第3話 発生源へと向かう途中に
何か気になる点があれば感想にどうぞ!
冒険者の男と神官の女は森の中を歩いていた。
ガチャガチャ
小さな音が右前の木の後ろから鳴り、その直後木の後ろから死者の骨が襲いかかってきた。
「前方に死者の骨です!!」
彼女がそう言い終わる前に冒険者の男は剣を抜き一斬りで死者の骨を撃破する。
(やはりこの人、動きが速すぎます…!)
神官の女は男の敵を見つけてから攻撃に至るまでの速さに驚愕していた。
冒険者の男と行動を共にしてから遭遇した死者の骨の数はおよそ9体。その全てが男によって瞬時に斬り倒されている。少し大きめのバッグパックを背負った状態にも関わらずだ。
「あなたはとてもお速いんですね」
周囲を警戒している彼に言う。
「1人での冒険だからな。モンスターと遭遇する場合、人数不利は当たり前だ。だから数で潰されないように認識は速く、攻撃も速く、常に相手よりも速く動く。という戦い方を心がけている」
「これが1番俺に合っているからな」
(なぜこの人は1人で冒険をしているのでしょうか…)
彼が1人で冒険をしていることに神官の女は疑問を感じたがその疑問を口にする前に彼が神官の女に質問を投げかける。
「…君はなぜ冒険に出たんだ?金銭が欲しいだとか、名声が欲しいだとかには見えないが」
「えっとそれは…ですね…」
彼女が口にする。
「私の家は代々教会にて均衡の女神様を信仰してきました」
「均衡の女神…か」
(たしか三女神の一柱だったか…)
三女神とは古き時代に存在したとされる最も力のある三柱の女神のことで、戦の女神、治癒のの女神、均衡の女神と呼ばれている。
信仰する女神により神聖魔法の種類なども変わり、
戦の女神を信仰する者は攻撃特化の神聖魔法が、
治癒の女神を信仰する者は回復特化の神聖魔法が、
均衡の女神を崇拝する者は攻撃、回復どちらの神聖魔法も比較的高い水準で使うことができる。
「なので幼い私は漠然と自分も姉と共に教会の後を継ぐのかなと思っていました」
「ですけどその考えは変わりました。いつの日かは忘れてしまいましたけどある日私は一冊の本を初めて読んだのです」
「ほう」
「忘れもしない、「フリンダルの冒険譚」と言う題名の冒険譚です」
「…勇者フリンダルが魔王討伐のために旅をする…という創作の話だったか…?」
「はい、そうです。 他の人にとっては数多ある冒険譚の一つにすぎないのでしょう」
「ですけど聖書以外に読んでこなかった私には1ページ見ただけで釘付けになるようなお話で、その日のうちに一冊丸々読んでしまいました」
「その時に思ったのです。冒険者になり、数多の土地で勇者フリンダルのように出会うすべての人々を笑顔にできたのならどれだけ幸せだろうか…と」
「そうして冒険者になろうと?」
「そうです。私はいつか来るであろう旅立ち日に備えてより一層神聖魔法の研鑽を積み、両親と姉を説得し、1人冒険に出て…今に至ります」
「基本的な神聖魔法は一通り使えるのだな?」
「そうですね。姉が優しく熱心に教えてくれました!」
「そうか……一ついいか?」
「…?何でしょうか?」
「神聖魔法については詳しくないのだが、呪いの霧に発生源となる場所があるのだとしたら、神聖魔法で呪いが濃い場所を探知できたりはしないのか?そういう魔法があった気がしなくもないのだか…」
「え…ええと…………あ」
「どうした」
「………………アリマス」
「うん?」
「呪いを探知する魔法アリマス…」
男は少し呆れてしまった。
「君は…こう…もっと自分の能力をうまく使おうか」
「ハイ…スミマセン…」
割と結構自分の無能さにショックを受けている神官の女に男はフォローを入れる。
「まぁ、なんだ…君はまだ冒険者になりたての新人だ気にすることはない。これからたくさん実戦経験を積んで、パーティの仲間に楽をさせてあげられるようになればいい」
「今は自身の使える魔法でできることを探していけばいい」
「……!!はい!分かりました!」
(俯いている暇などありません。実戦において自分が未熟なのはすでに痛いほどわかっています。常に自分ができることを考えながら動かないと!)
