第53話 ログマ①
武闘祭終了後恒例の優勝者を招いての晩餐会は、宮殿の大宴会場で催される。
天井は高く、シャンデリアや豪華な装飾が壁一面に輝きを放っている。
床は磨き上げられた大理石で、シャンデリアの光が壁や装飾、器などに反射し、場内全体に荘厳さと静謐さを漂わせていた。
目の前には豪快な肉料理や果物が並び、ワインなどの酒も整然と置かれている。
会場には百人を超える偉そうな人々が談笑しており、俺が案内された席は皇帝陛下のすぐ近くだった。
乾杯の挨拶を終えると、早速陛下から話しかけられる。
「参加者の名簿を見せてもらったが、君はこの帝国の国民ではないようだね」
「そうですね。色んな所に拠点はありますが、一応アルナの出ということになります」
「ふむ。我が国は強ければ誰でも受け入れる。そうやって強くなってきた。でなければ竜人どもには対抗できん」
「竜人とは今でも戦争状態なのですか?」
「いや、この数十年は小康状態だ。だが油断は出来ぬ。奴らがその気になれば、あっという間に全面戦争に突入するだろう」
そう言うと陛下はニヤリと笑みを浮かべる。
「だが、もう安心だ。君のあの力があれば、いかに竜人と言えど、たやすく攻め込むことは出来まい。盾となってログマとこの国を守ってくれ」
「父上……。何度も言ってるけど、あたしは結婚なんかしねぇ。強けりゃ何でもいいって価値観は改めてくれ。貴様も何か言ったらどうだ?」
それまで黙ってワインを飲んでいたログマ様が、結婚の話が出た瞬間、割って入り俺に話を振ってくる。
「そうっすね……。俺も結婚はちょっと。各地に嫁みたいなのがいるので、一人に縛られるのは無理です」
「なんだと……? 『帝国の紅玉』と称されるログマの美貌を前にして、結婚は出来ぬだと?」
「はい。ログマ様に匹敵する美しい嫁みたいなのが各地にいるので、本人がそんなに嫌だというなら、そこまで惹かれないというか」
俺の言葉に、ピクリと眉を上げて反応したのはログマ様だった。
「各地に美しい嫁……? 貴様のような冴えない中年にか?」
「はい。俺の力を求めて、皆喜んで俺の女になってますよ」
「ほう……」
俺は視線を陛下に戻し、問いかけるように口を開く。
「それより、陛下。そんなことより魔王の伝説についてお聞きしたいのですが」
「……あたしとの結婚がそんなこと? それより魔王の話をしたいだと?」
ログマ様は小さくボソッと呟き、その額には心なしか青筋が浮かんでいるようだった。
「おお、そういえば君は魔王様に興味があるんだったな」
「はい、東の方ではあまり聞かないので」
陛下は微笑みながら頷き、話を続けた。
「魔王様は二千年以上前に、この大陸を統一されたお方だ。ある日、どこからか現れ、各地で争っていた様々な種族をまとめ上げた。その力は天にも届くと称され、多くの人々が恐れと尊敬を抱いた。しかし、その力が傲慢とされ、神の怒りを買ったため、天より遣わされた天使たちとの全面戦争に突入することになった。結果として破れた魔王様はこの世界の裏側へと放逐されたのだ」
そして一呼吸置き、締めくくる。
「そして、魔王様がいなくなり、世界は再び各種族間で争いが起きるようになった。その最たる例が、竜人と我々人間の戦いというわけだ」
へぇ……。
だから最初、オフィーリアも「エルフは友好的じゃない」とか言ってたのか。
「なるほど……で、さっき俺の能力を見て、魔王を思い起こされてましたよね? 伝説にもあんな感じの力があるんですか?」
「魔王様のひと睨みで、周囲の者たちはバタバタと気絶したという話もある。それを思い出したのだ」
じゃ、そん時の魔王も覇気は使えてたんだな。
話が一段落すると、俺は肉料理にかぶりつく。
「……おい、貴様。あたしが結婚を拒絶するのは当然だ。だが、貴様の方からもお断りというのは違うだろ?」
ワインが少し回ったのか、目の座ったログマ様が絡んでくる。
「い、いや、辞退しろと仰っていたじゃないですか……」
「そうだ。自分なんかにはもったいないお方なので、辞退させてもらう、恐れ多い、というニュアンスで断れという話だ」
「えぇ……」
何だこれ、めんどくせぇ。
「あたしに匹敵する美しい嫁が各地にいるから、あたしは別にいらねぇだと? こんな屈辱は初めてだ……」
ワイングラスを持つ手がわなわなと震えている。
めっちゃプライドが高いのか?
そういえば人を物扱いするなとか言ってたな。
「ま、まぁでもログマ様も充分美しいですよ! 俺の女たちに混ざっても上位に入れます!」
「……上位に入れる? 舐めてんのか!? 三千万の人口を誇るこの帝国で、『紅玉』と称されるあたしが、貴様の中ではトップですらないだと??」
「まぁ、そうっすね……。好みの問題もありますから。トップは誰だろ……。顔だけだったらリトリス様かな。いや、順位をつけるのは良くないな」
「誰だ、そのリトリスってのは?」
「ハイエルフの姫です。やっぱり人間とは違う美しさですね」
「ちっ……。一旦別の種族は置いておけ。人間の中ではあたしが一番だろ?」
「人間だとカトロジー様と月姫がいますからね……。あとティアナもあの素朴さが癖になるし、オフィーリアも雑に扱ってるけど紛れもない美人だし」
「ふ、ふざけるなよ、貴様!? 人間の中でもあたし以上がいるってのか??」
「じゃ、同格! 同格ということにしておきましょう!!」
「貴様、暫く帝国に滞在するんだよな? 今日は酒に酔った。明日、本気のあたしを見せてやるから判断を改めてもらうぞ」
「はぁ……」
なんだ、本気のあたしって。
構ってちゃんかよ、この人。




