まえおき
この小説には、微々たる残酷描写がなされることがあります。
苦手な方はご注意下さい。
”こんにちは、Lです。なんつって”
コンピュータの画面に文字が表示され、数秒後には文字が消える。
これが『ヒキコモリ探偵』とのファーストコンタクト、どうやら探偵とは最高につまらない冗談をかます奴のことを言うらしい。
都市伝説。殺人事件。密室。引きこもり。そして探偵。
そろいもそろって胡散臭いこの状況が現実だと思うと、本当に頭が痛い。
一体何故こんな状況になったのか、俺が何かしたのか、神はいないのか、俺は断固として説明を求める。
”では事件の概要を説明してもらいましょう、でなければ状況は進展しないでしょうし。まあ私にとっては何の問題もないんですが”
実は俺にとっても大した問題はないが、しかしこのままだと色々ともやもやとしたものが残ってしまう。
あまりにも納得がいかないし、あまりにも筋が取っていない。つまりはふにゃふにゃのやわやわだ。
”概要を説明する前に、一つ確認しておきたい事があります”
”はい、一体なんでしょうか?”
”事件の解決に当たって、金品の要求はしない。ってのは本当ですか?”
”勿論本当です。お金には困っていませんから”
即答である。いや、実際には数秒かかっているが、画面に表示されるまでの時間や、打ち込む時間を考えれば即答と言っても間違いではないだろう。
しかしお金に困っていないとは羨ましい恨めしい。
タダより高いものは無い。けれど、金もないのだから仕方がない。ウチの学校は校則でバイトを禁止しているのである。これは貧乏一人暮らし学生に対する冒涜ではないだろうか。
”では、事件の概要を説明しますが、一体何処から何処まで説明すれば良いんですか?”
”端からは端まで余す所なく、一から十までと言わず零から百までお願いします”
つまりは全部か。オーケイ分かった了承した。それもタダで働いてもらう以上は仕方のないことだろう。
いや、たしかコイツは『仕事』じゃなくて『趣味』で探偵をやってるんだっけか。
まあそれも本人情報で無い以上確認の使用が無いし(じゃあ聞けばいいじゃないかと言われるかもしれないが、もう『一つの質問』を終えてしまった以上もう一度質問するのは気まずい)、あまり信用の置ける情報ではない。が、まあ金品を要求せずに仕事が成り立つはずも無いので、まあ趣味だと見て間違いないだろう。
”じゃあ、端から端まで余す所なく、零から百までお話しましょう。とは言っても、性格な動機。のようなものが分かっていない以上、『事件』と読んで良いのがいつからいつまでなのかははっきりしていませんが。とにかく事件の一週間前あたりから話し始めることにします”
そう言って、俺はその事件について語り始める。
実際には、キーボードで文字を打ち込んでいるだけなので、そう言っても話し始めるも語り始めるもないのだが。とにかく、説明を始める。
何故、『ヒキコモリ探偵』なんて言う果てしなく胡散臭い存在に頼らざる得ない状況に追い込まれたのか、何故天下の太陽様が道の端っこから端っこまでを照らしている時間帯に、画面と睨めっこをしなければならないのか、説明する必要があるだろう。釈明する必要があるだろう。
それこそ、端から端まで余す所なく、零から百まで語る必要があるだろう。
聞いて欲しい、小説のような現実の話を。悪夢のような正夢の話を。
そもそも俺の現実が圧倒的なまでにおかしくなり始めたのは…………