第50話 ディル・ドー帝国
ニナオ市国の西へ、馬車で二十日ほどの距離に、竜人たちの住まうアヘ山脈がある。
数千年の時をかけ、少しずつ山を切り拓いて一つの国家となり、今では何百万人もの竜人たちがそこに暮らしているという。
今回、俺は馬車を使わず、舞空術で移動することにした。
せっかくスキルを取り戻したしな。
スピード自体は馬車より速いが、結構スタミナを持っていかれる。
なので結局のところ、休憩時間を考えると、一日で進める距離としてはあまり差はないだろう。
西へ移動していること以外は、日常のルーティーンも変わっていない。
朝はアーリス様に短剣術の指導、夜は月姫かサフィラ様の元で寝る。
そのローテーションにカトロジー様が新たに加わった。
『魔王の寵愛』ゲットまでの道のりはまだまだ遠い。
ちなみにリトリス様は、あと数回くらいでいけそう。
サフィラ様と過ごした翌朝は、修業を終えると汗だくのアーリス様と一戦交える羽目になる――それも変わらない。
月姫は、宵ちゃんに教えてもらったという色んなエロテクを嬉しそうに試してくる。
月姫というよりもはや泡姫みたいな感じで、一緒に風呂に入っては、あんなプレイやこんなプレイで俺を驚かせる。
あの黒髪清楚美少女がよくもここまでエロくなったものだ。
そんな感じで今日も空を飛んでいると、眼下に大きな街が広がっているのが見えてきた。
石造りの城壁に囲まれ、赤茶色の屋根がびっしり並び、中心には鐘楼のような高い塔がそびえている。
これまでの道中で、いくつか小さな街は見かけてきたが、あまり興味が惹かれなかったので素通りしてきた。
でも、これくらい大きければ何か楽しいことがあるかもしれん。
別に最短ルートで急ぐような旅路でもないし、ちょっと遊んでいこう。
そう思って、俺は街中へ降り立った。
「お、おい……なんだ、あんた。今、空から降りてきたのか?」
目の前では、くたびれた革エプロン姿のおっさんが腰を抜かしていた。
「え? ああ、そうだけど。ここらへんじゃ『舞空術』を使う奴はいないのか?」
「ぶ、ぶくうじゅつ!? 何だ、それは……翼も生えていないのにどうやって空を飛ぶんだ?」
声が裏返っている。
「スキルだよ。東の方じゃ普通だよ」
「う、嘘つけ! 俺は色んな街で暮らしてきたが見たこともない!! お、おい!! 誰か衛兵を呼んで来い!!」
適当に嘘をついてみたが、すぐバレた。
まぁいいか。
面白そうだから少し付き合ってやろう。
やがて、鎧を身にまとった二人組の衛兵が現れた。
腰にはいずれも剣が下がり、金属音がわずかに響く。
そのうちの一人、まだ年若い男が、こちらを鋭く睨みつけるように問いかけてきた。
「貴様か? 空から降り立った怪しい奴というのは」
「おう。怪しいかどうかは自分じゃ分からんけど」
「な、何だ、その口の利き方は……! 俺は衛兵だぞ!」
「なに? 衛兵ってこの街じゃ偉い感じなの? たかが衛兵ごときが?」
「き、貴様……!」
そう言って掴みかかってこようとしたその瞬間、隣の壮年の兵士が腕を伸ばして制した。
「落ち着け。まずは事実確認だ」
そして、落ち着いた視線を俺に向けてくる。
「では悪いが、ちょっと実際に空を飛んで見せてくれないか?」
「いいぜ」
俺はふわりと宙に浮かび上がった。
「な……!?」
若い方は目を見開いて驚くが、年配の方は顎に手を当て、動じることなく観察している。
「なるほど、確かに確認した。そんなスキルを持っているくらいだ、君は相当強いんだろう?」
「まぁ、そこら辺の連中よりはな」
それを聞いておっさんは、ニヤリと笑った。
「面白い。だったら君、帝国武闘祭に出てみる気はないか?」
「帝国武闘祭?」
「ああ、三年に一度の大会が来週開催される。世界中から強者たちが集まり、その腕を競うんだ。優勝すれば莫大な賞金はもちろん、帝国軍で要職に就けたり、色々な恩恵を受けられる」
「ほう……確かに面白そうだな。何か手続きは必要なのか?」
「大会の受付まで連れてってやる。ついてこい」
◆◆◆
受付へ向かう道すがら、俺はおっさんにあれこれ質問を投げかけていた。
石畳の道の両脇には露店が並び、焼き肉の匂いと香辛料の香りが風に乗って流れてくる。
「ちなみに、ここは何て国なんだ? 俺は東の方のアルナって街から適当にぶらぶら旅しながらここまで来たから、全然分らんのだけど」
「ここはディル・ドー帝国だ。この辺りでは武の国として知られている」
「へぇ。それで定期的に武闘祭なんてやってるのか」
「ああ。昔から近くの竜人どもと争うことが多かったせいで、国全体が戦いに備える文化になった。自然と武を競う大会も根づいたってわけだ」
「竜人ね……。会ったことないけど強いの?」
「強い。正直、素の勝負では全く歯が立たない。なので、俺たちは武器や魔法を磨いて何とか対抗してきた」
「なるほどな。さっきの若い兄ちゃんが衛兵に誇りを持ってたのも、その文化のせいか。強い奴が尊敬される国ってことだな」
「その通りだ。皇室の方々も俺たちには敬意を表してくれている。……ま、一名を除いてだが」
「一名?」
「話が過ぎた。忘れてくれ。着いたぞ」
そう言って彼が立ち止まった先には、円形闘技場を思わせる巨大な建物がそびえていた。
正面のアーチ状の門には「武闘祭受付」と書かれた看板が掲げられている。
俺たちが進んでいくと、革表紙の大きな帳簿を広げた受付係がにこやかに声をかけてきた。
名前・出身地・得意魔法・武器など、いくつかの項目を書き込むと、最後に参加証の札が渡される。
こうして、あっさりと俺の武闘会参加登録は無事に完了したのだった。
月姫とのあれこれの詳細は、ノクターンに連載中の
「 元・魔王の中年童貞のエロ日記 」
ep16 月姫が泡姫になった夜
にて公開してます。
宜しければ、そちらも読んで頂けると嬉しいです!




