第11話 火竜討伐①
森の奥深く、木々の合間にひっそりと佇むエルフの里。
樹上に木造の住居が点在し、緑の葉と木の温もりが美しく調和している。
清流が小道沿いを静かに流れ、石橋や苔むした階段が自然と一体化していた。
神秘と安らぎを同時に感じさせる、美しい森の隠れ里だ。
「ほう……」
思わず息を呑む。
オフィーリアもまた、目の前に広がる簡素ながら荘厳な光景に圧倒されているようだった。
「よそ者を招くのは200年ぶりくらい。リトリス様がまだ生まれる前の頃ね」
「リトリス様?」
「この里の姫様よ。今から長老のお屋敷まで案内するから、そこでお目にかかれるわ」
エルフの姫か。
こりゃまた、とんでもねぇポイントが設定されてそうだな。
イラーマは俺たちを里の奥へと案内する。
進むほどに、空気がひんやりと澄んでいくのを感じる。
「ここよ」
他の住居より大きく、古木を巧みに組んだ堂々たる構え。
屋根には苔が生え、壁には蔓草が絡みついている。
柱や梁には精巧な彫刻が施され、扉や窓枠も木目を生かした丁寧な作り。
重厚さと優雅さを兼ね備えた、まさに長老の屋敷といった佇まいだ。
その扉の前まで来ると、イラーマは静かにコンコンとノックを打ち、澄んだ声で呼びかける。
「長老様、冒険者をお連れしました」
応答はない。
しかし次の瞬間、扉が音もなくスッと開いた。
どうやら、魔力か何かで自動で開く仕組みらしい。
中に入ると、柔らかな光が差し込む居間が現れた。
壁際には書物や巻物が整然と並び、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
中央には長老と思しきエルフが椅子に腰かけて待っていた。
深い緑のローブをまとったその姿は、森の静謐さと知恵を体現しているようだった。
見た目は二十代半ばくらいだけど、長老なんだよな?
さすがエルフ。
「ようこそ、人間。――ん? はて? そなたも人間で良いのか?」
長老は少し困惑した表情で俺を見る。
やっぱ、分かるもんなんだな。
「つい最近、魔界から召喚された魔王、とのことです」
イラーマは迷いなく、淡々と告げる。
「魔王。……ふむ。にわかには信じがたいが、まぁ良い」
いいの?
何か、こっちの世界って魔王の扱いが軽くないか?
「お父様、お茶を持ってきたのじゃ」
そう言って部屋に入ってきたのは、木製のカップをいくつか載せた盆を持つ、エルフの超絶美少女。
思わず二度見するレベル。
肩下まで伸びた金髪、透き通るような白い肌、そして体を包むかのような、うっすらと金色のヴェールのような光。
イラーマが二十代前半とすれば、こっちは十代後半といったところか?
「リトリス様、恐縮です」
椅子から立ち上がったイラーマが優雅にお辞儀をする。
「気にするでない。それより、先ほど『魔王』などと聞こえたのじゃが、妾の聞き間違いではあるまいな?」
姫は俺たちには一切目を向けず、イラーマに問いかける。
あれか?
下等な人間など視界に入れたら目が腐るとか。
魔王なら尚更か?
「はい、こちらにいるのが、魔王とのことで」
姫の視線が一瞬だけ俺に向けられたが、すぐに逸らされた。
「まぁよい。魔王じゃろうが何じゃろうが、あの竜を退治するというのであれば、里への滞在は認める。そやつらの世話はお前に任せたのじゃ」
「かしこまりました」
それだけ言うと、姫は居間を出ていった。
――今がチャンス!
俺はスマホを取り出し、姫にレンズを向ける。
「リトリス、106歳。種族:ハイエルフ。獲得可能ポイント 100,000~1,000,000」
……!?
ひゃ、百万!!??
こいつに中出し一回で、めっちゃスキルを取り戻せるぞ!?
やべっ。
一人で鼻息荒く興奮してると、長老とイラーマに不審な目を向けられた。
◆◆◆
二人によると、その問題の竜が現れたのは数か月前とのことだった。
里から少し離れた場所にある、かつてドワーフたちが住んでいた廃墟を根城にし、森の生態系を荒らしているという。
「あたり構わず、炎を撒き散らしよるので、森にも深刻な被害が出始めておる」
「通常の火竜であれば、我々だけでも何とかなるが、あやつは通常の竜の倍以上の大きさがあり、とても太刀打ちできん」
「イラーマや他の手練れと協力し、何とか退治をしてくれぬか」
巨大な火竜――業火竜あたりか?
「イラーマは魔術師だったよな? 氷魔法は使えないのか?」
「多少は使えるけど、あのレベルの相手にはとても通用しないわね」
「魔界では竜は大きくなるほど、竜麟も固くなっていたけど、こっちでも同じ?」
「今までに見てきた竜は大体同じような大きさだったから比較のしようがないわ。ただ、通常サイズでも並の剣士ではまともに傷つけられない」
「なるほどね……」
多分、魔界と同じレベルと見ていい。
だとすると、今のオフィーリアの剣では厳しそうだ。
腕は足りてるけど、肝心の剣自体がしょぼすぎる。
「と、すると氷魔法でやるしかないな」
「さすが、魔王様。万能なのね」
「魔界ではな……。でも、今の俺は力を取り戻してる最中だ」
「どういうこと?」
イラーマは小首をかしげ、問いかける。
「力を取り戻すには、ある条件を満たす必要がある」
俺がそう言うと、オフィーリアは呆れたようにため息をつく。
いやいや、本当なんだから、仕方ないだろ……?
「条件?」
「ここではちょっとな……。俺たちの宿で続きを話したい」
さすがに長老の前で中出しうんぬんを言うのは憚られる。
「分かった、案内するわ。長老、ではここから先はわたしが預かります」
「うむ、頼んだ」




