第49話 輪廻
とある国の天空塔の最上階に広がる円形の部屋。
黒曜石の壁に囲まれ、水晶灯が静かに揺れている。
三人は漆黒の大理石のテーブルを取り囲むように、ゆったりと腰を下ろしていた。
窓の外には、夜の街の光が星のように煌めいている。
「それで、今日はどうしたんだ? 何か緊急事態でもあったのか?」
「いや、緊急というほどではないが、ちょっとした報告事項だ」
「……何よ? もったいぶらずに、さっさと言いなさい」
「ふっ。久しぶりに三人で顔を合わせたんだ。そんなに急かさなくてもいいだろ?」
「はいはい。それで?」
「聖女の魔力が消え去った。正確に言うなら、結界用の魔力だけだが」
「は……?」
「……あの小娘にそんな相手がいるとは聞いてないぞ?」
「うむ。どうやら相手は魔王のようだ。輪廻は巡る、ということだろう」
「ふーん。で、どうするの? 計画を修正したいってこと?」
「まさか。このまま継続だ。今日は情報の共有だけ。とりあえず、教皇にだけは黙っておいてくれればそれでいい」
「了解」
◆◆◆
「えっと……ちょっと理解が追いつきませんでしたので、もう一度宜しいですか?」
「はい、つまりカトロジー様にあと二十回くらい中出しして、口にも何回か発射するので、それを飲み込んで頂ければ、『魔王の寵愛』が自動で付与されます。ここまでは宜しいですか?」
「は、はい……」
聖女様は目を閉じたまま、こめかみに人差し指を押しあて、険しい表情でゆっくりとうなずいた。
「で、この『魔王の寵愛』という力は、俺が持つスキルを好きな時に一つだけ使えるものです。あなたが俺に純潔を捧げたことで失った魔力を、俺の魔力で補い、魔法を使うことも可能になります」
「……それで、あなたの持つ魔法は癒しだけでなく、攻撃魔法なども含まれている、と」
「そうです。まだ全然全てを取り戻してはいないですが――そうですね、実際に今、何が使えて、何が使えないかをお見せしながら話した方が早いでしょう」
俺はそう言ってスマホを取り出し、カトロジー様と並んでスキル一覧画面をのぞき込む。
「魔法に限らず、何でも使えるようです。例えば――この『瞬間移動』とか」
「それは便利ですね……。あ、この『無限収納』というのは、あなたが物を亜空間にしまえるスキルですよね?」
「その通りです。ただし、同時に使えるスキルは一つだけなので、他のスキルを発動した瞬間に解除され、溜め込んだ物が一気にあふれ出す可能性があります」
「なるほど……」
「せっかくですし、カトロジー様。先日いただいた百万ポイントで、何か欲しいスキルを選んでみてください」
「宜しいのですか?」
「もちろんです」
カトロジー様は画面をゆっくりスクロールさせ、ひとつひとつのスキルをじっくり確認していく。
分からないものがあればその都度質問し、ふむふむと頷きながら読み進める。
そして、指先がピタリと止まった。
「それでは、こちらをお願いします」
「どれどれ……『舞空術』ですか?」
「はい。これを使えば、空を飛べるのでしょう?」
「そうっすね。でも移動するだけなら、『瞬間移動』の方が便利じゃないですか?」
「ふふっ。移動したいのではなく、空を飛んでみたいのです」
「なるほど。これは二十万ポイントしか使わないので、他にもいくつか良いですよ?」
「……攻撃魔法は『氷属性』魔法だけなんですよね?」
「はい、今んとこは」
「では、『炎属性魔法』など他の属性魔法もお願いしたいのですが、残りのポイントで足りますか?」
「全然余裕です。じゃ『炎』『風』『水』『土』『雷』も全部カンストさせちゃいましょう」
そう言って、俺はスキルをタップし続ける。
タップのたびに一瞬だけ光に包まれる俺を、カトロジー様は不思議そうに見つめていた。
「これでOKです。ただ、今すぐ使えるわけじゃなくて――さっきの条件を満たす必要があること、お忘れなく」
「そ、そうでした……」
「まだまだポイントは余ってますので、他にも必要なのがあれば、いつでも仰ってください」
とりあえず、今回の訪問の目的はある程度果たせた。
だが、最後にもうひとつだけ確認しておく。
「ちなみにカトロジー様、『七つの大罪』ですが、残り三つはどこにあるかご存知ですか? もしくはありそうな場所とか」
「そうですね……」
聖女様は何かを思い出すように、しばし考え込んだあと口を開いた。
「六人の巫女は、各種族を代表する美女であった、と伝わっております。ヒロシ様のお話を聞く限り、それは事実のように思われます」
「あ、確かに……。今のところ他の二人のハイエルフと王猫人の姫たちも超絶美人だし、カトロジー様も人間界ナンバーワン美女だし」
「わ、わたしなんてそんな……」
「ということであれば、この世界には他にどのような種族がいるのですか?」
「そうですね……この近くで言えば、竜人も大きな勢力ですね」
「竜人?」
「はい、竜の力を受け継いでいると言われる種族です」
「リザードマンとは違うのですか?」
「リザードマンは人類よりも爬虫類に近いです。わたしたちにとって竜人は、エルフや猫人などと同じような感覚です」
「なるほど」
――よし、行ってみるか。
竜人の住む街とやらへ。
聖女様の純潔を頂いてしまったことだし、ちゃんと世界は守らないとな。
俺は今さらながら、この世界における大きな使命を見出した気がしたのだった。




