第37話 スアヌ王国②
フィリク様に案内され、長い廊下を歩き応接室へと入る。
色彩豊かでありながら重厚なカーペットが敷かれ、大理石のテーブルが堂々と置かれている。
俺たちがソファに腰を下ろすと、猫耳メイドがそっとお茶を差し出してきた。
「ずいぶん長い旅路だったでしょう? お疲れではないですか?」
フィリク様は優しく、俺たちを気遣うように問いかけてくる。
「そうすね。でも、道中の街が普段暮らしてるアルナとは全然違っていたので、観光として楽しめました」
「それは良かったです。ここスアヌも、他種族がそれぞれ持ち寄った文化が融合した国です。きっと色々と興味を持って頂けると思います」
「ですね……。落ち着いたら、色々と見て回りたいと思います」
軽い雑談をしばらく交わした後、話は本題へと移った。
「それで、サフィラ殿から簡単にお話は伺いました。何でも『七つの大罪』と呼ばれる武器を探していらっしゃるとか?」
「いや、探してると言うか、それを狙って何者かが動いているので、注意喚起と言いますか」
「注意喚起……ですか?」
俺はこれまでの経緯を説明する。
オフィーリアにも話していなかったため、彼女も少し驚いた様子だった。
「で、これがそのうちの一つ、妖刀『朧月』です」
そう言って、亜空間からズズッと取り出す。
禍々しい刃が鈍く光ると、フィリク様も野生の勘か、その危険性を理解したようだ。
「……これは、確かに。なるほど、これを何者かが狙っていると?」
「はい。こちらの世界では馴染みのない魔術や竜を召喚するなど、なんか得体の知れない感じです」
俺がそう説明すると、フィリク様は黙って腕を組み、重々しく口を開いた。
「確かに、我が王家にも伝わる伝説の武器はあります。ただ、それが『七つの大罪』の一つに当たるのかは……何とも」
「見せて頂くことは可能ですか? 魔弓エクリプスも確認したので、共通する魔力などは大体把握しています」
「分かりました。お待ちください」
フィリク様は席を外し、しばらくすると猫人の超絶美女を連れて戻ってきた。
フィリク様と同じく金色の猫耳と髪を持ち、その毛先だけが黒い。
深いエメラルドグリーンの大きな瞳に、思わず吸い込まれそうになる。
いかにも高価なドレスはそのしなやかな体のラインを際立たせ、めっちゃエロい。
「紹介します。僕の妹、アーリスです。我が王家では代々、王女が伝説の短剣を受け継ぎます」
「はじめまして、アーリスと申します。兄よりお話は伺いました。これが私に託された短剣オルフェウスでございます」
そう言うと、テーブルの上にスッと差し出す。
刃はきちんと手入れされ磨き上げられており、柄には複雑な紋様が刻まれている。
魔力はほとんど感じられないが、それでも分かる。
「……魔力はもう枯渇寸前ですが、間違いないですね。これも『七つの大罪』の一つです」
俺の言葉に、二人は驚きの表情を浮かべ、しばし沈黙が続いた。
「そうですか……。この短剣にまつわる伝承は、王宮の大図書館に何か残されているかもしれません。ヒロシ殿、オフィーリア殿」
フィリク様は真っ直ぐに俺たちを見据え、口を開く。
「しばらくお付き合い頂いてもよろしいですか? もちろん、生活に関わる全てはこちらでご用意いたします」
「分かりました」
「あたしも大丈夫です。この国の剣術にも興味がありますので、名のある武人をご紹介頂けますか?」
「もちろんです」
フィリク様はにっこりと微笑むと、少し照れくさそうに続けた。
「ところで……話は変わりますが、その……ヒロシ殿」
「何でしょうか?」
「ヒロシ殿は、サフィラ殿と親しい間柄だと伺っております。彼女のことはよくご存知で?」
ええ、ア〇ルのしわの数やチ〇コのフィット感まで、彼女の体に関しては全てを把握してます――などとは言えるわけもなく。
「そ、そうですね。アルナ家に居候させて頂いておりますので、ある程度は」
「で、ではいくつか質問させて頂いても?」
「は、はい、大丈夫ですが……サフィラ様とは知り合いか何かで?」
「彼女は僕の許嫁なのです。十年ほど前に一度だけ会ったきりなのですが、その美しさに心を奪われてしまいまして……。彼女の元へ向かう日が待ち遠しくてたまらないのです」
そう言って、フィリク様は嬉しそうに頭を掻く。
――あれ?
サフィラ様、どこかの知らない貴族をいつか婿に迎えることになるとか言ってたけど、十年前に一度会ってるんじゃん。
「そ、そうなんですね。サフィラ様からそのような話は聞いたこと無かったので」
「元々、親同士でそう話していただけなんですが、つい先日正式に婚姻が決まったのです。国を挙げての式になりますので、準備には数年かかりますが」
マジかよ……。
いや、いつかそういう日が来るとは分かってたけど、胸がズキリと痛んだ。
その後、若干上の空になりながらも、動揺を悟られないようにフィリク様の質問に答えていく。
会話を重ねていくうちに、俺は次第に落ち着きを取り戻す。
そして改めて思った――
フィリク様、やっぱめっちゃいい人だな……。
この人なら、サフィラ様を幸せにしてくれる。
きっと彼女も、俺のことなんかどうでもよくなってしまうだろう。
それでもいい。
俺はずっと、サフィラ様の守護者として、影から支え続けるだけだ。
だからそれまでは――フィリク様には悪いけど、枯れ果てるまで中出ししておこう。




