第28話 被弾
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『ガアッ…!』
ブゥン
ホブゴブリンは走って近づいてくるウェインの胴体を狙って石の斧を横に薙ぐ。
「…」ズザッ
走った勢いをそのままに、スライディングで石の斧の下を潜り抜ける。そして、流れるように左脇腹を深く斬りつけ、ホブゴブリンの間合いを離れる。
『ギ…』ガシッ...
(…?)
斬りつけられた左脇腹を見てホブゴブリンは目を細めた後、かがみこみ、先ほど引き抜いた木を左手で持つ。
そして間髪入れずに木をウェイン目掛けて投げてくる。
「なんてやつだ…木を投げてくるとは!」
避ける…が休む暇もなく、木を闇雲に、だがしっかりとウェインを狙って木を投げつけてくる。
(厄介だな…一旦魔法で奴の動きを…)
風魔法による牽制でホブゴブリンに攻撃と同時に動きを止めようと思考した瞬間、自身の足元3歩手前ほどに木が勢いよく投げつけられた。土煙が舞い、ウェインの視界が塞がれる。そして正面に現れたのは、投げつけられた勢いが強かったのか、根本が地面に突き刺さり、見事に直立した木であった。まるでその場に元々生えていたかのように…。
(木が…生えた…?いやそんなことを考えている場合では…)
その見事な木の生え様に、思わず頭の悪い考えを巡らせてしまったウェインはすぐに意識をホブゴブリンに切り替える。
土煙で見えていなかった。木の後ろ…ウェインの正面に生えた木のすぐ奥にすでにそいつの影はいた。
(まず…ッ)
ガァン…!
目の前の木を薙ぎ倒しながら自身に飛んできた斧を、間一髪で盾で防ぐ。だが腕力の高いホブゴブリンの攻撃を受けて耐え切れるほどウェインの力は強くはない。
勢いそのままにウェインは殴り飛ばされる。が、
くるっ
剣を逆手に持ったウェインは剣に風魔法を纏わせ、風を勢いよく解き放つ。
ボン
風により殴り飛ばされた勢いを殺すどころかむしろ逆、ウェインはホブゴブリンに向かってかなりの速度ですっ飛んで行く。
『ガア…!?』
ホブゴブリンは予想外といった表情をしながら慌てて石の斧で弾き返そうとするが...
「膝…!」ゴッ"…!
時すでに遅し、それより先にウェインの勢いの乗った膝蹴りがホブゴブリンの顎に炸裂する。顎が砕ける音がしたと同時にホブゴブリンが消え入りそうな声にならない声を上げる。
『グゥッ…』
(今のは効いただろう)
目を見開きながら後ろに大きくよろけるホブゴブリンに未だに空中にいるウェインは着地と同時に追撃を決め込もうと考えていたが...
バゴッ
ホブゴブリンの苦し紛れの、ほぼ予備動作のない裏拳が空中にいたウェインの横顔に直撃する。
「」
ウェインの意識が飛ぶ。
そして力なく地面に落下する。兜のおかげで大きな怪我はないものの、人間の脳に衝撃を与えるのには十分な威力だった。
周囲が静まり返る。夜の静けさが戻ったその場には、以前意識が戻らず仰向けで地面に倒れているウェインと、顎が砕け形が変貌しながらもウェインを見つめ笑みを浮かべているホブゴブリンが立っていた。
~エリシア視点~
時はウェインがホブゴブリンのタックルによって連れ去られたすぐ後に戻る。
エリシアの目の前には杖を持ったゴブリンと木の枝の上に弓を持ったゴブリンが立っていた。
「杖を持ったゴブリンと弓を持ったゴブリン...」
逃げるべきでしょうか...こちらは一人、対するあちらは二匹...しかもどちらも遠・中距離攻撃を主とする武器を持っていて戦ったとしてもこちらが不利なのは明確...。でも...ここで闇雲に逃げたらこのゴブリンたちが先ほどの大きなゴブリンの加勢に向かい、ウェインさんが不利になりかねない...私がウェインさんのもとに逃げたとしても...乱戦の中で私を庇いながら戦うことになるでしょう...なら、
ゴブリン二匹を撃破してからウェインさんの援護に向かえばいい。
持っている杖をゴブリン二匹に向けて言う。
「私のお相手をお願いします」ドッ
そしてそのすぐ後に神聖なる砲弾を杖持ちのゴブリンに向けて撃ち込む。
『ゲギャ』
ボン
杖持ちのゴブリンはエリシアの攻撃に合わせて火球を放ち魔法を相殺する。
(威力が低すぎた...!)
