第10話 冒険の後の日
何か気になる点があれば感想にどうぞ!
疲労のせいかウェインはとんでもなく寝てしまっていた。ようやく目を覚まし時計の時間を見る。時刻は午前10時、彼がいつも起きる時間からはるかに遅い時間時計の針は指していたのであった。
「…寝過ぎたな」
そう言うと男はベッドから降りてバックパックを漁り、袋に入れていた干し肉と水が入った革袋を取り出して食べ始める。
(さて、今日やることはまず最初に鍛冶屋に行って装備を一式修理に出す。その後にギルドに寄って報酬をもらう。最後に新しい腰袋を買う。ってところだな)
食事を終えて身支度をする。
(そういえばエリシアは今日何をしているのだろうか…初めての旅で当然疲れているだろう、ゆっくり休んでほしいものだ)
そうして最低限の荷物と装備を入れた袋を持ってウェインは部屋を後にした。
宿屋の外に出て鍛冶屋の方向に足を進める。
(しかし守護者…か)
ウェインはこの町の守護者、アルディア・シクシスについて考えていた。
(ほぼたった1人でこの町をモンスターの襲撃から守る男…気になるな。この町はそこまで大きくないとはいえ、1人で回るには広すぎる。どうやってモンスターによる被害を出さずに対処しているのだ?)
そう考えている間に鍛冶屋に着く。
中に入ると厳ついドワーフが奥先で本を読んで座っている。
「修理に出したいのだが」
ウェインがそう言うとこちらの存在に気がついた厳ついドワーフが前に出て来る。
「修理か…中身を今見せてもらうぞ」
「ああ構わない」
そう言うと厳ついドワーフはカウンターの少し奥の机に袋の中身を取り出し、置き始めた。
「ほう…色は少し霞んではいるが白鋼で作られた防具か」
「見ただけで分かるのか?」
「俺は鍛冶師である前にドワーフだ。人間では見分けがつかん鉱石でも1秒もあれば判別できる、文字通り見えている世界が違う」
ドワーフとはやはり良い目を持っているのだなと感心していると厳つい年寄りドワーフが不思議そうに質問を投げかけてくる。
「ん?なんだこれは?他のものは少し凹んでいる程度のものだがこれだけはなぜこんなにひどい壊れ方をしている」
そう言って厳ついドワーフはウェインにくの字にひしゃげた籠手だった物を見せる。
「それは籠手だ」
「これが?何の攻撃を受けたらこんな曲がり方をする。防具としては優秀な硬度を誇る白鋼だぞ?」
ウェインは少し言うのを躊躇ってから言う。
「……ドラゴンだ」
厳ついドワーフは目を見開いて言う。
「ドラゴンだと?」
「そうだ。ドラゴンの尻尾打ちを防いだ時に壊れてしまった。だがそのおかげで腕はまだついているがな」
そう言ってウェインは左腕を自身の前に出す。
「お前さん盾は?」
「付けていない」
「…なるほど…だがいくら白鋼の籠手で防いだとはいえ盾なしでよく死なずに耐えられたもんだ。お前さんだいぶ体が丈夫らしいな」
そう言って厳ついドワーフはすべての防具を見て触った後にウェインに向かって言う。
「この具合だと修理費は7000ルミナってとこだな」
「なんだと?」
想定よりも少し高い修理費に思わず声が出てしまう。
「他の部位はそんなだが左腕の籠手部分はかなり時間をかけて打ち直さなくちゃいけねぇんだ。それとも新しいのを買うか?」
そう言って厳ついドワーフは左側の防具がたくさん置いてあるところを親指で刺す。
「…いや修理を頼む」
「よしきた」
そしてウェインは7000ルミナを支払う。
「修理が終わるまでどれくらいかかる」
「そうだな…明後日にゃ完璧に直せると思うぜ」
「分かった。明後日に取りに来る」
そう言ってウェインは鍛冶屋を後にする。
(さて、次はギルドだな)
ウェインは次の目的地であるギルドの方向は足を運んだ。
鍛冶屋から数分程度でギルドに着いた。そして中に入ると…
「…!ウェインさん!!!」
そう言ってエリシアが笑顔でとてとてと近づいてくる。
「エリシアか、ゆっくり休んだか?」
