする。元来嘘は得意ではないのだ。前世の件以外はそのまま伝えた方が良いだろう。
「確か、『俺のハーレムに加えてやろうか?見た目だけなら悪くないんだよなー。中身すっげえ残念だけど。今の感じは結構好みだ』という感じの事を言われました」
……………………。
ピシッと場の空気が凍った。
「……自分でハーレムって。ないわー」
「何?渾名だけじゃなくて自分でも言ってるんだぁ。すっごい」
「縮め、むしろもげろ」
冷たい目で女生徒達がタクトを追い詰める。
そう、ここは生徒会室。もちろん役員達は仕事中。彼らの半数は女生徒である。
「冗談だったのに……自虐ネタで笑いを誘ってみただけなのに……」
「終わった……俺の高校生活終わった……」タクトはそう呟きながら頭を抱えている。
「まあ、柏原さんが気にしていないのなら、これ以上生徒会から言う事はないけど」
「はい、ちょっと感情的になっていたせいで過剰反応してしまっただけです。
お騒がせして申し訳ありませんでした」
ぺこりと頭を下げる。
「……長谷川君も、言動には気をつけた方が良いよ?学生の本分を忘れないようにね。それと、明日には君の自称ハーレムがどうなっているのかは生徒会は一切責任を持ちません」
「……お騒がせしました……」
タクトは魂が抜けたような様子で、何とか挨拶を返す。
明日には生徒会女子役員達の情報網を使って、タクトのハーレム発言が千里を駆けるだろう。女の敵は彼女たちによって成敗されるようだ。
あれ?タクトの噂は悪化することに……まあ、良いか。因果応報である。
・・・・・・・・・・・・・
如月道場。
ここは私が子供の頃から通う剣道の道場だ。
稽古を終え身支度を整えてから、もう一度剣道場の扉を開ける。
今日は稽古に全く身が入らず、師範代より残るように言いつけられたのだ。
師範代は神棚の前で正座をしていた。
「師範代、お待たせしました」
「稽古はもう終わったよ、いつもの通りで構わない」
「うん、久にい。今日は色々ごめんなさい」
「驚いたよ。あのハーレム長谷川(笑)と知り合いだったとはね?俺には教えてくれてても良かったんじゃないかな」
……上級生からはハーレム長谷川(笑)と呼ばれていたのか……。
兄弟子の如月久士 師範代は、我が高校の生徒会長その人である。
この春より師範代となった久にいとは、道場に通い始めた時からだから、もう十年近い付き合いだ。
久にいという呼び名がなかなか抜けず、ついつい学校でも呼んでしまいそうになるので、高校へ入学したのを機に、道場では師範代、学校では生徒会長と呼ぶ様に改めたのだが、久にいはお気に召さないようだ。
おいでおいでと手招きをされ目の前に座る。
「今日元気が無かったのは長谷川のせいなのかな?」
「タクトのせいと言うよりも、衝撃の事実に今更気づいてしまったせいと言うか」
「……言ってごらん?一人で考えるよりも、きっとすっきりするよ」
一人っ子の私は、この兄弟子にいつも甘えてしまう。
「昔、すごく尊敬して憧れていた人が居たんだけど、実は裏切られていたという事実を今更知ってしまって。知らなかった時には何も思ってなかったのに、今になって悔しさとか寂しさとか色々な感情が湧いてきて。……今は何だかモヤモヤする」
「ふ~ん。もしかして瑛莉を裏切ったのは、昔話していた騎士になりたかった切っ掛けの人かな。その人に仕返しでもしたい?」
子供の私は久にいに夢は騎士だと自慢げに語ってしまったのだ。
久にいはからかったりする人ではなかったのが救いだ。
「ううん、その人にはもう会えない。会えたとしても虚しいし、そんな事はしない」
「そうだね、瑛莉はそんな事を絶対にしないね。じゃあ考えてもしょうがない」
「?」
「だってそうでしょ。その人は瑛莉にとって過去の人なんだから。君の心が煩わされるだけ損だよ。それよりも、今この場所で君が幸せに過ごすのが、裏切った人が一番悔しがる事だと思わない?」
まるですべての事情を把握しているかのように。
いつも欲しい言葉をくれる。
「そう、かな?」
「そうだよ。そもそも瑛莉は難しく考えること、向いてないしね」
「言いきった!?ひどいよ久にい」
いい子、いい子と、頭を撫でられる。
久にいに言い切られると何故だか気持ちが軽くなった。
「でもSPの夢も正直揺らいでしまう感じで…」
「うん、そこなんだけどさあ、そもそもSPに拘らなくても良くない?騎士って言えないからSPになった訳でしょ。生き方として騎士道を目指すなら、就く職業は何だってかまわないと思うよ。
うちに通ってる生徒さんだって実際職業にしなくても人生に剣道の精神を生かしている人は沢山いるしね」
あ、あれ?今までの葛藤が根底から覆された?!
