第15話 模擬戦
何か気になる点があれば感想にどうぞ!
「守護者アルディア・シクシス…あの人がですか?」ヒソヒソ
「おそらくな…」
そして前か歩いてきていたガタイの良い男はウェインの左横を通りすぎる、が足を止める。
「……私に何か用かね?青年」
そしてウェインのことを横目に見ながら言う。
「「!!!」」
(話しかけてきました!)
ウェインは物おじせずにその男に話しかける。
「あなたにいくつか聞きたいたいことがあるんです…少しお時間をもらえないだろうか?」
「…良いだろう。だが一つ、私のお願いを聞いてはくれないかな?」
「お願い?」
「そうだ。これから私と模擬戦をしてはくれないかね?」
「…模擬戦だと?なぜだ?」
「理由は…君が冒険者な事と、単に私の運動不足の解消のためだ。ここ最近はあまり動いてなかったのでな」
「後者はともかく、なぜ俺が冒険者だと言う理由で模擬戦をすることに繋がるんだ?」
「まぁ、模擬戦を行うことは私の趣味のようなものだ。毎回この町に来た冒険者には模擬戦をしないか?と声をかけているのだよ。今町にいる冒険者全員に断られているがな…」
「模擬戦が趣味…」
「ただ模擬戦をして強さを測る、それだけの至ってつまらん変わった趣味だよ」
「受けてくれるかね?」
「そうですか…分かりました、受けて立ちましょう」
(本にもこの男の事を書くつもりではあったしな、戦って損になることはないだろう)
「そう言ってもらえて嬉しい限りだ。では私の家の庭で戦うとしよう。ついて来い」
そう言ってアルディアは町の中心…自身の家のある町の中心へと歩いて行く。
「いいのですか?防具はまだ修理中なのですよね?それなのに模擬戦なんて…」
エリシアは少し不安そうにウェインに言う。
「問題ない。殺し合いではないんだ、最悪の自体にはならんだろうそれに、」
「防具なしで自分がどこまで戦えるか、少し知りたくなった」
「そうですが…万が一のことがありましたら私が治しますのでご安心してください!」
「……そうか、頼りにしている」
「…!はい!」
そして2人はアルディアの背中を追うのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー アルディア邸 庭
ウェインとアルディアは庭の中心に少し離れて向き合う。
「防具は装着しないのかね?」
「あいにく今は修理中なのです。決して手を抜いている…などではないことは先に言ってきます」
「はっはっは、手を抜いて挑んでくるやつならば
後遺症が残らない程度にボコしているところだったが…修理中なら仕方がないか。いきなり模擬戦を申し込んだのは私だしな。良い、こちらも防具なしで戦おう。これでフェアだ」
「そちらがそれで良いなら…」
(少なくとも年齢は60超え…だというのにこの筋肉量、威圧感、そしておそらく2級以上の元冒険者…下手をすれば半殺しにされるかもしれんな)
「ルールは4つ、
1つ、武器は基本的には何を使っても良い
2つ、殺しや後遺症が残るような攻撃はしない、当てない
3つ、魔法や道具など使える物は使っても良いが毒などはなし
4つ、負けを認める、もしくは審判が戦闘続行不可能と判断した場合は模擬戦を終了とする
いいな?」
「了解だ」
「審判は私、アルディア様の執事であるヴェラ・スマーが務めさせていただきます」
「さぁ、構えろ」
「はい」
ウェインは黒い剣を、アルディアは長剣をそれぞれ構える。
(…やつの武器は長剣…リーチ差で劣っている分、懐に入ることさえできれば勝ち筋は充分にある…)
(黒い剣…ふむ、珍しいな)
(ウェインさん…)
エリシアは少し心配そうに2人の姿を眺める。
「両者準備はよろしいですかな?」
「「勿論」」
「では只今より、アルディア・シクシス様とウェイン・ノクナリア様による模擬戦を…開始する!!!」
ダッ…!!!
