第22話 作戦実行
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ウェインとエリシア、そして鎧を着た男は溶解蜂に連れ去られた仲間も救出するために溶解蜂の巣に向かっていた。
「私は[セイラント]の騎士、ヤイネと申します。連れ去られた2人も同様に騎士で…私の先輩に当たります」
「君は騎士だったのか…しかも[セイラント]の…なぜ北部大陸の騎士が南部大陸の…名もない森にいる?」
「ごもっともの質問です…僕は今回南部大陸に溶解蜂の巣の偵察、および破壊のために来ました」
「なぜ別の大陸の騎士がそんなことをする」
「南部大陸は東部大陸との境界線以外はびっくりするほど安全なんですよ。[サンセルト]の町の周辺に関しては巣穴すらないんですから」
「…ああ」
「南部大陸は他4つの大陸の中で1番安全なんですよ。モンスターが少なく、強いモンスターの話もあまり聞きませんし。ですがその分冒険者によるモンスターの討伐、それによる名を上げると言うことがしにくいということでもあるんですよ。だから南部大陸の東側の境界線に位置する[ウェルシオン]の町以外の町には冒険者があまりいないのですよ」
「だから、冒険者がいないので依頼などが消化できず困っているという町の依頼を騎士の国である[セイラント]が受注して解決してあげる…と言うのがよくあるんです」
「成程、他の大陸の国に町のギルドが消化不良の依頼を出している…ということだな」
「はい、今回それで我々3人の騎士が依頼を受け、馳せ参じたわけですが…結果は溶解蜂3匹の不意打ちから私を庇って先輩2人が溶解液を浴び戦闘不能に、私はみっともない声を出しながら逃げ回る…といったものになってしまったのですが…」
「そうか」
「…ちなみに溶解蜂とは獲物をとらえてすぐに食べる…などはしないですよね…?」
「ああ、獲物を溶解液で半殺しにした後は少し放置する。麻痺したふりをして巣についたら反撃…などを防ぐために巧妙に、死なない程度に弄び、完全に動かなくなるまで待つのだ。奇妙な習性だろう?そして、その時が来たら体を小さく解体して丸め、蜂の子に食べさせるのだ」
「2人が連れ去られてまだそれほど経っていない…話からすると餌に加工するその時までは殺さないのですよね?」
「そうだ、食わす前に解体した方が新鮮に美味しく食えるのかどうか知らんが、餌にするその時までは少なくとも殺さないはずだ。今頃は…いや、何でもない」
(死なない程度に弄ばれているだろうな…)
ウェインは心の中で残酷な風景を思い描く。
ブウゥゥゥゥン…!ブウゥゥゥゥン…!
ブウゥゥゥゥン…!ブウゥゥゥゥン…!
「「「!!!」」」
複数匹の羽音が3人の、木の上を通り過ぎる。
「止まれ」
ウェインの言葉によりエリシアとヤイネは動きを即座に止める。
「ゆっくりと、音を立てずに隠れるぞ」
「「はい」」
3人は茂みに隠れる。
「巣はもう近いようだ。ここからは静かに行くぞ」
ウェインがそう言うと二人は頷く。
3人は最大限の注意を払い、隠れながら進む。
「…!見つけたぞ、巣だ」
茂みから前方を見る。地面の大きな穴から溶解蜂が出たり入ったりを繰り返していた。見張りをしているのだろうか、溶解蜂2匹は穴の両隣に止まっている」
「木ではなく地面に巣を作るのですね…」
「ああ、体が大きい分、巣も大きくなるのだろう。その巣を支える大きさの木がないから地面に巣を作るようになった…と本には書いてあったな。諸説あるがな…」
「…!あそこに!」
