第32話 ゴーレム討伐
地響きの方へ向かって俺たちは急ぐ。
雪は止んでいたが、夜の帳が降りた森は真っ暗で先を見通せない。
何かスキルでも解放しとくか――そう思ってスマホを取り出そうとした、その時。
目の前に、ぼうっと光の玉が浮かんだ。
「ウィル・オ・ウィスプを召喚したのじゃ。妾の意のままに動かすことが出来るぞ」
「おお、助かります! さすがリトリス様」
振り返って礼を言うと、姫は分かりやすいほどに胸を張る。
……意外と精神年齢は低いのか?
適当におだてておけば、案外扱いやすいかもしれない。
光の玉に導かれるように森を進み、そして――見つけた。
黒々とした巨体。
木々を薙ぎ倒し、轟音を立てて進む石の怪物。
全身を岩で組み上げられた躯は、まるで小さな山が歩いているかのようだ。
その一歩ごとに、大地が震え、幹が軋む。
「ほう、ゴーレムか。話には聞いたことがあったが、実際に見るのは初めてじゃ」
「ここら辺の固い土を素材にしてるみたいですね」
「そのようじゃの。どうやって倒すつもりじゃ?」
「魔法使うと森にダメージを与えてしまいそうなんで、刀で細切りにでもしようかと」
俺は亜空間から朧月を取り出す。
魔力は尽きかけているというのに、柄を握った瞬間、骨の髄まで凍るような寒気が走った。
「それが……朧ノ国の妖刀か?」
「そうです。危ないので離れていてください」
俺はその巨体へ向かって駆ける。
周囲に魔術師の気配はない。
死人の時と同じく、遠隔操作による傀儡だろう。
ゴーレムが腕を振り下ろす。
石塊とは思えぬ速さと重さ。その風圧だけで地面が抉れた。
だが、その一撃を軽く躱し、刀を抜き放つ。
一閃。
豆腐を切るよりも容易く。
岩肌を持つ巨体が、抵抗すら許さず真っ二つに裂けた。
「エグイな……なんちゅう斬れ味だよ」
俺は続けざまに斬り込む。
縦、横、斜め――自在に振るわれる刃が、巨躯を瞬く間に切り刻む。
ゴーレムは悲鳴すらあげられぬまま、無数の断面をさらし、やがてサイコロ状の塊へと変わっていく。
そして、最後の一振りで全てが崩れた。
切り分けられた岩片は、バラバラと音を立てて地面に散らばり、やがて土と同化して溶けるように消えていった。
どうやら核も一緒に細切れにしてしまったようだ。
「……見事な腕前じゃ」
リトリス様からお褒めの言葉を頂く。
だが、その声音には僅かに不満の色が混じっていた。
「妾の出番が全く無かったではないか。色々な召喚獣を呼び出そうと思っておったのじゃが」
「まぁ、あの魔弓を持っている限り、これからも敵がやってきますよ」
「む、それは確かに」
リトリス様は周囲を見回し、表情を引き締める。
「こやつを生み出した魔術師は近くにおらんようじゃの」
「ですね……。こんだけデカい奴を遠隔操作できるレベル。結構手強そうです」
「そ……そうか。お主がおらんでもエロドの里で対処できそうか?」
「うーん……。どうすかね。結局、この前の業火竜の召喚士も不明なままですし」
「……」
「さ、戻りますか。腹減ったんで」
そう言って、俺たちはまたウィル・オ・ウィスプの光に導かれ、もと来た道を歩き出した。
「そ……その、なんじゃ。そなたが良ければエロドの里にずっとおっても良いのじゃぞ?」
「いやー、ありがたいすけど、俺、一ヵ所にずっと留まるの苦手なんすよ。せっかくこっちの世界に来たんだから色々見て回りたいですし」
「そ、そうか……」
「ま、何かヤバいことがあればイラーマから連絡が来ると思うんで、その時は駆けつけますよ」
「……イラーマも時おり、ちょっとどこかへ出かけて戻らんこともあるしのう」
「そうなんですか? ずっと里にいるのかと思ってました」
「戻ってきたのは五年前くらいじゃ。それまで十年以上、どこかに行っておった」
さすがエルフ。
「ちょっと出かける」の単位が年レベルだ。
「……困ったのう。イラーマのように、妾もそなたといつでも連絡可能な状態にはならぬものか?」
「え? 一応出来ますけど、リトリス様にはハードルが高いかと……」
「何故じゃ?」
……え?
これ説明して大丈夫なのか?
里を出入り禁止になったりしない?
「いや、その……肉体的に、かなり濃厚な接触が必要となりますので……」
言い淀みながら、俺は出来る限りオブラートに包んで説明する。
「それによって精神的な繋がりが強まる、と言いますか……」
リトリス様は目を瞬かせ、こてんと首を傾げる。
「濃厚な接触……? 口づけということか?」
「いや、そんなんじゃ全然……まぁ、その、もっと踏み込んだレベルでして」
次第にその耳先が赤くなっていくのが、暗がりでもはっきり分かった。
「口づけでは全然足りぬと……? な、なにをさせる気じゃ……!」
「いや、だから聞かない方がいいっす……」
「ええい、ここまで聞いておいて引き返すことは出来ぬ。申すのじゃ!」
「だ、だから性交ですよ……避妊具無しの……」
いつも使う「セッ〇ス」とか「中出し」といった言葉を避けて何とか説明する。
「わ、妾を誰だと思っておる! そのような行為、出来るわけなかろう!!」
「だから言ったじゃないすか……」
「他にも方法はあるのじゃろ!? 隠すでない!!」
「いや、マジで無いんす」
「……」
そんな会話をしている内に、里へ到着した。
「まぁ良い。話の続きは明日じゃ」
いや、明日話したところで何も変わらんすけど……。




