第17話 猫耳のメイド
翌日もいくつか魔改造の仕事をこなしたあと、ギルドを出る。
火竜討伐の報奨金と合わせて、貯金はもう一千万セーシを超えた。
不動産屋に行った帰りに娼館でも寄ろうかな、なんて考えていると――。
「そこの冒険者さん、ちょっと宜しいですか?」
突然、背後から声をかけられた。
振り返ると、そこにいたのは――
肩先で切り揃えた茶色の髪に、クリっとした瞳の少女。
頭の先には同じ色の猫耳がぴょこんと生え、腰のあたりからは尻尾まで伸びている。
「コスプレ?」
「はい?」
「いや、その格好。こっちの世界にもそういう文化あるんだな」
「な、何を仰ってるのでしょう?」
メイド服姿の猫耳少女は、困惑した顔を見せる。
あれ?
こっちではコスプレとは言わないのか?
俺は反射的にスマホを取り出し、レンズを向けた。
「な、何をしてらっしゃるのです!?」
「ミレナ、18歳。種族:猫人。獲得可能ポイント 2,000~20,000」
「わ、私の名前と年齢をどうして!?」
……猫人?
「え? じゃあその耳と尻尾、本物ってこと!?」
「と、当然でしょう!」
言いながら、ミレナは尻尾をふりふり。
か、可愛えぇ……。
「そ、それよりも!」
ミレナはコホンと咳ばらいをしてから、言葉を続けた。
「あなたの噂を確かめるよう、お嬢様から仰せつかりまして。先ほどギルドで様子を拝見しましたが……どうやら噂は本当だったようですね」
「噂?」
「はい。この街に突然現れた初心者冒険者が、あっという間にAランクに昇格し、さらに武器に魔力を宿すスキルまで持っている――と」
「広まるの早くない!? 昨日の今日だよ!?」
思わずツッコむ俺。
「お嬢様は、このアルナの街を治めている伯爵様のご令嬢です。ギルドで奇妙な話があれば、当然すぐに報告が上がってきます」
「なるほどね。で、俺に何か用?」
「これから一緒にお屋敷まで来ていただけませんか? この後、何かご予定でも?」
「ああ、不動産屋でも巡ろうかと思ってたけど……別に今日じゃなくてもいいよ」
「ありがとうございます。それでは、こちらへ」
ミレナは俺を道端に停められていた豪華な馬車へ案内し、乗せる。
自分も隣に腰かけると、鼻をすんすんと鳴らしてから尋ねてきた。
「失礼ですが……あなたは人間ですの?」
「いや、違うよ。分かるの?」
「ええ。私ども猫人は人間より遥かに五感が優れておりますので。……あなたのような匂いは今までに嗅いだことがありません」
「……く、臭いってこと!?」
「いいえ……とても強そうな……本能レベルで屈服させられるような、そんな感覚です」
――本能。
そういえばイラーマも、魂の奥底で俺に惹かれる、とか言っていたっけ。
やっぱ人間って、こういう感覚的な部分が他種族に比べて劣ってるんだな。
◆◆◆
馬車は、街の奥まった一角にそびえる伯爵邸の前で停まった。
高くそびえる鉄柵の門は黒光りし、精緻な紋章が刻まれている。
その奥に広がるのは、整然と刈り込まれた庭と、豪奢な噴水。
屋敷自体は三階建てで、漆喰の壁と赤い瓦屋根が重厚な存在感を放っていた。
門が開かれると、馬車は静かに庭を進み、玄関前で停車した。
両開きの大扉が内側から開き、並んで控えるメイドたちが一斉に頭を下げる。
その殆どが猫耳つき。
街中では全く見かけない猫人のメイドを揃えているあたり、金持ちの趣味は桁違いすぎる。
中へ案内されると、広々とした応接室へ通された。
深紅の絨毯が床一面に敷かれ、壁には金縁の絵画や、手入れの行き届いた観葉植物が整然と配置されている。
重厚なソファに腰を下ろすと、すぐにメイドが銀盆に乗せてコーヒーを運んできた。
しばらくすると部屋がノックされ、ミレナと共に現れたのは、ふわりとした白銀の猫耳を持つ麗しい美女。
滑らかな銀髪をさらりと揺らし、深い蒼色の瞳がしなやかな体つきを際立たせる。顔立ちも超絶美人だが、種族としての気品と内面から滲む美しさがそれ以上に印象的だった。
「え? 伯爵家ってひょっとして人間ではない?」
「その通りです。この街はわたくし達、猫人が治めております」
涼やかで落ち着いた声。
俺はまたスマホを取り出し、レンズを向ける。
「あ、ちょっと! あなた、また――」
慌てたミレナが止めにかかるも、もう遅い。
(サフィラ、21歳。種族:麗猫人。獲得可能ポイント 20,000~200,000)
二十万ポイントきたああああああ!!