エリシアが指を指した方向、巣の入り口がある場所から少し離れた場所に大柄な男と小柄な男が地面に転がっていた。
「…ッッ!」
ヤイネは顔を歪ませる。倒れ伏せている二人の顔は皮膚が溶けて赤い肉が少し見えており、体の方もズタボロになり、遠目から見ても無事とは言い難い、悲惨な状況になっていた。
「酷い…」
エリシアは口に手を当てて呟く。
「今助けに行きます…!」
ヤイネの頭に血が上り、我慢できないと槍を強く握り飛び出そうと立ち上がろうとする。だが、ウェインがヤイネの肩を掴んで制止する。
「待て、今行ってどうする」
「どうするって…助けに行くに決まってるじゃないですか!」
「大きな声を出すな。今行っても無駄死ににするだけだ、冷静になれ」
「……すみません」
「頭に血が上りすぎだ、一旦深呼吸をしろ」
「…はい」
ヤイネは大きく深呼吸をし、気を鎮める。
「…もう大丈夫です。落ち着きました」
「そうか、策なしで突っ込もうとするな。助けられるものも助けられなるぞ」
「すみません…」
「時間もないが、まずは作戦を立てるぞ。なんせ救助者は巣の近くにいるのだ。考えなしに突っ込めば集団で襲われて終わりだ」
「そうですね…どうしましょうか」
3人はは策を考える。
「巣は破壊した方がいいのか?」
「はい、もともと巣の偵察および破壊なので…依頼内容によると巣を拡大し森に立ち入れなくなる、溶解蜂が巣を他の場所に作ってしまう前に殲滅して欲しい…だそうです」
「たった3人で巣の破壊に来たのか?巣の破壊に来たにしては数が少なすぎると思うのだが、」
「…報告書では巣は小さく、蜂の数も少ないと書いてあったのです。3人で充分破壊可能な規模だったのです…ですがどうやら私たちがたどり着くまでの間に複数体働き蜂が還り、巣を広げ、数を増やしてしまったようで…」
「成程、数の増加を見越した兵力を出さなかった国に責任がありそうだな。まあ良い、この戦力差で巣の中に入り、殲滅は無理だ、かといって倒れた2人を担いで逃げたとしても複数体の追っ手の蜂に袋叩きにされて終わりだ。ならば…」
ウェインは策を考える。
「今から作戦を言うぞ」
「はい」
「まずは…」
ウェインは2人に自身が思いついた策を話す。
「…どうだ?」
「…確かにいけそうではありますが…誰か1人でもしくじれば策が瓦解してしまいますね…」
「ああ、ガバガバな作戦だが人数が少ない中でできることを考えた結果だ。2人ともいけそうか?」
「はい!私は大丈夫です!」
「僕も…いけます、自分の役割を全うして見せます」
「よし、では作戦開始だ」
諸々の荷物を置き、ヤイネはその場に留まる。ウェインは右へ、エリシアは左へ広い空間をなぞるようにして散開する。
「…ふぅ」
ヤイネはウェインの合図を待ちながら頭では謝罪と後悔をしていた。
自分が未熟なばかりに実力者の二人に庇われ戦闘不能にしてしまったあげく、二人を置いて逃亡してしまった結果、溶解蜂が二人を連れ去るのを許してしまうという失態。頭に血が上り、なんの策も無しに敵陣に突っ込もうとし、自身を助けてくれた冒険者二人の身を危険に晒しそうになってしまったと言う軽率な行動。
それらを思い出しながら、ヤイネは槍を強く握り、思う。
(今度こそは、今度こそ自分の役割を果たせ。逃げるな臆すな自分に誇れる騎士となれ。覚悟を決めろ)
そう決意を固めていると巣の右側も左側の茂みに二人がたどり着く。そしてエリシアが小さくウェインに合図を送る。
(周囲に羽音は聞こえない。蜂は見張りのみ…始めるぞ)
エリシアの合図を確認すると、ウェインは石を空に投げる。その石は高く舞い上がり、巣の真ん前に落ちる。
(来た…!)