「はい!熟睡させていただきました!」
「そうか。ギルドに何か用があったのか?」
ウェインがそう言うとエリシアは少し照れくさそうに言う。
「朝起きてウェインさんの部屋を尋ねたんですがいなくて…宿屋の主人の方に聞いたところ少し前に外に荷物を持って出ていったとおっしゃられていたのでとりあえずギルドで来るのを待っていた次第です。ここにいれば会えると思ったので…」
「そうか…ギルドに冒険者登録はしたか?」
「はい!案外早く登録することができました!」
そう言ってエリシアは5級と刻まれた金属のプレートを見せる。
「行動が早いな…さすがだ」
そう言ってウェインはギルドの受付嬢がいるカウンターまで歩いていく。
「報酬の受け取りですか?」
「ああ」
そう短く返答するとギルドの受付嬢と話す。
「こんにちは!今日はどういったご用件でしょうか?」
「昨日[湿霧の森]の呪いの霧と、死者の骨の発生原因を調査し、対処をするという依頼を受けたウェイン・ノクナリアというものだが」
「え?少々お待ちください…ウェイン…ノクナリア様ですね」
そう言ってギルドの受付嬢は革のファイルを取り出して確認を取る。
「……はい!確認取れました!すみません兜をつけていないので分かりませんでした」
そう言ってギルドの職員はウェインに頭を下げる。
「いや、謝ることではない」
「それで依頼完了の報告をしにきたのだが今日ギルドの職員を[湿霧の森]に派遣して確認をとってもらうことはできるか?」
「はい!了解いたしました!今日中にギルドの職員を向かわせますのでその確認が取り次第報酬を支払わせてもらいます」
「確認に完了にはどれくらいかかる」
「[湿霧の森]は位置的にはそう遠くないので短くて明日の朝…長くても明日の夜には確認が取れらでしょう」
「そうか…あとこれをギルドで鑑定してもらいたいのだがどうだ?」
そう言ってウェインは呪いの竜の剥がれ落ちた鱗を出す。
「はい、了解しました。鑑定士に鑑定してもらいますのでそちらの方お預かりさせてもらいますがよろしいですか?」
「ああ」
ウェインは呪いの竜の鱗を受付嬢に渡してその場を後にする。
「報酬はすぐに貰えるものではないのですか?」
エリシアがウェインに問う。
「いや、基本的にはギルドに依頼達成の証拠となるものを出せばすぐに報酬は貰うことはできる。だが今回は少し特殊でな」
「依頼達成の証拠となるものが決まっていない状況での依頼だった。何が原因が分からない以上何を出しても依頼達成の証拠とはギルド側は判別できないだろう?」
「確かに…ドラゴンが原因だったなんて見当もつかないですもんね。それを証拠として出しても意味はない…ということですね」
「その通りだ。だからわざわざギルドの職員に[湿霧の森]まで出向いてもらい、呪いの霧と死者の骨が発生していないかを確認してもらう必要があるわけだ」
「面倒なことをギルドの職員の方にさせてしまいますね…」
「そういうことも仕事の一環だ。面倒だと思ってもやってもらわないとこちらが困る」
「報酬は明日になってしまうがいいか?」
「はい!全然問題ないです!」
「分かった。次は新しい腰袋を買いに道具屋に行くのだが一緒に来るか?」
「はい!行きます!」
「よし、では行くぞ」
そう言って、ウェインとエリシアは道具屋に2人で向かうのであった。
詳しく知りたい方に
・白鋼 (はっこう):白い鋼。硬く丈夫でしなやかなので加工もしやすいので防具にはうってつけの金属。採れる場所が限られているので少し希少な金属でもある。白い色をしているものもあれば少し灰色寄りの物もあり、色には個体差がある。
・冒険者の級を表すもの:冒険者が何級かを示すものは数字の刻まれた金属であり、魔力を込めると数字の部分が光るようになっている。その金属を光らせることのできる加工方法はギルドしか知らない。そのためプレートの級を偽装したとしても、プレートに魔力を込めれば偽物か本物かすぐに分かる。