第24話 朧ノ国②
石畳の道を通って屋敷の門をくぐる。
門番が深々と頭を下げ、俺たちは高い木々に囲まれた回廊へと歩を進める。
苔むした石段や手入れの行き届いた庭園。
庭からは小さな滝の音や風に揺れる竹のざわめき。
やがて案内された先には応接の間があり、そこには重厚な木製の机と朱色の絨毯、静かに揺れる行燈の灯りが上品に室内を包んでいた。
俺たちが椅子に腰を下ろしてしばらくすると、襖が静かに開き、当主と思しき人物が現れた。
田中さんはすぐに背筋を伸ばし、深々と頭を下げる。
その姿勢に合わせ、俺も慌てて一礼をする。
「遠くより、よくぞ参られた。感謝いたす。この国を治める、千摺と申す」
四十代ほどだろうか、黒髪をきっちりと整え、口元には端正な口髭のおじさんだ。
身にまとう服装はどこか明治時代風の和装を思わせ、威厳を湛えている。
……って? え? せんずりって言った??
「いえいえ、お役に立てるかはまだ分かりませんが」
聞き間違えかと思って、聞き直そうかと思ったが止めた。
「して、殿。現在の状況は如何に。道中の村々は無残な有様でしたが……」
「うむ、芳しからぬ。幾人か強力な冒険者を派遣したが、全て戦死であった」
「なんと……」
田中さんは声を失い、僅かに顔を強張らせる。
「本来なら、他国からの軍勢に協力を仰ぐべきであろうが、我が国は長年鎖国を続けてきた。都合よく助力が得られるわけもなし……」
その言葉が途切れると、重苦しい沈黙が広がる。
「敵はアンデッドですよね? 死人というか」
話を進めるために、俺の方から切り出す。
「ヒ、ヒロシ殿――な、なぜそれを……!」
田中さんの目が驚きと困惑で大きく見開かれる。
「いや、懐かしい気配を感じたもんすから。魔界ではしょっちゅう出くわしたし」
「魔界?」
「ま、一旦それは置いといて。数はどれ位すか?」
「ず、随分落ち着いていらっしゃるが……お、恐ろしくないのですか?」
「んー、特には」
殿と田中さんは顔を見合わせ、そして、ゆっくりと口を開いた。
「数は、おそらく数百から千の間。ただし、奴らはどれほど損傷を受けても全く死なぬ。四肢を引き裂かれても、翌日には何事もなかったかのように復活する」
殿は拳を強く握り、唇を噛みしめる。
その手は微かに震えていた。
「そのため、我が国の武士たちは次々と力尽き、このままでは国の命も風前の灯といったところである」
沈痛な表情を湛えたその視線は、遠く窓の外――都の街並み、荒廃の景色に向けられていた。
「なるほどね……ちょっと気になったんすけど、武士って言いましたよね? 忍者とかもいるんですか?」
「あ、ああ。隠密部隊のことであるな」
「くのいちとかもいます?」
「もちろんいるが……それが何か?」
「いや、今回の死人殲滅作戦を手伝ってもらおうかと思いまして」
アンデッド千体程度なら《霊界葬送》スキルで瞬殺できる。
確かあれのポイントは十万位だったから、残ってる分使えば速攻でゲットできるはず。
でも、ただで使うわけにはいかない。
くのいちの夜の技は凄いらしいから、ちょっと試させてもらいたい。
「ヒロシ殿、お言葉ですが、くのいちは今回の対死人ではあまりお役には立てぬかと。残っている武士たちと協力した方が」
「ああ、戦うのは俺一人だから大丈夫っす。くのいちには、俺の秘められた力を引き出す手助けをしてもらいたい」
「ひ、一人で!? なんと無謀な……!!」
「田中さん、ここへの道中で俺の力は見てきたろ? 俺には常識など通用しないんすよ」
殿が困惑した顔で口を挟む。
「どういうことだ?」
田中さんは、俺が見せた《無限収納》や《瞬間移動》のスキルについて、実際に目にした通りの内容を殿に説明した。
「殿さまもご覧になりますか?」
俺はそう言い、亜空間から手荷物を取り出して見せた。
すると、殿は目を丸くし、分かりやすいほどにビックリしていた。
「当然、くのいちは夜の技も凄いんすよね? 全身全霊を込めたおもてなしをするように指示しといてください」
◆◆◆
こんな状況なので、出された晩飯は質素そのものだった。
焼き魚に小さな椀の味噌汁、少しの漬物と白飯。
そういえば、依頼内容の詳細は面談でとか言ってたけど、報酬の話はしてなかったな。金はちゃんとあるのか?
客間の布団に寝転びながら、そんなことを考えていると、襖の向こうから声が掛かる。
「失礼します。ヒロシ様、殿に仰せつかり、参りました」
おお、くのいちか!?
「あ、どうぞ! 入って」
そう言うと、音もなく滑り込むように現れたのは、浴衣姿の黒髪の美女。
しかも三人もいる。
俺はスマホを取り出し、さっそくチェックを開始する。
まずは真ん中の黒髪ポニーテールちゃん。
「宵、26歳。種族:人間。獲得可能ポイント 3,000~30,000」
キリっとした目をしたクール系。
「夕、24歳。種族:人間。獲得可能ポイント 3,000~30,000」
で、最後はマジで忍なの?といった感じの小柄巨乳ちゃん。
「朝、21歳。種族:人間。獲得可能ポイント 3,000~30,000」
おお、貧しそうな国だから、あまり期待してなかったけど結構貰えるな。
一通り確認すると、スマホを亜空間にしまう。
「ヒロシ様……? 今のは?」
「ああ、気にしないで。てか、こういう接待は結構やってるの?」
俺の問いに答えたのは最年長の宵ちゃんだった。
「はい。大陸から時おり要人が参りますので、その際のお相手を務めさせて頂いております」
「へぇ~、そうなんだ。やっぱり簡単に機密情報とか漏らしちゃう感じ?」
宵ちゃんは妖艶な笑みを浮かべ、落ち着いた声で答える。
「そうですね。私たちくのいちの技に溺れ、ここに永住したいと希望される殿方もちらほらと」
「そ、それは楽しみだ」
俺が生唾を呑み込むと同時に、宵ちゃんは浴衣を脱ぎ捨て、しなやかな動きで俺に近づいてくる。
その後ろでは残りの二人もいつの間にか浴衣を脱いでいて、丁寧にたたんでいた。
――長い夜が始まる。




