第5話 呪いの竜
何か気になる点があれば感想にどうぞ!
ドラゴン…それはあらゆる種族の頂点に位置する生物である。
強大な身体、刃を通さぬ鱗、見たものを萎縮させる瞳、全てを噛み砕く歯、鋼鉄をも簡単に切り裂く爪、しなやかにうねる尻尾、全てを踏み散らす足、空中を制す巨大な翼、その全てを持つのがドラゴンである。
だが彼らの目の前にいるのは…
(こいつ…黒い呪いを帯びていてはっきりとはしないがよく見ると翼がない…?それに足の辺りが地面と同化しているようにも見えるな…尻尾も見当たらない。だがその姿は紛れもないドラゴンそのものだ)
「あの…大丈夫ですか?」
立ち止まっている冒険者の男に神官の女が声をかける。
「…!逃げていなかったのか?」
「逃げるなら2人でと言いましたよね」
「それとも戦うのですか?それなら私も戦います」
「君にはそんな義理ないだろう?」
「私だってあなたには死んでほしくはないんです!」
「………」
(ドラゴンはこちらを見たまま何もしてこない…少しずつ体が崩れているな。生ける屍になっているのか…2人でかかればなんとか倒せるか?)
男は少しの間考えて結論を出す。
「…共に戦ってくれるか…?」
神官から女はほんの少しの間目を瞑り、力強く答える。
「はい!喜んでお付き合いさせていただきます!」
その言葉に兜の中で笑みが溢れる。
「では俺が斬りかかる。援護は頼んだ」
「了解しました」
冒険者の男は剣を抜く。そして聖水を腰のバッグから取り出し、刀身に満遍なくかける。
「少しは効果があればいいが…」
そう言った瞬間、男は一気に呪いの竜との間合いを詰める。そして、
「ふん!!」
男を叩き潰しに動いた呪いの竜の攻撃を避けて左脇腹辺りを斬りつける。
…が、
「何?!」
(硬い!?というより刃が呪いで弾かれているのか?)
さらなる呪いの竜の攻撃を避けて腹部に斬り込むがまたもや呪いによって攻撃を弾かれる。
(攻撃は鈍いおかげでどうとでもなるが…これは相当やっかいな類の呪いのようだな…)
呪いの竜が男を両手で挟み込もうとした時、神官の女の聖なる光線が3発が呪いの竜の左目、左肩、右胸辺りに命中する。
聖なる光線を受け動きを止めている間に男は後ろへ後退する。
「いい援護だ」
「ありがとうございます!」
「さて…どうしたもの…か…?」
男は攻撃を喰らった呪いの竜を見て気づく。
(神聖魔法が当たったところだけ呪いが剥がれている‥?)
そう聖なる光線が命中したところだけ呪いが消滅し、本来の姿であろう腐りかけの青黒い鱗が見えていた。
(そうか、やつは呪いそのものではなく呪いを纏っているだけらしい。そして呪いは神聖属性で剥がすことができる…ならば…)
男は神官の女に向かって叫ぶ。
「やつの体全てを覆うことのできる神聖魔法はあるか?」
「!はい。時間はかかりますけど…あります!」
「分かった。援護をやめてその魔法を頼む」
「体が地面と一体化しているから近づいてくる心配はしなくていい。注意は俺が引く」
「了解しました!」
神官の女は再度魔法陣を展開し、魔力を杖に込める。
「‥さて、俺は魔法を打つまでの時間稼ぎだな」
(今の所は爪のみの攻撃だけだがいつ火を吹いたりしてくるか分からない以上ヘイト管理は怠れないな…)
「…変なことはしないでくれよ…!」
そう言い、男は再度呪いの竜へと向かっていく。
「時間稼ぎなら対処は簡単だッ」
呪いの竜の右腕による横薙ぎをジャンプで回避し呪いが剥がれている右胸に一撃を入れることに成功した。
(腐りかけの肉体には刃が良く通る…呪いを全て剥がせれば勝機は…ある!)
そのまま攻撃を紙一重で避けつつ、反撃を入れて時間を稼ぐ。
男は自前の速さで何度も呪いの竜の攻撃を避け続ける。だが度重なる攻撃で男は徐々に疲労を感じていく。
「…ッッまだか?!」
「あと少しです。………撃てます!」
「今だ!撃て!」
男は退避し彼女に言う。
「我らが均衡の女神よ、神の裁きを悪しき邪竜に落とし給え!
"天の裁き"!!
」
空から白く神聖な光の柱が落ちてくる。その光の柱は、呪いの竜を瞬時に覆い尽くした。
呪いの竜の腐って崩れているであろう喉から雄叫びが聞こえる。
その風圧で男はしゃがみ込み、頭部を守る。
(なんて威力だ…!こんなに強い新米冒険者は見たことがないな…)
「くっ…」
神官の女は大きな魔法を使った影響か、その場にへたり込む。
そして光の柱が消滅する。
「これを喰らってもまだ生きているのか…!」
呪いの竜の体を覆っていた黒い呪いが完全に消えて、元の姿が露わになる。
(やはり鱗までも完全に腐っているな。あの魔法によって所々削れてる今なら攻撃が通りそうだ)
「…あとは任せろ」
男はもう一度呪いの竜に斬りかかる。
「脆いッッ!」
迎え撃とうと前に出した呪いの竜の左手を容易く切り刻み、そのままの勢いで左腕を切り落とす。
(行けます…倒せます…!)
そう神官の女が思った瞬間に地響きが鳴り地面が割れる。そして地中から呪いの竜の尻尾が姿を現した。
「尻尾はとうに朽ち果てていると思っていたが、地中にしまっていたの……かッ…!?」
男は後ろに下がり体制を立て直そうとするが、ひび割れた地面に足を取られる。
その隙を呪いの竜は見逃さなかった。
呪いの竜は尻尾は勢いよくしなりながら、冒険者の男の体を捉える。
男は咄嗟に左腕で腹部を守り防御をするが…
バギィッ
鈍い音が鳴り、地面に激突しながら少し遠くの木へと男は叩き飛ばされた。
それと同時に呪いの竜の尻尾も根本から腐り落ちる。
「………え?」
神官の女はあまりに一瞬の出来事で目の前の状況を理解できていなかった。
「え…な…にが起こっ…て…?」
彼女の視界には兜の下から血が滴り落ち、力なく倒れ込む男とこちらを睨んでいるドラゴンの姿だけが写っていた。
呪いの竜のたった一度の足掻きによって状況は一変する。
詳しく知りたい方に
・生ける屍 (ゾンビ):スケルトンとは違い肉や服が残ったままモンスターとなった存在。スケルトンと同様に種類がたくさんある。ゾンビから攻撃を受ければ、毒や感染症をかかる可能性がある。最悪の場合は攻撃を受けた存在もゾンビとなる。動きは遅く、体が崩れたりしている。