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メタルキス第一話「つけてみる?」

注)歯列矯正の装置は、医療器具です。歯科医師の指示・指導の下適切に使用されるものです。

第一話 「つけてみる?」


授業中。黒板の文字を追っているふりをしながら、斜め前の彼女にどうしても視線がいってしまう自分に気づく。

流れる髪の上から頭を包む白い帯。

そのやや光沢を放つナイロンであろう素材のヘッドバンド。

耳のあたりにはバンドと一体の白いプラスチックの部品。

そこから太いゴムが彼女の顎の先へと伸び、彼女のわずかな体の揺れに反射する銀色の光沢が表情を変えながら、下顎を包むように密着した金属のカップとつながっている。


顎の形に合っているだろうと思われる金属のカップは、耳の上と首の後ろからゴムに引かれて、彼女の顎をホールドし、しっかり後ろへ押し込んでいるように見える。その姿勢が、いつも堂々としていて、どこか凛として見える。


そんな彼女が、ふいに手をカップに添え、金属のカップの光が一瞬姿を変えたとき、キュンと胸がざわついた。

「チンキャップって、顎が強く引っ張られるんだろうな… どうしてこんなに自然なんだろう」


ぼくは受け口、家が貧乏で矯正治療をさせてもらえない。


そんなある日、いつものように、彼女の装置の装着感や、仕草をみていたときのこと、彼女がほんの一瞬だけこちらを振り返る。


目が合う。ドキドキ感もあるが、それ以上に気まずい。

そんな気持ちを知ってかどうか、彼女は何事もなかったかのようにすぐ前を向いた。


放課後、装置を装着したままの彼女がこちらに近づいてくる。今日はいつものクラスメイトてはない予感がした。装置の存在がはっきり分かる。意識が向いてしまう。

そして、彼女は少し照れたように、メタルのブラケットが口元から少し垣間見る程度に笑って、言う。「ねえ…さっき、見てたよね?」


心臓が止まったような気がした。

「えっ…いや、その…」


彼女はイタズラっぽく、顎の金属のカップを指差し、くすっと笑いながら、「いいよ、別に。いつも見てるってわかってたよ。気になるんでしょ、これ」


その言い方が優しくて、胸が締め付けられる。

とっさに「カッコいいよね」と返したとたん、自分自身でこの返答でいいのか、よくないのか、わからなくなってしまった。


「いつも、かわいそう、とか、変なの、とか言われてるのに…」

やや自虐交じりの彼女の言葉に、さらに返す言葉は見つからなかった。


窓の外、遠くからサッカー部の部員たちの掛け声だけが耳に入る。

ふた呼吸ほどの間が空いたあと、彼女がフッと一息つくと、自分の装置を外し始めた。

窓から、早春の乾いた風が頬をかすめる。


彼女は自分の顎にそっと手を伸ばし、金属カップの下に左手を添え、右、左と順にカップのゴムを外していく。

蛍光灯の光を受けた金属カップが左手の中へ。

次に、ヘッドキャップを丁寧に外した。白のナイロンの光沢がふっと揺れ、流れるような髪が少しだけ揺れ乱れる。


ぼくの心は逃げ場を失いつつある。


そして、外したばかりの装置を両手に包み、こちらにそっと差し出す。


「つけてみる?」

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