ウェインの合図をヤイネは確認する。
当然、石がいきなり空から落ちてきたので、見張りの蜂2匹は顎を鳴らしながら警戒を始める。
その直後、巣の前の茂みから、一人の男が姿を現し、槍を構える。
カチッカチッ
ヤイネの存在に即座に気づき、顎を鳴らしながら2匹の見張りはヤイネの方に飛んでいく。
「ふぅ…」
(俺の役割は見張りを引きつける、そして外に出ている蜂を撃退すること)
「いくぞ!」
ヤイネは2匹の蜂を同時に相手取る。
その瞬間、エリシアとウェインが茂みから飛び出す。
(まだ、息はある…!蜂はこちらに気付いていない…今なら!)
エリシアは倒れ伏す二人に近づき、大回復魔法を唱える。
ウェインは巣の前に近づき、剣を後ろに大きく引いて構える。
(ヤイネに見張りが1匹でもかかれば良いと考えていたが…2匹も釣れるとはな。しかも巣の中の仲間も呼ばずに2匹同時に行くとは…予想外だったな)
ウェインはそう考えてながら剣に魔力を込める。
そうすると徐々に刀身が白くなっていく。否、刀身に氷が纏われていっているのであった。
(まだ…まだだ、俺の魔力全て注ぎ込む。出て来るなよ…)
ウェインは巣の前で溶解蜂が出てこないように祈りつつ、刀身に魔力を込め続ける。
「はぁっ!」
一方ヤイネは、帰ってきたであろう蜂をもう1匹引きつけ、計3匹を同時に相手しているが、冷静に対処し、優位に立っていた。
(あちらはうまく対応してくれている…もうすぐ魔力が…ッ…)
そうウェインが考えていると穴から溶解蜂が一匹顔を出し、目が合う。
(不味い…)
ウェインが考えた作戦はうまくいけば巣の中の蜂ごと殲滅できるというものだったが、それは運が良かったらという前提条件が必要であり、言ってしまえば不確定要素が多く、運が大いに絡む穴だらけな作戦であった。
穴から顔を出した溶解蜂は顎を強く鳴らしながら出て来る。
(今打つか…?だが距離が少し遠い、穴にそのままぶち込まないと効果が薄い…せめて来るのは1匹で頼む…)
顎を大きく鳴らして、溶解蜂が飛びかかって来る。
(…頼んだぞ)
「エリシア」
その瞬間、溶解蜂の右方向から高速で白い光線が飛んでくる。そして小さく爆発する。溶解蜂まともにはそれを食らい、左方向によろよろと逸れて行く。
(…!今までの通りの神聖なる光線ではないな?おかげで蜂は逸れた、今なら…!)
ウェインは巣穴に向かって大きく踏み込む。そして、
「食らえ…凍結処理だ…!」
大きく踏み込み剣を前に突き出す。すると、氷の魔力が刀身から解き放たれ、冷気となり小さな氷と共に勢い良く巣穴に入り込んでいく。まるでそれは小さな局所的に起こった吹雪のようだった。
ウェインが起こした小さな吹雪は巣穴を駆け巡る。中にいる蜂は冷気を浴びて凍りつき、行動を停止する。土を凍らせながら冷気は奥に進み、巣に届く。そして巣も激しい冷気を浴びて凍りつく。巣の周りにいた蜂も、飛び回っていた蜂も全てポロポロと下に落ちて行く。
「くっ…!」
ウェインも冷気に強さに耐えきれず、ジリジリと後ろに押し出されて行く。
エリシアの攻撃を喰らって生きていた溶解蜂でさえも近づくだけで凍りついてしまう。
数秒間の吹雪が止む。穴の入り口とは凍りつき、氷の膜を張る。その周囲も凍りつき地面を白く変える。
「…こちらはこれでよし」
「ウェインさん…!」
「話は後だ、ヤイネの援護に行く。エリシアは寝てる騎士二人の近くで援護射撃を頼む」
「了解しました!」
そう言ってウェインは依然、溶解蜂二匹と戦っているヤイネに向かって走る。
ヤイネの周りにはすでに二匹の溶解蜂の死体が転がっている。
(…ほう、ちゃんと強いじゃないか)
