第30話 隙、誘発
駄文失礼。
ウェインは自身が辿り着いた仮説を信じてホブゴブリンに向かって走り始める。
(こいつはおそらくジャンプからの攻撃に何かしらの思い入れ、もしくは絶対的な自信のようなものを持っている。そんな自慢の攻撃を避けられ続けたら奴の思考はどこに行きつくか、見当はつく)
ホブゴブリンの投げる木を全て避け、徐々に距離を詰めていく。
『ギィ...!』
ガァンッッ...!
そしてウェインの剣とホブゴブリンの斧が音を立ててぶつかり合う。ウェインは上手いこと攻撃を逸らしながらタイミングを計る。
(上手く行けば次の一撃で片が付く。さあ、来い)
ホブゴブリンの攻撃を受け続けることおよそ四度、そして五度目となる大振りの攻撃をウェインは見逃さなかった。
ガゴン...!
「くっ...」ドサッ
大振りの攻撃によりウェインの態勢が崩れ、地面にうつ伏せ気味に倒れ込む。
『!!!』ダンッ
その瞬間本日三度目、ホブゴブリンは大きく宙に跳ぶ。
月明かりがより一層ホブゴブリンを照らす。ホブゴブリンは空中で体制を整え、自身の真下の地面に倒れ伏しているウェインを見る。
「やはりな」
『...!?』
ホブゴブリンの目に映るは剣に風の魔法を付与し、突きの構えをした男の姿。
「自身が自慢に思っている攻撃を避けられた者はそれを当てようと躍起になることが多い。お前の二度の行動から隙を与えればジャンプでの攻撃を誘発できるのではないかとは思ったが...成功だ」
ウェインはホブゴブリンの必殺の攻撃らしきジャンプからの斧による攻撃を何が何でも当てたいという思考を逆手に取り、わざと地面に背を向け倒れ込みことによってその攻撃を誘発し、見事ホブゴブリンはそれにのってしまった。
ホブゴブリンは未だにジャンプの到達点に至っていない。空中で何とかならないかもがくが地上を主とする生物は空中では皆等しく非力である。
「終わりだ」
剣を頭上に突き出す。勢いよく飛び出した風の槍は落下し始めるホブゴブリンに向かって一直線に飛び出してゆく。
『ギ...!』
石の斧を顔の前に出し即死は防ごうと試みるが、碌に手入れをされていない石の斧ごときで守り切れるほど風の槍は優しいものではない。
ズドッ...!
接触。と同時に石の斧は無残にも砕け散り、その直後にはホブゴブリンの頭部を粉砕、いや消し飛ばした。
ドォン...
数秒後、頭部がないホブゴブリンの死体が鈍い音を上げて地面に落下してきた。頭部と血は降ってこない。風と一緒に夜の空に消えたから。
「...」フゥー
ウェインはホブゴブリンが絶命したことを確認し、その場に座り込んで大きく息を吐く。
「今回は運良く相手の隙を突いて倒すことができたが...もっと攻撃の手札と、剣の技術が必要だな...足りないものが多すぎる」
そしてしばしの間休息をとろうとしていたがあることを思い出す。
「...あ、エリシア!忘れていた!」
疲労と痛みで悲鳴を上げている体を無理やり動かして立ち上がり、手持ちの回復瓶を三本ほど飲み干すと、自身が突進されてきた方角へと足を進める。
(エリシアは無事だろうか...最悪な事態にはなっていないでほしいのだが)
ウェインは自身が今出せる限りの速さで走り、暗い森を進んでいく。パーティメンバーのエリシアの無事を祈りながら。
「...!」
しばらく走っていると、遠くの暗闇の中から一つの小さな光が進む先に見えてくる。
(なんだあの光...新手の敵か?それとも...)
剣に手を掛け警戒しつつ、歩みを続ける。
距離がどんどん縮まっていく。
ウェインは立ち止まり、光が向かってくる方向から見えないように木を壁にして隠れた。
(...頼む)
軽い足音が聞こえる距離まで迫ってくる。
「はっ...はっ...」
急いでいるのだろう、荒い息遣いも聞こえてくる。
そしてようやく木の真横を光とともに駆け抜ける者の姿をウェインは確認する。
「エリシア」
「うぇ...!?」
ビクゥ...!と体を跳ねさせ、ウェインの声の方向を向いたのはやはりエリシアであった。
「ウェインさん!?どうしてそんなところに...ひとまずは無事でよかったです!」
エリシアはほっとしたようで、体から力が抜け、大きく息を吐く。
「それはこちらのセリフだが...まぁいい、何があったのかは戻ってから聞くとしよう」
ウェインはエリシアの左大腿部についている血痕を一瞥した後、先を進んでいく。
「ゴブリンが這い出てきていないか確認でき次第、野営地に戻るとしよう」
「はい!」
その後、ゴブリンの住処まで行き、ゴブリンはおそらく全員死亡しただろうとウェインは判断し、二人は野営地まで帰るのであった。
~野営地~
「やっと帰って来れたな」
「そうですね、短いようで長い時間でした...」
ウェインに回復魔法をかけた後、エリシアは横に倒れた木の上に座って息をつく。
ウェインは火を起こしながらエリシアに服に付いた血について言及する。
「その血、怪我したのか?大丈夫なのか?」
「はい。毒が塗られた矢で射られてしまったんですけど、解毒して傷も治したので問題ないです」
「そうか。跡は残ってないか?」
「えっと、大丈夫みたいです」
「なら良かった」
兜で見えないがその目は深く瞑られ、口からは少し息が漏れる。
「...さて、眠気も覚めてしまったな」
「そうですね...お目目パッチリです」
「明日この森を抜けるつもりだったが、予定を一日伸ばして明日はのんびりと過ごすか」
(この森も探索したいし、ゴブリンの残党もいたら殲滅できるからな)
「はい!賛成です!」
「分かった」
その晩はエリシアが先に就寝し、今回はちゃんと交代で夜を過ごしたのであった。




