第18話 石の雨
気になる点があれば感想にどうぞ!
ウェインとエリシアは開店直後の食堂にて食事が来るのを待っていた。
「…ふふ」
エリシアはネックレスをちょいちょい触ってはニッコリと笑っていた。
「…話をしてもいいか?」
「……はっ!はい、どうぞ!」
ウェインがそう言ってから一拍置いてからエリシアは返事をする。
「ここから…[サンセルト]から[ハイナー]までは徒歩で行けば大体4、5日ほどかかる。直線で行けばだがな。君は野宿などの経験はあるか?」
「はい!一応はあります!」
「そうか、ならいい」
「一ついいですか?」
「何だ?」
「先ほど『徒歩で行けば』と言いましたが、馬車では行かないのですか?」
「馬車…か。馬を買えばその維持費がかなりかかる。借りることもできるが…この旅は町から町へ行くものではなく、全ての大陸の町、村、遺跡、有名場所から人が訪れない場所などを巡り、本にする旅だ。場合によっては町や村から遠く離れたダンジョンなどにも入ったりすることもある、つまり、ダンジョンの中にいる間は馬は外で放置することになる。モンスターに襲われて殺されるのは目に見えているだろう?」
「確かに…それは可哀想です」
「そうだな。馬が可哀想だし、借りた馬を失うのだ、貸してくれた方も可哀想だ。だから私は徒歩で旅をすることにしたのだ。その分、時間はかかるがな」
「そうですね…そのような理由があれば、徒歩の方が良さそうですね」
「うむ。長距離歩くことになるため、休憩は多めに入れるが、大丈夫そうか?」
「はい、体力には自信はないのですが…休憩を入れてもらえるなら大丈夫そうです」
「そうか、体力なら長距離歩いていれば自然と上がるだろう」
「そうですね!これから頑張りますよー!」
そうエリシアが張り切っている所に、猫人族のウェイトレスが料理を持ってくる。
「失礼しにゃーす。跳び羊のシチューとコミ鳥の目玉焼き定食ですにゃー」
「ありがとうございます!」
ウェインは跳び羊のシチューを、エリシアはコミ鳥の目玉焼き定食を受け取り、食べ始める。
「…それにしてもあの猫人族のウェイトレスさん…可愛かったですね」
「……ん、そうか?」
「はい!可愛い語尾に、サラサラなしっぽ、そしてなんと言ってもあのもふもふな耳!可愛さの塊ですよ!反則です!」
「お…おう、そうなのだな」
(エリシアは可愛いものとか、もふもふなものが好きなのか…)
その後、2人は食事をもくもくと食べ、少し休憩していた。
「さて、もうすぐこの町を発つが、何かしておきたいことはもうないな?」
「はい!昨日ギルドでお金も少し下ろしましたし、着替えに毛布、非常食、ポーション類、その他諸々も買いました!」
「ならよし、では行くぞ」
「了解です!」
ウェインとエリシアは代金を払い店の外に出る。
そして、町を出て、北西方向に向かって歩く。
「[ハイナー]までは森が少しあるだけの比較的に楽な道だ。その途中に何があるかは分からないがな」
「森ですか…[湿霧の森]のような少し特殊な森だったりするのでしょうか?」
「いや、特に森自体に目立った特徴はない。だが、[湿霧の森]と違ってこちらに敵対してくるモンスターは多い。気を引き締めていくぞ」
「了解です」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 サンセルトを出て3時間後
「はぁ、っっ」
「……少し休憩にするか」
「ありがとう…ございます」
2人は木の影に座り休息をとる。
「すみません、ウェインさんはまだまだ余裕そうなのに休憩をとらせてしまって…」
エリシアは少し申し訳なさげに言う。
「そんなことはない、俺たちは…いや、適度に休憩をとることはたとえ疲れていなくも必要なことだ。気にするようなことではない」
「そうですか…」
「5分もしたら行くぞ」
「はい…ところで本当に[サンセルト]の町の近くにはモンスターがいないんですね」
「ああ、モンスターの巣穴は全てアルディアが潰したと言っていたが…」
その時、
ズドン
「「!!!」」
2人の左横の、ほんの少し離れた所に人の頭ほどの石が音を立てて落ちてくる。そして石は地面にほんの少し埋まる。
「ウェインさん…!?石が空から!?」
「木から離れるなよ、少し気を抜きすぎた。空から石…おそらくロック鳥だ。めんどうなモンスターが来たな」
「ロック鳥って大きな両足と口に石を複数個掴んで、空から獲物に落としてくる。危険度Cのモンスターですよね?」
「その通りだ。獲物に石が当たるまで執拗に石を落としてくる陰湿な鳥だ。やつ自体は強くはないが、石を空から落としてくるのはかなり危険だ」
「執拗に石を落としてくる…安全を考えてこの先に進むには倒すしかありませんね」
