第8話 オフィーリア③
俺たちが宿泊している宿の中庭は、花壇や木々に彩られながらも広々としていて、大人が何人も剣を振り回したとしても、余裕がある造りだった。
先を歩くオフィーリアは腰に二本の長剣を下げており、庭の中央まで進むとその一本を抜き、軽く放るようにして俺へ投げ渡す。
「魔王様ともあろうお方だ。剣くらい扱えるんだろ?」
「ああ。剣でも槍でも斧でも、素手でも何でもOKだ」
「ふっ、昨日の夜みたいに口だけ番長じゃないといいがな?」
案の定、にやにやと挑発してくるオフィーリア。
俺は肩をすくめて、苦笑混じりに返すしかない。
「まぁ……昨日のは完敗を認めよう」
そう言いながら剣を構えると、自然と体が馴染んでいる。
武術スキルをある程度取り戻し、握りや重さの感覚が手の中で大分しっくりきていた。
次の瞬間、一陣の風が吹き抜け、試合開始の合図となる。
オフィーリアの踏み込みは疾風そのもの。
さすが元・聖騎士団の女将軍候補、ただのヤリマンじゃなかった。
だが――見えている。
フェイントを交えて斬り下ろしてくる剣筋を、俺は柳の枝のように受け流した。
「ほう……」
オフィーリアの目がわずかに見開かれる。
「手加減する必要はなさそうだな。本気でいかせてもらうぞ」
言葉通り、彼女の動きはさらに鋭さを増し、剣の速度が一段跳ね上がる。
やべっ、マジで速ぇ……! 強ぇよ……!!
余裕などすぐに吹き飛び、俺は必死で刃を受け流す。
金属と金属がぶつかる甲高い音が中庭に響き渡り、気を抜けば即死しかねない緊張感が肌を刺す。
――何分くらい経過しただろうか。
「ふぅ……ここまでにしておくか。いい運動になった」
汗を拭いながら剣を収めるオフィーリア。
どうやら、何とか耐え切れたようだ……。
俺たちはその場に腰を下ろした。
「あんた、さっき剣でも槍でも素手でも構わないって言ってたな?」
「おう、どれも同じレベルで使いこなせる」
「そうか……なら、あたしに格闘術を教えてくれないか?」
「聖騎士団では鍛錬してなかったのか?」
「いや、多少はやっていたが、あくまで剣技のおまけ程度だ。未熟なのは自覚している」
「いいだろう。今から始めるか?」
「宜しく頼む」
武術スキルを取り戻したおかげか、俺の体はもう回復していた。
さっきまで本気で剣を交えていたというのに、この中年太りの体型に疲労が残っていない。
スパーリングを始めてみると、すぐに分かった。
なるほど、剣の腕前に比べれば格闘術は確かに甘い。
打撃も組技も隙だらけで、俺の目には穴が見えまくっていた。
「剣のレベルが7だとすると、格闘術は3か4ってとこだな。……俺の夜の格闘術は1だけど」
軽口で自虐してみせる。
「これから毎日、格闘術を教えてやる。その代わり――今夜、もう一度だけ対戦させてくれないか?」
「えぇ……昨日も言ったように、あたしにも好みというものがあってだな」
心底嫌そうな顔をされた。
「分かってる。でも、一回ヤったんだから二回ヤったところで同じだろ? 頼む、リベンジさせてくれ!」
俺は必死に懇願する。
もう一回中出しするだけでも、27,000ポイント獲得できるからな。
武術レベルもMAXまで到達するだろうし、余ったポイントで他の便利スキルも取り戻せるかも。
オフィーリアは目を閉じ、眉間に皺を寄せてしばし黙り込む。
こんなヤリマンにもそう簡単には首を縦に振ってもらえない現実に凹む。
「……分かった。一回だけだぞ? その代わり、あんたからの指導は毎日だ」
「それでいい」
――その晩。
再び、ベッドの上で手合わせ。
少しでも長く楽しみたいから、夜の技はできるだけ封印してもらうようお願いした。
秒で瞬殺とかマジで勘弁だからな。
昨日と違って酒に酔っていないオフィーリアからは「あんた、何で当たり前のようにゴムもつけずに」などと言われたが、「大丈夫だから、種族が違うから妊娠とかしないから」とか言いながら、必死に丸め込んだ。
俺は最中、必死に頭の中で素数を数え、快感から意識を遠ざける努力をした。
だが、そんな努力も、たった数分しか持たなかったのは言うまでもない。
賢者モードに突入した俺は、オフィーリアに「おやすみ」と告げてから自室へと戻った。
ベッドに腰を下ろし、スマホを起動すると、無表情のまま《武術》スキルをタップ連打。
予想通り、Lv.10がMAXだった。
「ふっ……これで武術は完全復活か」
明日は、武術を極めた魔王様の本気の剣技を見せてやろうかな。
その実力を見せつければ、「剣技も教えてくれ」と言い出してくるかもしれん。
そうなったら――また中出しの交渉材料にできる。
次は27,000から24,300ポイントに下がるが、それでもまだ充分すぎる数字だ。
残りのポイントは、最初は新しいスキルに回そうかと思った。
だが、レベルが中途半端なまま放置してある《回復》と《状態異常回復》がどうにも気持ち悪い。
結局、この二つを優先して育てることに決めた。
そして、どっちもLv.4に到達。
「ふぅ……これで中級ヒーラーを名乗っても大丈夫だろう」
一応、ギルドには『ヒーラー』として登録している。
受付のお姉さんは「初級でも需要が高い」とか言ってたから、レベルを上げておくに越したことはない。