審判がそう言うと同時にウェインがアルディアより
先に動き出す。
(ほう、動き出しが速いな)
(まずは様子見だ)
そうしてウェインは剣を振り上げ、右上から左下にかけて剣を斜めに振り下ろす。
「ふんっ!」
カァンと音をたててウェインの攻撃をアルディアは軽々と受け止める。
「ぬるいッッ!!」
「ちっ」
そしてアルディアはウェインの剣を弾き、横払いでウェインとの距離をとる。
(流石は元冒険者…この程度の攻撃なら容易く受け止めるか…)
(ふむ…やつ…俺の動きを読んで横払いをする前には俺の間合いを出ていたな?良い目と足を持っている。生半可な攻撃ではやつに当たるどころかかすりもしなさそうだな…ならば)
2人は間合いを測りながらじりじりと近づく。
そしてウェインはアルディアの間合いに入る瞬間…
「せやッッ」
(!?速いッ!)
アルディアは前に大きく踏み込みウェインとの距離を一気に詰める。そして長剣を上から鈍い音を立てて振り下ろす。
ウェインは左に避けながら剣でアルディアの攻撃を流そうとするが、
(ぐっ!?)
アルディアの長剣は自身の真横で止まる。そして刃の向きを変えてこちらに飛んでくる。
想定外の動きの攻撃でウェインはそのまま斬り飛ばされる。
ウェインは地面に転がるが即座に受け身をとって立ち上がり、アルディアの四度の斬撃を流す。そしてカウンターで剣で正面を突きながら後ろに下がり距離をとる。
(ち…何とか防げたが、まさか1度目の攻撃を寸止めし、こちらに方向転換してくるとはな…見た目によらず器用のようだな)
「どうした?その程度か青年?」
「ようやく体が温まったところだ」
「そうか、ではそろそろ本気で行くとするか…」
そう言ってアルディアは大きく後ろに長剣を構える。
そして、剣を勢いよく振り下ろす。
「偽風斬ッッ!!」
空気が歪む。
「な!?」
「ウェインさん…!」
ウェインは咄嗟に右に避ける。
ドオォォン……!!
その直後、自分が立っていた後ろの壁に穴が開く。
「斬撃を飛ばした…のか!?」
「ほらほらまだまだいくぞ!」
そう言ってアルディアは何度も斬撃を飛ばしてくる。
ウェインは走りながらそれすべて避け続ける。
(やつが魔法を使った様子はない、化け物め己の技量のみで斬撃を飛ばしている!)
「逃げてばかりか!?」
(…ッ当たらん…!)
(ち、時間をかけてやつの体力を削るつもりだったが…それよりも先にこちらの体力が無くなりそうだ…)
(ならば…)
そしてウェインは飛んでくる斬撃を予測し、フェイントを挟みながら避けてどんどんとアルディアとの距離を詰めていく。
(危険だが超接近戦で一気に勝負をつける…!)
「ちぃ!」
アルディアは攻撃の手を止めて剣を構え直し、ウェインの攻撃に備える。
「かあッッ!」「ふんッッ!」
そして2人の刃は勢いよくぶつかり合い火花が散る。
(力ではこいつには勝てん…なら速さで圧倒する!)
ウェインはアルディアの長剣を避け、連続で攻撃を叩き込む。
「ぬぅ…!?」
アルディアは斬撃を防ぎ続けるが、ウェインの攻撃の速さに追いつけず徐々に腕や体に傷がつき始める。
「速い…!見えません…!」
エリシアはウェインの斬撃を目で追うことができなくなっていた。
(うーむ…このままこいつにペースを握られ続けると押し負ける…)
「てゃあッッ…!」
「なっ…!」
アルディアはウェインの剣撃のわずかな隙を突いて剣を弾く。そしてウェインの左腕辺りを掴んで地面に叩きつける。
「ッッ」
だがウェインは即座に受け身をとり、体制を立て直しつつアルディアの追撃を退ける。
「良い反応速度だ…!」
(こいつの防御や回避は大した物だ。だが想定外の攻撃が来ると一瞬体が固まる弱点がある。そこを突ければ即座にケリがつきそうだ)
(あの連撃を耐え切られた…奥の手を使うか…?)