無詠唱の魔法は詠唱時の魔法の威力よりも数段劣る。
「神聖な...ッッ!?」ヒュン
『ギィ』
エリシアが魔法をもう一度放とうとするとそれより先に弓持ちのゴブリンの引き放った矢が顔の横を通りる。
(杖を持ったゴブリンに意識を割き過ぎた...常に両方の動きに注意を払わないと...)
エリシアは一対多の戦闘は初めてであり、この場での最適な動きを模索しながら戦闘するしかなかった。
(今この状況で最初にやるべきことは...)
そうしてエリシアは杖に魔力を込め始める。
同時にゴブリン二体も攻撃の準備に入る。
『ゲギャ!』『ギ』
エリシアが魔法を放つよりも先に杖持ちは火球を、弓持ちは矢をそれぞれ撃つ。
その瞬間、
「神聖なる光!」ザッ
二つの攻撃をよく見て上手く躱しながら魔法を発動する。杖から放たれた白き光が周囲を強く照らす。
『ギャッ!?』『ギッ...』
唐突な強い光によりゴブリン二匹の視界が一時的に潰れる。
(魔法を使う方なら魔力の起こりを見れば対処はできる。ならまず最初に倒すのは...)
杖の先を高い木の幹にもたれかかって動きを止めている弓持ちのゴブリンに向ける。
「(戦うのが)苦手な方!神聖なる砲弾!」ドッ
白い光を帯びた砲弾は先ほど放ったものよりも早いスピードで飛んでいき...
ドォン
『ギィァ...!?』ドサッ
弓持ちの腹部付近で小規模な爆発が起きる。それを食らった弓持ちは声を上げながら地面に落下していく。
「やった!...いえ、気を緩めるのはまだ早いです」
初めて一人でモンスターを撃破したことによる喜びを思わず声にして出してしまったエリシアだが、前方で視界が正常に戻りつつある杖持ちを見て気を引き締めなおす。
『ゲギ...!ガ!』
杖持ちは地属性の魔法により生成した少数の石を飛ばす。
「神聖なる光線」
先手を打った杖を持ちだが魔力の起こりを見たエリシアに飛ばしたすべての石を軽々と撃ち落される。
「終わりです」
『ギギャァ...』
自身の攻撃が通用せずこのままでは負けると感じた杖を持ったゴブリンは後ずさりをし...
ダッ
「!!!」
逃げ出した。
「逃がしません!」
エリシアも一瞬あっけにとられるがすぐに追いかける。なぜ背を向けて逃げる相手に魔法を撃たないのか、それは自分から離れていく相手に魔法を当てられる自信がないからである。エリシアは確実に魔法を当てられる距離で倒すという安定策を取った。
(早くウェインさんの加勢に...)
ヒュッ
杖持ちが茂みに入る直前、茂みから何か何かが飛んでくる。
「え...?」
そして走っていたエリシアの右足の大腿部に命中し、刺さる。
刺さったのは不出来な矢であった。
「いッ...」
エリシアは痛みで足を止め地面にしゃがみ込む。
茂みからは先ほど魔法を当て地面に落下した弓持ちのゴブリンがニッタリと笑いながら出てきた。杖持ちも逃亡をやめて体をエリシアの方向に向きなおす。
どうやらエリシアの神聖なる砲撃は弓持ちに直撃はしておらず、弓持ちに当たる直前に木の幹に当たっていた。神聖なる砲弾は着弾時に爆発する魔法であり、直撃しなかった弓持ちは比較的軽傷で事なきを得ていたのであった。
(ッ...痛い...体に物が刺さるって...こんなに痛いんだ。痛い早く動か・・・あれ)
エリシアは矢が刺さった自身の大腿部を一瞥した後すぐにゴブリンたちの攻撃に備えて動き出そうとするが、
(視界が揺れて...?寒い痛い頭が...くらくら...す...る)
突如エリシアの身体が異常事態に見舞われる。視界の揺れ、悪寒、頭痛、軽度の難聴、痙攣、そして痛み。
「やに...なにか...」
瞬時にエリシアは矢に何か毒物のようなものが塗られていると予想する。
『ゲギャ』『ギィ』
解毒魔法をかける時間を与えてくれるほど奴らは優しくはない。二匹はそれぞれ魔法と矢を、エリシアを殺すために放つ準備を始めた。




