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まずは始まり始まり

 ただでさえ低体温だっつ~のに、この冷たい空気はきつい。

 この世界には四季というものが存在しているのは知ってはいたが、こうまできついとは想定外だった。

 早く帰ってコタツに入りてぇ。その前に風呂か? いやいや、こたつで俺の基地作ってみかん食ってテレビ鑑賞がいい。よし、ここは思い切って帰るべきだろう!

 へちっ

 ああ、くしゃみまで出ちゃったよ。これで風邪ひいたらどうしてくれる。こりゃぁ、ミカンよりも熱燗だ。熱燗ひっかけて炙ったスルメを吟味するべきだな。


 今は夜。ビルとビルの間を光を避けて疾走していた。

 ただでさえ気温が低く体温を奪われがちだと言うのに、自ら冷風を浴びるような行動に嫌気がさす。

 だからといってそれを止める事も出来ないから、こうして愚痴を吐いているわけだが。

 早く用件を済ませて家に帰りたい!!

 その願いを受け入れたのかどうなのか……探し求めていた”モノ”が横切り、闇へと溶け込もうとしていた。

 それを見つけ、俺は嬉々として叫んだ。

「いた! 美弥子ちゃん!! あれを捕まえるんだ!!」

「あれを捕まえるんだ。じゃなぁ~~~~~い!!」

「へがっ」

 脳天直撃。

 白い火花が目の前をチカチカ煌めいた気がする。

「私をちゃん付けで呼ぶなと言ったでしょう!!」

 アニメ声の甲高い声が空から降ってくる。その声を発した人物へと目を向けると、ギッと音が聞こえそうなほど目を吊り上げて俺を見ていた。

「な、何もロッドの鋭角部分で殴らなくても……」

 いまだに痛さのあまりに地面に体中を痙攣させて悶える。

 その俺が目にしたのは、彼女の鋭い眼光の他に、右手に収められた鈍器。

 ……いや、頭に刺さった感覚があるから鈍器とは言い切れないか。

「かなり有効的に使えたと自負しております」

「別な場所で有効利用することを望みます」

 ふんっ。と鼻息荒く告げる彼女へそう望めば「善処します」と返ってきた。明らかにまた繰り出される気がしてならない。

「あ、願いの欠片……」

 先ほど見かけた”探し物”へと目を向けようと慌てて起き上がったが、見つけた時点ですでに暗闇の中に”探し物”の体は三分の一ほど溶けていたため、逃げ切られたのだという事がすぐにわかった。

「せっかく見つけたのに、なんで捕まえなかったんだ!」

「だって、あんたがちゃん付けて呼ぶから、反射的に」

「反射的に動くなら、もっといい方向に使ってほしいね! 全く役に立た――がふぅ」

 二度目の火花。

 今度は先ほどよりも深く刺さった気がする。なぜなら目の端にタラリと垂れてくる赤い物が見えるからだ。

「協力してやってるのになんだその言いぐさ」

「はい、すんません」

 仁王立ちで彼女の様相はまさに悪鬼。しかし、そうは思ってももう口には出さない。口に出したが最後、この痙攣以上の何かが身に起きそうな気がするからだ。

「気。気を取り直して。あれをもう一度探し出さないと」

「わかったわよ」

 ぶすくれた表情のまま彼女が頷く。一応はまだ協力的なその姿に内心ほっと胸を撫でおろす。

 俺は冷たいアスファルトの上から身を起こして先ほどと同じ位置――彼女の胸元へと戻る。

「さぁ! 行こうか!! あ、くしゃみするのはいいけど今度はひっかけないでくれよ!!」

「じ……自分で飛べ! 怠慢ヒヨコ!!」

 かこーん。と小気味の良い音が響きそうな勢いで、彼女はロッドを使って俺を天高く打ち上げた。



 今日中の捕獲は無理っぽいな。

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