第16話 それぞれの疑問
何か気になる点があれば感想にどうぞ!
「…くぅ……」
「ッッ」
模擬戦が終わり、ウェインとアルディアはその場に座り込む。
「…やはり相当のダメージであったようだな…」
アルディアは少し申し訳なさげにウェインに話しかける。
「いや…それほどでもない…です」
(気合いと根性で立ち上がり、なんとか不意打ちで攻撃を当てて勝利することができたが…とにかく身体中が痛い。特に腹と背中が痛い)
「ウェインさん!」
エリシアが小走りで向かってくる。
「エリシア…」
「今すぐ回復魔法をかけますね!」
「いや……ああ、頼む」
そうしてエリシアはウェインに回復魔法をかける。
(痛みがどんどんと引いていく…)
「はい!これで大丈夫だと思います!」
「….ありがとう本当に助かった」
「いえ!パーティメンバーなんですよ?これくらい当たり前です!」
「…それもそうだな」
(パーティメンバーか……頼もしいな)
「次はアルディア様です!」
「んん?私にも回復魔法をかけてくれるのか?」
「はい!怪我をしている人がいたら直してあげるのは当たり前です!」
「おおう…」
そして勢いに押され気味のアルディアにもエリシアは回復魔法をかけ、傷を回復させる。
「うむ、感謝する。おかげでポーションを使わないで済んだわ、わっはっは」
「はい!ならよかったです?」
「…おい、ウェイン君」ヒソヒソ
「?」
アルディアはウェインに小声で話かける。
「この子良い子だなぁ」ヒソヒソ
「…はい、俺には勿体無いくらいです」ヒソヒソ
「?」
エリシアは笑顔で首を傾げる。
ウェインとアルディアは石のレンガでできた壁に座りながら話をする。
「さてと、傷も治ったことだしウェイン君…いくつか私に聞きたいことがあると言っていたが…それは私の質問に答えてもらってからでも良いか?」
「?かまわないですが…」
アルディアは少し考えてから口を開く。
「君の剣についてもう少し詳しく教えてくれないか?」
「剣…ですか?」
「ああ、少し気になってしまってね」
「どこが気になるのですか?」
「私は約80年間生きてきたが…魔法付与や魔剣の類以外に属性魔法を剣に付与できるというのは聞いたことがない。それは魔剣ではないのだろう?」
「はい、そうですね」
(この人これで80超えなのか)
「あの…魔剣って普通の剣とは違い何かしらの特殊な力がある剣のことですよね?」
エリシアが2人に問いかける。
「その認識で合っている」
「では、ウェインさんの剣も属性魔法を自力で乗せることができる魔剣…ということはないのですか?」
「いや、それはない。鍛冶師に聞いた。この剣を手に入れた後すぐに鍛冶師の所に持って行ったのだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ウェインの回想
ウェインはダンジョンで見つけた黒い剣を見てもらうために鍛冶屋に来ていた。
「すまない、この剣を見て欲しいのだが」ゴトッ
「へい、よろしいですよ」
金髪の若い鍛冶師の前にウェインは黒い剣を置く。
「………?少し刃こぼれしていて錆びてはいますがいたって普通の黒い剣のようですね…」
「そうか、何か気になる点などはないか?」
「気になる点ですか…すみません、おれまだまだ鍛冶師としては未熟なもんで…親方を呼んでも良いですか?」
「ああ」
「親方ー!少し剣を見て欲しいんですがー!」
金髪の鍛冶師がそう言った少し後にガタイの良い男が奥から出てくる。
「どうした?なんかトラブルか?」
「いや、この剣を見て欲しいんですけど…」
「…ほう、黒い剣か」
そうつぶやいた後に奥から出てきた男は剣を詳しく見始める。
「………!?おいおいマジかよ…」
そして驚いたようにそう言うと本棚から一冊の本を出してページをパラパラとめくる。
「…それほど驚くような代物なのか?」
「…おう、驚きすぎて思わず声が出ちまった。うむ、これを見ろ」
そう言って男はウェインに開いた本を見せる。
その本のページには黒い鉱石が書いてある。
「巡魔鉱?」
「そうだ、今まで見たことがない鉱石だったからよ、柄にもなく本で調べちまった」
「見たことがない鉱石だと?」
「その本にも書いてあるが巡魔鉱ってのはな、すげぇ頑丈で魔力がすごく通りやすい鉱石でよ、ここ数百年は存在が確認されていない幻の鉱石なんだよ」
「ほう」
「どこでこんな剣見つけたんだ?」
「未開拓のダンジョンだ」
「なるほどねぇ……もうちっと詳しく調べても良いか?」
「ああ、頼む」
「よし!なんか楽しくなってきたぜ」
そう言って男は黒い剣を道具を使ってさらに詳しく調べ始める。
「なんかすごいもん拾ったんすね。親方があんなにウキウキになんのはちょー珍しいんすよ」