目から鱗である。多分ポロポロ落ちた。
「で、でもそうすると何目指せばいいのか」
15年以上一点集中で来たので、今更思いつかないのだが。
「何言ってるの、瑛莉はまだ高校一年生だよ。これから進路を決める子なんて沢山いるんだ。一緒に探していけばいい。もちろん俺も相談に乗るよ」
「そうかな、久にいが言うとすっごく簡単に聞こえる」
「実際簡単なんだよ。はい、お悩み解決。今度は俺の悩みに答えてくれるかな?」
「よいしょ」とそのまま膝に乗せられ後ろから抱き抱えられる形になる。
久にいもすでに着替えていたので、石鹸の良い香りがする。
もう高校生なのに、相変わらず子供扱いである。二歳しか違わないのに理不尽だ。
それにしても近い。近すぎないだろうか?
「あの、久にい。この体勢は落ち着かないんだけども。せめて膝から降ろして」
「だめだめ。道場は冷えるからね。それに瑛梨の足が痛くなっちゃうでしょ?」
……同じ高校に通いだして、何故かスキンシップが過剰になった気がする。
「あの、何か怒っている?」
ふふ……。と耳元で笑われた。み、耳がくすぐったいんですけどっ。
そんなに強い力ではないのに、可動部を押さえられているので抜け出せない。
師範代までスピード出世(?)したのに、体術まで完璧って、何だこの完璧超人…。
「タクト」
?
「長谷川の事をタクトって呼んだよね?」
!!!
「しかも、長谷川は男バスの後輩を使って君を呼び出した。偶然じゃなかったんだね」
「な、そ、それ知って」
「もちろん調べてあったよ?でも生徒会室で本当の事を聞こうとしても、さすがに話せないだろうからね」
手加減したんだよ?と後ろで楽しそうに久にいが笑う。
背筋が震えた。これはあれだ、本能的な恐怖だ。ガゼルがライオンと鉢合わせた的な!
「それに、君はわざわざリコーダーを携えて彼に会いに行った。使わなければならない場面を想像したんだろ?…彼は瑛梨の敵なのかな」
敵と言ったとたん、タクトは大変なことになる気がする。
この時代に剣士はいない。でもこの国にはかつて武士がいた。世が世なら彼は剣豪だっただろう。きっと前世の私ですら敵わない。
現代でそんな事起こるはずがないのに、何故だか冷や汗が流れてくる。ナニコレ!?
