第41話 アーリス②
「話は分かったわ。サフィラちゃんも『魔具創造』の為に、あなたに身を捧げたのね」
「そうです。メイドのミレナは、そんなことの為に純潔を犠牲にしないでくれと懇願してました」
「そんなの当たり前じゃない……」
「でもサフィラ様は貴族の婚姻に本人の意志なんて関係ないから、純潔に価値なんてないと仰ってました」
「……」
「で、何か分かりませんが、その後やたら気に入られて、アーリス様の言うところのマーキングをされるまでに至ったわけです」
「ふぅん」
アーリス様は深い緑の瞳を細め、俺を見つめる。
「面白いわね」
「はい?」
「私――人の物が欲しくなる性格って言ったでしょ? それがその人が大事にしてればしてるほど、ますます欲しくなっちゃうのよ」
「……あまり、褒められた性格ではないですね」
「分かってるわよ。でも、そう生まれちゃったんだから仕方ないじゃない」
そう言うと、口元にうっすらと笑みを浮かべる。
「でも、いくらサフィラちゃんが大事にしてるとは言え、主に容姿的な面であなたに興味を持つことは出来なかった」
「そ、そうですか……まぁこんな中年太りを気に入ってくれる人なんか殆どいませんが」
「でも、あなたのその強さと可能性。女は本能的に強い者に惹かれちゃうのよ」
「そうなんすか?」
「しかも、サフィラちゃんが貴族の誇りを捨ててまで自分の物だとアピールしてる存在」
アーリス様の緑の瞳に、じわりと狂気の光が宿る。
「あなたが欲しくなっちゃった。あなたに施されたマーキング、全て私で上書きしてから、アルナに戻ってもらおうかしら」
「……はい?」
それだけ言うと、アーリス様は椅子から立ち上がって、部屋を出ていった。
おい、この残された大量のサラダ、どうすんだよ……。
◆◆◆
夜になる。
晩飯を食い終えた俺は、酒を呑みながらダラダラと過ごしていた。
月姫かティアナの所にでも瞬間移動しようかな――そんなことを考えていたら、ドアをノックする音が響く。
まさか、アーリス様じゃないよな……。
恐る恐るドアを開けると、周囲を伺うようにこそこそしているアーリス様が立っていた。
そのままドアを強引に押し開け、ぐいっと中に入ってくる。
「誰かに見られたらどうするつもり? さっさと入れなさいよ」
そう言いながら、彼女は足早に中へと踏み込んできた。
「いやいや……何すか? 明日も朝から修業で会えますよね?」
「あなたにまだ確認したいことがあったのよ」
「何ですか? ちょっとこれから用事あるんすけど……」
「用事? 今から?」
「はい。『瞬間移動』使ってちょっと」
「どこに行くのよ? サフィラちゃんのとこ?」
「いや、今日は別の女の子の所に」
「別の!? ……まぁいいわ。とりあえず聞き忘れたことがあったから」
アーリス様は腕を組み、俺を射抜くように見つめてくる。
「何でしょうか?」
「……その、あなたと交わった場合、相手側に何かメリットは無いの? 一方的にあなただけが得するシステムになってるの?」
「いや……。一応、あるにはありますかね」
「やっぱり。何があるの?」
「そうすね。まずは『精神感応』が使えるようになります」
「何それ……?」
「どんなに遠く離れていても、お互いを思い浮かべるだけで頭の中で会話が出来ます。何かピンチに陥った際は、いつでも俺を呼び出せるようになります」
「……それは便利ね。他は?」
「もう一つは『魔王の加護』が付与されます。毒や呪いとか、あとは病気に対する耐性がめっちゃ上がります。あとは魔法とか物理による攻撃への耐性も上がるので、よっぽどヤバい奴からの攻撃以外は、ほぼ無傷でやり過ごせます」
「本当に?」
「そうすね。超強力なお守りと思って頂ければ」
アーリス様の瞳に好奇心の光が増していく。
「ちなみにあなたのその加護を受けてる人は、他に誰がいるの?」
「身分の高い方で言えばハイエルフの姫君とか、朧ノ国の姫とか。あとは庶民も何人かですね」
「ハイエルフ!? あなた、そんなのとも関係を持ってるわけ??」
「はい、一応」
アーリス様は、驚いた顔で俺をじっと見つめ、唇の端をかすかに吊り上げる。
「ますますあなたを私の物にしたくなったわ」
「そ、そうすか。でも俺は誰の物にもなるつもりは無いっす」
そう告げると、アーリス様は俺の耳元に顔を寄せ、息を吹きかけるように囁いた。
「なら、私もあなたの女にしてちょうだい? あなたは私の物で、私もあなたの物。それならいいでしょ?」
「い、いや、アーリス様もいずれどこかの高貴な方とご結婚なさるでしょ?」
「確かにお父様は時々縁談を持ってくるけど、全部断ってるわ。でも、そろそろ我が儘を言うなと言われそうだから、条件をつけることに決めたの」
「条件ですか?」
「私よりも強いこと。あなたに短剣術を教わって、『魔王の加護』を付与してもらったら、私より強い者なんていなくなるし、ずっと自由を謳歌できる」
「……まぁ、そうかもしれないですね」
「逆にそんな私よりも強い男が現れたら、喜んで結婚してあげるわよ」
そう言うとアーリス様は俺に抱きついてくる。
サフィラ様と同じようなめっちゃいい匂いが鼻孔をくすぐる。
「サフィラちゃん、純潔なんて価値がないって言ってたのよね?」
「はい、言ってましたね」
「……言われてみれば、全くその通りだわ。だって、それって結局、相手の男にとっての価値ってことじゃない。他の男に汚されていない女を妻にするという価値。何で私が相手の男の為にわざわざ価値を上げないといけないのよ」
「いや、よく分からないすけど……」
アーリス様の腕の力がギュッと強められた。
「ねぇ、どうしたらいいの?」
「何がですか?」
「ここから先、どうやって進めればいいの? 猫人のやり方に合わせる必要はないわ。あなたの好きなようにしてちょうだい」
「え? 今からセッ〇スするってことですか!?」
「そうよ。早くあなたの加護が欲しいの」
俺のチ〇コが欲しいだったら完璧だったな……。
「ほ、本当にいいんですか? 王女様ともあろうお方が、こんなそこら辺にいそうな中年太りと」
「見た目はそうかもしれないけど、中身は魔王じゃない」
「ま、まぁ……一応は」
――静かな夜に今 火をつけるの
恋ともぜんぜん 違うエモーション
今夜は これからなの
頭の中で、何故かPerfumeのあの名曲のフレーズが繰り返された。




