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ハジマリの始まり

 俺が日本という国があるこの異世界へとやってきたことには理由がある。

 理由なければこんな世界になんて来たくもなかった。

 その理由ってのは、今からこの世界で言うところの一月ほど前まで話を遡らなければならない。



「お前たちには、この玉座に相応しいかどうかを見極めるテストを受けてもらう」

 無駄にだだっ広い謁見の間で俺たちの父。シルバスタ王が厳かに告げる。

――なんだテストって?

 父と言っても王。

 肉親であり上司でもあるその王の言葉には逆らうことは許されないが、問う事は許されるだろう。

 俺は玉座から応接間の扉までまっすぐ伸びた赤い絨毯の上で下げていた頭をゆっくりと上げて「恐れながら」と前置きをし、テストの意味を問いかけた。

「お前たちには足りないものがある。それを見つけこの国に帰ってくることがテストの内容となる」

 王の言葉に隣に同じ姿勢で並ぶ弟が「足りないもの……」と呟いた。その声音から何が足りないかを考えてるようだ。

 そんな弟を見て、俺は小さく息を吐く。

 そうだな、お前には分からないだろうな。

――頭が切れるが、やる気のない第一皇子

――やる気はあるが、あたまがちょっと残念な第二皇子

 それが俺たち兄弟の周りからの評価だ。

 評価に対して不満は持っていない。むしろ当たり前だと思っている。

 面倒事が嫌いな俺は、常に周りへそれを押し付けこの地位にいる事での利点のみ受け入れていたため、敏い奴はすぐに気づき俺をあから様にではないが忌避するようになった。

 だからと言って、弟へ玉座への道が開かれるかと言えばそうでもなく、こいつもこいつで問題を大いに抱えていた。

 それというのも、最初に述べたように筋金入りのバカなのだ。

 王子という立場であれば、このバカはよく使えるが王にするには難しい。

 この国には、潔癖な者が多すぎて傀儡政治というモノがない。全くない。歴史を見ても、限りなく潔癖なのだ。

 だからこそ、弟を王に持っていくことに難色を示すものばかり。

 この国の王に求められるのは、統率力。知識と知能。そして、武術であり、そして、この必要と言われている要素をうまい具合に真っ二つにしたのが俺たち兄弟なのである。

 どちらを選んでも結果的にはいばら道……今回のテストは苦肉の策だったのだろうと他人事のように、キリキリと胃を痛めているであろう臣下たちを思いつつ謁見の間を後にした。


「兄上!! 教えてください。俺に足りないものとはなんでしょうか?」

「頭だろ」

「冗談を! このように頭は付いています!! ちゃんと答えてください」

「いや、だからちゃんと答えただろう」

 お前にそれが理解できなかっただけで……。

 王との謁見が終わり、俺たちは自室へ戻りテスト準備をするために自室へ続く廊下を歩いていた。

 謁見の間から残念なお(つむ)をお持ちの弟はずっとこの調子で聞いてくる。

「兄上!!」

「なぁ、そこで俺に答えをもらってお前はどうするんだ? それってカンニングと一緒じゃないのか?」

 いい加減うるさくなってそう答えれば、弟はハッと目を見開いた。

 その表情から、弟が何も考えずに問いかけてきていることがありありと浮かんでいる。

 まぁ、知ってたけども。

「す、すみません。浅慮でした」

「いつもの事だ」

 まぁ思慮深かったら、こんなテストなんてなかっただろうけどな。

「テストの内容を聞くこともダメなんでしょうか」

「ダメに決まってんだろう」

 それこそカンニングだろうがと睨みつければ、しょんぼりと肩を落としてうつむく弟の姿。

「いまいま聞かなくても、出立する時に王から聞けるんだ。そのくらい待っていられないのか」

「なんだ、教えていただけるんですね」

 しょんぼりと肩を落としていた姿はどこ行った。弟は、俺の言葉に一気に顔を明るくし足取りも軽やかになっている。

「さっき広間で言っていた事なんだがな」

「やぁ、自分の足りないところを探すのに必死で全く聞いておりませんでした」

「拝謁賜っている間は、お前は何も考えるな」

 むしろ俺は見ていたぞ、お前が絨毯に向けた顔から、わずかに提灯が見えていた事を。考えてたのは、その入眠前の三分ほどだろうが。

「それでは兄上。失礼します」

「ああ、明日からはライバルだ、よろしくな」

「らいばる……」

 隣同士に並べられた王宮内の自室前。ドアノブに手をかけたところで、丁寧な挨拶を送られる。その辺は大変育ちがよく、ちゃんとした皇子なのだと思わせるのだがその言葉に応じて兄として社交辞令的にそう言えば、口の上で反芻した後に、弟の顔に喜色が浮かび上がった。

「はい! 明日からはライバル、またのいい方を好敵手!! 正々堂々と戦いましょう!!」

 びしっと指を突き付けてそう宣言し、弟は自室の扉を開けて姿を消した。

「本当にどこまでも残念だな。お前」

 微妙に会話のキャッチボールが痛々しい弟は、そうして俺の疲労を上手く蓄積してくれるのである。


 お前がそこまできっつい奴じゃなきゃ、もろ手を挙げて王位継承権を放棄するんだがな……。

 万が一にも、あいつが王座に就くとなればあれを操縦するのは間違いなく俺なのだ。

 自分自身が王になった方が確実に面倒事は少ない。



 面倒事は少なく最小限にとどめるのが、めんどくさがり屋である俺のポリシーなんだ

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