ウェインはそう頭で考えながら羽を斬られて下に降りている溶解蜂を後ろから斬り伏せる。
「…!」
ヤイネはウェインが来たことにより作戦が成功したことを理解し、笑顔を浮かべる。
「ふっ…!」
ヤイネは残りの飛んでいる溶解蜂の頭をジャンプをして突き刺し、戦闘を終わらせる。
「やりましたね…!」
「ああ」
ウェインとヤイネはエリシアがいる所に歩いて行く。
「…二人とも、よく俺の無茶苦茶な作戦に乗り、成功させてくれた。お疲れ様だ」
「いえ!ウェインさんの作戦は今できる中で1番勝率が高いものだったかと…」
「そうか、なら良かった。…ヤイネ、君はかなり強いのだな」
「そうですかね?まあ、[セイラント]の騎士団の中では良くて中堅ってとこですけど」
「ほう、やはり[セイラント]の騎士団はレベルが高いな。それはそうとそれだけ強ければ溶解蜂から逃げる必要はなかったと思うのだが…」
「う…僕、不意に起こったことへの対処が苦手といいますか…それよりも!凄いですね!まさか巣穴そのものを凍らせてしまうなんて!」
ヤイネは凍った巣穴を指さして言う。
「火は森に火が燃え移るかもしれないから無し、風は巣穴の入り口を壊すだけで中の巣と蜂までは完全には殺せないから無し…だから今回は氷を使った。溶解蜂の体温は外気温に大きく左右されやすいからな、その部分も都合が良かった」
「ウェインさんはいくつの魔法が使えるのですか?」
エリシアがウェインに質問をする。
「弱魔法だが火、風、氷、時間をかければ水、この4つなら使うことができる」
「凄いですね!見たところ剣士なのに魔法を4種類も使えるなんて!」
「小さい頃に必死に鍛錬したからな…そして俺は剣士ではない、冒険者だ」
「え?えっとはい、そうですね…?それよりも二人は...先輩たちは大丈夫なんですか?」
「はい、完全完璧に回復させました!なにより顔に傷が残らなくてよかったです」
「本当ですか!よかった…」
そう会話をしていると寝ている騎士二人が目を覚ます。
「う〜ん…」
「む…ここは…」
「ロートックさん!メランさん!」
「お?ヤイネ…俺たちは…」
「僕のせいで…お二人は…」
ヤイネは仰向けに転がっているは二人に謝罪をしようとするが、メランと呼ばれた男が口を開く。
「おいおい、ヤイネよ、謝罪するこたぁねぇぜ?蜂の接近を気づけなかった俺たちに落ち度があるってもんだ。気にしなくていいんだよ」
「そうだ、むしろすまんなすぐに倒れ込んじまって。先輩騎士として恥ずかしい限りだぜ」
「そんなことは…」
「それよりもだ、このお二人は?」
「はい!この方々は…」
ヤイネは騎士二人が溶解蜂に連れ去られた後の話を騎士二人にするのであった。
ウェインの溶解蜂殲滅作戦案
一つ目、ヤイネが門番の蜂と帰ってきた蜂のヘイトを稼ぎ、ウェインが巣を氷魔法を乗せた攻撃で凍らせる。エリシアは倒れた2人を回復、ウェインが攻撃をするまでの間援護射撃をする。
→普通に危険だが一応採用
二つ目、遠距離からエリシアの女神の矢による大規模な破壊により巣諸共殲滅
→巣がどの方向に伸びているか分からず完全破壊不可能と判断。しかも失敗した場合、蜂が溢れかえってきて極めて危険なので不採用
三つ目、ダッシュで倒れた2人を背負って逃げる。その際、できれば門番も撃破する。
→門番を倒せなかった場合、餌を奪われた蜂が怒り、巣の中の蜂が十数体出てきて追跡してくる。門番を倒せた場合、巣の近くで倒した蜂のフェロモンが巣の中に入り、十数体の蜂が追跡してくる。門番を遠くで倒した場合も巣の破壊という根本的な解決にならない。2人を回復させた後に5人で巣の破壊に行ったとしても、巣の警戒度がはるかに上がり、制圧困難になると予想されるため、不採用。




