第51話 帝国武闘祭①
「帝国武闘祭?」
「ああ、世界中から……強い奴が……集まってくる……らしいぞ。はぁはぁ……優勝……賞金はもちろん、色んな……恩恵とかも」
いつものように後ろからオフィーリアを突いているとイキそうになったので、小休止がてらぶっ刺したまま話を振ってみる。
「でも、あんたが出るなら勝ち目はないじゃないか。あたしは遠慮しとくよ」
「そうか」
「ちなみにディル・ドー帝国について何か知ってるか?」
「んー……西の大国ってくらいだな。あとは竜人の人類圏への侵攻を食い止める最前線になってるとか。――あ!」
そう言うとオフィーリアは急に締めつけやがったので、イッてしまった。
「あぁ……馬鹿、お前……。せっかく我慢してたのに」
「思い出したんだよ。確かあの国は魔王伝説発祥の地だった気がする」
「そうなのか?」
「ああ、大会に出るついでに色々見て回ったらどうだ?」
◆◆◆
不本意なフィニッシュだったので、もう一回中出しした後、俺は瞬間移動でディル・ドー帝国に戻った。
――魔王伝説発祥の地。
二千年前、天使たちと戦ったのは初代なのだろうか?
いずれにせよ、分からないことが多すぎる。
俺は帝都の街並みへ足を向け、ゆっくりと散策する。
道のあちこちに並ぶ立派な銅像の中には、かつての魔王を模したものも少なくない。
だが、当然ながらその姿は今の俺とは似ても似つかない。
魔界の魔族との姿とも全然違う。
――天使との戦いに敗れ、神に魔界へ追放された時、容姿まで醜く変えられてしまったのだろうか。
それとも魔界の環境に適応する為に、あんな感じになったのか?
多分、人間があそこに行ったら瘴気とかにやられるだろうから、後者が正解かな。
その後、図書館に籠もって数々の書物を漁ってみたが、有益な情報はほとんど得られなかった。
ある日突然現れて、誰かを救っただの、竜人を撃退しただのという伝説ばかり。
天使たちとの戦いについても、いくつかの本に記されてはいたが、どれもお伽噺のような真偽不明な内容ばかりだ。
まぁ、二千年も前の話だ。仕方ない。
◆◆◆
「おい、あれ……アナ兄弟だ。両方そろって参加かよ」
「前回準優勝のオホも来やがったな。あいつは大会参加にかこつけて人を殺しに来てるだけだろ……」
「ああ、この武闘祭は明らかに故意でなければ殺人も認められるからな」
「しかも、今後も参加する為に、前回は決勝でわざと負けたって噂だ」
「……まぁ誰が相手でも負けられねぇ。何しろ今回はログマ様がかかってるって噂だ」
「てめぇなんぞにログマ様を任せるわけにはいかねぇ。俺がもらう」
――帝国武闘祭、当日。
参加者控室には殺気がみなぎっていた。
五十人近い男たちが、その闘志を抑えきれないかのように目をギラつかせている。
筋肉の鎧をまとったような大男、いかにも俊敏そうな剣士、そして静かに佇む魔術師――。
多種多様な腕自慢たちが、一堂に会していた。
暫くすると、控室の扉がゆっくりと開く。
現れたのは、威風堂々たる壮年の男と、黒いドレスに身を包んだ赤髪の美女だった。
その姿が見えた瞬間、先ほどまで殺気立っていた場は一転、息を呑むように静まり返る。
壮年の男は軽く咳払いをして、低く響く声で口を開いた。
「正式な挨拶は開会式で行うが、先に諸君を激励しておこう。よくぞ集まってくれた。皆も知っての通り、この国では強さこそが正義。強ければ、何でも認められる。――そして、今回の優勝者は娘ログマの婿として、我が皇室に迎え入れることとなる」
「おおお!! 皇帝陛下万歳!!」
その宣言に、場が一斉に沸き立つ。
「ログマ。お前からも皆に激励の言葉を」
陛下に視線を向けられた皇女は、ゆるりと一歩前に進み出た。
黒のドレスに赤い髪と瞳が映え、その姿は鋭い刃のように気高く美しい。
「……はぁ。貴様らの誰かを婿として迎えるなど、あたしは決して認めない。強さが正義? ふざけたこと言ってんじゃねぇ。原始人かよ。全員、死んでくれ」
そう吐き捨てるように言い放つと、ログマ様はスタスタと控室を後にした。
「ガハハハハハ!! これからの皇室を支えるには、あれくらい気が強くなくてはな! では諸君、会場でまた」
……ん?
大丈夫なの、この親子?
◆◆◆
控室を出て通路を抜けると、その先には広大な闘技場が姿を現す。
それを取り囲むように幾重にも重なる観客席は、びっしりと人で埋め尽くされている。
石造りの席は段差をつけて造られ、どの位置からも闘技場全体が見渡せるよう工夫されていた。
俺たちが姿を現すと、歓声が渦となって空間を震わせる。
熱気は肌にまとわりつき、思わず息が詰まるほどだ。
遠くの高みからも視線が絡みつくように鋭く降り注ぎ、逃げ場のない緊張感を生み出す――闘技場全体が、戦いの舞台として待ち構えていたかのようだ。
俺たちは全員、闘技場の上に立つ。
五十人が上がってもなお余裕があるほどの大きさだ。
貴賓席に皇帝陛下が現れると、会場は少しずつ静まり返っていく。
完全にシンとしたところで、陛下はマイクを手にゆっくり立ち上がった。
「帝国武闘祭へようこそ。今回は記念すべき第二百回目の大会である。歴史の証人となれる皆は幸運に恵まれている」
その言葉に大歓声が沸き起こり、やがて再び静寂が戻る。
「この大会は強ければ全てが認められる。ゆえに、前回大会も参加者の半数近くが命を落としている。それでもなお、己の名誉のため、この場に立つ勇気ある男たちに祝福を」
またも大歓声。
「今回の優勝者は皇女ログマを妻に迎える権利を与える。それは、この国の盾となり矛となることを意味している。次代の覇者となる者の勇姿を、しっかりとその目に焼きつけて欲しい。以上だ」
そう言うと陛下は、隣に立つサングラスをかけた男にマイクを渡した。
「陛下からのありがたいお言葉、お前らはちゃんと聞いてたな!? 準備はいいか?? では始めるぞ!! 帝国武闘祭、開幕だあああ!!」
サングラス男の煽りに、観客たちの熱狂は頂点に達する。
闘技場の石床がビリビリと震え始めた。
「では、まずは初戦恒例のバトルロワイヤル!!! 数が半分になるまで目の前の男たちをぶちのめし、闘技場の外へ叩き落せ!! スタートオオオオオ!!!」




