第1話 神官、呪いの森にて希望を求む
初めての作品です。話が思いつく限り続けたいと思います。不定期更新です。話の展開がだいぶ遅いのでそこはご了承ください!何か気になる点などがあればぜひ感想にどうぞ!
「」はキャラクターのセリフ
()はキャラクターの頭の中のセリフ
[]は町や地名の名前
薄暗く呪いの霧が漂う大きな森、[湿霧の森]にて薄い灰色の髪をたなびかせ、1人の女の神官がぬかるんでいる地面をザッザッザッと駆け回る。
「どうしてこんなことに…!?」
彼女は後ろをちらりと見ながら言う。後ろからは呪いの霧により動いているモンスターである死者の骨が4体ガチャガチャと骨を鳴らしながら追いかけてくる。
「こんなことになっているとは思いもしませんでした…」
彼女は冒険に出たばかりの新人であり、1人で旅に出たので当然パーティメンバーはいなかった。
自身の村に共に冒険者になろうとするものは1人もおらず、危険を承知で1人比較的近い場所にある小さい町、[サンセルト]に向かった。その途中で死者の骨がよく出るという森に近道だからと入ってしまったのが良くなかった。
彼女は神官であり神聖魔法によって本来死者の骨程度なら難なく撃破可能なのだが、
「一体何体倒せば良いのでしょうか…?」
彼女は振り向き、杖から放たれる神聖なる光線により死者の骨1体を消し去る。が、倒して倒しても減るどころか死者の骨は神聖魔法に反応して増えてくる。
(死者の骨は救済を求めて神聖属性魔法に大きな反応を示すと聞いてはいましたが…ここまでの数が釣られてくるとは思いませんでした…!)
彼女は考える。自身はすでに死者の骨を神聖魔法によりすでに5体跡形もなく消し去っているそれなのに減るどころか増える一方ということは…
(この森にたくさんの数の人の骨が埋まっているのかもしれません。その埋まっている人の骨がこの呪いの霧により死者の骨となり私の神聖魔法に反応したくさん出てきてしまっている……のでしょうか…?)
走っても走っても森の外に出ることができない。まるで同じところをぐるぐると回っているようだ。
「地図を落としてしまうなんて…情けない限りです…」
いきなりの死者の骨との遭遇に驚いて地図を落としてしまったのがかなり痛かった。
最初は死者の骨を撃破しながら進んでいたが、どんどん倒しても増えていく状況に魔力的にも数的にも不利を悟り逃亡し、かれこれ20分間は道に迷って走り回っている。
その彼女の体力もそろそろ限界に達するところであった。
呼吸を少し整えて走りながら杖に魔力を込め、立ち止まる。そして
「"神聖なる光"!!」
白く暖かな光が周囲一帯を照らし、追いかけてきていた死者の骨6体を一気に消し去った。
すぐに死者の骨の襲撃に構えたが、周囲に死者の骨の気配はない。
一旦は凌げたのだ。
「ふぅ」
彼女は木を背にして座り、大きく息を吸う。
本来ならこの森は呪いの霧により息を吸うことも許されない場所であるのだが、
彼女は自身にかけた対呪い魔法により呪いの霧が覆う森の中でも変わらず動くことができた。
だがこの魔法は常に魔力を消費するのでそう長くは持たない。
彼女は体を丸め俯く。
「やはり1人で冒険に出るのは無謀だったのでしょうか…」
そして自身の浅はかな考えに嫌気がさしていた。
冒険者になることに最初は反対したが、最終的には笑顔で背中を押してくれた父親と母親の顔。
冒険者になるという考えに笑顔で肯定してくれた姉の顔。
[サンセルト]まで一緒に行ってあげようと提案してくれた村の人たちの顔。そのすべてが頭でずっと再生される。
「見栄を張らずに提案を受け入れていればこうはならなかったのかな…」
「冒険者なんですから余裕です!!」
と同行の提案を受け入れなかったり、
「近道ですしいざとなれば神聖魔法で蹴散らします!!」
と死者の骨が出るから湿林の森は通るなと警告されたにも関わらず[湿霧の森]に入ってしまったことなど考えれば考えるほど出てくる自分の愚かしい行動に涙が出てくる。
そのとき
「え…」
地面から伸びた手が彼女の足首を掴む。そう死者の骨だ。
「なん…で…」
頭を上げると7体の死者の骨が地中から這い出ていた。
(時間差で神聖魔法に反応した…?それともこの場所に留まりすぎた…?)
