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コイバナ・シリーズ

コイバナ: 「ブログの話」

作者: 成田チカ

 会ったことのない相手に恋をするって、一体、どういうことだろう。


 私がたまたま見つけたブログ。

 何の変哲も無い日常が書かれたブログなのに、私はそのブログに妙に共感してしまった。


 何がどうって言われても困る。

 時々挿入されている写真とか、何気ない言葉とか、かな? 

 その会ったこともない(はずの)ブログの主に、私は強い興味を持った。


 私はその人のブログの読者になって、コメントを書き始めた。

 始めは読者登録もコメントの投稿も、すごく緊張したし、何度も止めようと思った。

 でも、私は私が「ここ」に存在する事を知ってもらいたかったのかもしれない。


 ブログの主さん(男性だった)からのコメント返信は無かったけれど、私は彼のブログを見る事を日課にして、コメントも頑張って書き続けた。


(何か、まるでストーカーみたい、私…)


 時々、自分のしていることがまるで意味の無いことのように思えて自己嫌悪に陥ったりもしたけれど、それでも、私は彼のメッセージをブログから受け、それに対して思った事をコメントにして返し続けた。


 私にとって、彼はまるで「遠くにいる友達」のようなものだったのだと思う。

 ブログに付けられた彼のプロフィールから、彼が遠い他県に住んでいることは明白だったし、彼が私の住んでいる、観光名所でも何でもない土地に遊びに来るとは、とてもじゃないけど思えない。


 彼の住んでいる県に行ったところで、私には彼が実際にどこに住んでいるのかもわからない。わかって追い駆けても、それはただのストーカーだ。下手すると犯罪だ。


(この人に、会ってみたいな…)


 そんな事を思いながら、月日は過ぎていった。



 私が彼のブログを追い駆け始めて1年が過ぎたある休日、彼のブログの更新メールが届き、開いてみたら、そこには見慣れた駅の外観が映った写真が掲載されていた。

「あれ? これ、ここの駅…?」


 ブログのタイトルは、「僕はここにいます」


 ブログが更新されたのは、10分前になっている。


「どうして…?」


 慌ててそのまま家を出て駅前に向かう。駅まで、走っても15分くらいかかってしまう道程だ。

 走っていたら、携帯が鳴った。新しいメールの受信を知らせている。


「もう、誰よ、急いでるんだってば!」


 ちらっと見てみたメールのタイトルに驚いた。彼のブログの更新メールだ。

 走りながら、メールに付いているリンクを押す。


 タイトルは「どこだかわかる?」


 そこには、毎朝通る駅前広場の一角が映されていた。


「わかる! わかるから、そこにいて! お願い!」


 私は見えない相手に向かって叫びながら、駅までの道をひたすらに走り続けた。


 こんなに走ったのは、高校最後の体育祭以来だと思う。

 私は息を切らせながら、目的地の駅前広場に到着した。

 最後のブログ更新から十分以上経過している。


 携帯に映ったブログの写真を見ながら、広場の一角を探した。

 けれど、そこには誰もいなかった。


「う、嘘ぉ…」


 私は荒い息で肩を揺らしながら、その場にあったベンチに座り込んだ。


「い、急いで、来たのに、もう、いないなんて、ひどい…。もう、ちょっと、待っててくれたって、いいじゃ、ない…。はあ」


 携帯を持ったままうなだれていた私に、誰かが横から声を掛けてきた。


「あの…。君、もしかして、XX(私のブログネーム)さん?」


(え?)


 私は慌てて振り返った。

 そこには、私と同い年くらいの男性が立っていた。


「そう、です、けど」


 情けないことに、まだ息が上がったままの私は、まるで取り組みが終わった直後の力士のようだった。


「僕、XX(彼のブログネーム)です」


「え…。ほん、もの…?」


 彼はにっこりと微笑んで頷いた。


「じゃ、今から証明するね」


 彼はそう言って私の横に座り、携帯で私と彼の写真を撮り、何かを打ち込んで「はい、送信」と言った。

 数分後、ブログ更新のメールが私の携帯に届き、開けてみると、そこには私と彼の写真が掲載されていた。


 タイトルは、「やっと会えたね」


 涙が溢れて、すぐにそのブログが読めなくなった。

 泣き続ける私の横で、彼が言った。


「賭けてみたんだ。今日、ここで君と会えるかなって。たまたま、この近くに出張があって、以前君のブログを見たときにこの駅の話があったなと思い出してさ」


「私の、ブログ…?」


「読んでたよ。気になってたから」


「嘘…」


「本当」


 慌てて家を出てきてハンカチも持っていなかった私にハンカチを差し出しながら、彼が言う。


「僕と同じような事を考える人がいるんだなって。気になってたよ。会えてよかった」


 私も彼に会えてよかった。

 でも、それを伝える前にまた泣き出してしまったので、その言葉を彼にちゃんと伝えられたのは、それから少し後のことになる。

コイバナシリーズ、久々です。

ブログを書いたり読んだりしていて、こんな設定もあったらどうかな?と書いてみました。いかがでしょう?

コメント等ございましたら、よろしくお願いしま~す

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