(…しょうがない、魔道具を使わせてもらうぞ!)
そしてアルディアがウェインの方向へと走り、
ウェインも剣を構えながら走る。
そして再度2人の剣が大きな音を立てて交わる。
「ふんッ」
アルディアの大振りな攻撃を避けながら隙を伺う。
「はぁッッ」
(…!今!!)
アルディアの大振りの後のよろけを見逃さずにウェインは渾身の突きでアルディア左脇腹を剣で刺す。
その時、アルディアから笑みが溢れる。
「この隙をお前が見逃すはずがないよなぁ」
「…!動きを誘われた!?」
その直後アルディアの右足が風を纏う。
そう、町を瞬時に移動するときに使うブーツの魔道具を発動したのだ。
「ふんッッ!」
「ぐぅ…ッッ!?」
ウェインはアルディアの風を纏った右足の蹴りをまともに食らう。
そして弾かれたピンボールのように蹴り飛ばされ、とんでもない勢いで壁に叩きつけられ瓦礫に埋もれる。
「ウェインさん…!審判さん!もう模擬戦を終わらせてください!」
エリシアは審判に懇願する。
「……そうですね…今ウェイン様の状況を確認しに行きます。その状況次第ですね、ここからでは土煙でよく見えない」
そう言って審判はウェインの方向に向かう。
「ウェインさん…」
エリシアは心配そうにウェインが吹き飛んだ方向を見る。
一方、アルディアもウェインが吹き飛んだ方向を見続けていた。
(少しやりすぎたか…重症までとはいっていないと思うが…骨の5、6本は折れているかもしれんな…)
その時、
「「!!!」」
月煙の中に一つの影が浮かび上がる。
「まだ立てるのか…!?」
そう言ってアルディアは長剣を正面に構えようとする…がそれよりも先に土煙の中から何かが放たれる。
ズドン
「……?が…!?何が…」
その直後、腹部に強い衝撃を受ける。そして地面を抉りながら後ろに音を立てて後退させられる。アルディアは目を見開き、堪らず地面に膝をつく。
土煙が晴れて、剣を前に突き出しているウェインの姿がようやく露わになる。
「ハァハァハァ」
「こちらも奥の手…使わせてもらったぞ」
「…!?…貴様…剣に…風魔法を乗せたな…?」
そう、ウェインの剣は風を纏っていた。
「どういうことだ…魔法付与は魔法使いでないと使えないはずだ…かといってその剣、私のブーツのような魔道具にも見えないが…」
「ああ、この剣は少し特殊でな…ダンジョンの中で手に入れた物なのだが…簡単に言えば魔力を込めればそれを剣に付与することができる」
「弱火属性魔法を剣に込めれば炎の剣を、弱氷属性魔法を込めれば氷の剣にすることができる」
「成程」
(腹に穴は空いてない。が、臓器に結構なダメージが入ったな…一撃食らっただけでこの様とは…)
そしてウェインがアルディアの方向にゆっくりと歩きながら口を開く。
「…まだ…やります…か?」
「……フッ…いや、この模擬戦は私の負けだ。これ以上戦えば私が死ぬ」
「…?まだまだ動けそうに見えますが…」
「そんなことはない、審判!」
「はい、…では!この模擬戦…ウェイン・ノクナリアの勝利により終了とさせていただきます!」
審判が模擬戦を終わらせる。
この模擬戦は辛くもウェインの勝利で幕を閉じる。
詳しく知りたい方に
・偽風斬:アルディアが使う飛ぶ斬撃。飛ぶ斬撃自体は割と使える人がいる。アルディアの場合は力技のゴリ押しで斬撃を飛ばしている。本来風を纏って斬撃を飛ばすのが普通なのだが、力技のみでアルディアはそれを可能にしているので技偽が付く。