神官の女は下を向くのを止め、前を向く。そして目を瞑むり、杖に魔力を込め神聖魔法を唱えた。
「我らが均衡の女神よ、悪しき呪いの根絶のため、
我らの進路を示し給え!」
「"呪い検知"!!」
半透明な白い光が杖から周囲に波紋のように一瞬で広がり消えた。
「………あちらに強い呪いの気配があるようです」
神官の女は目を開け、左方向を指さす。
「よし…そちらへ向かうとしよう」
「はい」
2人は呪いの霧の発生源と思われるものがある方向へと歩き始じめようとするが、神官が思い出したように言う。
「貴方に対呪い魔法をかけていなかったのですがお身体の方は大丈夫ですか?」
「ん?ああそのことなら問題ない。俺はこの森に入る前に聖水を頭からかけたからな。そのおかげで呪いの霧の影響は受けないが死者の骨に必要以上に追いかけ回されて苦労した」
(どうりで…)
神官の女は1人で納得していた。対呪い魔法をかけていないのに呪いの霧の中で元気でいられることと、神聖魔法を使う自分よりも男の方に死者の骨が寄って行くことに疑問を感じていたからだ。
(聖水…私も振りかけておこう…)
対呪い魔法は常に発動しておかなければ効果がないため魔力がかなり持ってかれる。聖水をふりかけることによって対呪い魔法と同等の恩恵が得られるのであればそちらの方がコスパが良いと神官の女は判断した。
聖水を体全体に振りかけながら男に言う。
「聖水といっても弱い呪いを弾いてくれるだけであってこの先の強い呪い相手にはそう長い間効果が続きません」
「なので発生源が見つかり次第魔法陣を展開して対呪い魔法の効果をぐんと上げて貴方と私に付与する、というので良いですか?」
「ああ、それで構わない。ならば魔力をかなり使うだろう。今ここで魔力瓶を飲んでおけ」
「分かりました」
神官の女は腰にかけた小さな皮のバッグから魔力瓶を3つ取り出して飲み始める。
魔力瓶を3本も一気に飲むとは…すでに魔力が底を尽きかけていたのか…だがそれにしてはまだ余裕に見えるな…)
冒険者の男がそう思うのと同時に彼女も少し考え事をしていた。
(そういえばこの人の名前聞いてなかったですね…)
短い時間であるが共に行動している男の名前を知らないことに今更ながら気がついた。
魔力瓶を飲み終えて神官の女は声を出す。
「もう大丈夫です!…あの一つ聞きたいことが……」
ゾクッ
神官の女が質問をしようとした瞬間、呪いがより強くなるのを2人は感じた。
まるでこちらを威嚇しているかのように。
「…早めに攻略したほうが良さそうだ…」
「それではいくぞ」
「え…あ…はい……」
(事が済んだ後に聞いたほうが良さそうですね)
2人は今度こそ呪いの霧の発生源と思われる場所へと向かった。
詳しく知りたい方に
・勇者フリンダルの冒険記:勇者フリンダルが魔王討伐のために冒険を記した創作の人物。
・呪い検知 (カースディテクション):自身を中心に呪いが存在している位置を発見する魔法。魔力を込める量によって探せる範囲が変わる。
・聖水:神聖な場所で清められた水。自身にかければ対呪い魔法 (アンチ・カース)と同じ効果を得ることができ、悪魔、死霊、ゾンビ、スケルトンなどにかければダメージを与えられる。かけた際の聖水の効果は約30分ほどでなくなってしまう。
・魔法陣:魔法の効果を上げたり、強大な魔法を使う際に展開する魔法。立ち止まらないと使用できない。魔力をかなり持っていく。
・魔力瓶 (マジックポーション):魔力を回復させるポーション。魔法を使う者には必須のアイテム。液体の色によって回復量が変わる。(黄色→オレンジ色→赤色)
・魔力:魔法を使うための力。魔力量は生まれた時から決まっているが、幼い頃に魔法を使っていれば増える可能性がある。魔力の量は直感的に知ることができる。魔力量が大体三分の一になると立っていられなくなるような倦怠感に襲われ、底をつくと気絶する。
食事、睡眠、魔力瓶 (マジックポーション)などで魔力は回復できる。