そんなことを考えてる暇はない。
足首を掴んでいた死者の骨が地面から顔を出した。周囲の死者の骨もじりじりと近づいてくる。
神聖魔法を使おうとするが恐怖で体が震えて神聖魔法を使うことができなかった。
魔法を使う際は冷静にそして丁寧にが基本だ。
神聖魔法はそれとともに神への信仰心も必要になってくる。
今の彼女は当然冷静さを欠いており、神への信仰心も恐怖によって塗り固められてしまっていた。
「嫌…嫌だ…!!やめてください!!やめて!!」
涙目になりながら必死に杖で足を掴んでいる死者の骨を殴りつけるが元々腕力が弱く、しかも恐怖で筋肉が強張ってしまっている今の彼女では死者の骨を引き剥がすことはできなかった。
(嫌だ…死にたくない。まだ何にもなれていない。まだ何も成せていない。こんなところで終わってしまうのですか?私は物語に出てくる冒険者のように人々を笑顔にする冒険者にはなれないのですか?)
思考がぐるぐると回る。
死者の骨たちはさらに距離を縮め、
彼女は自身の一生を振り返りさらに涙する。
(女神様…お姉ちゃん…お父さん…お母さん…みんな…)
「助けて」
その時、
木と木の間の茂みから人がバッと飛び出してきて周囲にいた死者の骨を剣で瞬く間に斬り伏せていく。
「え……?」
「ん……?」
男は驚いたようにこちらを向き瞬時に私の足元の死者の骨を斬りつけ倒したのであった。
かくして神官の彼女は全身に鎧を纏い、兜を付け、少し大きめなバックパックを背負い少し変わった剣を持った男によって助けられたのであった。
詳しく知りたい方に
・湿霧の森 (しつむのもり):この森だけなぜが湿気が高く霧が常に発生しているのでこう名付けられた。
・呪いの霧:呪いを帯びた霧。この霧を吸ったものは呼吸困難、頭痛、吐き気など様々な状態異常に陥る。呪いの強さによっては死に至る。
・死者の骨 (スケルトン):呪いによって動かされている骨。死犬の骨 (スケルトンドッグ)など種類がたくさんある。自身への救済を求めていると言われており神聖魔法に大きな反応を示す。生きた生物にも反応を示す。
・サンセルト:湿霧の森から比較的近い場所にある町
・女神:神聖魔法などを使う者の信仰の対象。遠い昔の時代に3人いたとされ、どの女神を崇拝しているかで神聖魔法の特徴が変わる。
・神聖属性魔法:主に神官などが使う魔法。神への信仰心が必要不可欠であり信仰心が薄れると神聖魔法が弱く、使えなくなる場合がある。悪魔、死霊、ゾンビ、スケルトンなどに効果が抜群である。攻撃、回復を高水準に行える。
・神聖なる光線 (ホーリーレイ):神聖魔法の1つ。光の光線により敵を焼く基本的な神聖魔法。魔力を込める量によって光線の太さも威力も変わる。
・神聖なる光 (ホーリーフラッシュ):神聖魔法の1つ。聖なる光により周囲を照らす基本的な神聖魔法。本来なら光で照らすだけなのだが、悪魔、死霊、ゾンビ、スケルトンには攻撃の手段となる。魔力を込める量によって光が届く距離、光の強さが変わる。
・対呪い魔法 (アンチ・カース):弱い呪い程度なら弾くことのできる魔法。強い呪いだと効果がないので結界などを張って魔法を強化する必要がある。「アンチ」が付く魔法は他にもある。