第28話 新たな冒険
次の日から、お屋敷の大きな庭の一角に、何十人もの職人たちの手で離れの平屋の建築が急ピッチで進められることになった。
もちろん、俺と月姫用の邸宅だ。
完成までの間、俺は客間を出て、月姫の部屋にお邪魔することになった。
そこは想像以上に広々としていて、畳敷きの床に立派な箪笥がいくつも並べられている、まさに「姫君の居室」という感じだった。
部屋の片隅には立派な檜風呂や洗面所まで備え付けられていて、ここ一つで生活がすべて完結するように設計されている。
うん、わざわざ別宅を用意してもらわんでも十分なんだけど……。
至れり尽くせりとは、こういうことを言うのだろうか。
月姫は俺をめっちゃ甘やかし、甲斐甲斐しく俺の世話をしてくる。
トイレで用を足した後の処理まで手伝ってこようとしてきた時は、さすがに丁重に断ったが。
とはいえ、俺は朝から晩までこんなヒモのような生活を続けていたわけではない。
午前中は、今回の戦を生き延びた武士や忍者たちに剣術や体術の稽古をつけてやり、午後は魔術師たちに魔法の指南をしてやる。
……そう言えば、今回の冒険に出発してからオフィーリアの修業を見てやっていないが、何も言ってこないから、一旦終了ということでいいのだろうか。
ひょっとしたら、俺が望む時にいつでもやらせるという契約をしたので、警戒しているのかもしれない。
三週間ほど経つと、俺たちの新しい家が完成した。
あまり広くしないでくれとお願いしたので、シンプルな2LDKの作りだったが、その分、内装はめっちゃこだわり抜かれていた。
居間には広い座敷があり、障子越しに庭の緑が映える。
柱や鴨居には艶やかな檜材が使われ、床の間には季節の掛け軸と生け花が飾られている。
寝室は月姫の好みを反映して、白木と藍色を基調にまとめられ、柔らかな布団が幾重にも敷かれた落ち着いた空間になっていた。
華美な装飾こそないが、和の静けさと気品を徹底的に追求した造りで、住む者の心を穏やかにする、そんな家だった。
そろそろ新たな冒険へ旅立ちたいと思っていたが、せっかくこんな立派な家を用意してもらったので、暫く滞在することにした。
なかなか帰ってこない俺に痺れを切らしたのか、サフィラ様に何度か呼び出されたが、それ以外はほぼ毎晩、月姫に中出ししてあげた。
こっそり宵ちゃん達くのいち三人娘とも楽しんだりもしたが、多分バレていないはずだ。
◆◆◆
「姫様、そろそろ次の冒険に向かおうかと思います。ここには随分と長居したので」
俺がそう切り出すと、月姫は最初から分かっていたかのように、にっこりと柔らかく微笑む。
「承知しました。何かあれば《精神感応》でお呼びしますが……できれば週に一回、いえ、月に一回でも構いませんので、お顔を見せて頂けると嬉しゅうございます」
「そうっすね。できるだけ毎週顔を出すようにします」
殿や奥方たちにも一旦別れを告げ、俺はアルナの街へ瞬間移動する。
――が、その前に、忘れてはいけない約束があったな。
再び瞬間移動を発動し、ティアナの部屋へ。
……不在だった。
「二度あることは三度ある」で、また着替えの最中かと期待したが、どうやら出かけているらしい。
仕方なく、俺はベッドに寝転がり、その帰りを気長に待つことにした。
「ちょっと、起きなさいよ!」
肩を揺すられ、目が覚めた。
どうやら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
目の前にはティアナ。
「おう、待ちくたびれたよ」
「それはこっちのセリフ! 今回の冒険、どれだけ長引いたのよ? 二ヵ月よ?」
「ああ、居心地が良くてな。つい長居しちゃった」
「……どうせ可愛い女の子のお尻を追っかけてたんでしょ」
「まぁ、否定はしない」
「このエロ親父!」
ティアナは呆れ顔のまま、ベッドに腰を下ろす。
「で、今回はどこに行ってたの?」
「朧ノ国。知ってる?」
「東の方の島国だっけ? かなり遠いんじゃない?」
「片道で十日以上はかかるな」
「ふーん……で、そこで何してたの?」
「死人の群れを退治してきた」
「なにそれ?」
そんな会話を交わしながら、俺たちはいつの間にか抱き合っていた。
さりげなく服を脱がすが、ティアナも当たり前のように受け入れている。
「……で、褒美に貰った刀がマジでヤバくてさ」
「そうなの? だったら捨てちゃえば?」
「いやいや、そんなことしたらもっとヤバくなるから」
会話はそこで途切れる。
堪えきれずに口づけを交わし、俺はくのいち達に教えられたいくつかの技を駆使しながら、夜は更けていった。
◆◆◆
翌朝、ティアナの母さんの朝飯を平らげた後、俺は瞬間移動した。
向かった先はギルドではなく、エロドの森。
事前にイラーマへ《精神感応》で訪問を伝えてある。
今回の冒険で気になったことを確かめておきたかったのだ。
「おいっす! 久しぶり――って、エルフにとっちゃ数ヶ月なんて大した時間でもないか」
「そんなことないわ。わたしも、そろそろ会いたいと思ってたとこ」
「お、嬉しいこと言ってくれるね」
「ふふ。それで、わたしに聞きたいことって?」
「ああ、ちょっと見てもらいたいものがあってな」
俺はそう言って、亜空間から妖刀『朧月』を取り出した。
「東の島国でさ、大昔にこの刀で天使を斬ったって伝承を聞いたんだけど……何か知ってる?」




