第9話 そして、冒険へ
ギルドの冒険者たちには、それぞれランクというものが設定されている。
上から順に S→A→B→C→D→E。
どんなに実力があっても、スタートは必ずEランクから始めるのがルールとなっている。
つまり、今の俺もEランクということになる。
「剣や魔法のレベルが高いからといって、高難度の依頼をこなせるわけではない。その実力を活かすも殺すも、全て経験だ。経験が浅ければ、実力者でも簡単に命を落としてしまう。それが冒険の世界だ」
――とはオフィーリアの弁。ちなみにこいつはAランクらしい。
アルナの街に滞在し始めて、すでに十日が経過した。
全ての武術を取り戻した俺の超絶剣技をお披露目してやると、案の定オフィーリアは食いついてきたので、もう一回中出しさせてもらった。
結果、《回復》と《状態異常回復》はどちらもLv.8まで到達。
ここまで上げれば、上級ヒーラーを名乗っても問題あるまい。
と、そんな感じで毎日、こいつに稽古をつけてやってはいるが……単調な生活にもそろそろ飽きてきた。
冒険に出たい。
あと、元・魔王のこの俺がEランクとかプライドが地味に傷つく。
「なぁ、そろそろ俺もギルドの依頼を受けてみたいんだけど。俺の行動を監視したいなら、一緒に来ていいぞ。Aランクのお前がいたら、高難度のミッションも受けられるんだろ?」
朝の修業を終え、宿の食堂で飯をかき込みつつ、俺は口を開いた。
「ふむ……。あんたが悪い奴ではなさそうだということはもう分かった。思っていたより常識はあるようだし。中出しへの執着だけはキモすぎるが」
オフィーリアは偉そうに腕を組み、少し考える素振りを見せる。
「いいだろう。この後ギルドへ行って依頼を確認してみるか」
……てか、何でこいつの許可がいるんだ?
毎日稽古をつけてやるとは言ったが、 毎日っていつまで続くんだ?
◆◆◆
俺たちは昼前にギルドへ到着した。
中へ入ると、オフィーリアと顔なじみらしい冒険者たちが親しげに声を掛けてくるが、彼女は適当にあしらって掲示板の方へ歩いていく。
……さっきマッチョも何人かいたけど、こいつとヤったことある奴もいそうだな。
俺と穴兄弟だったりするの?
そんなくだらない想像をしている間に、オフィーリアが掲示板を見つめて足を止めた。
「お、珍しくAランクの依頼が出てるな」
「そのランクの冒険者じゃないと受けられないんだよな?」
「そうだ。この規模の街でも、Aランク依頼が貼り出されるのは数ヶ月に一度あるかどうかだ」
「へぇ、ラッキーじゃん」
「あんたの剣技は確かに規格外だが……依頼を甘く見られては困る」
「分かってるって。冒険は経験が大事なんだろ? で、どんな依頼だ?」
「本当に分かっているんだか……」
オフィーリアは小さくため息をつき、掲示板から依頼書を剥がして確認する。
「場所はエロドの森。対象は――火竜、だな。あたしたち二人では少し荷が重いかもしれん」
「おいおい、俺の力を舐めるなよ。火竜ごとき、余裕だろ」
「……普通の火竜ならな。だが恐らく、ただの火竜ではない。依頼主は――エルフだ」
「お、エルフいるのか! 会ってみたいぞ!」
「はぁ……。エルフにどんな幻想を抱いているのか知らんが、あいつらはプライドが高く人間を見下す。会っても嫌な気分になるだけだぞ?」
「うん、イメージ通りだな」
「とにかく、あの誇り高い連中が人間に頭を下げてまで依頼する竜だ。相当ヤバいのは間違いない」
「まぁ、行くだけ行ってみようぜ。マジでヤバかったら逃げればいい」
「そんな簡単に逃げられるなら、誰も苦労はしない」
「逃げられるさ。俺は魔王だぜ? そのくらいのスキルは持ってる」
真剣な眼差しでそう告げると、オフィーリアは短く息を吐き、首を振った。
「……分かった。信じよう。ただし、本当に危険だと判断したら深追いはしない。それだけは約束しろ」
「分かってるって」
渋々ながらも折れたオフィーリアと並んで受付カウンターへ向かう。
そこで受付嬢から依頼の詳細と注意事項を一通り説明され、最後に書類を差し出された。
「では、こちらに署名をお願いします」
文面を流し読みしてると、その末尾に――
『討伐中の事故や死亡については、すべて自己責任となります』
と記載されていた。
◆◆◆
ギルドを出た俺たちは、さっそく旅の準備に取り掛かる。
エロドの森までは馬車で一週間ほどかかるらしい。
その間の食料や日用品、着替えや装備品などをかき集めたら、けっこうな量になった。
もちろん、全部オフィーリアの金で買った。
「えぇ……これ持って移動すんの、超だりぃな……」
部屋に積み上げられた荷物を改めて確認すると、一気にやる気が失せる。
「今さら辞退はできないからな?」
そうだよなぁ……。
――あ、そういえば。あれは何ポイント必要なんだ?
俺はスマホを取り出し、スキル画面をスクロールさせる。
《無限収納》 20,000P
うわ、やっぱ結構持ってかれるな。
でも、ギリ足りるはずだ。
「なぁ、オフィーリア。出発前に一発やらせてくれ」
「……は?」
「やらせてくれたら、この魔王様のとっておきの便利スキルを見せてやる。お前にとっても超役立つことを保証する」
オフィーリアは、キモい生物でも見るような目で俺を見ている。
ここまでくると逆にゾクゾクしてくるな。
「それに旅の間も当然、稽古はつけてやる。この短期間で、お前の剣技も格闘術もだいぶレベルアップしたのは実感してるだろ? 今まで見せてない秘伝の技とかも特別に教えてやるから」
「…………」
「最強を目指したくないのか? お前を追放した聖騎士団を見返してやれ」
こいつの強さへの執着心を絶妙にくすぐってやると――
「いいだろう。便利スキルとやらはどうでもいいが、秘伝の技は惜しみなく見せることが条件だ」
ほらな。