金髪の男がウェインに言う。
「そうなのか」
(高値で売れたら良いな程度の考えで持ってきたものだったが…すごい剣なら主力武器にするのもありだな)
そう考えながら店の武器を見て周りながらしばらく待つと、ガタイの良い男が剣を持ってカウンターに戻ってくる。
「アンタすごい剣を持って来たなほんと」
「何かわかったのか?」
「まあな、ちょっと外に出てくれるか?」
「?分かった」
そしてウェインとガタイの良い鍛冶師と金髪の鍛冶師は店の外の開けた場所に出る。
「わざわざ外に出て何をするつもりだ?」
「…ちょっと調べたいことがあってな、アンタ属性魔法をなんか使えるか?」
「弱火属性魔法程度なら…」
「よし!その剣を持ちながら魔法を使ってみてくれ」
「そんなことをしたら柄が燃えてしまうぞ?」
「大丈夫大丈夫!そらやってみろ」
「…鍛冶師が言うなら大丈夫なのか」
そしてウェインは属性魔法を発動する。
「弱火属性魔法!」
直後、黒い剣を炎が覆う。
「す…すげぇー!魔法付与なしで魔法を剣に乗せちまった!」
「すげぇなマジで…」
2人の鍛冶師はそれぞれ驚きの声を上げる。
「成程…どうやら俺は本当にとんでもない剣を拾ったわけだな」
「ああ!その剣があれば魔法使いがいなくても属性魔法を剣に乗せまくれるぞ!」
「ふむ…」
「どうした?」
ウェインは兜で見えないが顎があるであろう場所に手を当て考える。
「この剣は魔剣の類のものではないのか?」
「おう、魔剣ってのは剣自体に能力というか特殊なもんが備わってるものを言うんだ。この剣は鉱石が魔力を通しやすいから結果的に魔法を付与できるってだけで魔剣とはいえねぇな」
「そうか…よし、この剣を研いでくれるか?」
「おうとも!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 現在
「…と言うことだ」
「成程、ただ魔力を非常に通しやすい鉱石だと…」
「そうなります」
「うむ、こちらの君への質問は終わりだ。次はそちらの質問を聞こうではないか」
「ああ、では…」
そう言ってウェインはアルディアに自身の疑問に思ったことを話し始める。
「まず一つ目、どうやって町の近くに寄ってきたモンスターの位置を把握しているのですか?」
「話を聞くに、モンスターの襲撃の情報が出る前に現場に向かうそうですが、なぜそのようなことが可能なのですか?」
「うむ、そりゃあ疑問にも思うわな。端的に言うと結界を張っているからだ」
「結界?」
「そうだ。町のすべての方位に魔石による結界を張ったのだ。防御のためのものではなくその結界に入ったモンスターを知らせるための感知器としてな」
「成程」
「魔石は普段、地面に台座と共に埋まってある。そしてモンスターが結界の中に入ると魔石が空に光を放つのだ。通常なら魔力を感知できる者しかその光は見えない。当然私もその光を見えない。だからこの付ければ魔力の光を感知することができる指輪と光が現れたらそれに連動して光る指輪をつけている。これらのおかげで建物の中でも光を探知し、現場にいち早く向えるわけだ」
「まったく、おかげでとんでもない額のルミナを支払う事になったわい」
「金と手間暇をかけて作った町の防御策…か、ますます壁を建てれば済むと思うのですが…」
「私も何度も言ってるんだがなぁ、町の奴らが『貴方様がいるのですから壁なんていりません!』と煩いもんでもう言うのを諦めたわ」
「それだけあなたは町の人々に信頼されているということなんですよ。だとしても防御手段が人間1人は少なすぎると言わざるおえませんが…」
「私的にもリスクを考えで壁やらなんやら欲しいんだかなぁ。せめて警備兵を増やすとか…まぁ、私が生きている限りは安心安全な町にし続けるとしよう」
「では、二つ目、なぜあなたはそこまでしてまでこの町を守るのですか?」
「なぜ町を守るのか…か」
アルディアは一瞬少し目を細める。
「…ただの恩返しだ」
「恩返し?この町の人に対してですか?」
「そうだ。…話せば少し長くなるが構わないか?」
「勿論です」
「そうか…私が元冒険者だったってのは知っているよな?」
「はい」
「うむ…まだ私が冒険者の時、この町の付近にはモンスターがまぁまぁいてな、冒険者もそれなりにこの町にもいたのだ。俺もその中の1人でパーティメンバーと共にモンスターをギルドの依頼を受けていたんだ」
「町に来て確か3つ目の依頼だったか…町の近くの洞窟の巣穴に生息していた黒狼の討伐依頼で、俺のパーティメンバーは俺以外全員喰われて死んだ。異様に強い黒狼だった。俺も死ぬ二歩手前ほどまでいったが仲間たちの攻撃が効いて弱っていたのだろう、私が死ぬより先になんとか黒狼を討伐することができた」
「…………」