「ああ、石を防ぎながら進むのは面倒だ。ここで殺るぞ」
そして、ウェインは木の下から出る。ちらりと空を見て、盾を上に向けて衝撃に備える。その直後、石がウェインめがけて落ちてくる。
ゴン
(奴はどの高さにいる…)
ウェインは石を盾でしっかりと防ぎ、空を見る。
ロック鳥は2人の様子を伺うよりにぐるぐると円を描きながら真上に飛んでいる。
(…高いな。俺では手が出せない)
ウェインはすぐに木の下に戻る。
「エリシア、奴を狙撃できるか?」
「そ、狙撃ですか?」
「ああ、俺では手が出せん。剣に風の魔法を乗せて撃てば対抗できるかもしれんが、そう何発も撃てない。だから君の遠距離魔法で撃ち落としてくれないか?」
「えっと…分かりました。けど空にいるモンスターに魔法を当てたことがないのですが…」
「…とりあえずやるぞ、石は俺が弾く、君は奴に当てることだけを考えてくれ」
「はい!」
「よし」
2人は一気に木の下から出る。エリシアはしゃがんで空に杖を構える。ウェインはしゃがんでいるエリシアの後ろに立ち、邪魔にならないように調整しながら盾を彼女の上に構える。
「見えるか?」
「…はい!見えました!動きは早くないので当てられそうです」
「よし、頼んだ!」
「魔力を……今ロック鳥が石を一つ離しました!」
「構わず魔法を撃ってくれ」
「はい!」
そして、エリシアは杖に魔力を込める。
石が落ちてくるが、ウェインが盾で弾いて防ぐ。その直後、エリシアが魔法を放つ。
「"神聖なる光線"!」
エリシアから白い光線が放たれる。が、それはロック鳥から少し離れた所を通り過ぎただけであった。
「思ったより距離があって当てづらいかもです…」
「移動先を意識して撃つんだ」
「はい!」
そしてエリシアはもう一度、神聖なる光線を放つ。
すると、今度はロック鳥の脇腹を掠る。
「少しですけど当たりました!」
「その調子だ」
「ありが…!ウェインさん!ロック鳥が…
石を全て落としました…!」
「何!?」
ロック鳥は攻撃を当てられたことにより怒り、自身が掴んでいる石を全て落とす。
(今からエリシアと共に避けるか?いや、避けきれない!このままエリシアを守る!)
「体を縮めろ!!」
「…!」
エリシアはウェインの方向に頭を向けて縮こまる。
地面に現れた複数の石の影が一気に濃くなり、
そして、
ドドドドドドドドッ!!!
複数個の石が雨のように落ちてくる。
「ぐっ、」
ウェインの右肩と背中に大きな石が直撃する。エリシアを守るために盾を前に構えていた為、自身の体を完全には守れていなかった。
「ウェインさん…!大丈夫ですか…!?」
右肩を抑えながらウェインは言う。
「今のうちにやつを撃て…!石を全て落とした今、やつは石を取りに少し遠くへ降りる…石を補充されないうちに撃ち落とすんだ」
「…はい、次こそは当てて見せます」
エリシアは立ち上がり、杖を構える。
ロック鳥は獲物が死んでいないことを確認し、石を取りに真っ直ぐ飛んでいく。
(さっきのようにぐるぐる回らずに真っ直ぐ飛んでいて…当てやすい!)
そしてエリシアは魔力を杖に先ほどよりも多く込め、魔法を放つ。
「"神聖なる光線"!!」
その光線は前2つの光線よりも速く、大きかった。
エリシアが放った神聖なる光線は背を向けて飛んでいくロック鳥を捉え、直撃する。
「当たった…!」
神聖なる光線を当てられたロック鳥は被弾部位を焦がしながら真下に落下していく。
「ウェインさん…私、やりました!」
「ああ、よくやった」
ウェインはエリシアに親指を立てて言う。
「…!そうだ肩!今回復させますね!」
「頼む」
そしてエリシアの回復魔法によって肩と背中の怪我を治す。
「あのロック鳥は…その倒せたのでしょうか?」
「魔法を当てられた挙句、あの高さから垂直落下したのだ、おそらく死んでいるだろう。見に行くか?」
(おそらくミンチになっているだろうがな)
「い、いえ大丈夫です。ウェインさんが倒したと言うなら倒せているのでしょう」
「そうか、では、先に進むとするか」
「はい!早めに行っちゃいましょう!」
ウェインとアリシアはパーティを組んでから初の戦闘を無事に終え、[ハイナー]までの道のりを進むのでであった。
詳しく知りたい方に
・猫人族:耳、ちょっぴり長い歯、自由に伸び縮みする爪、尻尾以外はほとんど人間と変わらない見た目をしている。素の身体能力は人間よりも高い。語尾の〜にゃは意識すれば消すことが可能。
・ロック鳥:鳥のモンスター。基本的に少人数の人間を襲う。人が多くいる場所、町などには近づかない。攻撃手段は大きな足にたくさんの石を握りそれらを獲物めがけて落とす。本体の戦闘能力は低め。ロック鳥の存在に気づくことができなかったら、歩いている途中にいきなり頭がなくなることだろう。空も警戒しよう。