第30話 メクアの森①
リトリス様が要した荷物を《無限収納》に詰め込んでいく。
「ほう……イラーマから聞いておったが、何と便利な能力なのじゃ。これであれば馬車は不要じゃの」
「え? どうやって移動するんすか?」
「召喚獣を呼び出す」
そう言うと、リトリス様は手慣れた仕草で宙に魔法陣を描き、低く詠唱を始めた。
淡い光が溢れ、やがて陣から姿を現したのは二頭の白馬――ただの馬ではない。
額から真っ直ぐに伸びる角が、神秘的な気配を放っていた。
「ユニコーン……すか?」
「そうじゃ。荷馬車を引くほどの馬力は無いが、その分疾い。当然、馬には乗れるのじゃろうな?」
「ええ、問題ないっす」
愛馬スレイプニルと共に魔界の戦場を駆け抜けた日々が、脳裏に蘇る。
そろそろ俺も召喚魔術を取り戻そうかな。
まぁ、これもノーモーションで発動しちゃうから、ティアナのお手本にはならないけど。
「しかし、こんな幻獣に乗って移動してたらめっちゃ目立ちそうっすね」
「どうせ普通の馬に乗っているだけでも、妾は目立つ。気にする必要は無いのじゃ」
……それもそうか。
陽光を浴びてさらさらと揺れる金髪は、まるで光そのものを編み込んだかのよう。透き通る肌と高貴な雰囲気、そして圧倒的な顔面偏差値。
ただそこに立っているだけで、老若男女を問わず、注目を浴びてしまうだろう。
◆◆◆
従者もいない、エルフの姫君との二人旅。
宿の手配などは、当然のように俺の役目になっている。
姫にこき使われる元・魔王――魔界での臣下たちが見たら、間違いなくがっかりされるな。
だが、効率を考えれば仕方ない。
予想通りめっちゃ常識無いもん、この御方。
しかも人目を引く外見してるから、うろちょろされると色々厄介ごとに巻き込まれそうだし。
夜になると、俺は瞬間移動で抜け出し、ティアナ、月姫、サフィラ様の部屋を順番に、平等に訪れ、オフィーリアにも一回だけ中出ししておいた。
ついでに久しぶりに剣の稽古もつけてやったが、《魔具創造》レベル10の魔力を込めた兄の形見の剣が、とんでもない進化を遂げていた。
刀身は赤黒く変色し、チロチロと闇の黒炎が揺らめき始めている。
「すげぇな、ここまで育つ武器は滅多にねぇぞ」
「ふっ……それだけ、この剣にかける思いが強いってことだろう。あんたの《魔王の加護》で色んな耐性もついたし、もはやこの国最強の剣士になってしまったかもしれんな」
確かに元々、聖騎士団の女将軍候補だった程の実力の持ち主だ。
そこへこの魔剣が加わり、剣術もレベル9くらいには届いてそうだし、あの時の業火竜くらいならマジで瞬殺できるだろう。
「……あんまり、悪いことに力を使うなよ?」
「なんだ、悪いこととは?」
「好みの男を無理やり連れ込んで、お前が満足するまで腰振らせたりとか」
「す、するか!! ……最近はもう逆ナンなんてしてない! ひたすら剣の道を極めてるんだ!!」
◆◆◆
今回の旅の目的地、大陸北部にひっそりと佇む「メクアの森」。
そこに辿り着いたのは、エロドの森を出発してから三週間ほど経った頃だった。
三日ほど前から急に気温が下がり、リトリス様は『無限収納』に預けていた防寒着をしっかり着込んでいたが、俺はそんな物を用意していない。
まぁ服を買えばいいだけの話なんだが、いくら服を着こんでも寒いものは寒い。
面倒なので、スキルを解放して問題を解決することにした。
《氷耐性 Lv.1》5,000P
この程度の寒さならレベル1でも十分お釣りがくる。
だが、この旅の間だけでも相当ポイントが貯まっていたので、一気に16万ポイント以上を投じてカンストさせることにした。
これで極氷竜の吹雪ブレスをまともに喰らっても耐えられる。
この世界にはおらんだろうけど。
俺がスキルを解放する様子を見て、リトリス様は目を丸くしていた。
「なんと……そなたはそうやってスキルを解放していくのか。面白いものを見たのじゃ」
「ま、これで半袖一枚でも、ここで余裕で暮らせますよ」
「ほう……実に便利じゃのう」
リトリス様は森の入口でユニコーンを異界に送還すると、目を瞑り意識を集中させる。
小さく呪を唱えた瞬間、森全体がわずかに揺らぎ、目に見えぬ膜が霧散するような気配を感じた。
「結界を解除した。では行くのじゃ」
「了解っす」
結界術は奥が深い。
魔界で俺が使ってたようなのとは、原理からして違ってそう。
森を進むにつれ、景色は迷宮めいて変貌していく。
小動物や鳥たちは気配を潜め、ただ静寂だけが支配する世界。
やがて雪がしとしとと舞い落ち、白い粒が音もなく肩に積もり始めた。
その中で、リトリス様は何の迷いもなく歩を進める。
どこから見ても同じ木々の並びにしか見えないのに、その足取りは確かだった。
「よく道が分かりますね。俺にはさっぱりなんすけど」
「このネックレスが導いてくれるのじゃ」
そう言って、胸元の銀色の装飾を指し示す。
淡く光を帯びたそれは、確かにただの装飾品ではない感じだ。
「へぇ……魔力か何かですか?」
「そうじゃ。古代から伝わる秘伝の魔法が込められておる」
再び、俺たちは黙々と歩き始める。
足元には雪が薄く積もり、踏みしめるたびに小さな音を立てた。
森は次第に闇を濃くし、夜の帳が静かに降りてくる。
やがて――
「着いたのじゃ」
リトリス様のその言葉に顔を上げると、視界に広がったのは幻想的な光景だった。
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