「だが、ポーションを使い果たし、神官も喰われて死んでしまった私には傷を癒す手段がなくてな、傷だらけで町に帰るしかなかったのだ。根性でなんたか町には辿り着けたが…私の意識はそこで途切れた」
「…………」
「そして目を覚ました時にはベッドの上だった。どうやら町の入り口付近で倒れていた私を町の青年が近くの家に運んでくれたらしい。夜だったというのに運が良かった」
「しかも、夜とは思えぬほどたくさんの人が私の元に来てな…応急手当てに、食事、休む場所、後諸々を用意してくれたのだ。しかも次の日神官を呼んでくれると言う。いくらなんでも優しすぎると思わんかね?」
「確かに優しすぎる気がしますね」
(面倒事をいやがって無視する者も多い中、夜に…しかも大勢で冒険者を助けるなどそうないことだ)
「そうだろう?だからその場にいる全員に聞いたのだ。なぜそこまでしてくれるのか?と。そしたらな、全員笑顔で『町のために依頼をこなしてくれている冒険者様を助けない理由はありません!』と言うのだ!」
「まったく、一周回って呆れたわ。だが、その優しさと笑顔は仲間を全員失って落ち込んでいた私の心にだいぶ響いてな…私は決めたのだ、この人たちに恩返しがしたい…とな」
「そして傷が完全に癒えた後、私を助けてくれた人々に感謝を伝えたのち、私はモンスターの巣穴に片っ端らから襲撃を仕掛けて町の近くのモンスターを全て殺した。モンスターを…町の周りにいるやつらだけでも滅ぼせば町の人は喜ぶだろうと思ったからだ」
アルディアはケラケラと笑う。
(成程…町の周りにはモンスターの巣穴がないと聞いていたが、この人が全部破壊したからなのか…とんでもないことをしているな…)
ウェインが軽く引いているとアルディアはさらに話を続ける。
「そんで、周囲のモンスターをすべて殺した後、[サンセルト]を発とうとしたんだが、なんでか巣穴をすべてぶっ壊したことを町の人々は知っていてな、『どうかこの町に留まってはもらえませんか!?このお礼をさせてください!』って引き止められたのだ。私はしてもらった恩を返しただけなのに逆にあっちも恩を返させてくれってよ、断ったんだがあっちも引く気はなさそうだったのでな…私はそのまま押し切られ、この町に定住する事になったのだ」
「町の人々にしてもらった恩を返し続けるためにな」
「それがこの町を守る理由…ですか」
「そうだ。案外単純な理由だっただろ?」
「いえ…恩返しのために町を守る…素敵ではないですか」
「…そうか、三つ目の質問はなんだね?」
「三つ目は…」
そうしてウェインはアルディアの足元…ブーツ型の魔道具を見る。
「魔道具は戦闘で使えますか?」
「んん?どう言う事だ?」
「戦闘で魔道具を使えればより楽に戦えるのでは…と」
「ふむ、使っている私が言うのもなんだが、戦闘で使うのはあまりおすすめはしないな」
「どうしてですか?」
「まぁ、理由はいくつかあるが…まず金がかなりかかる。純度が高い魔石はとにかく高い。かと言って純度が低い魔石を使うと威力が弱いしすぐに砕ける。それに自分の使用用途に合致する魔道具は当然オーダーメイドになる。他にもメンテナンスやらなんやらで当然金がかかる」
「確かに…」
「あと、武器ならまだしも魔道具がないと実力が出せない…そんな冒険者は生き残れんよ。いざという時に魔道具が壊れて弱体化…そんで敗北なんて目も当てられんわ。冒険者はいついかなる時も己の力と良い武器で戦うに限る。これは私の自論だがな」
「わざわざ壊れやすい魔道具を使うよりも己の力で戦えと…」
「そうだ。君は魔道具を積極的に使っている冒険者を見たことはあるか?」
「…ないです」
「そういう事だ。魔道具はあまり激しい動きをするのに向いていない。せいぜい人の生活を便利にするための道具ってことだ」
「そうですか…。俺の質問に丁寧に答えていただきありがとうございました」
ウェインは立ち上がりアルディアに頭を下げる。
「こちらこそ話が長くなってすまなかったな」
「いえ…では私たちはこれで…」
ウェインはエリシアかいる方向へと歩いていく。が、足を止めてアルディアを見て、口を開く。
「…あと一つ聞き忘れていたことがありました」
「まだあるのか?」
「この町のこと…あなたのことを本に記してもいいですか?」
「…もちろん!その本は売りに出すのか?」
「いずれは…」
「そうか!楽しみに待っていようではないか!」
わっはっはとアルディアは笑う。
その笑い声を背にウェインはエリシアの方向に再度歩いて行くのであった。
詳しく知りたい方に
・巡魔鉱 (じゅんまこう):極めて希少な金属。魔力伝導率か異常に高く、属性魔法を流し込めば、その魔法を纏うことができる。高度も高く、ちょっとやそっとの攻撃では傷さえつかない。