「あ、あの久に……」
唇に人差し指が押し当てられて、遮られる。
「ストップ。久にいじゃなくて『久士』って呼んでみようか」
「……ひ、久士……さん?」
「うん、いいね。学校でもそれで行こうか?」
後ろから頭を撫でられる。
「久士……先輩……?」
「うんうん。いつまでも子供っぽいのもどうかと思ってたからね。丁度よかった」
敬称略すのはもう少しステップアップしたらね~なんて上機嫌で言っている。
よく分からん。
あれ、もしかして久にい呼び恥ずかしかったのか。とりあえず機嫌が直って良かったが。
「その、タクトは昔馴染みで、今は別に仲が悪いわけじゃないから。敵とかじゃないからね?」
私がそう弁明をしていると、肩口にグリグリと顎を乗せられた。
「はぁ、ほんっとに分からない子だなぁ……。タクトじゃなくて長谷川先輩、もしくはハーレム先輩(笑)と呼んであげなさい。あんまり鈍いといい加減、実力行使にでるよ?」
じ、実力行使って何が! 何を!? 何でっ。
くるりと膝に乗せられた状態から持ち上げられ、背と膝を支えられて抱き上げられる。
な、なんだこれ! なんだこれ!? すっごい恥ずかしい!!
「ちょっ!久にい!?」
「ひ・さ・し」
「ひ、久士さん。降ろしてください!?」
「却下です。そろそろ時間だから母屋に移動しようか。今日は夕飯食べて行きなね。母さん、瑛莉の好きな肉じゃが作るって言ってたから。食べ終わったら、夜の生徒さんが来る前に送って行くからね?」
「! 肉じゃがっ。ゴチになります! でも降ろして! ほら、家に連絡しないと」
足をバタバタと動かすが離してはもらえない。近い、顔が近いよ……。
「扉までだよ。あと連絡は稽古に来た時点で入れてあるから平気」
「……子供扱いにも程がある……連絡くらい自分で出来るし」
ようやく扉の前に辿り着き、そっと降ろされる。
ムクれながら反論したら、ため息をつかれた。何故だ。
「そっちこそ、きちんと状況把握と自覚をしてください。鈍いにもほどがある」
両手をつかまれ、向き合う形になる。立っていると身長差で久にいの表情が陰になる。
「他の男に抱き上げられたら、瑛莉はどうする」
「もちろん顔面肘鉄からのすね蹴りです」
フィニッシュの金的は伏せておく。
「俺が瑛莉の事を『柏原さん』としか呼ばなくなって、他の女の子を名前呼びするようになったら、どう思う」
「………面白くない。嫌われたかと思う」
「俺だって同じだよ。瑛莉以外の誰にもこんな事しない。長谷川をいきなりタクトなんて呼び捨てにするから面白くなかった。せっかく同じ学校に通えるようになったのに、名前で呼んで貰えなくて落ち込んだ。
それがどういう意味なのか、しっかり考えてみて」
……えええええ……。
それから何事も無かったかのように夕飯を勧められ、考えすぎてグルグルしている私を家まで送り届けた時、さらに久にいは爆弾を落として行った。
「将来の夢に剣道場の師匠もいいんじゃないかな。教えるの向いていると思うよ。
一緒にうちの道場継ぐ?」
その後私は熱を出した。
動悸が激しいのは熱のせいか、はたまた急に積極的になった久にいのせいなのか……。
次の稽古の日がちょっと怖い。でもサボったら生徒会室に呼び出されそうだ。
私の兄弟子は剣豪ではなく策士かもしれない。
将来が騎士から師匠に変更されそうです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
以下、簡単な人物設定など。
・柏原瑛莉 前世は女騎士
瑛莉は久士と話す時だけ、男言葉を使わなくなる。敬語でもなく砕けた口調。久士は気付いていたが本人は無自覚。
・如月久士 如月道場師範代 生徒会長
久士は瑛莉の高校入学を機に両片思いを何とかする気でいた。ハーレム先輩(笑)の件は渡りに船。双方の両親には根回し済み。彼は策士。
・長谷川拓斗前世は騎士
男バス副部長、ハーレム先輩(笑)。ハーレム体質(要員は幼馴染、義妹、マネージャー)だが、決して彼が狙って作った訳じゃない。ハーレムに加える発言も自分なりの自虐ネタを披露したつもりだが、見た目ごつい女騎士相手なら冗談で済んだが、見た目大和撫子だと洒落にならない。この後彼のハーレムは崩壊する。でも本人少しだけホッとした。