第3話 ティアナ②
ティアナに案内された先に広がっていたのは、深い森を切り拓いて作られた小さな集落だった。
周囲をぐるりと木々が取り囲んでいるせいで、空は狭く切り取られたようにしか見えない。
だが、木材で組まれた柵が簡素ながらも周囲を囲み、獣や魔物から村を守っているのが分かった。
入口らしき開けた場所には、丸太を組んだ門がひとつ。
その先には土の道が通り、数十軒ほどの小屋がぽつぽつと並んでいる。
道端には洗濯物が干され、鶏の鳴き声や子供の笑い声が聞こえてくる。
煙突からは細い煙がのぼり、かすかにパンのような匂いが漂ってきた。
門をくぐると、村人たちが物珍しそうにじろじろと俺を見てくる。
「ティアナ、いつの間に彼氏なんか作ったんだい?」
「ちょ!! 彼氏なわけないでしょ!? 私がこんなおっさんと付き合うような物好きに見える??」
こんなおっさん……。
「ガハハ! それもそうか!! で、一体誰なんだ?」
「さっき、私が召喚した悪魔よ」
ティアナが得意げに言い放つと、村人たちは一瞬で固まった。
「あ、悪魔様!?」
「おお、いつも失敗してたお前の召喚魔法が、ついに成功したのか!?」
「そうよ、分かったらどいて。母さんのところに連れてくから」
案内されたティアナの家は、他の家と変わらない質素な平屋だった。
中に入ると居間があり、その奥の部屋へ通される。
ベッドの上には、苦しそうに荒い呼吸を繰り返す中年の女が横たわっていた。
額には汗がにじみ、毛布の上からでも体の震えが伝わってくる。
「……熱か。いつからだ?」
「三日前から。解熱や風邪用の薬草を煎じて飲ませても全然効果が無くて」
「なるほど。ちょっと失礼」
俺は毛布をめくり、腕や足など露わになっている部分を確認する。
そして――
「これだな。ここを刺されてるのが分かるか?」
そう言って、母親の右の二の腕に赤黒くなっている小さな痕を指し示した。
「……虫刺され?」
「そうだ。この特徴的な痕は『デロング熱』だろう。森に生息する蚊の一種だ。魔界にもいる」
「そうなの? でも今まで村では、こんな症状が出た人は記憶に無いわ」
「大した毒じゃないから、刺されても平気な奴がほとんどだ。ただ、たまに相性の悪い奴もいる。お前の母親のようにな」
「そ、そんな……」
ティアナは一瞬絶句するが、真剣な眼差しで俺に向き直った。
「森にある薬草を調合すれば、何とかなるかしら?」
「いや~、どうだろうな。俺、今まで病気とかは全部魔法で治してきたから、薬の調合みたいな知識は持ってないんだよ」
「……じゃあ、魔法なら治せるのね?」
「ああ。さっきも言った通り、大した毒じゃない。初歩的な『状態異常回復』の魔法でも十分だ」
その言葉にティアナはふっと肩を落とし、安堵の表情を浮かべた。
だが――
「安心するのは早いぞ」
「え……?」
俺は低い声で釘を刺す。
「高熱による体力消耗を舐めない方がいい。この状態が三日も続いてるんなら、内臓にもダメージが出始めてるはずだ。このまま重篤化したら普通に死ぬ。今までお前が試した治療法じゃ何の効果も無かったんだろ?」
「――!!」
ティアナの顔から血の気が引いていく。
「……やるしかないんじゃないか、俺と」
「だ、だから出来るわけないでしょ!? 別の方法で何とかしなさいよ!!」
「とりあえず、手コキくらい試してみない? どの程度の行為でどれくらいポイントが貰えるか、俺も確認しておきたいし」
「ば、馬鹿じゃないの!? 真面目な顔してなに言ってるのよ!!」
「俺は全然、冗談を言ってるつもりは無いけどな」
ティアナはベッドで苦しむ母親を見つめた。
握りしめた拳が震えている。
だが、やがて何かを決意したように唇をギュッと噛み、俺を睨む。
「……て、手でいいのね? 今まで男性のものなんて触ったこともないし……どうすればいいのか、ちゃんと教えて」
「もちろんだ」
俺はゆっくりと頷いた。
ティアナの瞳にはまだ怒りと羞恥が混じっていたが、その奥に宿る強い意志だけは揺らいでいなかった。
そして、俺は発射した。
生まれて初めて女性の手でイカされたが、その感動と余韻に浸る間もなく、すかさずスマホを確認する。
「はぁ……はぁ……。獲得ポイントは150……か。これをあと7回繰り返せばスキルをゲットできるが……あれ? 同じ女から同じ行為はポイント下がるんだっけ……」
「な、何ぶつぶつ言ってるのよ。さっさと再開するわよ!」
「いや、無理だって。そんな早く回復するわけないだろ。ちょっと休憩だ」
「な……ちょっと、その間にお母さんが重篤化したらどうするのよ!?」
「……そう言えば、射精を伴わないエロ行為でもポイント稼げるかも。試しにキスしてみるか?」
「それは絶対に無理!!」
ティアナは顔を真っ赤にして即答した。
「じゃ、しばらく休憩だな」
「しばらくってどれ位よ?」
「う~ん、二時間位か? 三十代になってから回復遅くなったし、もっとかかるかもしれんが」
「そんなに待たされるの!?」
何だろう。
俺のチ〇ポがめっちゃ求められてる感があるな、これ。
「言っとくけど、出すたびに間隔は伸びてくからな? 一日三回が限度で、短期間で三回も発射したら数日、下手すりゃ一週間は無理だぞ」
「そうなの!? じゃ、回数で稼ぐとか間に合わないじゃない!!」
「確かに」
重苦しい静けさが漂う。
するとティアナは、また何かを決意したかのように俺を睨みつけた。
「……キスすればいいのね。いいわよ! しなさいよ!!」
そう言うと目を瞑り、唇を突き出す。
え?
いいのか、これ?
俺にもついにファーストキスのチャンス?
これを逃す手は無い!!
俺はティアナの両肩をガシッと掴むと、唇を重ねる。
ムニュっとした柔らかい感覚。
その感動に浸る間もなく、俺は考えた。
(舌とか絡めた方がポイント稼げそうだよな……)
恐る恐る試すと、ティアナは少し抵抗しただけで、やがて受け入れた。
そんな状態がしばらく続き――
「長いし、ねちっこい!! この変態エロ親父!! 早く確認しなさいよ!!」
肩で息を吐きながら、ティアナは俺を引きはがす。
再び、感動の余韻に浸る間もなく、俺はスマホを確認する。
「あ――」
「何ポイントだった?」
「すまん……ゼロだった……。やっぱ発射が必要らしい」
バチ――――ン!!!
渾身のビンタが俺の頬に炸裂する。
「わ、わ、私のファーストキス返して!! 返してよ!!!」
「す……すまん……マジですまんかった……」