てか、麗猫人?
エルフで言うところのハイエルフみたいなもんか?
「ああ、すまん。美人を見ると、つい癖が出てしまって」
「どんな癖ですの……」
ミレナはため息をつきながらも、気を取り直したように続ける。
「こちらが、アルナ伯爵家三姉妹の長女、サフィラ様です。いずれ、この街を治める方ですので、くれぐれも粗相のないように」
「お、おう……」
俺たちのやり取りを微笑みながら見つめるサフィラ様は、優雅にお辞儀をしてから口を開いた。
「サフィラです。今日はお忙しい中、お越し頂いて感謝いたします。あなたからも自己紹介をして頂けますか?」
「あ、ああ。えーと、言っても信じてらえないかもだけど、つい最近まで魔界で王をやっていたヒロシです。人間に召喚されてこっちに来たわけだけど、力の殆どを失ってる状態でして、色々と取り戻してる最中です」
「まぁ、魔王様でしたか」
「あ、信じてくれるんすね? やっぱ人間とは匂いが違うとかで」
「ええ、匂いだけではないですが」
「そうっすか。で、俺を招待したのは何が目的で?」
「ふふっ。話が早いですね。ミレナ?」
すると、横に控えていたミレナが大事そうに抱えていた上着をテーブルに置く。
「これは?」
「アルナ家の家宝『蒼月の羽織』です。もう何百年も前から、わが一族に伝わる霊装なのですが、もはやその魔力が枯れてしまいまして」
「なるほど。俺の《魔具創造》 のスキルで、魔力を取り戻したいと」
「仰る通りです」
「ちょっといいっすか?」
俺はそう言うと羽織を手に取る。
確かに微かな魔力の残滓を感じる。
ただ、家宝の霊装ということだけあって、今の俺の《魔具創造》のレベルでどうにか出来るようなものではなさそうだ。
「俺の《魔具創造》は元々魔力を持っていない武器や防具なんかに魔力を付与するのは簡単なんすけど、こいつみたいに元々、強力な魔力を込められてる霊装に息を吹き返させるのは、なかなか骨が折れるんすよね。ぶっちゃけ、今の俺の《魔具創造》のレベルでは難しいっす」
「そ、そんな……」
ミレナが絶句する中、サフィラ様は落ち着いた声で続ける。
「……先ほど、力を取り戻している最中、と仰いましたね?」
「ええ」
「どうやって取り戻しているのです?」
深い蒼色の瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。
いつもの俺なら、軽く中出しうんぬんの話をするところだが、とてもそんなことを言い出せる雰囲気ではない。
「えっと……それは……」
俺の目が泳ぐ。
視線は自然とミレナに向かう。
「ちょ、ちょっとミレナ、こっち来い」
「はい? 私ですか?」
耳元でこっそり話すよう合図すると、ミレナは少し戸惑いながらも近づく。
「ご令嬢様の前でこんな話できんから、お前にだけ教える。いいか、絶対に騒いだりするなよ」
「?」
「俺はエロいことをするとポイントを稼げて、そのポイントと引き換えにスキルをゲットできる」
「は?」
「お前と何回か中出しセッ〇スすれば、あの羽織を復活させられる位のポイントは貯まると思う」
「ちょ――」
ミレナは顔を真っ赤にして俺から離れ、サフィラ様の前に戻る。
「お、お、お嬢様! この男はただの変態です!! 今後、二度とこの屋敷の門を潜らせないよう、手配いたします!!」




